不美人工場
「これからの時代、不美人の方が美人よりも有利に生きられると思うが、どうか」
最初の発言者が、今日の議題について切り出した。
たくさんの手が挙がった。
代わる代わる、自分の意見を述べていった。
「そんな訳ない。現に、美人の方が得をする。いつでも、圧倒的に有利だ!」
「おい、古臭いことを言うな。確かに、不美人の方が有利だ。美人が優秀だと、顔で得をしてると言われがちだ。不美人なら正当に評価される。それにまず、不美人の方がモテる!」
「何を馬鹿なことを! 根拠を言え!」
その場の空気が急に熱くなった。
「不美人の方が生涯未婚率が低く、より多く子供を産んでいるという医学上のデータがある!」
「そんなデータ、デタラメだ!」
「不美人がモテる訳ないだろう。かくいう私も、好きじゃない」
「待ちたまえ。その可能性はある。不美人の女性は特に、美男に好評だ」
「何だ、君らの意見は!? ここでは医学上のデータを出してくれ。個人の好き嫌いは問題じゃない!」
彼等は真面目に言い合った。
「昨今のケースでは、良い外見は逆効果をもたらす。今や、美人は全くモテない。美人を鼻にかけるからだ。モテるかどうかは、コミュ力によって左右される。不美人は意外に、すっごくモテるんだよ!」
「本当にそうだ。不美人は美人に比べて、ピュアで清らかなイメージがある。実際には、不美人の方が世の中を生き抜く術を早くから学び、異性についても鋭く観察している。不美人はよく気が利いて、異性にモテる!」
「何故、わざわざ不美人でなきゃならないのか!?」
反対意見の者が、その場にいる全員を見回した。
「実際に、話し上手で小柄な男がモテてたりするだろ。目が大きい女より、鼻が大きい女の方が玉の輿に乗ったりしてる。データより、君の周囲を見ればいい。男も女も、胴が長くて足が短い方がいいんだよ。低重心で、バランスがいい。運動神経もよくなる。愛情に関して、外見は逆の意味で重要だ。親に顔が似る場合、いいところが似た子供より、悪いところが似た子供の方が親に愛される」
「何故!?」
何人かは納得いかないでいる。
「不美人は世の中で必要とされている。この世を支える最も重要な、その他大勢になれるからだ。美人は嫉妬されるが、不美人は応援される。気が付けば、不美人グループが社会を支える重要なポジションを占めているんだ。不美人はカリスマリーダーには向かないが、ナンバー2の地位にあって、一番美味いところを持っていく。家庭にも恵まれる。不美人の方が実際に、容姿の整った配偶者を持つ!」
一人が自信満々で話した。
「不美人に生まれないと損だな」
誰かがボソッと言った。
「顔は大きい方がいい。小顔は損をする。遠くから見たって、誰だかわからないだろう? 美人は顔で選ばれてるから浮気されるが、不美人は性格で選ばれているから、一生愛される。不美人がスタイル悪いと、なお良い。一緒にいて、気が楽で落ち着くから、必要なことに集中して互いに人生を楽しむことが出来る。美男美女カップルは、真っ黒の泥沼だ」
彼は大きな声で話す。
「不美人を繰り返し見ていると、美人に見えてくる。これは脳に不美人の顔のアンバランスさが心地よい刺激になるからだ。絶対的に完成された美形はいない。逆にアンバランスな不美人の顔の方が、実は絶対的に完成されたリズムなんだ。人間の情緒とも関係している。常に安定をもたらす相手こそが、相手にとって安らぎをもたらすと言うことだ」
みんな、彼の意見を頷いて聞いている。
「一番モテて、子孫を残せるのが不美人だと言うことか? 顔が大きくて、胴が長くて、足が短くてスタイルの悪い不美人が、一番幸せだと言うんだな?」
誰かが質問した。
彼は自信を持って答えた。
「幸せは感じ方だ。せっかく不美人に生まれたのに、損をしていると思っている人がいる。私は不美人の方が、人生において有利だと言ってるんだ」
最初の発言者は議論が出尽くすまで待ってから、多数決を取った。
彼等の大多数は、不美人が今後の世の中で優位になると判断した。
「それでは、不美人で決定しよう。細胞分裂の用意に着け!」
彼等は一本のレバーを握り締めた。
「細胞分裂、開始!」
彼等は一気にレバーを下ろした。