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一・十三話 人生の半分はハプニング

今回は一息ついたほのぼの回……のはずです。

 城を出たオレたちは、大通りに並ぶ出店の中を進んで行ったんだ。

 リアンとの約束通り焼き鳥を売っている店が無いか探していると、思いの(ほか)すぐに見つけて二本購入して、早速食べてみた。


 だけど……。


「あ、甘い……」

「ふむ、こういう焼き鳥もあるのだな」


 鶏肉は普通の肉なんだけど……タレがすっごく、甘い!


 めっちゃ甘い!

 何これ!?


「少し甘めだが、これはこれで中々美味いな」


 ……どこが少しなんだよ。

 リアンは何の問題もなさそうに食べている。焼き鳥ならなんでも良いのか?


 少しりんごの風味がしていてそれは美味しいけど、それ以外にも何か別の甘いものが混ざっているだろ、コレ。


「たっ、大将、この焼き鳥甘くて美味しいですね……」

「だろっ! ウチの秘伝のタレを使っているからな」


 お店の大将――改め、このおじさんが陽気に笑っている事から、どうやらオレの引きつった笑顔で動揺は誤魔化せているらしい。


「ち、ちなみに……タレはりんごを使っているんですか?」

「よくわかったな、そうだ。()り下ろしたりんごと、ラント蜜を混ぜて作ってるんだ」

「ラント蜜?」


 ……何それ、初めて聞いた。

 おじさんは説明と一緒に屋台の下からつぼを一つ取り出して見せてくれる。


「なんだ、知らないのか? ラント蜜ってのは、甘蜂(ラント・ビー)って言う魔物から取れる甘い蜜の事だ。程よい甘さが丁度良いから、タレ作りに使ってるんだ」


 名前からして、甘蜂(ラント・ビー)は蜜蜂の様なものだろう。という事は、ラント蜜はハチミツみたいなものか。


 っていうか、秘伝のタレをそう易々と人に教えて良いのかい、おじさん?


「ハチミ――じゃない、ラント蜜とりんごだけにしては結構色が黒いですね」

「おっ、そこに気づくとは良い目してんな。よし! 最後の材料も教えてやる、他には言うなよ」


 目を輝かせて、おじさんがノリノリになってきた。自慢好きなのか、別にそこまで深掘りするつもりは無かったんだけどなぁ。

 近くには誰もいないのに、おじさんが不必要に小声で最後のレシピを教えてくる。


「最後の材料はな……黒糖だ。つぼいっぱいに黒糖を入れて、その中にラント蜜と摩り下ろしりんごを加えて混ぜて作ってんだ。長い研究の甲斐(かい)あって、この通り凄いタレが出来たって訳よ! いいか、特別に教えたんだからな、他言するなよ」


 ご機嫌に早口で語り終えたおじさんにオレは再び引きつった笑顔で黙って頷いたが、心の中で両手を地につけて溜息を吐く。


 そりゃあ甘いよ……。

 黒糖をふんだんに使ってハチミツとりんごを加えたら、もうそれはデザートだよ。


 前々から分かってはいたけど、やっぱりこの世界の食文化は微妙に変わっているんだよな。


「ふむふむ、何を言っていたのかよく分からなかったが、今まで食べた事の無い味でこれはこれで良いな」


 お前は焼き鳥なら、もう何でも良いんだろ。


「わざわざ教えてくれて、ありがとうございました。行こうか、リアン」

「ふむ、そうだな。じゃあな、大将」

「あっ、ちょいと待ちな! 嬢ちゃん。ほれ、サービスにもう一本持っていきな」


 リアンの食べっぷりが気に入ったのか、陽気におじさんが焼き鳥を差し出してくる。


「おおう! では、遠慮なく貰うぞ」

「おう。また来いよ、嬢ちゃん」


 笑って見送るおじさんに、串を持った手でバイバイをするリアンを連れて次の出店を巡りに行く。


 決して、これ以上おじさんの相手が面倒になった訳では無いからな。




 あらかた巡り尽くし終えて歩くのに疲れたオレたちは、街の中央付近にある小さな公園のベンチに座って休憩をしている。

 ここは周囲を大きな建物に囲まれているせいか人通りが少ない。だけどそのせいか、ここは街中なのに木々や緑が多く、日陰で涼んで休むのに快適な場所だ。


 この公園を名付けるなら、そうだな……グリーン・ブレイク公園!!


