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一・十五話 誰でもない(中編)

この話は前話の続きとなっております。

まだの方は「誰でもない(前編)」から読んでくださると、なお楽しめると思います。

「――はぁっ! はぁっ!」


 黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムの後を追って、オレはヒビ割れている道をリアンと走っている。

 黒岩大人形の重さに耐え切れずに割れてしまっているようだ。


「――くっ!?」

「だ、大丈夫か主人、やはり体が痛むのか?」

「い、いや……大丈夫だ、気にするな」


 腹部に感じた激痛に堪えてリアンの心配に答える。

 走るたびにお腹――というより肋骨(ろっこつ)に感じる痛み、恐らく折れてるな。

 だけど、今は我慢しよう。


 今はそんな事よりルウナが最優先だ。


「あの石クズ、どこまで行ったのだ?」

「ヒビ割れた地面の跡から、街中に入って行ったみたいだ。その先に黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムも、ルウナとあの少女もいるだろう」


 姿はまだ見えないが遠くの方から破壊音が響き渡ってくる。道が段々と建物が密集して狭くなっている中を、あの大きな体で無理やり突き進んでいるのだろう。

 途中の分かれ道や窓から見える建物の中にルウナたちの姿がない事から、まだ二人は逃げ続けているみたいだ。

 何故こんなにもしつこくあの二人を狙い続けているんだ?


 しばらく走り続けて王城からだいぶ離れた位置まで来た。

 破壊音はもう、すぐそこまでの距離で聞こえているが、辺りを見渡してもその姿は見当たらない。


「クソっ……!」

「一体どこに……」


 リアンと周りを見渡し探していると、オレたちのいる一つ向こうの道から一際(ひときわ)大きな崩壊音と「きゃぁーー!!」と悲鳴が聞こえてきた。

 この声は――!


 声の方向を向くと、小さな民家一つ挟みその屋根の向こう側に、黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムの姿があった。


「あいつ、リア――!?」


 その姿を見つけた途端、リアンは見て分かる程に怒りを表に出すと、瞬く間に駆け出した。怒りによる力か、スピードが瞬時に加速するとあっという間にオレの前方へと移動する。

