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一・二話 プロローグ(後編)

 家族に引き取られてから時が少し進み、オレは四歳になった。

 屋敷に迎え入れてもらってからオレは、頗る元気な男の子として育った。


 オレが生まれたのは、「ガスラート王国」の所有地「ドゥラルーク侯爵領」。


 この世界の国の作りは、四つの領地を基盤に一国が設立している。

 ガスラート王国も同様、王城のある中央都市の王都を中心に、バルドント領、ウィンクーバル領、エテルカ領、ドゥラルーク領の四つの領地で区画されている。


 そしてなんと、オレの父さんはドゥラルーク侯爵領の領主だった。初めはちょっとした金持ちだと思っていたが、土地を治める領主様と聞いた時は驚いたものだ。


「窓を見つめて、どうかしましたか? ()()()

「お母様。いえ、今日もいい天気だなっと見ていました」


 一階の廊下で物思いに耽っていたら母さんが声を掛けてきた。グレンとはオレの今の名前、グレン・ルナ・ドゥラルーク。そう名付けてもらった。

 母さんの名はリヴ。明るい金髪にスタイルの良い美人ママ。

 自我があった赤ん坊の頃は、お風呂に入れられる度に幾度も欲情と葛藤した。


 母さんと話していると、父さんが書斎部屋から出てきた。


「どうした、リヴ?」

「グレンが外を見ていたみたい。誰かさんと一緒で、外で体を動かすのが好きなのかしら?」


 父さんの名はドット。少し老けが見えているが、まだまだ黒髪は健全でダンディな格好良さがあり、未だに母さんと()()()()しているっぽい。……羨ましい。


 頭を掻きながら苦笑いを浮かべる父さんと、その反応に笑みを浮かべる母さん。拾い育ててくれた二人を、オレはとても敬愛している。


「どうだ、グレン。そろそろ剣の稽古をつけてやろう!」

「それは良いわね。グレンももう四歳になりますし、宜しいんじゃないかしら」


 おおっ! 今まで危ないからと折角の異世界なのに剣を持たせてもらえなかったが、ようやく実践できる! 


「はい! お父様、是非お願いします!」

「はははっ、そうか。では、支度をしよう」


 勿論オレは拒む理由も無く、喜んで父さんと共に裏庭に向かう。


 屋敷が広いだけあって裏庭も広く、庭には小さな池や花壇があり、さらに踏み荒らす心配がない程のスペースがある。

 オレと父さんは、お互い体格に合わせた木剣を構える。


「手始めだ、何処からでも来なさい、グレン」

「はい。では、行きます!」


 オレは剣を構え父さんに切りかかった。しかし、次の瞬間には剣が手の中から消えて父さんの木剣が額に強打する。ジンジンとする頭部を抑える。

 涙が出る程いたい……。

 一体、何が起きたんだ……?


「つぅぅ?!」


 遅れてオレの剣が地面に落ちた。父さんの剣に弾かれて飛ばされていたらしい。


「はははっ! そう落ち込むなグレン。鍛錬を積めば、自ずと才能は開花する」


 やはり都合のいい様に、異世界に来ても急に強くはならないか。日々の鍛錬で強くなるしか無いようだ。甘い考えだった……反省します。


「まだ始めたばかりだ、続けるだろグレン?」

「は、はい! もちろん、お願いします」


 しばらく父さんに稽古をつけてもらっていると、遠くからこっちに近づいて来る小さな人影が目に入る。


「にぃさま〜〜!」


 人影は遅いスピードながらに走って来てオレに抱きついて来たので、それを受け止める。すると、オレの胸に埋めた顔を上げる。


「にぃさま、あそぼっ!」


 天使のような笑顔でオレを兄様と呼ぶこの子は、父さんと母さんの二人目の子で二つ離れたオレの可愛い妹、ルウナ。フリルが付いたお洋服に、落ち着いた色の金髪がお人形感を醸し出している。