 ……いや、ダメだやめておこう。

 昔からリオンさんにも「焔はネーミングセンスが無い」と、よく言われていたな。


 それはそれとして、たまたま見つけた所だけど、良い休憩場所を発見したかもしれないな。今度ルウナも連れて来よう。


「……主人よ、何故だ」

「なにがだ?」


 モグモグと手に持つ食べ物を食べながら、リアンは何処か(うつ)ろな目をさせながら問い掛けてくる。


「何故、焼き鳥では無く、パンを買った? ワシは焼き鳥が食いたいのだが……」

「これの前にまた二本買って食べただろ? 肉以外も食べないと、栄養が偏りますよー」


 オレは適当な返しをしながら、つい先程買った菓子パンをチビチビとかじる。

 こうして食べ物巡りをしていて改めて思ったが、この世界の食文化は本当に微妙に変わった発展をしている。

 最初の甘過ぎる焼き鳥と言い変な味の食べ物があれば、今こうして食べている普通に美味しいパンとかもある。


 もちろん()()()の人たちには至って普通なのだろうが、元地球育ちのオレは慣れるまで随分と苦悩した記憶がある。

 実際一七年掛けて慣れたつもりでいたが、今回の甘過ぎ焼き鳥でまた更に先が長くなった気がする。


「気長に慣れていくしかないか」

「ふむ? 何か言ったか、主人」

「いいや、何でもない」


 菓子パンの最後の一口を口に放り込み、オレは適度に休まった体で軽くストレッチをする。

 疲れは落ちたけど、模擬戦試験の時の剣から伝わったピリピリとした痺れは今でも覚えている。マスタングさんは参ったと言ってはいたが、正直全然本気を出していなかったように見えた。

 流石は王城に仕える現役の騎士。今の父さんより強いかもしれない。


「まだまだ鍛錬(たんれん)が必要か」


 最近は父さんとはいい勝負が出来る程にはなったが、騎士になるからには、マスタングさんくらいを目指して強くならないとな。

 いざという時にルウナを守れるように。


「さて、そろそろ城に戻るか」

「ふむ……」


 ストレッチを終えて振り返ったが、リアンは未だにふくれっ面なご様子だ。

 だがそれも、「帰りに焼き鳥買ってやる」の魔法の言葉で直ぐにご満悦になるのだからわかりやすい。


 本当に、初期の凛々しさは何処に行ったのやら。




 街道に戻り元来た道を戻ろうとしたが、途端にリアンの歩みが止まりキョロキョロと辺りを見渡し始める。


「どうした、リアン? 焼き鳥の出店なら来た道を――」

「なあ、主人よ……。もしかしたら、()()()()()かもしれないぞ」


 ――えっ? ナニ、「また」って……。


 何だろう、リアンが凄いデジャブを感じさせる雰囲気を出している気がするのは気のせいか……。


 リアンが王城とは反対方向――中央都市の出入り口の方角を向いて、凝視している。

 気になって視線の先を追ってみると、白柄の清楚な服装をした()()の女の子が辺りを見ながら、オレたちのいる方向に歩いて来ている。


 ……いやいやいや、流石に無いだろ。また、付いて来ているなんて事は幾ら何でも。


 そう否定的な思考をしながらも、だんだんと女の子がこちらに近づいてきてその正体が確実にわかった以上、認めるしかない。

 女の子もオレとリアンに気づいたようで早足で駆け寄って来る。


「試験、お疲れ様です! お兄様」

「ルウナ、また付いて来たのか」


 可愛らしい笑みを浮かべる女の子の正体は、オレの愛する妹――ルウナだった。

 確か、前にグリスノーズに出かけた時は、こっそりと馬車の荷台に隠れて付いて来ていたな。


「もう、試験は全て終わったのですか?」

「ああ、試験は全部終わってあとは結果発表だけだ。っていうか、家で待っていたんじゃなかったのか?」

「あら? 私、帰りを待っていますなんて言ってませんよ。試験の結果をお兄様と一緒に知りたくて来てしまいました」


 悪戯(いたずら)っ子の様な顔を浮かべて、可愛い奴だ。

 ……いや、じゃなくて!


「だいたい、どうやって来たんだ? 乗馬はまだ上手く出来なかった筈だろ?」

「お兄様が出かけた後に私、お姉様と一緒に領地街まで出かけに行ったのですが、偶然にも道中でトトムお爺様とお会いして王都に納品のお仕事があるという事でしたので、連れて来てもらいました」


