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一・十話 そもさん、せっぱ!

「他の受験者の方たちも中で待っています。もうしばらくで試験面接が始まりますのでこちらでお待ちください」

「わかりました。ありがとうございます」


 オレが礼を告げると案内人さんはぺこりと会釈(えしゃく)をして戻って行った。

 案内人さんの後ろ姿が見えなくなってから扉を開けてリアンと共に中に入っていく。一〇メートル程の四角い室内で正面の壁に窓が二つ、机と椅子が一セット有るのみの殺風景(さっぷうけい)な部屋だ。


 目前には既に待機している五名の受験者たち。使い魔は外なのか召喚してないのかこの場には一匹も居ない。

 面接の試験官はまだ来ていないようで、みんな思い思いの姿勢で試験が始まるまで待っている。オレたち用の椅子などは用意されていないようだ。


「オレたちも始まるまで待っているか」

「ふむ、そうするしか無いようだな」


 窓際は既に先客に占領されているので、オレたちは扉付近の壁にもたれ掛かりながら待つ事にする。

 目の前のこの人たち、恐らく平民の男性が四人で女性が一人だけ。この人たちがもしかしたらオレと同期になるかもしれないのか。

 ちなみに今日のオレの服装は着飾っていない質素なものなので、オレを貴族だと気付く人はいないだろう。


 窓際では二人の男女が楽しそうに何か話をしている。知り合い同士とかかな?


「……何? 私の顔に何かついている?」


 何気なく女性と目が合うと、急に近づいてきたかと思ったら唐突に絡んできた。


「さっきから私の方をずっと見ていたけど」

「……えっ!? いやいや、たまたま今さっき目が合っただけだろ」

「嘘をつくな、ジロジロと見ていたくせに!」


 何だ、その自信は……。

 自意識が高いのか、変な人に絡まれてしまった。悪いけどあなた、そこまでプロポーション良いって訳じゃないからな。


「おい! なに俺の彼女に気安く話しかけてんだよ!」


 助け舟かと思ったら、また何か来たよ……。

 さっきまでこの女性と会話をしていた男性は彼氏さんだったらしく、分かりやすく不機嫌そうな顔でオレと女性の間に割って入って来た。カップルで来てたのかよ。


「気安くも何も、オレは別に……」

「もう良いよ、行こう」

「いいか? 次に彼女を変な目で見てたらタダじゃおかないからな」


 人の話も聞かずに二人は唐突にオレに見せつける様に手を繋ぐと、そのまま向かい側に去っていった。別に羨ましくも何ともないけど。

 急に絡んできたかと思えば、一体何がしたかったんだ……。


「……何で会ったばかりの人にあそこまで言われたんだ、オレ?」

「ワシに聞かれてもわからん」


 あの人たちと同期になるかもしれないなんて……先が思いやられる。


 ギスギスとした空気の中、ガチャっと扉が開かれる音と一緒に試験官らしき人物が入ってくる。それに反応してオレたち受験者は急いで机の前に行くと横並びに整列する。


 整列の順番は決まっていないが、オレは一番端で先ほどのカップルは反対側に並んでいる。


「これで全員だな」


 子供のような声質で話す試験官は黒髪の短いツインテールをした女性で、身長はルウナより低め。髪型も相まって幼く見えるが、キリッとしたつり目が凛々しく少し怖い。

 怒らせると怖そうなタイプだ。


「うん? そこの君は?」

「ワシか? ワシはこの主人の連れでただの見学だ」

「主人? 君の使用人なのか? ……まあいい、邪魔はしないように」


 リアンの「主人」発言で使用人と誤解されてしまったようだが、特に訂正する必要もないしそのままでいいか。


「ディイ?」


 んっ? 試験官の背後から何か紫の球体――いや、目玉が出てきた。

 人の頭サイズの目玉に左右から二枚一対のコウモリの様な羽を生やしている。パチリと紫の(まぶた)(まばた)きさせるその生き物はその大きな目でリアンを見ている。

 確か、微悪魔の目(スニール・アイム)という魔物だったかな。恐らくは試験官の使い魔なのだろう。

 リアンが同じ魔物だって事に気づいているのかな?


