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二・一話 世の中甘くはない

今回は長文となっております。

 まだ太陽が出で切っていない、ほんのり暗い朝の時間。

 オレは朝早くから支度(したく)を始めてくれている使用人の人達に挨拶をしながら、裏口から外の庭へと足を運ぶ。


「昨日の夜に降った雨のせいで、空気が少し湿っぽいな」


 身体を起こすための伸びをしながら、これからオレが着ていく騎士服の硬い生地も一緒に徐々に(ほぐ)していく。


 普段が貴族服か平民風な服装だったが、前の食事会の時「グレンも今後は騎士の仲間入りですね」と母さんからこの落ち着いた白と紺色(こんいろ)の、ちょっと後ろの(すそ)が長めに出ているこの服を頂いた。

 これがドゥラルーク領の騎士が着る騎士服らしく、これから騎士としてこの制服(前世の時でいうスーツ)を着る事も多いだろう。


「まあ、無駄に(すそ)が長いとことかアニメ好きが喜びそうな服を自分で着るとなると()()()()()()()的に少し恥ずかしいけど……。でも、こういう格好をすると気が引き締まるな。さて、就職したは良いけど怪我が完全に治るまでは安静にって事で、今まで寝たきりだったからな」


 軽くストレッチをしながら(なま)った体をどうやって動かそうか考える。


 とりあえず素振りかなと思い、オレは持ってきた剣で素振りする。


「――やっぱり木剣より鉄の剣の方が重いな……慣れるまでは時間が掛かりそうだ」


 それから大体一〇分ほど素振りをし続けて軽く汗を流していると、裏口のドアが開き一人の男性が裏庭に出てきた。


「随分と朝早くから稽古をしているのだな、グレン」


 少しだけ眠たそうな表情を浮かべながら、父さんが話しかけてくる。


 あの様子じゃあ、昨夜も()()()()()は頑張っちゃったのかな……?

 オレが昨夜トイレに起きて廊下を歩いていたら……()()()()来たんだよなぁ。

 多分、部屋の扉がしっかり閉まっていなかったとかだと思うけど、ちゃんと戸締り確認はして欲しいものだよ。


「おはようございます、お父様。随分と眠たそうですけど、遅くまで仕事をされていたのですか?」


 原因は分かっているが()えてそう聞くと、父さんは「あっ、ああ……」と笑って視線を逸らして答える。まあ、自分の子供に正直には言えないよね。


 その反応に思わず笑ってしまいそうになり、なんとか必死に(こら)える。


「どっ、どうかしたか……?」

「い、いえ! ごほんっ、どうですか? 久しぶりに剣の稽古をご一緒しませんか?」

「いや、今日は朝から仕事を片付けなければいかんのでな」


 申し訳なさそうにそう答えるが、まだ日も出て切っていないこんな朝早くに起きて仕事とは……。

 いつもみたいに、姉さんに手伝ってもらえばいいのにと思うけど、流石に全部が全部手伝ってもらうって訳にはいかないのかな?


「それでは私は戻るとしよう。グレンも稽古、頑張りなさい」


 数回のストレッチをした後、父さんはそう言い残し屋敷の中へ戻っていった。


「当たり前だけど、領主っていうのも大変なんだな」


 そういえばオレも数回だけ、出勤時間より早くに会社に行って溜まった仕事をした記憶があるな。前世の話だけど。

 なんて事を思い出しながら、オレは稽古を再開する。また素振りを始めようと剣を構えた時、ふとある事を思い出した。


「あっ、そうだ、そういえばまだ試していなかったな。ファンタジーに定番のあれを」


 オレは構えをやめて、剣を握る手に魔力を集めていく。

 そして、集めた魔力を剣に流してみる。光百合(ユムル・リリー)みたいにスムーズには流れていかないが、徐々に魔力は剣の表面を覆う様に流れていき、剣が僅かに青く光っている様に見える。


「よしっ、出来た。魔力を流して強化させる、その名も()()()!」


 見た目がちょっと宇宙武器感はあるけど、剣を振ると一瞬だけ青い残像が出て綺麗だ。

 オレは設置された打ち込み用の丸太に向けて剣を構える。


「切れ味の試し斬りだ。――ふんっ!」


 握り締めた剣を大きく振り、丸太に目掛けて斜め斬りをする。


 かぁん!