「もうルウナったら、兄さんとお父様の稽古の邪魔をしてはいけませんと言ったでしょう?」


 ルウナを追いかけて来た母さんがルウナに注意をしている。別に良いんだよ母さん、可愛い妹がした事です。

 うん、目に入れても痛くないとはこの子の為にある言葉だ。


「ごめんな、ルウナ。今はお父様と稽古中なんだ。また後で遊んであげるからな」

「やぁ〜〜! ルウナと遊んで!」


 顔を横に振りながら遊んでとせがまれる。しかし稽古も大事だし、心苦しいが母さんに連れて行ってもらうことにした。

 母さんに手を引かれながらルウナがオレの名を呼ぶが、オレは振り返らない……ここで振り向けば、稽古そっちのけでルウナを愛で続けて止まらなくなるだろう。


 涙を堪えるんだオレ……。


 それからは、父さんとの稽古をしばらく続ける。


「まだ剣の握り方が甘いな。それに剣の重さに振り回されている様だ、これからみっちり鍛えるからな、グレン」

「は……はい、お父様」


 オレは額に流れる汗をタオルで拭いながら、ある事を思い出した。


「お父様、今日も書斎のお部屋に入ってもよろしいですか?」

「勿論構わんが、今日も勉強か?」

「はい」

「稽古の後も勉学とは、グレンは真面目だな」


 その後、オレはいつもの様に書斎室で本を探した。オレは毎日のように、いつも書斎室に通うようにしている。目的は勿論、魔法についての本だ。

 父さんに聞くのが一番早いだろうが折角のファンタジー、まずは自力でヒントを見つけた方が楽しいよなっ!




 書斎で探し物を始めてから一週間経ち本棚を引っ掻き回すように探した。しかし、魔法関係の本は数冊しか出てこなかった。

 それもそんなに分厚い訳でも無い普通の大きさの本。父さんは魔法に興味が無いのか?

