高圧的な態度は、いつだって身を滅ぼす。
「そうか。まあ頑張ってくれ」
「話を聞いていた? 貴方も協力するのよ」
・・・面倒な事になったな。
正直、誰かに代わってもらいたい所だ。疑似とはいえ交際なんて、冗談じゃない。だが断ればその後が悪くなりそうだし、一応了承しておくか。どうせイーデアリスの事だ。きっとどこかで俺に幻滅して、自然消滅するだろう。
「分かった。出来る限り頑張る」
「その意気よ。私も早く『恋』という感情を理解できるよう頑張るから、貴方も出来る限りの事はしなさい」
「分かった」
まあいいか。俺の目的には支障ないし。
その時、俺の携帯電話が鳴った。
「と、悪い。電話だ」
旧式の携帯電話を取り出す俺を見て、イーデアリスが哀れむような目を向ける。
「倉根くん、今はチップ型携帯電話の時代よ。そんな30年も前に廃れたスマートフォンとかいうの、もう古いわよ」
「チップはどうにも使いにくくてな。こっちの方が楽だし、形状も格好いいからこっちで充分だ」
言いながら俺は電話に出る。番号が非通知のため、電話に出るまで誰か分からない。
「もしもし」
『向井原だ。リットンから伝言だ。後はこちらで殲滅しておくので、お前とイーデアリスはもう帰っていいらしいぞ』
「分かった。わざわざ教えてくれてありがとうな」
俺は淡々というと、電話を切った。イーデアリスが、俺の携帯を除きこんで来る。
「今の電話は誰から?」
「向井原。近くに嵯峨村とリットンもいるってよ。用件は先に帰っても可。それだけだ」
「そう。じゃあ帰りましょうか、倉根くん」
イーデアリスが踵を返す。その声色には凛とした物がある。優等生キャラ好きにはたまらないだろうが、俺は全く萌えない。
「そうだな」
まあ今そんな事はどうでもいい。今はさっさと帰って寝ることが先決だ。
俺達は戦場を跡にした。
朝、目覚ましの音にイラっとしながらも、何とか起きる。自分で付けたにも関わらず怒るのは理不尽極まりないが、気持ちよく寝ているのを叩き起こされるのは正直言って不快だ。
朝食を食べて制服に着替え、学校に行く。ホームルームまでの時間を寝てすごし、ホームルームを適当に聞き流す。
授業の内容を最低限頭に叩き込み、昼食を1人で食べる。午後の授業を眠気を抑えながら聞き、早く授業終わらないかなと思いながら過ごす。
友達が居ない事を除けば、典型的な高校生活だ。
放課後、隣のクラスに行く。彼女(仮)と一緒に帰る約束(強制)をしているからな。
ああ、そうだ。ここで読者の皆さんに問題を出そう。
Q.イーデアリスは、俺だけでなく誰に対しても同じあの高圧的な態度で話します。さて、そんな彼女に友達が出来るでしょうか?
