二・六話 自信家の相手が難題な件
少々長文となっておりますので、気長にお楽しみ下さい。
――おっ……重い。
出発当日の早朝、出発準備を整えたオレは人生初となる鉄鎧を騎士服の上から装備して、屋敷の前に止めていた馬の前に来ている。
一度は憧れた中世の騎士感溢れる晴れ姿なのだが、着てみて痛感した。重さが革鎧とはやっぱり違うな。
全身武装では無く機動性のある軽装寄りの装備なんだが、やはり鉄製はずっしりとくる。鉄兜は頭、後頭部を革製布で守られている仕組みの兜で、前は無し。
初鉄装備で無理に重い物を使っても動きにくいだけだし、変に視界が狭いフルヘルメットよりは今回はこの方がいいと思い選んだ。
姉さんの助言なんだけど……。
しかし、重たい理由は鎧だけのせいではない。
「くれぐれも……お怪我をされないで下さい」
「ありがとう、ルウナ。大丈夫、必ず戻るからな」
屋敷の前でいつもの如く、涙目になりながら心配して抱きついてくるルウナに言葉を掛け、背中をとんとんとリズムよく叩いて安心させる。
騎士の仕事なんだから怪我をするのは当たり前なんだがな……。
本当、過保護で兄思いの優しい妹だよ。
「ご安心してくださいませ、ルウナお嬢様。このスライド、必ずやグレン様をお守り致します!」
同じく鉄装備に身を包むスライドさんが、ルウナを元気付けるように力強くそう言い切る。
「お前も過保護だな。オレも騎士の一人なんだから、自分の身くらい自分で守れるさ。それにいざとなったら、リアンもいる事だしな」
「ふあぁ〜ん――何でもいいが、早く行かないのか……? こんな朝早くに起こされて、ワシはまだ眠たいのにぃ……」
先に馬に乗せて待たせていたリアンが、眠たそうに大きなあくびをしつつ急かしてくる。
兄妹の大切な瞬間を急がせるとは……まあ、普段こんな早くに起きる事も無いからな。
そろそろ出発するかと思い、ルウナを優しく引き剥がす。最後にルウナの頭を撫でてやり、馬に騎乗してスライドさんと出発する。
「御武運を……お兄様」
最後に聞こえた言葉に、拳を天に突き出して答える。
以前グリスノーズを訪れた時と同じ道筋を辿り、書類に記載されていた待ち合わせ場所であるグリスノーズを街人代表、あのスキンヘッドのおじいさんの職場前に辿り着く。
スキンヘッドのおじいさんには話が通っていたらしく、軽く挨拶を済ませた後、表で待たせてもらう事にした。
「しかし、まさかバルドント侯爵領から来る騎士が『あなた』だったとは……」
スライドさんと姿勢よく他のメンバーを待っているオレの視線の先、大剣の横で地面に腰を下ろし、片膝を立てて太々しい態度で同じように待機している男性に向けて声を掛ける。
その男性は、肩幅一メートル近くした大柄な体格の持ち主で、力強そうなオークの様な見た目をしている。
「ふんっ、お前みたいなガキも騎士になれたのか」
「おかげさまでな。そういうあなたも、試験を合格していたんだな」
この人は確かオレと同じ様に、騎士資格の試験を受けていたオーク似の男性だ。
あの時はマスタングさんにやられてしまっていたけど、この人も無事に騎士資格を得てバルドント領の騎士になれたみたいだな。
「試験結果の発表の場にいなかったから、てっきり怖気付いて逃げ出したのかと思ったぜ」
「貴様……! 先ほどからその口の聞き方、この方をどなただと思ってっ……」
「スライドさん、落ち着いて」
眉間にしわを寄せて分かりやすく怒りが顔に出ているスライドさんに、小声で何とか宥める。
確かに貴族の息子という身分として、普通に不敬罪かもしれないが……。
「父さ――侯爵様にも言われたろ? 身分を明かすなって、それに仕事の間は貴族とか身分は置いといて、同じ仕事の仲間として扱ってほしいんだ」
