青春とは実は残酷な物であり、決して『甘酸っぱい』物ではない。
4章開始です。
今回は、主役が違う、いわば番外編のような感じです。
主役、観点、考え方の違いを、お楽しみ下さい。
青春とは、残酷だ。
青春においてよく『甘酸っぱい』という言葉を聞くが、実際にはそうではない。実際、告白して振られた時なんか『甘酸っぱい』程度じゃ済まないと思うし、学生時代に恋愛で酷い目に遭うと、そのまま社会復帰できなくなる危険性もある。『甘酸っぱい』どころか、ただの『毒』だ。というか、そもそも恋愛に味などあるのだろうか。甚だ疑問である。
「好きです。付き合ってください!」
そんな声を聴きながら、俺は静かに考えていた。
もちろん相手は俺ではない。俺のクラスで一番女子にモテている男子だ。俺はたまたまその現場に居合わせただけ。水でも飲んで帰ろうと思ったら、たまたま校舎の角から覗き見る形になってしまった、哀れな被害者だ。
「ごめんなさい。無理です」
男子が頭を下げて、断った。そして、気まずそうに女子をチラリと見た後、踵を返して走り去っていく。残された女子は、泣きながら崩れ落ちている。・・・・・おいおい、アレのどこが『甘酸っぱい』だよ。完全に『苦い』じゃないか。『失恋は、いい経験になる』とはよく言ったものだ。あれが経験になるなら、飲酒運転もきっといい経験になるだろう。
「まあ、俺には関係ないか」
そう、俺には全く関係ない。何故なら俺はこの場にたまたま居合わせた哀れな被害者であり、今の告白もその結果も、どちらも俺には全くもって関係のない物だからだ。
「さて、帰るか」
独り言を呟いて、踵を返す。あの女子に多少心が痛まないでもないが、どうせ話したこともないような女子だ。それに、そんな事にいちいち気を使っているほど、俺は寛容な心の持ち主ではない。
「ちょっと、倉根くん」
誰かが俺の名字を読んだ。その声色と態度からして、大体検討は付く。というか、この学校で俺に個人的な用があって話かけてくる人間など、教師を除けば数人しかいない。
「何だよ、イーデアリス」
俺は面倒くさそうに振り返る。するとそこには、西洋人形かと思うような、金髪碧眼の美少女が立っていた。手には日傘。まるでどこかのお嬢様と言った感じだ。
「何だとは失礼ね。また告白現場を見に行ったの」
・・・・発言も、お嬢様キャラの例に漏れず、高圧的な口調だった。
「またとは何だ。別に俺は告白現場を見に行ってるわけじゃない。たまたま、告白現場に遭遇するんだ」
そう、別に俺は告白現場探しにうろついているわけではない。たまたま、本当にたまたま、告白現場に遭遇してしまうだけだ。そうでなければ、この友達0の俺が、わざわざ告白現場に行く意味がない。
俺の反論に、イーデアリスは肩をすくめた。
「馬鹿ね。そんな物、貴方の能力1つでどうにでもなるじゃない。貴方の《反響把握》は、いったい何のために付いているの?」
「少なくとも、告白現場を回避するためじゃないと思うぞ」
そうだ、俺の自己紹介を忘れていた。まあイーデアリスが《反響把握》と言った時点で、大半の読者はピンと来たことだろう。
俺は『聴覚』。皆さんもご存じ厨二病怪盗に先日潰された組織『血まみれの指』のメンバーだ。一応この学校では『倉根』という偽名で通っている。なんでも『根暗』という言葉を裏返して名付けたらしい(別に事実だから、大して気にしていない)。名前の方は――――忘れた。まあそのうち誰かが呼んでくれるだろう。
「で、学校一の美少女様が、こんな根暗で皮肉屋でボッチで存在感ゼロの俺の所にどのようなご用件でしょうか?」
「貴方、よくそこまで自分の悪口言えるわね・・・・・」
イーデアリスは若干引いている。けどまあ、俺にしてみれば事実を口に出して述べただけなので、痛くも痒くもない。むしろ、あまりに自分を卑下しすぎて、得意技に『自分の悪いところを上げること』が入ってしまうくらいには得意になった。