「諸君よく来てくれたな、私は面接官のマユバ。今から君たちが騎士たる資格があるか見させてもらう」


 椅子に腰掛ける試験官のマユバさんにオレたちは声を揃え「よろしくお願い致します!」を挨拶をする。




 面接はマユバさんからの質問に順番に答えていくやり方だ。

 主に騎士としての心意気とかを答えれば良いらしい。しかし……。


「では次の問いだ、王から配属先を命じられ、そこが危険な場所だった場合どうする?」

「無論どのような戦地や難所であろうと、喜んでおもむきます!」

「なるほど、次」

「はい! 私も同じ所存であります!」

「……なるほど。次」


 マユバさんが何ともつまらなそうな顔をしている。

 マユバさんの質問に対してみんなが同じような回答をするばかり。オレも姉さんと練習した通りに回答していくが、みんなと似たような答えになっていく。面接としてはもっと色んな意見を言った方が良いのだろうが、下手なことを言って失敗はしたくないのでこのままやり通そう。


 そのまま面接も終盤に迫り、次が最後の質問のようだ。


「では最後の問いだ。国が危機的状況になった時に目の前で君たちの家族や恋人が傷ついている状況。『大切な人』と『国』、どちらかを切り捨てなければいけないとしたら、君たちはどちらを取る?」


 マユバさんの鋭い眼光がオレたちを見つめている。危機的状況とは、また随分(ずいぶん)デタラメで大雑把な設定だが、人か国どちらかを選ばないといけないみたいだ。


「まずは君から」

「はい。私は身内よりも、国を第一に優先いたします!」


 反対側から順にみんなが答えていく。当然、騎士として国を一番に考えるのは当たり前だろう。


「君」

「はい」


 オレの番が来た。回答はもう決まっている。


「君は、国のために大切な者を切り捨てる事が出来るか?」

「も――」


 もちろん、オレも同じように模範的で確実な『国』と答えようとした。

 だが、『大切な人』を切り捨てると考えた時に思わず想像してしまった。


 傷ついた、ルウナの姿を。


 そんなルウナを見捨て国のために戦う自分の姿。そんな事を想像すると言葉が出でこなかった。


「どうした? 答えられんか?」

「……すみません」


 ウソでも答えれば良いだけだったが、そんな事を口にするのも嫌だった。オレの沈黙に「……なるほど」とマユバさんは目を閉じて静かに答える。


「これにて面接を終える。次に諸君には模擬戦(もぎせん)の試験に入ってもらう。中庭に移り指示があるまで待機していてくれ」


 マユバさんの指示に従い部屋を出ようとしたがオレだけ残るように言われた。カップルの彼氏さんが横を通り過ぎる際に鼻で笑っていく。完全に見下されているが仕方ないか、唯一オレだけ居残り。最後の沈黙はやってしまったな。




 みんなが出て行ってオレとリアン、そしてマユバさんだけになるとマユバさんが口を開きさっきの事を聞いてくる。


「先ほどの問い、君にとって国より大切な人がいるのかな?」


 マユバさんは顔の前で腕を組み真剣な目で聞いてくるのでオレはそれに頷いて答える。この時、腕の隙間から見えたマユバさんの表情が、気のせいか笑っているように見えた。


「オレにとって、あいつ(ルウナ)は掛け替えのない人なんです。たとえウソでもあいつを見殺しにするなんて、出来ません……」


「そうか」とマユバさんは立ち上がるとオレの目の前に移動してきた。

 叱られるのかな? マユバさんの眼光に睨まれオレは息を飲んで覚悟した。


「私はその考え、嫌いではない」

「……えっ?」


 想像していた言葉と違い思わず間抜けな声が漏れてしまった。


「私はな、国は人のためにあるものだと思っている。国のために人を捨てるなどあってはならぬとな」

「マユバさん……」

「あくまで個人的な考えだ、公言はするなよ。あの五人の答えは決して間違ってはいない。だが、人を守ると言う事も必然的に国を守る事に繋がる」


 マユバさんは拳を突き出してオレの胸に突き付けて言葉を続ける。


「君のその人への気持ちは間違っていない。君は、騎士に向いているよ」

「……はいっ! ありがとうございます!」


 堂々と胸を張って笑顔でそう宣言するマユバさん。幼く見える姿だが、その自身溢れる姿がとてもカッコ良く見えた。


「さて、少し引き止め過ぎたな。次の模擬戦の試験が始まる前に急いで向かいなさい」

「あっ、はい、失礼します!」


 オレはおじぎをしてリアンを連れて部屋を後にする。

 中庭に向け廊下を走る最中にチラッと後ろを振り返るとマユバさんが扉前で見送ってくれていた。

 それは嬉しいのだが……マユバさんの背後で飛んでいる微悪魔の目(スニール・アイム)さん、頼むからそんな「応援してるね」みたいな目でこっちを見ないで。その気持ちは嬉しいけど、キミ、その見た目でその目は少し怖いから……。


 そしてなんとかオレたちは次の試験が始まる前に間に合い、中庭に到着した。

果たして、グレンは騎士資格を得られるか!?


遅れて十一話も投稿します。


変更点:最後のマユバとの会話部分、最後の一文を変更しました。

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