 ひとまず、目的のものは見つけたし明日読むことにしよう。それより……。


「書斎をグチャグチャに散らかしちゃったな……」


 早く片付けないと父さんに叱られる。


「こんなに散らかして。悪い子ね、グレン」


 扉の方から聞こえた声に振り向く。そこには、オレが拾われた時にいた女の子――サリカ姉さんがいた。


「姉さん! いやぁ、これはそのぉ……」

「くすくすっ、分かってるよグレン。お勉強の本を探してたんでしょう? 私も手伝ってあげるから、早く片付けましょ。もうすぐ夕食だよ」


 そう言って姉さんは片付けを手伝ってくれる。姉さんはオレの三つ上で、黒髪の長髪。

 まだ子供ながらにしてちょっぴり色気のある少女。すでに同年代から数人に告白を受けているらしいが、本人から聞いたので真偽は分からない。


「どうしたのグレン。わたしの顔に何かついてる?」

「う、ううん、何でも無いよ姉さん。手伝ってくれてありがとう」

「これくらい良いのよ。さあ、行きましょう」


 片付けを終えたオレと姉さんは、みんなが待つ食堂に向かった。


 姉と可愛い妹、両親と共にオレは楽しい時間を過ごしている。




 後日、オレは書斎で本を広げ、衝撃の事実を知る。


「こ、この世界って……()()が使える魔法はたった()()だけなの!?」


 オレは魔法本の続きを読む。

 そもそもこの異世界には、魔獣や神獣といった数多の生き物が存在し、各々が大なり小なり魔法が使えると書いてあった。

 だが、人間は古来より、二種類の魔法しか使えない生き物らしい。


 女神様のあの時の表情はこういう理由か。無限に魔力があっても使い道がほぼ無い。『無限魔力』、ある意味ハズレ能力だったかも……。


 くよくよしても仕方がない。

 二つだけだが、それを会得して魔法騎士を目指すとするか。

 肝心の魔法だが、〈召喚(コール・ライト)〉と〈装甲弾(クロス・バレット)〉。この二つが使えるらしい。


 まず〈召喚〉は自分専用の使い魔をランダムで呼び出す魔法で、〈装甲弾〉はその使い魔に対して使用する魔法らしい。


「まずは〈召喚(コール・ライト)〉を覚えるか」


 オレは本に記載されている通りに魔法の練習を始めた。

 右腕の掌に魔力を集め、魔法陣を描くようにイメージする。しかし、掌が暖かくなっていく感覚はあるが一向に魔法が発動する気配がしない。


 やはり本を見ただけで一度では成功はしないようだ。しばらくはこの練習を繰り返し、感覚を身に付けることから始めるとしよう。


 二度目の練習を始めようとした時、ノックが聞こえたのでドアを開ける。


「はい――うわっ!?」

「にぃさま!」


 ドアを開けた途端、ルウナがオレに飛びかかってきた。オレは勢いに負けてそのまま床に倒れると、上にルウナが乗り、抱きついてきた。


「どうした? ルウナ。危ないだろ」

「にぃさま、どうして今日、ルウナに構ってくれないの?」

「どうしてって……」


 そういえば朝食を終えてすぐに書斎に向かったので、今日はまだルウナの相手をしていなかったな。泣いているルウナをあやすが、中々泣き止んでくれない。


「ルウナがグレンのところに行くって聞かないから連れてきたのよ。ほら、ルウナが泣いてるわよ」


 近くには姉さんがドアに寄りかかるように立っていた。


「ほら、もう泣き止め、ルウ――」

「に、にぃさまは……ルウナのこと、嫌いになったの……?」


 涙目の上目遣い――そして、森羅万象をも崩壊させる、オレにとってそれ程の一言。それを聞いた瞬間、オレの中から平常心が消えた。


「寂しい思いをさせてごめんなっ! オレがお前を嫌いなる訳無いだろ、可愛い妹よっ(ルウナ)!」

「じゃあ、ルウナと遊んでくれる?」

「もちろん、何時間でも遊んであげるからな。だから、そんな事は言わないでくれ!」

「うん、うれしい!」

「……相変わらず、妹に甘いわね」


 その後、元気を取り戻したルウナと共に、少し呆れた顔をしている姉さんと三人で遊ぶことにした。姉さんは何故そんな顔をしているんだ?


 そんなのんびりとした時間を過ごしなから、オレはこの幸せな日々を堪能していた。




 それから数年、オレは一七歳になった。黒い髪は少々短めに揃え、身長はそこそこ伸び、大人と並ぶ位に成長して、毎日の稽古で体力も中々に鍛え育った。そして、練習の成果も……。


 いよいよ、オレは今日使い魔を召喚することにした。

 この日の為に練習してきた成果を家族に披露しよう。

 両親と姉さんとルウナを連れて裏庭に出る。


「使い魔はお前の分身のようなものだ。気合いを入れてやるんだぞ」

「頑張ってね、グレン」

「はい、ありがとうございます」

「グレンは毎日、勉強と練習をしてきたんですから、その成果を発揮しなさい」

「うん、姉さん」


 みんなが優しく応援してくれたが、ルウナは不安そうな顔を浮かべ両手を組み祈るようにしている。


「お兄様、頑張ってください。きっと、お兄様に相応しい使い魔が現れると信じています」

「ありがとうルウナ」


 優しい子だ。励ましてくれるルウナに優しく頭を撫でてあげると、いつもの笑顔で笑ってくれた。

 オレは家族から離れた位置に移動して、いよいよ召喚を始める。


 オレは右腕を前に出し、掌に魔力を集中させる。

 使い魔はランダムらしいが、呼ぶ人の相性、召喚時の魔力量にも作用すると聞いた。

 オレは魔力を最大まで右腕に流すと、右腕から青い光が溢れ出し、掌に魔法陣が浮かび上がる。

 周りの草木が魔力放出で揺れ動き始めた。


 額に汗が流れる。無限に魔力はあっても、予想よりも魔力消費による疲労が大きい。だけど、まだ終わりじゃない。

 掌の魔法陣が完成すると、次に前方の地面に向け魔力を放つ。地面に掌と同じ魔法陣が浮かび上がる。


「はぁぁ! 〈召喚(コール・ライト)〉!!」


 地面の魔法陣から凄まじい閃光が起きる。風圧に押されそうになったが、何とか耐えてみせる。直ぐに閃光と風圧は治り、魔方陣の上にはすでにオレの使い魔が召喚されている。


 よし、無事に〈召喚〉は成功したみたいだ。そして現れたのは、(ドラゴン)だった。



 巨大な存在感を放ち、竜は鋭い眼光を向けてくる。オレはとんでもない奴を召喚してしまったらしい……。


 父さんは腰に下げた剣に手をかけて身構えてるし、姉さんも難しそうな険しい顔をしてる。母さんは怯えてるし。ああ……ルウナなんか、怖がって少し泣いてる。


 みんな驚いてるけど、そりゃそうだよな、呼んだオレ自身も驚いているんだから。


「貴様がワシの主人だな」


 随分と横柄(おうへい)(ドラゴン)だけど、望むところだ。

 コイツの力を存分に使わせてもらうぞ!


「ああ、そうだ」


 右腕の魔法陣を竜に見せる。


「お前は、オレの(ちから)だ!」


 竜はニヤリと口角を上げ、笑みを浮かべる。


「良いだろう。召喚魔法の盟約に従い、今よりワシは貴様の使い魔だ!」


 そう言い、頭を下げ額をオレの掌に当てる。忠誠の姿勢とかなのか?

 しばらくして掌と地面の魔法陣も消えた。無事に上手くいったようだ。


 オレは思わず天に向けてガッツポーズをする。想像絶するサプライズだったが、ようやくオレにも使い魔(パートナー)ができた。


 ここからオレの、真のファンタジーストーリーの始まりだっ!

プロローグ(前編)の続きです。

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