「ふっ、つまらない物をき――れてな、い…… いってぇぇえ!?」


 高い音と共に剣は丸太に弾き返され、その反動が丸々手に伝わり激痛が走る。


「痛ぅ……普段だったら切り込みくらいは入るのに、それすら入っていない……」


 しばらく痛みに耐えた後、もう一度剣に魔力を通して剣身を見てみる。青い光で剣身が覆われていく。

 定番なら武器に魔力を流せば鋭さが上がる筈なんだけど……。


 うーん、何故だ……?


 ――もしかして、覆っている魔力が幕の様になっている、とか?


「ちょっと怖いけど……」


 刃の部分に指を乗せてゆっくりと引いてみる。しかし痛みは来ず、切れてもいなかった。


 どうやら、正解のようだ……。


 オレは思わず両手足をその場に着いて、深くため息を吐く。


「はあぁ……強化どころか、刃物の役割も果たしていないし……」


 この世界の魔力、本当に使い道が少ねぇ……。


「まあ、人を傷つける心配は無いみたいだから、模擬戦(もぎせん)の時とか非殺時には使える、かな……? それに少しは明るくなるから、暗い所だと松明代わりにも使えると思うし」


 そうプラス思考に自分を励ましながら、気を取り直す。

 とりあえず魔力剣の出番は当分無しっと。


「うぅん……? 主人よ、こんな早くに何をしている……」


 魔力剣を止めようとしたら、二階にあるオレの部屋からリアンが目を(こす)りながら顔を覗かせる。


「おはようリアン。ちょっと早く起きたから朝練をな。そういうお前も、いつもより早いな」

「ふむぅ……ルウナが主人と間違えてワシに抱きついてくるのだぁ。あの胸を顔に押し付けられて苦しくて目が覚めた……」


 寝ぼけ眼で不貞腐れながらリアンがそう言う。

 確かにオレが起きた時、いつも通り隣にルウナがいたっけ。それにしてもお前、まるで学園主人公みたいな起き方をしたんだな。


「そうだ、折角(せっかく)起きたなら練習の相手をしてくれないか?」

「ふむぅ……目覚めの運動にはいいだろう」


 両腕を伸ばして伸びをしながら了承したリアンが、窓から上半身を出したかと思うと、そのまま落ちる様に飛んだ。


「えっ、ちょっ?!」


 慌てて駆け寄り両腕を広げると、まるで猫の様に空中でクルクルと回り、すとんとオレの腕の中に入った。


「びっくりした……」

「いいタイミングだったぞ、主人」

「それはどうも……と言うか、窓からじゃなくて玄関(げんかん)から来いよ」

「ん? こっち()からの方が早いだろ?」


 真顔でそう返答するリアンにやれやれと思いながら地面に下ろす。


 屋敷から距離を離して(ドラゴン)の姿になったリアンに抜いた剣を構えて対峙(たいじ)する。

 よく見てみると、リアンは普段鋭い両手の爪の先を丸くして怪我をしない様にしてくれている。

 相変わらず出来た人――じゃなくて、出来た竜だな。


「ふむ? 主人よ、剣に魔力を流しているのか?」

「ああ、こうしたら刃でリアンを傷付ける心配がないから」


 早速、さっき練習向きと判明した魔力剣を実践してみる。


「そんな心配、ワシに一度でも傷を付けてからしてみろ」


 上から目線で少し腹が立つけど……今までリアンと模擬戦をして一回も勝った事がないから反論できない。


「じゃあ、行くぞっ!」


 踏み込んで一気に距離を詰めていく。


 リアンが横から爪攻撃を仕掛けてくるが、その軌道の手前で急ブレーキをする。

 目の前を赤い腕が通り過ぎると同時に再び走り出し、股の間を潜り抜けて後ろから足に目掛けて剣を振る。


「甘いぞ、主人」


 しかし素早く振り返ったリアンが爪攻撃をしてくる。

 巨大な指を動かすだけで繰り出される連続攻撃を必死に剣で弾き返していく。だが視界の端に入る、リアンのあの全然本気出していないっと言っているような顔が、少し腹が立つ。現にリアンは片手だけだし。


 だけどそのままオレにチャンスが来ることは無く、次にリアンは蹴りを放った。

 剣で防御をするが、そのまま蹴り上げられて空中に放り出される。すると追い討ちに翼を羽ばたかせ、風で更に上へと飛ばされた。


「たっ――高いよバカーー!」


 ジェットコースターや、多分スカイダイビングより怖いよ!

 当たり前だけど、パラシュートも何も着けて無いんだからなっ!