「で、ですが……」
「大丈夫。あれくらいなんて事ない」
前世では職場の人で、もっと柄の悪い先輩とかいたし、あれくらい何とも思わない。慣れ過ぎているくらいだ。
「まっ、お互い騎士になったなら同僚だ。仲良くしようぜ」
「不敵な笑みを浮かべながら言われても、本心が怪しいな。オレはドゥラルーク侯爵領領主に仕える騎士、グレンだ」
差し出してきた握手に答えながら名乗る。
横のスライドさんの眉間がピクピクしているが、こういう奴には慣れてもらうしかない。
「……同じくドゥラルーク侯爵領の騎士、スライドだ」
「へえ、侯爵様に仕えているのか。ラッキーなんだな。オレの名はオウク、普段はバルドント侯爵領の門番をしているが、今回はウチの侯爵様のご命令でこの任務を引き受けたんだ」
ふーん、近衛騎士以外の人も呼ばれていたのか。まあ、オレと同じ入りたての新人だから選ばれたのかもしれない。
しかし、変わった名前っていうか、見た目通りの名前だな。
「そうか。任務中よろしく頼むよ。えーと……『オーク』さん」
「『オーク』じゃねぇ、『オウク』だ! 喧嘩売ってるのか?」
ギロリと目尻が上がった目でオレを睨みつけてきた。呼び間違いくらいで一気に不機嫌にならないで欲しいよ。
とりあえず間違えた事は素直に謝罪し、残りのメンバーが来るのを待っておこう。
「バルドント侯爵領からはオー……オウクさんだけなのか?」
「……『さん』なんて付けなくていいぜ。ああ、そうだ。オレ一人だけだ」
急いで訂正はしたが、少しの間があった気がする。言い間違いそうになった事を感づかれたかな?
「なら、後はウィンクーバル領からの者たちのみですね。グレン様」
「ああ、そうだな。って言うか、だから『様』はいらないって。スライドさんが先輩なんだから……あっそうだ! ならオレも、仕事中はスライドって呼び捨てにさせてもらうからさ。だからスライドも――」
「そういうわけにはいきませんっ!」
くっ――頑なな奴め。
「しかし私を呼び捨てるのは賛成です。是非そうして下さい、グレン様」
「はぁ……分かったよ、スライド。もうそれでいいか。しかし……隊長さま遅いな、もう昼近くだぞ」
空を見上げると、グリスノーズに到着した時よりも既に日が高くなっていた。
グリスノーズに着いてからもう二時間くらいは経った気がする。
「ふむ、昼飯もろくに食べずに待っているワシたちの苦労も考えて欲しいものだな。その者たちには」
リアンの発言にうっかり共感しそうになったが、お前の手に握られているのは何だ?
バリバリとせんべいを食べながら……お前にはせんべい以外のも、道中で色々と食べ物を買ってやっただろ。
しかし、確かにその通りだ。
現に、いかにも時間にルーズそうなオウクだって、オレたちが来てから少しして来たのに、幾ら何でも遅過ぎるだろ。
腕を組みながらそう考えいると、いつの間にか接近していたオウクがオレの肩を叩き、「来たみたいだぞ」と声を掛けて教えてくれた。
……意外と親切な奴なのかも。
「いやぁ、待たせたかな? 中々僕の髪が決まらなくて出発が遅れたんだ」
こちらに近づいてくる三人組、その先頭を歩く白馬に乗った男が謎のキメ顔で、開口一番にどこか偉そうに、そして何処となくナルシストが入った言い訳をしてくる。
「君たちがドゥラルーク侯爵領とバルドント侯爵領から派遣された人たちだね。僕は今回の任務で隊長を務める、ウールウ男爵家の子息、ナルシスゥトン・ウールウさ。知ってるとは思うけど、僕の家はウィンクーバル侯爵様から一部の土地と男爵位を頂いた由緒正しい貴族の家柄でね。それというのも――」
急な挨拶かと思ったら、唐突な家柄自慢が始まった。
これ、真面目に聞かないとダメなのか……?
