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二・十六話 火にヨ〜ジン

 何も見えない真っ暗な空間で肌に伝わってくる風と、どこまでも続く落下による不安と恐怖感がオレを襲う。


「大丈夫か、主人」

「っ……!? あっああ……」


 落石の痛みもさっきまでよりは少しマシになり、我慢できない程では無くなった。

 リアンが(かば)ってくれているからだろう。


「り、リアン、このままオレを連れて上がれないか?」


 オレを抱きしめているリアンの人肌を感じながらそう聞く。


「降り続ける落石の中をこのまま(少女姿)で突っ切るのは無理だな。それにこの狭い穴の中では、(ドラゴン)の姿で飛ぶのもキツそうだ」


 そうだよな、小竜サイズでも流石に落石の雨と落とし穴の中で飛行はしんどいか。


「――ふむっ!」

「どっ、どうかしたか?」


 オレを抱えるリアンの腕が急に強く抱え直してくる。

 するとリアンが勢いをつけて体を捻らせて、上下逆さで頭から落下していた体制を元に戻す。


「少し動くぞっ」


 リアンが上半身を捻らせ、その反動が伝わってくる。

 その瞬間、何かが打つかり合う鈍い音がすぐ側から聞こえてきた。


「な、なんだ……何かに打つかったのか、リアン!」

「先程の岩人形(ゴーレム)だ。姿は見えないが魔力の流れで居場所が見える」


 マジか……さっきの戦いでまだ動けたのかよ。


「ふむっ!」


 またもリアンの体が捻り動くと、鈍い音が聞こえ、今度は岩の壁に打つかった音が響く。

 オレたちが壁に当たった訳では無いから、きっとリアンに殴られてか蹴られて、岩人形(ゴーレム)が吹き飛んだのだろう。


「……まだ生きている。揃いも揃って頑丈だな、岩人形(ゴーレム)というのは。主人よ、いっそワシの炎でドロドロに溶かすか?」

「だっ、だから! こんな狭い場所で火なんか使ったらオレたちまで燃えるだろうが!」


 やれやれ、っと言いたげなため息を一つ吐くのが聞こえてくるが……こんな所で火を吹かれたら本当にとんでも無い事になるから!