A.出来るわけがない。
イーデアリスは学校ではいつも1人だ。昔はいじめにも遭っていたらしい。とはいっても能力のおかげで何かを盗まれたら産み出す、暴力を振るわれたら見えないようにやり返す、といった感じで切り抜けて来たので、あまり不自由はなかったようだが。
だが、だからといって彼女に対する負の感情が消えた訳ではない。結果、イーデアリスは『調子のっててムカつくが、なんか怖いから手を出さない』立場に落ち着いたらしく、今ではクラス中から無視されている。また本人もそれを知ってか、積極的にクラスメイトに話しかけようとはしない。一番親しい男子が俺だという話も、あながち間違いではないのだ。
案の定、イーデアリスは1人ポツンと座っていた。ホームルームが終わっているのに、動かない。何故かは分からない。
「おい、イーデアリス」
俺は彼女の名前を呼んだ。すると教室に残っていた数人の女子が意外そうな顔で俺を見た。イーデアリスに話し掛ける人間がいる事に驚いている様子だ。だがすぐに『誰だっけアイツ?』という顔になる。影の薄さが役に立つこともあるものだ。
「一緒に帰るんだろ。行くぞ」
瞬間、クラス中にどよめきが走った。・・・イーデアリス、どんだけ嫌われてるんだよ。
「そうね。行きましょう倉根くん」
そこで、ようやくイーデアリスが立ち上がる。そして、俺の横を通りすぎ、教室を出る。俺もすぐに、その後を追う。
「相変わらず、見事な嫌われっぷりだな」
「劣等な種族と馴れ合うのを拒んでいたら、自然とこうなっただけよ」
劣等な種族、か。
確かに、イーデアリスから見たらただの人間など劣等な種族なのかもしれない。・・・まあ、イーデアリスが強すぎるだけなんだけどな。
「そういえば、今日は修学旅行費の回収締切日だったけど、ちゃんと提出したか?」
「当たり前でしょう。もし仮になくしたとしても能力で産み出せばいいのだから、どう足掻いても提出できるわ」
そんな事に、神級異能を無駄遣いするな。
とは言えず、けれども他に共通の話題のない俺は、仕方なく修学旅行費の話を続ける。
「修学旅行費の話で思い出したんだが、生徒達から集めたあの金、いったいどうやって保管してるんだろうな」
よく金庫に入れる、などと聞いたことがあるが、本当の所は誰にも分からない。それに最近はヘルズのような泥棒が現れたりと何かと物騒だ。だから、学校はどんな対策を取っているのか知りたい。
「ああ、それなら知ってるわよ。昔先生から聞いたことがあるわ」
マジかよ。さすが優等生。先生からの信頼だけは厚い女。
イーデアリスはとんでもない優等生だ。定期テスト全教科毎回100点、小テストも常に満点(ちなみに俺は、定期テスト全教科毎回70点だ)。教科書の内容を頭に全てインプットしたらしく、恐らくいま現国の教科書のp73の3行目を聞いても答えられるだろう。ちなみに今のページに特に意味はない。
閑話休題。
とにかく、イーデアリスは先生からの信頼は厚い。修学旅行費の保管方法くらい、聞けば教えてもらえるのだろう。
「まず各クラスの学級委員がクラスごとに修学旅行費を集めるわ。そしてその日の放課後に、集めたお金を担任の先生に渡す。そしてそれを受け取った先生は、そのお金を4重セキュリティのかかった金庫の中に入れるわ。そうしたら後はそれを業者に渡すだけ」
「そうなのか」
セキュリティが発達したこのご時世、4重セキュリティなど珍しくない。イギリスのシェルマンジェ宮殿には、172個のセキュリティが侵入者を待ち構えているらしい。それに比べれば、4重セキュリティなど可愛いものだろう。
「そりゃまた面倒くさい事で・・・あ」
イーデアリスが俺を見る。
「どうしたのかしら、倉根くん」
不思議そうな声で聞くイーデアリスの目の前に、俺はポケットの中に入っていた物を見せる。それは紛れもない、修学旅行費の入った封筒だった。
「今から出してくる。この時間だと、確か先生だったな」
「ええ、そうよ。ただし私は3分しか待つ気がないから、職員室に誰も居なかったら勝手に机の上にでも置いておきなさい」
「さすがにそれはないだろ」
否定しながら、職員室に向かって走る。まあさすがに、誰かは居るだろう。保険とか、週番の先生くらいーーーーーーー
「・・・嘘だろ」
職員室には、誰もいなかった。
次の日も、昨日のローテーション。
そう思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
必要だと思われる情報のみを聞き、あとは全て聞き流すべき、朝のホームルーム。
そこで、担任が深刻な顔で教壇に立った。
「えー、今日は皆に大変な報せがある」
担任はそこで言葉を切ると、次の一言を重苦しく続けた。
「皆の修学旅行費が、盗まれた」
・・・・・・おいおい。
マジかよ。
次回は10月4日更新予定です。