 屋敷より高い位置に飛ばされ絶叫するオレの体は重力に従い、早いスピードで降下していく。


 そんなオレをジッと見上げているリアン。 


「余裕そうな顔をして――なら、これなら……どうだっ!」


 空中で魔力剣に更に魔力を注入していくと、微かに光っていた剣の光が強くなりだす。


「何をして――うっ! まぶっ……!」


 見上げていたリアンが顔を両手で覆い視界を(さえぎ)る。まだ薄暗い空に急に強い光が出たら眩しいに決まっている。


 そのままリアンの空いている鼻先に目掛けて剣を構えて振り落とす。


「もらったーー! ――って、うおっ!? ……あれ?」


 しかし、剣は鼻先に触れる前に一定の空間で止まってしまった。

 ゆっくりと剣を見てみると、もう目を開けたリアンに剣を(つま)まれている。


「もう視界、治ったのか?」

「いや、まだチカチカしてよくは見えない。しかし、ワシは魔力の流れが見えると前にも話しただろう? 見ようと思えば暗い場所でも魔力だけは見えるのだ」

「それで魔力を流した剣の場所が分かったと……」


 リアンの視線の高さに持ち上げられ、尻尾でオレの頭やお腹をつんつんと突きながら「そうだ」とリアンが小馬鹿にする様に笑う。


 悔しいが手も足も出ないし、かと言って剣から手を離したら落下して怪我をするだろうし……。


「はあぁ、参ったよ。今日も負けだ」


 降参したオレをリアンが静かに地上に下ろす。


「巨大な魔物と戦うのは、やっぱり難しいな」

「そう落ち込むな主人よ、相手がワシならしょうがない事だ」


 ダークレッドヘアーの少女姿になったリアンがうんうんっと頷く。


 いつか見返してやる……。


「あら? 騒がしいと思ったら、朝から何をしているの、グレン?」


 リアンを睨んでいると、いつの間にか裏口から身を出してそうオレに聞いてきたサリカ姉さん。


 今日は皆さん裏庭によく来るね。


「おはよう、姉さん。稽古をしていたんだけど、うるさくしたかな?」

「いいえ。ちょうど目が覚めて窓から見てみたら、グレンが飛んで行くのが見えたのよ。またリアンに負けたのかしら?」


 くすくすと笑う姉さんに「または余計ですよ」と肯定して頭をかく。


「あら、怒らせたかしら?」

「怒ってないですよ、本当の事ですから」

「機嫌を悪くさせちゃったわね。ほら、そろそろみんな起きてくるわよ。一緒に朝食に行きましょう」

「はい、今行きます。行くぞリアン」

「ふむ」


 剣と服装を直して裏口に戻ると、先に行った姉さんが振り向いて微笑み掛ける。


「そうだわ。機嫌を悪くさせたお詫びに朝食の後、一緒に王都へ出かけましょう」

「……へっ?」




 あの後、朝食を済ませたオレは姉さんの誘いにのり、リアンを連れて三人で王都に遊びにきた。

 ルウナも当然来たがったのだが、今日はお作法の勉強で遊びに来れなくなった。


「どうかしたの、グレン?」


 飴菓子を食べながら腕を組んでいる姉さんが尋ねてくる。


「いえ、何でも。だけど、どうして急に出掛けようと言い出したんですか?」

「うん? 何となく、グレンと出掛けたくなったのよ」


 そう言いオレの腕を寄せて胸に押し付けてくる。

 (ルウナ)程ではないけど、充分あるその質量と姉さんのこの美貌(びぼう)はとても危険だ……姉弟(してい)と言う壁が壊れかねない。


「それにグレンと二人だけで王都に来たことは無かったでしょ? 姉と弟水入らずのデートで良いじゃない」

「デートって……」

「おい、サリカよ、ワシもいる事を忘れるなよ」

「あらあら、今度はリアンがご機嫌斜めになってしまったかしら」

「いや、それはないと思うよ姉さん」


 後ろのリアンに振り向いてはいないけど、さっき焼き鳥を両手に持っていて、今モグモグと食べている音がしているから多分大丈夫だと思う。


 ちなみに、今日の焼き鳥は鶏肉の上にチーズを乗せて塩をかけた焼き鳥だった。一口貰ったけどそんなに悪くなく、結構美味しかった。


「ありがとう姉さん。リアンに焼き鳥を買ってもらって」

「良いのよ、子供の世話をする妻みたいで。グレンも飴食べる? あ、じゃなかった。はい()()、あーん」

「姉さん、恥ずかしいから……」


 オレをからかって楽しんでいる姉さんは、少し子供っぽく見えて可愛らしかった。

 最近じゃあ大人びた雰囲気しか出さなくてこんな笑顔を見るのは随分と久しぶりのはず。


「……楽しそうでよかった」

「何か言ったかしらグレン?」

「独り言ですよ。ほら、次の店にいきましょう」


 オレは姉さんの手を取って、次の出店を探しに向かった。