それから話を聞くに、彼の何代か前が、ウィンクーバル領でそこそこの成果を出して出世した成り上がり貴族らしく、その息子だとか。
無駄にきらびやかなマント付きの鎧を身に付けているが、それに負けないくらい派手なさらさらの金髪ロングヘアーをしている。
顔立ちは……正直、良い方だと思うがイケメンという程ではない。
「――という事で、まあ何か困った事があれば、貴族であり先輩騎士である『僕に』、頼ることだね」
ようやく長話も終わったらしく、最後に髪を手でバサァッとなびかせて上から目線で締める。
「……おい、あいつ、殴ってもいいか……?」
「気持ちは分かるが落ち着け、オウク。曲がりなりにも貴族に手を出したら、後々不味い事になる」
「ふむ。手がダメならば主人よ、あの者を消し炭にすれば良いのでないか?」
「ダメに決まっているだろ! もっと不味い事になる」
「うん? どうかしたのかい?」
「い、いや、何でもありません。よろしくお願いします、えーと……ナルシスト隊長?」
「チッ、チッ、チッ。発音が違うね。ナルシスゥトン。ナルシスゥトンだよ。以後、気をつけるようにね。ああ、別に一度言い間違えたくらい僕は気にしないから安心しなよ。僕は器が広いから」
「は、はい、ありがとうございます……」
めんどくさい相手だ……。
「ああ、そうそう。あと僕の家に仕える騎士のこの二人も、今回の任務に加わるから」
ナルシスゥトン隊長の合図で後ろから現れた騎士の二人が前に出てきた。装備は二人とも腰の剣と手持ちの槍のようだ。
こいつのインパクトが強くて存在感が無かったな。
「俺の名前はコッペン。ウールウ男爵家に仕えている騎士だ。よろしく」
「同じくウールウ男爵家に仕えるレーズンよ。私達の事は呼び捨てで構わないわ。よろしくね」
「わかった。こちらこそ、よろしく頼むよ」
主人に比べて至って普通な印象を受ける男性と女性騎士だ。
顔は二人ともヘルメットを被っていて分からないけど、握手した感じはスライドの方が鍛えている感じがする。
ナルシストの騎士なんて、想像するだけで大変だなと同情する。
――ん?
「レーズンの足元に何か――犬? へぇ、可愛い……!」
よく見ると、レーズンの足元に犬が擦り寄っている事に気付いたオレは、咄嗟にしゃがみ込みそのモフモフの頭を撫でる。
「気持ち良さそうな顔して、人懐っこい奴だ。多分犬種は柴犬かな。こっちの世界じゃあ初めて見たけど、懐かしい」
前世以来の柴犬につい夢中になっていると、レーズンが「あの……」と声を掛けてきた。
いけない、いけない。今は仕事を優先しないと。
「わ、悪い。つい野良犬に夢中になってしまって。どうかしたか?」
「ああ、いや、実はその子は野犬では無く、私の使い魔なんだ」
「――えっ?!」
使い、魔――魔物ってこと……?
柴犬だよ? 柴犬の魔物なんていたか?
「この子は懐紫狼のロキ。人に懐きやすい性格をしていてな、君に可愛がってもらって喜んでいるらしい」
「ウォンッ、ウォンッ!」
う、ウルフ……? 狼……?
いや、本で情報だけは知っていたが、これはどう見ても犬にしか見えないだろ……。
「そ、そうなのか。喜んでいたならなにより……」
今も尻尾を振りながら、主人のレーズンになでなでを求めてくるロキ。
……やっぱり、柴犬の間違いじゃないか?