 そのまま目の前の民家に飛び込む勢いで駆けていき、その手前で地面が音をあげて(くぼ)むくらい強く蹴り、ジャンプする。

 リアンは高く飛び上がると民家の屋根に飛び乗り、そのまま屋根を踏み越えて黒岩大人形に突撃していく。


「ふぅむっ!」


 硬く握られたリアンの拳は大きく振りかぶると黒岩大人形の顔のこめかみ部分を殴り付ける。

 重い音を鳴らし殴られた所から石のかけらを飛ばしながら、衝撃で黒岩大人形が倒れていき見えなくなった。


「は、はは……いきなり殴り飛ばすとか、怖いヤツ」


 オレは苦笑いを浮かべながら急いで向こう側に出る道を探し見つけて移動する。

 さっき聞こえた悲鳴は間違いない。

 ルウナは、この先にいる。


 大通りの道に出ると、黒岩大人形の下敷きにされてぺしゃんこに崩れた建物の粉塵(ふんじん)が辺りを舞っていて視界が悪い。


「くそっ、よく見えない! ルウナ! 何処だ、ルウナー!」


 声を張り上げて探していると、道端に座り込んでいる人影が見え、オレは急いで近づいていく。


 人影の正体は、銀髪少女を抱えて咳き込む、ルウナだった。


「ケホッケホッ……あっ!? おっ、お兄、様……!」


 オレに気づいたルウナは、プルプルと体を震わせて泣きそうになりながらも我慢して、オレの名を呼ぶ。

 ルウナの無事な姿に安心したオレは、ルウナの側にしゃがみ、優しく抱きしめた。


「ルウナ、よかった……怖かっただろ」

「はい……」


 小刻みに肩を震わせ、オレの耳元で弱々しくも、嬉しそうにそう答える。


「もう、大丈夫だからな。怪我は無いか?」

「はっはい……わっ、私より、お兄様こそお怪我を……」

「これくらい、オレは大丈夫だ」


 ルウナも少女も見た感じ外傷はなさそうだ。

 ただ、少女はルウナの腕の中で眠っている。黒岩大人形に追われている間に、いつのまにか気絶してしまったらしい。無理もないか。


「お兄様、先ほどあの魔物が急に倒れましたが、一体……」


 逃げるのに必死で、リアンの姿は見ていなかったようだ。


「大丈夫、あれはリアンが殴り倒しただけだ。それより、ここは危ない。動けるか?」

「は、はい、大丈夫です」


 答えながらゆっくりと立ち上がるルウナに手を貸す。一瞬ふらついて心配したが、しっかりと立てていて問題はなさそうだ。良かった。

 すると、遠くの方で石が崩れ落ちるような物音がし視線を向けると、倒れていた黒岩大人形が起き上がろうとしていた。黒岩大人形の上で様子見をしていたリアンだったが、動き出すとそこから飛び退きこっちに合流しに来る。


「主人よ、奴がまた動き出すぞ。ルウナを避難させるなら早くしろ」

「わかってる。ルウナ、その子と一緒にこの道から逃げるんだ」

「は、はい!」


 オレが来た裏通りを指してルウナに避難するように伝える。まだ粉塵が残っているから、今なら黒岩大人形には気づかれないはずだ。


「あれ……? お兄様?」


 裏通り手前で立ち止まったルウナは振り返り、()()()()()()()()()の方を向く。


「どうか、されたのですか……?」

「オレは……いや、オレとリアンは、少しあいつの相手をしていく」


 オレは粉塵の向こうにいる、黒岩大人形を見ながら口にする。

 ここで誰かが黒岩大人形の相手をしないと、またルウナを追ってくるかもしれない。

 それに……。


「あいつを倒さないと、リアンの怒りが収まらないみたいだからな」


 隣にいるリアンは一見、落ち着いてるように見えるが、よく見ると息を荒げていて明らかに興奮状態になっている。さっきの一発でチャラにする、とはいかないようだ。


「ルウナはいいから早く逃げるんだ」

「そっ、そんなっ! 危険です、お兄様も一緒に逃げましょう!」


 戻ってこようとするルウナに、手を伸ばして静止を(うなが)して止める。

 心配してくれるのは嬉しいが、ぼんやりと見える立ち上がった黒岩大人形がそろそろこっちに気付きそうだ。

 オレは借りた剣を構えて黒岩大人形に向き直る。


「早く逃げろ、ルウナ」

「お兄様……」

「――大丈夫だ」


 オレは姿勢は変えずに、ルウナに笑って告げる。


「前にも約束しただろ。大丈夫、必ず戻るよ」


 甲兜犀(ビートス・ライノ)戦の時にルウナに言われた約束。その時の言葉を今度はオレがすると、ルウナは涙を(ぬぐ)い、普段の可愛らしい顔をキリッとさせてこっちを見つめる。


「そうですね……お兄様はいつも、約束を守ってくださいます。必ず、また私の元に戻って来てくださいね」

「ああ、約束だ、必ず戻る。……さぁ、早く行くんだ!」


 この会話を最後にルウナは裏通りに向き直すと走り去り、その後ろ姿が消えていった。


「ふむ、視界が晴れていく。奴が来るぞ、主人」

「ああ」


 視線の先で黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムがオレたちに気づき、ゆっくりと向かって来た。真っ直ぐにこっちに向かって来るって事は、さっきのリアンの一撃でしっかりターゲットがオレたちに移ったみたいだ。

 大事な妹と約束してしまったからな、約束は守らないといけない。



 ――決意したんだ、ルウナはオレが守るって。



「だから、もう怖くはない!」


 絶対、何がなんでも倒して、帰ってみせる!




「いくぞ主人!」


 先陣を切ったリアンが再び疾走(しっそう)し黒岩大人形に向かっていく。

 黒岩大人形は迎え撃つように巨石の拳を構えると、一瞬でそれを放ちリアンの頭上を狙っていく。

 凄まじい速さで接近してくる拳に、リアンはすぐに急停止するとその巨石に向けてリアンも拳を放つ。

 二人の拳がぶつかり合った瞬間、重い爆音が鳴り響いた。


 一瞬の激しいせめぎ合いの末に勝ったのは、リアンの方だった。

 そして、リアンの押しに負けて押し返させる黒岩大人形――に、見えたが、黒岩大人形はわざと拳を引っ込めるとすぐに反対側の腕で拳を放つ。


 リアンは急に腕を引っ込められ姿勢を崩して動けないみたいだが、次の攻撃にいち早く気づいたオレはリアンの元に駆け走り、そのまま抱きかかえるように掴まえて黒岩大人形の攻撃を回避する。


 巨石の塊の拳が頭上ギリギリを過ぎていくのを確認すると、オレは体勢を直して剣で黒岩大人形の腕を斬りつける。


 カアァーーン!!


