現状を見て明日を見ず
俺は森の中で知り合った女の子のおかげでどうにか町に辿り着くことが出来た。
「ありがとうな、君のおかげで助かったよ。そういえばまだ自己紹介してなかったな、俺の名前は氷室悠人だよろしくな」
「私はマリーという、よろしくなユウト」
マリーはそう言って手を差し出す。
俺もそれに合わせて手を差し出し握手を交わす。
「ところでユウト、貴様何かあてでもあるのか?」
「実を言うと何もわからないことだらけだ」
その時俺の腹がぐぅっと大きい音を立てた。
「なんだ、腹も減っているのか?仕方がないなこれも何かの縁だご馳走してやろう」
「まじですか!本当にありがとうな」
ああ、マリーが女神に見える……。
町の中はいかにもファンタジーって感じの町だった。
歩いている人の中にはマリーと同じように鎧を身につけている人もいれば魔術師っぽいローブを着た人もいる。
街並みは前にテレビで見たことのある確かチェコかなんかの世界遺産の街と似たような感じだ。
町もなんだか活気に溢れている、本当に魔王なんているのだろうか。
しばらくマリーと町を歩いていくとマリーの行きつけの店だという場所についた。
「ここのオムレツは最高だぞ、ぜひ食べてみるといい」
この世界にもオムレツなんかあるんだな、食べ物に関しては向こうの世界とあまり変わらないのかもな。
「それじゃあオムレツにするよ」
俺たち二人は席に着くとオムレツを注文した。
えーっと他にはどんなのがあったんだろう。
ちょっと気になりメニューをみると驚愕した。
「日本語じゃない……」
言葉は日本語なのに文字は違うのか?
「日本語とはなんだ?まさか文字が読めないのか?」
「そのまさかです……」
「一応この文字は世界共通のはずなんだが……」
マリーは考え込んでしまった。
よくわかんないけど変に疑われそうで怖いな……。
「いやー、結構遠い田舎から来たから世界共通文字も使われていなかったのかなー」
「いや、それはないだろう」
俺の適当すぎる言い訳をマリーはばっさりと切り捨てた。
ちょうどその時オムレツが出来上がったらしく俺たちのテーブルに運ばれてきた。
「おや?マリーちゃんじゃないか。また人助けか?それとも彼氏さん?」
オムレツを持ってきたウェイターがニヤニヤしながらマリーをからかいだした。
「……」
だがマリーはまだ考え込んでいるのか全く気付いていないようだった。
「やれやれ、考え事してると周りがみえなくなるのは相変わらずだな」
ウェイターはやれやれといった仕草で持ち場に戻っていった。
「……」
「……あのー……」
「……」
「マリー?」
「……」
全然反応がない。
それなら耳元で言ってみるか。
「おーい、聞こえてるかー」
「のわぁぁ! びっくりするではないか」
マリーはよほど驚いたらしく少し体がビクッとはねた。
俺もそれに驚きビクッとしてしまった。
「ごめんな、ただ全然返事しないし。もうオムレツきてるぞ?」
「ああ、そうだったのかすまない。では頂くとしよう」
うん、うまい。なんだこのオムレツは。
手が止まらない。
マリーの方をみるとマリーもオムレツを夢中で食べていた。
笑顔で食べてるマリーをみると年相応な感じがした。よほどここのオムレツが好きなんだな。
「いやー結構うまかったよ」
「だろう?」
俺たちは短い時間でオムレツを軽くてたいらげてしまった。
「では、今後についてだが……私と一緒に宿にこないか?」
「え?それって?」
なにこれもしかしてマリーの部屋でお泊りって事?
いやいや落ち着け俺、そんな訳ない。今までの経験を思い出せそんな事あったか?いや、ない!
「もちろん部屋は別々だがな」
「あ、ああ。大丈夫分かってるよ……」
わかっていたさ、ただ少し期待してたのか思いのほかショックだった。
「でもなんで宿に誘ってくれるんだ?」
「ユウト、自分の状況わかってないのか?」
「状況?」
「装備もなければきっと金もないんだろう?さらに文字も読めずにここら辺の知識までない、この後どうする気だった?」
言われてみれば確かに。
指摘されて始めて自分の今の状況を理解した。
ボアロックの遭遇から生還したという実感だけでなんとかなったと勘違いしていた。
むしろ大変なのはここからだろ。
金もないしスマホもない、まさしくマリーの言う通りだった。
「それで?ついてくるのか?」
「お願いします」
俺は頭を下げてマリーにお願いした。
その後俺たちは店を出てマリーが住んでいるという宿に向かった。