「そんな話どうでもいいだろ? それより、そこの少女も騎士……なのかな?」
「えっ――あ、いえ。こいつはオレの使い魔なんです。魔法でこんな見た目に変身していますが、中々強い方なんだです」
「ふーん。まっ足手まといにならない奴なら、なんでもいいよ。それより、挨拶はこれくらいでいいだろう。グリスノゥザ伯爵領の都市に居られる伯爵様に会って正式に話をしないといけないんだ。君たち、早く支度をしたまえ」
「おめぇが一番遅かったんだろうがぁ……!」
「少しだけだ……少しだけなら燃やしても良いだろ、主人……」
「落ち着け、落ち着くんだ二人とも! あんな奴だけど貴族で隊長なんだ……!」
スライドと一緒に何とかオウクとリアンを抑えつつ、準備を整えたオレたちはナルシスゥトン隊長を筆頭に、都市で待っているだろう領主の元へと馬を走らせる。
鉱山の土地と言うこともあってか、ここから都市までは幾つか山を渡らなければいけない。結構道のりが長いらしく、早くて半日掛かるらしい。
初任務の部隊が個性の強いメンバーばかりで不安でしかないが、これだけは何となく分かった……。
「なんか……多分、今回の任務でオウクとは仲良くなれる気がするよ……」
「気が合うな……俺もそう思うぜ。お互い、頑張っていこうや……」
オレたちの先頭を行くナルシストの背を見ながら、これから来るであろう苦労を想像して、オウクと顔を合わせてうなずき合う。
ただ、唯一の癒しはレーズンの後を元気に追いかけるモフモフの柴犬、ロキがいる事だな。
「おわっ!? ま、街中に魔物が出るなんて……!」
「おいっ隊長様、いつまでもビビってないで指示を出せよ!」」
「ナルシスゥトン様、我々の後ろに」
グリスノーズから伯爵のいる都市に向かうまでの岩道の中、突然行く道に出来た穴から現れた魔物に襲われている。
「ガスラート王国と違って、クリスノゥザ伯爵領には防壁が無いからな。巡回して警備している兵士がいるとはいえ、ごく稀に街中でも魔物が現れるって聞いたことがある」
「そのごく稀のタイミングに遭遇しちまったってわけか。出だしからツイてねぇな、俺たち」
愚痴っている割には生きいきとした表情をさせて、オウクは自身の武器を構える。
魔物が動き出すとナルシスゥトン隊長の指示で、オレたちは一斉に迎撃にあたる。
「主人よ、何の魔物か分かるか?」
「熊並みのサイズで両手の広く大きな爪に、赤い毛に茶色い肌をした山の中に生息する魔物って言ったら、激闘土竜だろう。両手の爪に気を付けろよ。腕力が強いらしいから、引っ掻かれたら致命傷だぞ」
剣を構えながら本の内容を思い出す。
三体現れた激闘土竜をオレとスライド、オウク、ナルシスゥトン隊長たちの三組みで別れて反撃している。
「うおぉぉ!」
大剣を振るうオウクの斬撃を、激闘土竜は硬い爪と怪力でいなしていく。
途中、攻防が変わり激闘土竜の縦横無尽な爪攻撃が迫ってくるが、それを大剣で払い除けるオウク。
「こんな魔物、どうって事――ないぃーーっ!」
オウクが大剣を真っ直ぐ構えて突進していく。
すると激闘土竜が大きな爪を地面に突き刺すと、そこからオウクの元へ魔法の攻撃である無数の岩の槍――〈岩槍〉が伸びて襲い掛かる。
しかしオウクは臆する事無く突き進んで行き、かすり傷を負う中、迫る岩の槍を豪快な薙ぎ払いで吹き飛ばしていく。
魔法攻撃が通じずに迫ってくる敵に、激闘土竜は苦し紛れに両手を交差させて防御に出たが、オウクの大剣はその爪を貫通して深くまで突き刺さると、そのまま大剣を頭上に切り上げ、激闘土竜の上半身を真っ二つに切り裂き倒した。
やるな。見た目の怪力は伊達じゃなかったようだ。
――さて、よそ見はこの辺で。自分たちの相手に気を向けないと。
「グレン様、ここは私にお任せを!」
オレの前に出たスライドが激闘土竜に挑みにいく。
怪力のはずの激闘土竜の引っ掻き攻撃を、剣でしっかりと受け止めて防御していき、距離を詰めていく。
「これでどうだ――なにっ!?」
しかし、あと少しのところで激闘土竜が一気に後方に逃げると、硬い岩地面を掘って地中に逃げていく。
「くそっ、何処へいった……!」
辺りを警戒するスライドを見守っていると、オレの足元がグラグラと揺れ始めている事に気がついた。
同じ様に揺れに気付いたリアンとオレは、別々の方向へ飛んでその場から逃げると、同時にさっきまでいた場所から鋭い爪が飛び出してきた。
「わざわざ自分から出てくるなんて……リアン!」
「ふむっ」
地面をかき分けて上半身まで出した激闘土竜。
その片腕に剣を突き刺し地面に刺し止め、もう片方をリアンが踏みつけて激闘土竜の動きを封じた。
「うおぉりやあぁぁ!」
手も足も出せない激闘土竜に駆け寄ったスライドが剣を高く振り上げて、激闘土竜の頭に目掛けて力強く振り落とし、とどめを刺す。
「流石だな、スライド」
「いえいえ、グレン様のご助力のおかげですっ」
「オレは動きを止めただけだよ。さて、向こうもそろそろ終わっ――何してんだ?」
最後に残った激闘土竜をナルシスゥトン隊長たちが相手をしていたが、はっきり言って酷い戦いだ。
コッペンとレーズンは槍で距離を取りつつ二人がかりで応戦していたが、あまりダメージが入っている様に見えない。そして肝心のナルシスゥトン隊長は、馬に跨ったまま慌てふためきつつ、二人に指示を出している。
「なっ、何をしている! 魔物の一匹くらい、さっさと倒さないか!」
いや、指示では無く、ただの催促だったな。
野次が飛ぶ中、二人が苦戦していると、激闘土竜が後方にジャンプして距離を取る。
「くっ……! ロキ、出番よ!」
「ウォンッ!」
時々激闘土竜に飛び掛かり戦っていたロキが、レーズンの指示で前へ出る。
どんな魔法を使うんだ……?