「――ちっ!」


 しかし、剣は岩の体に(はば)まれ小さな火花が飛び、甲高い音を鳴らしながら弾かれた。


 オレは跳ね上がった剣を回すように下に持っていき、今度は下から斬り上げる。

 だが結果は同じく、(むな) しい金属音が手と耳に響く。


「――っ痛ぅぅ!? やっぱり石を剣で斬るのは無理かっ」


 剣から伝わってきた振動に痺れながら、オレたちは黒岩大人形の追撃から急いで距離を取って回避する。

 漫画みたいに岩を真っ二つに斬るのは難しそうだ……。


「ふむ、追撃のスピードが早い……あの石クズ、やはり岩人形(ゴーレム)にしては動きが早過ぎる」

「だよな、なんかの魔法か……?」


 一旦距離を置いたオレたちは、黒岩大人形の出方を見る。

 しかし、強化魔法やスピードを上げる魔法はあっても、岩人形があそこまで早く動けるようになる魔法なんて聞いたことない。


「何であろうと関係ない! またワシが殴り飛ばして――」

「……っ!? ちょっとまて!」

「なん――」


 すぐに動きを表した黒岩大人形だったが、オレは目前の光景を見て、自分の目を疑った。


「なっ、なん、なんなんだ、あいつ?!」


 ――ゴッ! ゴッ! ゴッ!


 重い音がテンポよく耳に入ってくる。

 その音の元が徐々に……いや、すぐ近くまで接近してくる。

 ウソだろ……こんなの、聞いたことがない。


 なんで……。


「なんでゴーレムが、走って来てるんだよ!?」


 重たいその岩の体で、両足を早く動かしこちらに向けて走ってくる。


「リアン、逃げるぞ!」

「な、なにを!? ワシは……」

「いいから、早く!」


 すぐそこまで迫って来る黒岩大人形を背に、リアンを無理やり引っ張って走る。


「なんだよ!? ゴーレムは動きが遅いが定番だろ! どうなっているんだよ、この世界のゴーレムは!!」

「何を言っておるのかさっぱりだぞ主人!」


 誰に愚痴っているわけでもないが、言わずにはいられない。

 オレたちは懸命に走りながら、すぐそこまで全力疾走して追いかけてくる黒岩大人形から逃げる。リオンさんの作品でも、あんな定番設定が抜けたゴーレム出てこないぞ!


「ふ、ふむ……! 主人、前!」

「はっ、はっ、あっ、あそこは……」


 黒岩大人形から逃げてだいぶ走っていたが、目の前を見ると街道が終わり広い広場の所まで来ていた。

 遠くに視線を向けると、どうやらそこは王城と、王都の壁との間の位置みたいだ。


 他に逃げる先もなく、オレたちはそこを目指して走っていく。

 すると、街道の途中に木材屋らしき店の前にロープで縛られて積まれている大量の丸太を発見した。


「ちょ……ちょっとは止まれぇ!」


 オレは持っていた剣で丸太を縛るロープを切ると、オレたちの後ろで大量の丸太が崩れ流れる音がした。

 これで少しは足止めになってくれているといいが、今は確認する余裕もなくそのまま走り抜く。

 しばらくして後方から大きな地響きが聞こえた。多分足止めに成功したのだろう。




「ここは、公園か……」


 たどり着いた広場は円状になっており、辺りには石で作られた高さ三メートル弱の茶色の石柱(せきちゅう)が何本か建てられている。真ん中の広間は(くだ)りの石段が段々と低くなっていって穴が空いた様になっている。