「ならば……!」


 暗い穴の中でリアンの体が淡く光出すと、その(少女)姿から(ドラゴン)の尻尾を出す。

 リアンの体が淡く光った際に岩人形の姿が一瞬照らされて見えた。リアンに吹き飛ばされて所々ボロボロに崩れているのに、懲りずにその岩の腕を伸ばしてくる。


 淡い光は直ぐに鎮まり消えたが、直前に岩人形に向けてリアンが尻尾を伸ばすのが視界に入る。


「そんなに相手をして欲しいなら――先に下で待っておけ!」


 リアンの体がグワンッ! と大きく揺れた後、しばらくして下の方向から硬い物が衝突した音が聞こえた。


「地面に向けて岩人形(ゴーレム)を尻尾で投げ飛ばしたのか?」

「ふむ、その通りだ。未だに息絶えてないタフな奴だが、お陰で底までが見えたぞ、主人」


 なるほど。どうやら、攻撃しつつ岩人形を使って真っ暗なこの穴の奥行きを確認したのか。


「賢いな、リアン……」

「ふ、ふむ、褒めるのは後でもいい」


 褒められて照れているのか、声が少し上擦(うわず)いた様な気がする。


「さて、主人よ、一足先にワシは下に行って奴にとどめを刺してくるぞ」

「えっ!? ちょ、ちょっとリアン――」

「しっかり下で受け止めてやるから安心して、ゆっくり降りてこい」


 そう言いオレを包んでいた腕を離すと、何となく感じていたリアンの気配が遠ざかっていく気がした。


「こんな空中で一人にするなよバカァァァ!?」


 さながらスカイダイブ中にサポーターが居なくなった状態。

 我ながらオレは情けない叫び声をあげて落下していく。




「――じ――ある――るじよ」


 ぼんやりとしている意識がゆっくり目覚めていく感覚の中、可愛らしい女の子の声が聞こえてくる……。


「……主人よ、そろそろ目を覚ませ」

「――へっ? その声は……り、リアン、か?」


 目を開けているつもりだが未だに視界不良。

 まだ落ちた穴の中のようだ。


「……落下中に気を失ってたのか、オレ」

「みたいだな。お陰で変に暴れられず、受け止めやすかったぞ」


 リアンの説明を聞いて、自分が今リアンにお姫様抱っこを(多分)されている事をようやく理解した。


「外が見えないからよく分からんが、半日近くは寝ていたぞ」

「そんなに……!? それはすまなかった、リアン。それで、あの岩人形(ゴーレム)はどうした?」

「ほれ、ワシの足元にいる。とは言っても見えないだろうがな」


 そう言い足元の石っぽい物を蹴ったらしく、カランッカランカララッと乾いた衝突音が足元から響く。


「そうか。とりあえず、ここを降りるか」


 リアンに下ろしてもらったオレはひとまず足元の岩山……もとい魔物の亡骸から滑り落ちない様に降りる。


「さてと、無事に怪我もなく底に着けたところで……ありがとうな、リアン。オレを助けるために飛び込んでくれて」

「ふむ、これくらい当たり前だ。主人を守るのはワシの役目だからな」


 暗くて見えないが、恐らくいつもの様にドヤ顔をしているのだろう。

 だけど今回は結構な高さから落とされたからな、オレ一人で落ちてたら普通に死んでいたかもしれない。

 神さま、リアンさま、ありがたやありがたや……。


「しかし、上の坑道の穴が見えないな。みんなが移動したから明かりが見えないのか、余程深く落とされたのか……」


 そんな感想を溢しつつ、おもむろにオレは腰の剣を抜いて魔力を流す。


「おぉ、少しだが明るくなった」

「ああ、松明ほど全然明るくは無いけど、『魔力剣』なら(ほの)かに光るから無いよりはマシだと思ってな」


 とは言っても、本当に僅かな光しか出ない。

 オレが物心つくギリギリの記憶にある、電池が切れる寸前の古い懐中電灯並みか、それ以下だ。

 だけどそれでも明かりがあるのはありがたい。


「しかしそんな魔力の使い方、すぐにバテてしまうのではないか?」

「いや、そんなに(たい)して消費しないから大丈夫だ」


 実際はずっと魔力を流しっぱなしで本来は燃費が悪いとは思うが、ここはオレのチート能力『無限魔力』の数少ない出番。魔力消費に関しては一切疲れが来ないでいる。


 オレは魔力剣で辺りを照らして確認すると、二つの通路があった。

 どうやら偶然にも地下洞窟のある場所まで落とし穴が貫通していたらしい。


「上まで飛べそうか、リアン」

「ふむぅ……流石にそんな微々たる光だけで上まで飛ぶのは難しいぞ。それこそ炎を打ち上げて灯りを――」

「ダメだってば。万が一、上にみんなが残っていたら大惨事になるだろ」

「……なら、この洞窟を行くしか無いだろう、主人」

「だよな。どっちに進む?」

「どちらでもいいだろう。行き止まりなら引き返せばいいだけだ」


 上へ戻るのは断念し、魔力剣を松明代わりにオレとリアンは片方の洞窟へと歩き進む事にした。




 あれから休み休みで歩いていて大分進んだ筈だが、結果から言えば、これといった進展は無い。

 感覚的に恐らく一日は過ぎた気もするが、あえて考えない様にしている。食料を携帯して良かった。


 この道中では魔物とも出会さなかった。

 上の坑道に比べて通路は狭いので、戦うとなったら少々キツいので助かる。


「……ふむ?」

「はぁ、はぁ、どうかしたか、リアン?」


 歩き続けて少しばかり息が上がっているオレの隣で、リアンが鼻を突き出してスンスンと匂いを嗅ぐ動作をしだす。


「――水の匂いがする……地下水でも流れているのかもしれない」

「そうか、ならとりあえず、そこまで行ってみよう」


 あてもなく歩いていたオレたちは進行方向真っ直ぐの地下水に向けて進む。


 しばらくすると、洞窟からして今度は横向きに少し広がった通路が姿を表した。

 その通路の真ん中、完全に照らせないから正確な大きさはわからないが、幅一メートル以上の川がある。透き通っていて綺麗な水みたいだ。


「さてと、また左右別れ道だよ。どっちの方向に行く、リアン?」


 振り返って声を掛けると、リアンは黙ったままスンスンとまた匂いを嗅いでいた。何かあったのか?