「で、何の用だ? 悪いが、俺はお前が思っているほど暇じゃない」
本当は滅茶苦茶暇だが、この女にそんな事を言った所で俺のメリットは1つもない。
「『名も無き調査団』に集合がかかったわ」
うわ、面倒なのが来た。
『名も無き調査団』。
俺の所属している組織だ(『血まみれの指』は、あくまで副業のような物)。『最強の犯罪者』の懐刀の組織であり、一言で言うと強い。なんで俺みたいな弱小キャラが居るのか、本当に疑問に思うくらい強い。
この組織の主な活動は、『世界の治安維持』。まあ治安維持と称してテロ組織をアジトごと消し飛ばしたり、戦争を止めるために周りの国ごと吹き飛ばすのが、『治安維持』というかは甚だ疑問ではあるが。
まあとにかく、そんな物騒な組織に集合がかかったのだ。行かなければ、次の標的は俺かもしれない。いくら人間的価値ゼロの俺でも、サボったのを裏切ったと勘違いされて殺されたくない。
「じゃあ、行くか」
イーデアリスと一緒に、俺はアジトに向かった。
ここから15分ほど歩いた、旧校舎の体育館倉庫。
・・・・・の中にある、謎の扉。
そこに、『名も無き調査団』のアジトへと続く扉がある。異空間と異空間が繋がっているというのだから驚きだ。まったく、今の科学技術は凄い。まあ、最も凄いのは、これを作ったイーデアリスだが。
「こちらイーデアリス。ただいまサボり魔倉根くんを連れて来ました」
「誰がサボり魔だよ。一応毎日出席はしてるぞ」
それは学校とこの組織の両方に言えることだ。
「よお倉根。彼女と一緒に登場とは、随分なモンだな」
ソファに寝そべっていた男が手を上げ、俺に挨拶してくる。俺も最小限の手の動きでそれに応える。
「彼女じゃない。こいつは俺みたいな凡夫とは絶対釣り合わないからな」
向井原岳斗。
『名も無き調査団』の一員にして、自衛隊特殊部隊の副隊長だ(本当は『特殊作戦群』と言うらしいが、俺のような一般市民にとっては『特殊部隊』の方が分かりやすい。よって、以降も特殊部隊と呼ぶ)。熱くなる性格のため、正直任務以外であまり関わりたくない。
「おう来たか。かかっ、待ちわびたぜ」
今度は視界の左端から声がする。隣にいるイーデアリスに聞こえないようにため息を吐きながらそちらを向くと、そこにはオジサンとチェスをやっている金髪の少年の姿があった。
嵳峩村しずく。
こちらも向井原同様、『名も無き調査団』の一員だ。現在は隣町の高校に通っており、俺達と同じ2年生。そして――――――厨二病だ。それも、某引きこもり怪盗と張り合えるくらいに。はっきり言って、こいつも関わりたくない人間の1人だ。
「おや倉根くん、お帰り。待っていたよ」
・・・・どうして皆、俺の事を偽名で、しかも名字で呼ぶのだろうか。まあいい。この人は真面目な人だからな。俺は嵳峩村とチェスをやっていたオジサンを見た。
アーマード・リットン。
『名も無き調査団』のボスであり、『最強の犯罪者』の側近でもある。主に情報収集を担当しているためしょっちゅう居なくなることがあるが、今日は居たようである。
そして、おそらく『名も無き調査団』の名付け親だと思われる。理由は、『リットン』という名前と、『調査団』という単語で察してほしい。
「他のメンバーは?」
「他の奴らは皆、別の任務に出てていないよ。今日の任務は、ここに居る我々だけで行う。――――あ、もちろん倉根くんにも働いてもらうからね」
「そうですか」
チッ。
俺の能力は非戦闘系だから、上手くいけばサボれると思ったんだけどな。残念。
「まあ、イーデアリスが居れば無敵か」
そう言って俺はイーデアリスを見る。そう、こいつが居れば、もう勝負は着いたようなものだ。
ああ、1つ言い忘れていた。
ここに居る、というか『名も無き調査団』全員、改造によって能力を手に入れた、異能力者だ。
次回は9月27日更新予定です。