「ふむ、主人よ」


 リアンの呼びかけに視線を向けて、オレたちは広間の段差前で黒岩大人形が広場に入ってくるのを確認する。

 黒岩大人形は走って来ず、ゆっくりと歩み、近づいてくる。


「さて、どうしたものかな。剣が効かないなら、あとはリアン任せになるが……うん?」


 何か策はないか観察していた時、黒岩大人形の左肩にキラリと光る物が見えた。


「あれは、何だ?」

「ふむ、あれは恐らく、あいつの核だろう」

「核って、確か岩人形(ゴーレム)の動力源だよな?」


 生き物ではない岩人形が動いているのは、「核」と呼ばれる魔力を放出して岩人形を動かしている球体状の動力源があるからだ。


「そうだ。あいつ、さっきの丸太で蹴躓(けつまず)いて(おお)っていた石が剥がれたな」


 核は言わば、岩人形の心臓の様な物、それを破壊すれば岩人形は動かなくなるらしい。

 偶然だが、なんとかあいつの弱点の位置がわかった。


「なら、あそこを潰せばいいんだな」

「ふむ! その通りだ」


 オレはリアンと向き合ってお互い頷くと、一斉に飛び出す。

 再びリアンが先行して黒岩大人形と殴り合う。黒岩大人形の妙な速さの連打攻撃に、リアンは応戦して打ち返していき、その衝撃波が周りに走る。


「ふむぅぅう!」


 お互いの拳がぶつかり合い、一瞬黒岩大人形の動きが止まった隙を見計らったオレは、黒岩大人形の右腕にジャンプしてしがみつき、なんとかよじ登ると、左肩目掛けて駆け走る。だが黒岩大人形がすぐに反応して左手の岩の塊でオレを潰しにきた。


「あっぶねぇぇ!」


 オレは急いで飛び出すように逃げて、黒岩大人形の背後へ回った。


「くっそ、なんとかあいつの上に乗れたら剣で一突きなのに……」


 黒岩大人形はオレから再びリアンに狙いを戻すと、リアンとの殴り合いに没頭する。


「んっ? これは、石柱か。黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムが打つかって折れたのか……」


 ――っそうだ! これなら!


「リアン、こっちだ!」


 黒岩大人形とせめぎ合っていたリアンだったが、オレの呼びかけとすぐ側にあった石柱に気づき、一瞬の隙をついて黒岩大人形の脇を抜けて来ると、オレの側に落ちていた石柱を両手で掴み持ち上げ始めた。


「ふむむむっ! これでも、くらっえぇぇ!」


 すると持ち上げた石柱を大振りし、こちらに振り向いた黒岩大人形に叩きつける。

 石柱は粉砕したが、黒岩大人形は衝撃で後方に下がり真ん中の()()()()()いく。

 そんなに深いわけではないが、倒れたならこっちのものだ!


 オレは広場の中心に向け走り出し、仰向(あおむ)けに倒れた黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムに向けて飛び出して、左肩に目掛けて剣を下に向けて落下していく。


 狙うのは……核!


「これで……どうだぁぁぁ!!」


 バリィィンっ!


 突き立てた剣先が真っ直ぐに核の中心を突き刺して、水晶のような破片を()()らし()()した。


「――っ?!」



 ――だが、核を突き刺したと同時に、ある事実がわかった。



「どうだ! やったか、主人!」

「リアン……こいつ」

「ふむ? ……っ!? 主人、そこから離れろ!」


 すると、オレの下にいる黒岩大人形の体がガタガタと震え、()()()()()()()


「どういうことだ……」

「何をしている主人、すぐ離れるぞ!」

「あ、ああ……」


 リアンが降りてきてオレを抱えて広場に上がると、下から黒岩大人形が起き上がり、少しずつ上がって来る音がする。


「何故、あいつは核を破壊されても動いている!?」

「――ちがう」


 戦闘態勢を立て直しながら、オレはリアンの疑問に答え――いや、訂正する。


「あいつは……あいつは、()()()()……」


 すると穴から、黒岩大人形の顔のない頭が地上に出てくる。


 そして……。


()()()()()()()……!」


 ――すでに破壊されていた赤い核が、オレたちの目前に現れた。

次話はいよいよ、黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレムとの最終局面です。

展開を心待ちにしてお待ちください。

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