「主人よ、近くに魔物の匂いがする」

「っ!? 嘘だろ、こんな所にもいるのかよ!」


 まさかのリアンの知らせに、オレは魔力剣を振り回して辺りを見てみる。

 しかし、魔力剣の明るさではどうしてもよく見えない……。


「ふむ、火を吹くのは危険だと言われたが、『これくらい』ならいいだろう?」

「え……?」


 不穏なセリフが聞こえたと思った時にはリアンの口が赤く光って……いや、赤く燃え出していた。


「待て! 最悪火だるまか、酸欠に――」


 そしてオレが止めるよりも早く、リアンの口から()が吹かれる。


「そう身構えるな、安心しろ主人よ」


 咄嗟に目を瞑って身構えていたがリアンの言葉に目を開けると、リアンを中心に()()()()()が漂っていた。


「これは、〈散花火(ホタルス)〉か」


 とても小さな火の粉を幾つも撒き散らす火魔法。

 そして飛び散った火の粉は綿毛(わたげ)の様に辺りを飛んでいき、壁や天井に触れると雪みたいに消えていく。

 上手い事に広く飛び散った火の粉のお陰で、洞窟内がよく見えるようになった。


 試しに近くを漂っている火の粉を恐るおそる指で触れてみたが、暑さや痛みも無く本当に雪の様に消えた。


「ふむ、ふと今さっき思い出して使ってみたが、攻撃に向かない魔法だと思っていたが、こんな使い道があったとはワシも思わなかったな」

「こんな便利な魔法が使えたなら、もっと早く思い出して欲しかったよ。それで、魔物は何処に……」


 リアンのお陰で充分照らされた洞窟内を魔力を抜いた剣を構えて見渡す。


 すると視界の隅に動く影を捉え、そちらに顔を向ける。


 そこには洞窟内の流れる川を飲んでいる懐紫狼(ドルイワウルフ)の姿があった。

 レーズンの使い魔のロキに比べたら大分薄汚れていて、野犬感のある姿だ。


 ……やっぱり、狼というより柴犬だろ、あれ。


 懐紫狼(ドルイワウルフ)がオレたちに気づいたのか、顔を上げてこちらの方を向く。


「見つかった……! 幸いあの一体だけみたいだし、何とか倒せ――え?」


 いつ飛び掛かって来るかと剣を構えるオレだったが、どれだけ待とうがいつもの様に襲っては来ない。

 それどころか、こちらに興味を示さず、再び川水を飲み始めた。


「来ない……? グリスノゥザの鉱山で出会した魔物はみんな襲って来たのに……」

「ふむ、何か分かるかもしれんな。ワシが話を聞いてくる」

「ああ、頼む――うん?! ちょっと待て、リアン。お前、他の魔物と話せるのか?」

「ふむぅ? 〈擬似疎通(レコンニヤ)〉を使えばどんな魔物とも通じる。魔力消費が一段と多いがな。主人ならこれくらいの魔法、知っているだろう?」


 れ、れこ……?


