食卓の騎士
ドンドン
俺はドアを叩く音で起こされた。
時計がないからわからないがまだ朝の早い時間だということは確かだ。
「いつまで寝てんだい、もう起きる時間だよ」
ドアを叩くことをやめずそう言い放ったのは昨日会ったヴェロニカさんだ。
とりあえずうるさいので急いでドアを開けた。
「おはようございます。まだ朝早いのにもう起床時間ですか?」
俺は目をこすりながら質問した。
「宿の仕事は早いんだよ。ほらさっさと顔洗ってきな」
そう言ってヴェロニカさんは俺の背中をバシッと叩いた。
「わ、わかりました」
俺は急いで洗面台を探し顔を洗いに行った。
宿泊施設の仕事って朝早いんだな、もしかして営業職より辛いんじゃ……。
かつての仕事の事を思い出しながらそう感じた。
いや、実績だのなんだのない分マシかな。
そう自分に言い聞かせて覚悟を決め、ヴェロニカさんのところへ戻った。
「よーし、さっぱりしてきたようだね。そんじゃあ今から始めるよ」
俺たちは一度台所へ向かった。
「まずは朝食の準備だよ。下準備はできてるからあとは焼いたりするだけだ。そういえば料理は出来るのかい?」
「いえ、人に出せるようなものは作ったことないです」
一応料理は出来るのだが男の一人暮らしで作るようなものだ、簡単で見た目も気にしない楽さと安さしか取り柄のない料理だ。俺が作ってきた料理は人に食べさせるようなものなどでは決してない。
「そうかい、なら料理は私がやるから食器類の準備をしておくれ」
「わかりました」
俺は急いで準備に取り掛かった。
結構な皿の量だ、学生の1クラス分の数はあるんじゃないか?
食器を並べ終えた頃、廊下の方が騒がしくなってきた。
「あいつら来たようだね」
「おはようございまーす」
そう言って部屋に入ってきたのは数人の鎧を着た男達だった。
「なぁヴェロニカさんそいつ誰だ?」
男達は俺に気づいてこちらを不思議そうにじっと見つめてる。
「こいつは今日からここで働くことになったやつだよ」
「どうも、ユウトと言います。よろしくおねがいします」
そいって自己紹介してると更にまた数人の男達が入ってきた。
「なんだ?どうしたんだ新入りか?」
「いや、ここの宿のバイトだとよ」
「そりゃまた急だな」
そんなことを男達が話している間にもぞろぞろと部屋に何人も入ってきた。
皆がしてる装備は若干の色の違いはあれど、どれも同じものだった。
俺はこういう複数人の前で注目を浴びるのが苦手な為、ここにいる人数を数えて気を紛らわすことにした。
結果、ここには36人の騎士がいた。
「朝からいったい何の騒ぎなのだ?」
気付くとドアの前にマリーがいた。
「やあユウト、昨日はちゃんと眠れたか?」
「ああ、おかげさまでな」
そんな俺とマリーのやり取りを見て周りの男達が騒ぎ出した。
「なんだなんだ?マリーの知り合いか?」
「そうだ、昨日私がここへ連れてきたのだ」
「おたくらどういった関係なんだ?」
「マリーにもとうとう相手が見つかったか」
「いやぁめでたいなー」
なんなんだろうこの人達は。
マリーはマリーで全然気にしてないようで周りを無視して席に着き朝食を食べはじめた。
慣れている感じだしいつもの日常なのか?
「ほら!あんた達さっさと席について食事しな!いったい誰が後片付けすると思ってるのさ。こっちはこの後も色々やることがあるんだよ!」
ヴェロニカさんの怒声で先程まで騒がしかった食卓がビシッと静かになりみんな席についた。
「ほら、あんたも食べな」
ヴェロニカさんは顎でクイっとやって俺に指示した。
「はい、ではいただきます」
俺は席の一番端の方に行き席についた。
俺が席に着くと隣の男から声をかけられた
「なぁあんた昨日マリーとデートしてたろ?」
俺は危うく口にした食べ物を吹き出しそうになった。
「なに言ってるんですか、別にそんなんじゃないですよ」
「本当かよー知ってるんだぜマリーと二人きりで食事してたのをさ」
「あれはただマリーに助けてもらってただけで……」
俺が困っていると前に座っている男が助けてくれた。
「ほら、よせバルト困ってるじゃないか」
「そう言うけどよクシル、こいつはマリーと二人きりで食事してたんだぜ?絶対怪しいだろ」
「別に怪しくもなんともないだろう、女性と二人で食事なんて恋人同士じゃなくてもよくあるだろう。まぁお前には分からないか」
よくある事なのか?まあ確かに目の前のクシルとかいう男はガタイもよくて顔もイケメンの部類に入るだろう。
「なんだと?お前は少し顔がいいからってバカにすんじゃねーよ」
バルトはガタンと立ち上がりクシルの胸元を掴んだ。
「なんだこの手は離せよ」
クシルもちょっとキレ気味だ。
「あの、落ち着いてください」
「うるせぇ、黙ってろ!」
「あ、はいすみませんでした」
俺は二人に怒鳴られ為すすべもなく大人しくた。
「黙るのはあんたらだよ」
ごつんと二人の頭を殴りヴェロニカさんが怒鳴った。
「すみませんでした」
「よろしい」
こんな屈強な男達を一撃で黙らせるなんてヴェロニカさんは凄いな……
「ユウトって言ったか?お前もヴェロニカをおこらせるなよ?」
クシルがそう俺に忠告した。
「ええ、もちろん分かってます」
あんなの見れば誰だって分かる。
「なんか言ったか?」
「いえ、別に!」
俺とクシルは同時に否定した。
するとバルトがもう一人危険な奴がいると俺に忠告してきた。
「マルクっていう奴がいるんだけどよ、まぁマリーの兄貴なんだがマリーの事になると見境いないからな気をつけろよ?」
「どういうことですか?」
「この前マリーをナンパした奴がいたみたいなんだけどよマルクにそれがバレて九分九厘殺しにされたって噂だ」
なにそれほぼ死んでんじゃん……。
「いや、でも俺マリーになにもしてませんよ?」
「いや関係ないね、親しげにしてる男達は皆敵だと思ってるぜあいつはよ」
「クシルさんまで……」
「まあバレないうちにここから出て行くことを俺は勧めるぜ?」
そんなに危ない人がいるのか?まじで出て行った方がいいのか?
「どうやら遅かったらしい」
クシルがそう言いながら見つめる先に凄い形相の男がそこに立っていた。
雰囲気から察するに先程話していたマルクという人物だろう、ただマリーと違って髪の色は金髪の長髪で後ろ髪を結んでいた。
「あちゃー、なんとういうかご愁傷様」
え、なに?俺死ぬの?
「貴様か、我が愛しのマリーと親しげに食事をしていたというのは」
「ええ確かにそうですけどあれはその」
「そうか」
俺が言い切る前にマルクは構えた。
「なら自決するか殺されるか好きな方を選べ」
それどっちも死ぬじゃん
「自決しないのであれば俺が直々に殺してやろう。慈悲はない!」
瞬間、目の前からマルクは消えており俺の頭上に拳を振りかざしたマルクがいた。