 出店巡りも一息つき、前にオレが見つけたグリーン・ブレイ――じゃない、静かな公園に姉さんを連れてきて休憩しようと思い足を運ぶ。


「あれ? レクアたちじゃないか」

「グレンさん! お久しぶりです」

「よっ、にいちゃん! 元気にしてた?」

「グレンさん……」


 公園のベンチ前に、知り合いのレクアとキキ、そしてベンチに座るミヤが居て挨拶をしてくれたので、オレたちもし返す。


「おやおやぁにいちゃん、前にあった妹さんとは違う女の人を連れているなんて、今度は本当に彼女さんかなぁ?」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべて肘で突いてくるキキに「違う」と答えて姉さんを紹介する。


「初めまして、私はサリカ。妹のルウナにはもう会っているのね。グレンとルウナの姉よ。よろしくね」

「初めましてサリカさん。私はレクア、この三人で冒険者パーティーを組んでいます」

「私はキィキーナ、キキでいいよ。何だよにいちゃん、美人な姉妹がいるなんて隅に置けないね」

「相変わらず元気そうだなキキは」

「ふふっ、ありがとうねキキちゃん。それで、そちらの子は?」


 姉さんがミヤの方に視線を向けて問いかける。だけど、何処か元気の無さそうな雰囲気をしている。


「ミヤです、よろしくお願いします……」


 無理に笑っているように見える笑顔。その目元がほんのりと赤くなっている。

 オレはミヤの側に行き、話を聞いてみる。


「どうかしたのか、ミヤ」

「いっいえ……何でも……」


 何でもって、わかりやすく元気が無いけど。

 もしかして、前にレクアたちと行った酒場で出会った怖顔ロリコンのおっさんに何かされたのか?


「実は、今日もギルドで依頼を受けたのですが……」


 黙ってしまったミヤの代わりにレクアが口を開く。


「前にお話しした通り、ミヤはまだ使い魔を召喚出来ていないのですが、今回の討伐仕事で、その……」

「ちょっと危なくなっただけなんだけどね。結果大丈夫だったしミヤのせいじゃないって、私もレクアも言ってるんだけど、すごく気にしちゃったみたいなの」


 依頼を終えて戻ってから、キキとレクアが慰めているらしいけど……ミヤ本人が完全に自己嫌悪(じこけんお)になってしまったらしい。


「私、魔力が無いのかな……? だから召喚出来ないのかな……」


 また薄らと涙を浮かべるミヤ。

 さて、どうしたら良いものか……。


「魔力ならちゃんとあるぞ」


 そう言い切ったのは、ポップコーンみたいに菓子が入った容器を持ったリアンだ。


「そうか、リアンは魔力が分かるんだったな」

「よかったじゃない、ミヤ。ちゃんと魔力があるんだから、そのうち召喚出来る様になるわよ」

「う、うん――」

「ふむ、ただ、魔力がしっかり流れていないようだな」


 喜び掛けたミヤを再び沈めたのは、やっぱりリアンだった。


「どういう事だ?」

「ふむ、体の中心部から魔力は感じるが、それが全身に巡っていないようだ」

「魔力操作が出来ていないって事か、そんな事あるのか?」

「珍しい事だけど、自分で魔力の感覚がわからない人もいるらしいわよ」


 オレの疑問に姉さんが自慢の知識を披露する。


 オレも赤ん坊の頃は魔力の感覚なんて分からなかったけど、一〜二歳の時に身体の中に今まで感じた事の無い変な違和感を感じたな。

 成長するとその違和感――身体の中にある魔力を自然とコントロールして、いつの間にか操作出来るようになっていった。


 なるほど、〈召喚(コール・ライト)〉は魔力を手に集めて発動する魔法だから、操作できずに魔力が同じ所にあったから使えなかったのか。


「なら話は簡単だな。ミヤが()()()()()を理解して操作が出来たら、後はそれで魔法が使えるはずだ」

「えっ……でも、どうやって?」

「まあ、任せてみなって」


 そう言い、オレはミヤの手を拝借(はいしゃく)して握る。


「ふえぇ?! あっ、あの、グレンさん!」

「ほら、ミヤもしっかり手を開いて、オレの(てのひら)と合わせるんだ」


 驚くミヤを置いておき指示をすると、言われた通りに手を開いてオレの手と重ねる。

 まだ子供で女の子だからな、手が小さい。


「今からオレの魔力をミヤに流していくから、それで魔力の感覚っていうのを感じてみるんだ」

「へっ、そんなことが出来るのですか?」

「ええ、不可能ではないわ。ただ、他人の魔力が他人に体の中にある事はあまり良くはないわね。下手をすると何かしら体に不調を起こす事があるかもしれないから、魔力を操作できるようになったら、なるべく早く自分の魔力を全身に巡らせてグレンの魔力を掻き消したほうがいいわ」