「いや……知りませんでした。そんな魔法初めて知りました……」


 まだまだ知らない魔法もあるんだな……。


「まっ、とりあえずあの犬っころに聞いてくる。主人はそこで待っておけ」


 何故か額に汗が流れ始めるオレをスルーして、リアンは数が減ってきた〈散花火(ホタルス)〉を再度吹き、懐紫狼(ドルイワウルフ)に近づいて行く。


 懐紫狼も近づいてくるリアンと顔を合わすとお互い見合ったまま、黙り込んでしまった。

 てっきり「ワン」とか「ウォン」とか言葉を交わすものかと思ったが、〈擬似疎通(レコンニヤ)〉という魔法はテレパシー的な、思考を通じ合わせる魔法っぽい。


「なんとも、傍から見れば和やかな光景だことで……」


 犬好きの無愛想な少女と、それを不思議そうに見つめている柴犬。

 これで街中であれば平和な世界観だけど、二人……じゃなくて二体とも、魔物なんだよなぁ。


「――ふむ、分かった。邪魔して悪かった」


 懐紫狼に礼を告げてリアンが戻ってくる。


「何か分かったのか?」

「ふむ。川が流れて来ている左の道から来たらしい。この先に荒野に繋がる道があるらしく、そこからここまで地下水を飲みに来たと言っていた」


 リアンは「他にも森などに通じる別れ道から、色々な魔物がたまに来るとも言っていた」と続けて、懐紫狼との会話の内容を話し終える。


「鉱山以外からの出入り口がこんな地下にあったんだな。じゃあ、もしこの反対の道が坑道に繋がっていたら、鉱山(ここ)の魔物が現れている原因は分かるけど……」


 鉱山の魔物は人を襲ってくるけど、目の前の懐紫狼(ドルイワウルフ)は大人しく、襲ってくる様に見えない。


「ここを通って来ている魔物と、鉱山の魔物とはまた別なのかな?」

「何を一人でぶつぶつと言っているのだ、主人よ?」


 我ながら、何の根拠も無い迷想(めいそう)をしていたが、リアンの呼び掛けで自覚し我に返る。


「とりあえず、この道が外と繋がっているなら反対側は鉱山内に戻れるんじゃないか?」

「かもしれないが、行き止まりならどうする?」

「う〜ん、その時は一苦労だけど、一度外に出てから鉱山入り口まで戻るとするか」


 リアンの「ふむ」という了承を得たオレは、リアンに〈散花火(ホタルス)〉をまたお願いし、再び歩き出そうをした。


 ――その時。


「うん? 通路の先で何か動いたような……」


 まだ〈散花火(ホタルス)〉が行き届いていない洞窟の先で、何かが揺らいだ様に見えた。


「主人よ、小さな魔力だがこちらに真っ直ぐ近づいて来ているぞ!」

「また魔物か?」

「いや、蛇の様に細長い形だが、それよりも細いし長いぞ……!」


 そんな細い魔物がいたかと記憶を思い返す。

 しかし、オレが思い浮かぶ前に()()は素早い動きで直ぐそこまで接近してきた。


「打つかるっ!?」


 瞬時にオレとリアンは転がって()()から避けると、()()の姿が見えた。


 ――糸。


 それは白い、恐らくたこ糸位の大きさの糸。

 その糸はオレやリアンには見向きもせずに、真っ直ぐに伸びていく。


「ウォウ?」


 そして直進の先にいた懐紫狼(ドルイワウルフ)に向かっていくと、懐紫狼の首を締めつける様に巻き付いている


「ウォウ! ウォッ……!?」


 首一周分の長さで糸が切れると、残った糸は素早い動きで通路の奥に戻り暗闇に消えていき、懐紫狼に巻き付いた糸は尚も残って巻き付いていた。


 ひとまず助けようと懐紫狼に近づこうとしたが、苦しそうに暴れていた懐紫狼が次の瞬間ピタリと止まって動かなくなる。


 ……だが、死んだ訳では無いようだ。

 しっかりとその四足(しそく)でその体を支え起きている。


「だ、大丈夫か?」


 オレの声に閉じていた目蓋(まぶた)を開ける。

 だけど先程までの大人しそうな雰囲気から一転し、張り詰めた雰囲気を纏った懐紫狼(ドルイワウルフ)は、オレたちに向けて牙を剥き出し威嚇の唸り声をあげる。


 その姿はまさしく、オレがこのグリスノゥザで戦ってきた魔物たちと同じ。


「っ!? ……どうやら、『あの糸』がこの騒動の原因っぽいな、リアン」

「そんな事よりも、来るぞ主人」


 一瞬で駆けだし距離を詰めて来た懐紫狼。

 それをオレは抜剣した剣を縦一直線に振りかぶり、真っ直ぐに突進してきた懐紫狼の顔面を斬りつける。


「ぐっ!? うおぉぉりゃあ!」


 そのまま投げ捨てるように地面に叩きつけると、懐紫狼の体はバウンドして地面に転がって倒れ伏せる。