 なるほど、菓子屋のトトムお爺さんにか。優しい人柄のあのお爺さんなら、二つ返事で了承してくれたのだろう。

 そして先程王都で降ろしてもらい、今こうして試験場の王城に向かうところだったらしい。


 まったく、こういう時は意外とアクティブなんだよな、ルウナは。

 主にオレが絡む事に……。


「じゃあ、姉さんも王都に?」

「いえ、お姉様は残られました。戻ってお母様たちに伝えてくださると言っていました」


 ほほう、伝言を買って出るなんて、姉さんも中々ルウナに甘くなってきたような気がする。

 勝手にルウナが王都に出かけた事は驚くだろうが、まあ、姉さんなら母さんたちを上手く丸め込んで納得させれるだろう。


「まあ、来てしまったならしょうがない。今から城に戻るところだけど、少し出店を見ながら一緒に行くか?」

「良いんですか! はい、行きましょう、お兄様」

「ふむ、焼き鳥を買うことも忘れてはならないぞ?」

「わかってる、わかってる。じゃあ、行くか」


 こうしてプチハプニングがあったものの、ルウナを加えて王城への戻り道に再び出店を巡ることになった。




「このお団子、甘くてとても美味しいです!」


 みたらし団子によく似た甘い食べ物に喜ぶルウナを連れて、雑貨売り場をぶらぶらと見て回る。


 この辺りは特別に目新しい物がある訳ではないが、色取り取りに並べられた小物や日用品は流石は中央都市の市場だと思う。

 出店の棚に並べられたガラス細工は透明とまでは言えないが、曇り模様が不思議な柄となっていて綺麗に形作られていて面白い。


 ルウナはというと、隣の店に置いてある装身具(アクセサリー)を試着して楽しそうにしていた。

 何処の世界でもやっぱり女の子はオシャレに興味があるのかな。


「んっ?! ぐぐっ!」


 近くで奇声(きせい)がして振り返ってみると、リアンがみたらし団子(もど)きを喉に詰まらせて悶えている。


「大丈夫か? 一口で一〇個も入れたらそうなるだろ」

「っぷはぁ〜、死ぬかと思った……」


 背中をトントンと叩いてやりながら水を飲ませて落ち着かせる。

 息を整えたリアンが団子を恨めしそうに睨んでいる間にルウナの方を向き直ったが、ルウナは変わらず小物を物色している。


「楽しそうだな、ルウナ。でも、昨日もお父様たちと王都に来てただろ。市場(ここ)には来てなかったのか?」

「あっいいえ、昨日もお父様とお姉様と一緒にこの辺りを回りました」

「なら――」

「でも……」


 オレの言葉に被さった後、ルウナは一息ついてこっちを向くと言葉を続ける。


「でも、お兄様と見て回った方が、もっともっと、すごく楽しいですっ!」


 頬を少し赤めて笑顔で告げるルウナ。

 その破壊力は絶大だった……。


 ――オレ、この日の為に今まで生きてきたのか。


「オレも、ルウナと遊びに来れて楽しいよ」

「っ! はい!」


 満面の笑みで元気に返事をしたルウナを、この後とても甘やかしたのは言うまでもない。至極当然の事なのだから。


「いつまで妹にニヤニヤしているのだ、主人よ」




 久しぶりの兄妹デートを楽しんだオレたちは市場の大通りを抜けて王城の門前まで戻ってきた。


「ふむ、腹ごしらえも終えたし、行くか主人」


 満足そうな顔をしているリアンの手には食べ終えた串を持っている。

 最後に一〇本も買ってやった焼き鳥がもう無くなっている。早過ぎるだろ。


 往復で山程の食べ物を買わされた気がするが、気のせいだろう。

 そこそこ持って来ていたはずのティラ硬貨が半分を切っていた様に見えたのも、きっと目が疲れていたんだろう。


 視線を前に向けると、一緒に試験を受けていたカップルが門を通って行くのが見えたので、タイミングは合っていたみたいだな。


 改めて服装を直しながらリアンとルウナの方を見てみる。

 リアンは終始変わらずマイペースな様だが、逆にルウナはオレ以上に緊張している様な様子だ。


「大丈夫か?」

「はっ、はい! 私は大丈夫です。……では、行きましょう、お兄様」

「ああ」


 深呼吸をして落ち着いたルウナは、まっすぐにオレの方を見て答える。

 自分が受ける訳でも無いのに、本当に優しい子だ。


 よしっ、最後の結果発表に行きますか。


 オレは今一度、気を引き締め直し城門へと向かう。


 ――その時。


「おわっ!? 何だ、地面が……」


 突然、足元の地面がわずかだが揺れ始めた。微弱な揺れだけど、ずっと揺れ続いている。

 周りの人も揺れに気づき驚いた表情をしている。


「これは、地震でしょうか?」


 突然の揺れにルウナもオレにしがみ付き怖がっている様だが……。


「……違う。多分、地震ではない」


 さっきから続いている揺れは永続的ではなく、一定の間隔(かんかく)を開けて揺れたり止んだりを繰り返している。


 ――まるで、()()時の様な感覚を開けて。


 すると、次に起きたのは遠くから聞こえてきた悲鳴。

 何が起きたのか分からないが、次第に悲鳴が上がっている距離が徐々に近づいて来ている。


「一体……」


 次々と起きる謎の現象、そして、城壁の周りの道からその原因が姿を現した……。


「お兄様、あれは……」


 ――石で作られた道にヒビを作りながら。


「リアン、あいつって」


 ――ズンッズンッと重い音を立て歩いてくる。


「ふむ、間違いない」


 黒い岩で出来た、高さ五メートル程の巨体を持つ魔物――黒岩大人形ブラクラージ・ゴーレム


 そいつがオレたちの目の前に現れた瞬間、オレの背筋に冷たい汗が流れる。

グレンくん回を一月待たせてしまいすみませんでした。


突如現れたゴーレムに、グレンくんはどうするのか!

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