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摩天図書館

作者: 文代 呉波

 空はありませんでした。ただ白い空間の下に、巨大な書架が、きれいに整列されていました。

 私は書架の上に立っていました。上を見ても下を見ても、淡い白の光が差し込んで、壁のようなものは一切見当たりませんでした。ベージュ色の書架がどこまでも並んでいました。

 私は自分の手を見ました。左右対称な紋様がはっきり見て取れました。外に出かけるときの服を着て、靴も履いていました。体温は感じず、気温もちょうどいいと感じました。体には傷一つついていないようです。

 平坦な風景に飽きたので、私は歩くことにしました。隣の書架に、ふわり、飛び移りました。普段は跳べないような幅なのですが、重力のおかげか、軽々と渡れてしまいました。その感覚が心地よくて、何度も何度も跳んだり走ったりしました。

 いくら経ったでしょうか、ふいに視線の奥のほうに、これまで見た色とは違う、列から外れた塊が見えました。そちらの方に行くと、それが本の階段のようなものであると分かりました。それは、一見するときれいに段になっているように見えましたが、大きさも厚さもバラバラな本が縦や横に並んで積まれているようでした。

 私には、その本の一つ一つに見覚えがありました。小さいころ夢中になって何度も読んだ絵本、学校で一時期ブームになった小説、毎晩少しずつ読み進めた小さな文庫本、私が読んだことのある本が積み重なっているようでした。

 一番上にあった指ほどの厚さの漫画を手に取って読んでみました。ページをめくる度に、真っ白な紙にインクが浮かび上がってきて、それと同時に、今自分の部屋のベッドに寝転がって読んでいるかのような感覚に襲われます。私はその巻をあっという間に読み終えてしまいました。

 階段の下をよく見ても、やはり底はなく、ただ薄く霧がかるような白色だけが見えます。底がないという恐怖と共に、今までこれほどの本を読んできたのだという達成感が芽生えました。そして、この本の階段はどこまで続いているのだろうと思いました。

 私は靴を脱いで、本の階段に、一歩目を置きました。不思議と本は崩れず、無事に置くことができました。しかし、両足を乗せようとしてバランスを崩してしまいます。そのままいくらかの本と一緒に、下へ下へ、転がり落ちてしまいました。

 気付くと、私は白く冷たい床の上に寝転んでいました。周りにはいくつか本が散らばっていましたが、目の前の本の階段は強く立っていました。元いた上の方は、やはり見えません。ただ霧があるだけです。

 私は階段に空間があることに気付きました。ここを離れてどこかへ行こうかとも考えたのですが、空間を形作っている本を取ったら、階段は崩れて無くなってしまうのだろうかと思い、そっと大きな美術作品の資料集を抜き取りました。いとも簡単に抜けたのですが、ドミノのように、少しずつ、ばさり、本が落ちていきました。そして、数メートル上の部分で崩れるのが止まりました。なんだか残念に思いました。しかし、本の階段がこちらに近づいているように感じたときにはもう、本が私に降りかかり始めていました。そのまま私は、本の山となったものに埋もれていきました。


 太陽の光が差し込んでいます。白い部屋に、天井につけられたカーテンが白いベッドを囲んでいます。少女は起きました。頭に包帯が巻かれているのが分かりました。

 少女は少しの間考えました。そして、ここが病室であることを思い出せました。自分の名前は思い出せませんでした。

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