「わっ、わかりました……!」


 姉さんのアドバイスに頷いたミヤが緊張気味にやる気を出す。


 ……っていうか、他人の魔力だと不調を起こすの?

 知らずに提案したから姉さんがいてよかったぁ。


「じゃあ、やるぞ」

「はっはい! お願いします!」


 手を通して、ミヤの体に魔力をねじ込む様に流していく。


「あっ!? ううんっ!」


 通りが良くないが、細いホースに水が流れていくイメージに魔力が流れていく。

 すると……。


「あっ、はっ、入って……来るぅ! グレンさんのが――入ってくるよぉぉ……!」


 顔を赤くし体をビクン、ビクンと震えさせ始めるミヤ。


 え、何、どうしたミヤ?


「体の奥がぞくぞくして……はんっ! なっ、なんか……」


 ああ、そういえば前に、リアンも同じような反応をした事があったな。一部の十八禁物(じゅうはちきんもの)の展開じゃないんだから、そんな(つや)やかな声は出さないでほしい。


 大体の感覚としてミヤの体半周まで魔力を流せたところで、ミヤは力が抜けた様に前に倒れ込む。

 位置的にオレが支える事になったが……耳元でずっと甘酸っぱい吐息が掛かるのは非常にマズい。


「レクア、キキ、ミヤの体を支えてやってくれないか? 姿勢を崩すと上手く流せないんだ」


 隣でミヤの反応に顔を赤らめているレクアとキキに仕事を与える。


 決して二人の反応も見たい訳じゃない。

 この姿勢のままだと正直、自分がロリコン犯罪者にならないという自信が持てない。


「レ……クアちゃん――キキ、ちゃん……」

「が……頑張りましょう、ミヤ」

「そっ、そうそう! すぐ終わるって……」

「……うん……あっ! ああぁん……!」


 ……本当にやめて、()()()もたないから。


「変態弟」


 背後でボソッとそう呟いたのが誰だったのかは知りたくなかったので、忘れる事にする……。


 その後、ざっと三分程の少女の喘ぎ声に耐えながら作業を続けていき、ようやく魔力を一周流し切り、作業が終わった。


 (とろ)けた表情をするミヤを見て心の底から安心する。


 本当に終わってよかった……。




「どうかしら、自分の魔力は感じられるかしら?」

「はあ、はあ……は、はい……なんとなく、分かりました」


 肩で息をしながら落ち着き始めるミヤに、今度は体にその魔力をひたすら循環(じゅんかん)させるように姉さんが指示を出す。


 ああ、オレが送った魔力を掻き消さないといけないんだったね。


「はい……はい! 魔力の操作、多分出来ています!」


 外から見た感じだと良くわからないけど、リアンが頷いているから上手く成功しているのだろう。


「良かったな、ミヤ。後は――」

「はい! 早速〈召喚(コール・ライト)〉をしてみます!」

「――え? ちょま」


 止める間も無く、ミヤは生き生きとした顔で魔力を片腕に集めていき、掌に魔法陣が浮かび上がってくる。


 魔力の操作を覚えたばかりじゃあ、魔力の収集も完全には出来ないんじゃないか?

 使い魔は、召喚時の魔力量によって変わる。不完全な状態でやったら、最悪、あまり期待出来ない魔物を引き当てるんじゃあ……。


 しかしそう考えた時には、もう掌の魔法陣を地面に浮かべて発光させていた。


 もう今更、手遅れというもの。

 もうこうなったら後は神頼みしかない。


 オレは一度だけあったことのある、あの女神さまの事を思い浮かべた。


「神さま、仏さま、女神さま……。ミヤとオレの努力が報われますようにっ……!」


 そして光が収まり、魔法陣の上で動く物体を確認する。



 ――えっ!?



「まっ、まさか、あれは……!」


 その衝撃の物体に、オレは目を見開いて言葉を無くした。

第二章も引き続き、よろしくお願いします。

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