 見てないが、多分深く斬り削ったから顔という形をしていないだろうから、見ないようにする。


「リアン、さっき糸はこの先から来た筈だよな」

「ふむ、そうだ」

「よし、急いで向かおう!」


 そう意気込んで走り出そうとしたオレの首元の鎧が何かに引っ掛かり、思いっきり喉仏に鎧の襟部分が食い込んで痛みと咳き込みに襲われた。


「ごほっ!? ゲェホッ! だでぃずんだよ(何すんだよ)でぃあん(リアン)……!」

「主人が走るよりワシに乗って行った方が早いだろう」


 涙目で睨むオレの隣でそう言うとリアンの姿が変わりだす。


「ゲホッ、ゲホッ……う、うんんっ! はぁ、こんな薄暗くて狭い洞窟の中で(ドラゴン)状態になっても満足に飛んでいけないだろ?」


 指摘するオレの目の前でいつもの(ドラゴン)姿になっていくリアン。


 ……いつもと少し形が違う?


 いつもは上体を起こした二足歩行の(ドラゴン)状態なのだが、いつもと違って両腕を地につけて両翼は小さく、全体的に小さめのサイズになっていく。


「ふむ、飛ぶのでは無く走って行けば早いだろう」


 形が整い現れたのは地を駆けるのに特化した、言わば「地竜」バージョンといったところか。

 後ろ足も馬の様に段々に曲がった足になっていて、走ると速そうだ。


「〈散花火(ホタルス)〉を放ちつつこれで走れば一番早いだろう。ほれ、早くワシの背に乗れ、主人よ」

「あ、ああ」


 呆気に取られつつリアンに促されたオレは、ご丁寧に上りやすいよう出っ張った鱗に手足をかけてリアンの背中に乗り、コンパクトになっている翼の両付け根に掴まる。


「ふむ、主人よ、しっかり掴まっておれ!」

「ああ――うおっ!?」


 言うや否や、その強靭な四肢で地面を蹴り洞窟内を走り出すリアン。

 力強い踏み込みに、巨大故の進む歩幅によって、一般的な馬よりも早く走り、まるで前の世界で一度生で見た競馬の一番早かった馬と同じくらいのスピードだ。


 それに加えてしっかりと〈散花火(ホタルス)〉を定期的に放ち、洞窟内を照らして進んでいく。


 この調子なら、恐らくこの洞窟の先に早く着けるだろう。

 ……オレの体と意識が持てばの話だが。




「大体三時間くらい走ったか? 思ったより上り坂だったけど、全然先が見えない――ん? 行き止まりか、リアン、止まって」

「ふむ」


 進行方向を真っ直ぐ進んできたが、その先には壁しか無かった。


「別れ道とか無かった筈だがな」

「ああ、そのはずだけど……あれ?」


 目の前に立ち塞がる壁。

 よく見ると、至る所に亀裂というか、溝があり足元にも沢山の土石が転がっている。


 まるで、()()()()()で見た落盤(らくばん)の壁と同じ様な……。


「……うん? 川の水に土が漂っている」


 それも沢山……それこそ、()()()()()()()()()()()()()()()みたいに。


「っ! もしかして、この壁はたった今塞がれたのか? でもそんな偶然が……」


 何か関係があるのかと思い至った瞬間、何処からか物音が聞こえてきた。


 リアンは静かに待機している。

 いったい何処から聞こえて来たのかと、耳をすませてみる。


 ――ぁぁぁ。


 ――キィン。


 小さくだが、人の声と金属音らしき音がこの壁の向こうから聞こえてくる。


 この向こうにみんながいる……!


「リアン、体当たりでこの壁を壊せるか?」

「勿論だ。主人よ、ワシの翼の影に隠れておけ」


 翼を大きくさせたリアンはその両翼でオレを覆うと数歩下がり、目の前の壁に目掛けて全速力で体当たりをする。


 ――ドゴッドゴゴゴッ!


 幾つもの瓦礫に襲われたが、リアンの翼に守られたオレは無傷で済み、先ほど聞こえて来た様々な音がより鮮明に聞こえてくる。

 いや、響き伝わってくる。


 顔を上げたオレの目の前には、ようやくまともに見える幾つもの松明の明かりと、オレの仲間たちが沢山の魔物と戦っている光景。


 そしてその戦場の奥に、()()()()()()()()が居た。


 オレとその魔物が目が合うと、不気味な形相をしたその魔物はゆっくりと口を開く。



「マリィ……オネットォ……」

年締めがこんな半端な所で申し訳ございません。

来年からも、よろしくお願いします。

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