「いくわよ――ふんっ!」
するとロキの体が僅かに光を纏うと、次の瞬間その可愛らしいモフモフボディに紫色の丸みがかった鎧が装備されていた。
「はぁっ! 〈装甲弾〉!」
レーズンが魔法を発動させると、その小さな紫の弾が残影の尾を引き、気付けば最後の激闘土竜の胴体に丸い風穴を開けて、その後方に鎧が消えたロキが立っていた。
一瞬でけりが付くとは、やっぱり〈装甲弾〉は強力な魔法だな。
――だけど、こんな早くに使ったのはマズかったな……。
「はぁ……はぁ……。な、ナルシスゥトン様……まも、の討伐……完了し……ましたぁ……!」
「馬鹿者! 体力をほぼ使い切ってしまっているじゃないか! 〈装甲弾〉は魔力を一気に消費する魔法。あの王国騎士長の様に魔力量が他人より多いならまだしも、常人が〈装甲弾〉を一〜二回撃てば体力を使い切るなんて常識じゃないか! はあ〜あ、まだ出発して少ししか進めていないのに……」
コッペンに肩を貸してもらいながら、レーズンは息切れきれに謝罪を述べる。
確かにナルシスゥトン隊長の言う通り、先程のレーズンのやり方はあまり得策では無かったけど……。
少なくとも、ずっと激闘土竜に怯えて高みの見物をしていた隊長がふんぞり返って言う事じゃないだろと思ってしまうのは、間違っていないはずだ。
とりあえず魔物迎撃は終わって集合したオレたちは、激闘土竜の亡骸の処理について話し合う事にした。
道端に放置していると腐ってしまうし、だからってここから都市まで運ぶのは大変だからな。
「――ふむ……おい、この魔物は食べれないのか?」
「んあ? 激闘土竜かぁ……確か、火を通せば食えないことはないぜ。肉は硬いがな」
オウクの答えに興味が湧いたのか、リアンが目をキラキラとさせているのが分かる。
「しょうがない。ナルシスゥトン隊長、これらを使って昼食を取ってもよろしいでしょうか? オレたち、実は昼食をまだ取っておりませんでしたので」
「はあー?! 魔物を食べるのか? ふーん、まあいいよ。でも僕は食べないからね」
「ありがとうございます。よし、早速、激闘土竜を調理するか。えーと……オウク、悪いけど調理出来るか?」
「あ? 食うのか? ……まあ、いいか」
「私も手伝おう」
分かりやすいくらいドン引きしている顔をするナルシスゥトン隊長を置いて、岩道から開けた場所に移ると早々にリアンが焚き火用木材に火を吹いた。
事前にちゃんとリアンが魔物と伝えたが、半信半疑だったのかみんな一瞬目を見開き動揺した表情を浮かべていた。……無理もないか。
焚き火が用意されると早速、オウクとスライドが激闘土竜を調理していく。
呆気に取られていたコッペンも気を使ってか、オウクたちの調理の手伝いを買って出ていく。
レーズンはその光景を眺めながら、体力回復の為に座って大人しくしている。
調理されていく激闘土竜をジッと見つめるリアンの横で、よだれを垂らしながら興味津々そうに眺めているロキ。
君もお腹が空いていたんだね……。
部隊を作るのに隊長が抜けていたので、ナルシスゥトンを隊長にし所々改変しました。
リアンの魔法使用で皆が驚く描写を足しました。