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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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エピローグ② お前はどちらを選ぶ?

9月21日の投稿が無く、申し訳ございませんでした。

 風邪で倒れてました。

 そこは、既に魔窟と化していた。


 部屋には大量のスナック菓子の袋、床にはプリント類がまき散らされ、足の踏み場もない。さらに、部屋の主はそれら一切を意に介さず、呑気にネトゲをやっている。


 そんな三次元の奈落のような場所に、願わくば行きたくない。だが、行かざるを得ない理由があるから仕方がない。願わくばここに出向くのは今日で最後になりますように、と割と本気で願いながら、姫香は合鍵を使ってドアを開ける。すると案の定、ドアを開けた風圧によって、プリントが飛んできた。しかも凄い事にそれは、三者面談と授業参観の紙だった。


「ええ・・・・・・」


 本来、重要書類であろうその紙が飛んできたことに姫香は閉口しながら、玄関をくぐる。プリントとごみ袋でほとんど埋まっている玄関でどうにか靴を脱ぎ、部屋に入る。途中、プリント吹雪やカップラーメンの罠があったが、何とか切り抜ける。前回来たときよりも、酷くなったと感じる。


 いろいろあってリビングに着くと、部屋の主はヘッドホンを装着して、パソコンでゲームをやっていた。しかもパッと見る限り、恋愛シミュレーションゲームだ。・・・なんかもう、人として終わっている気がする。


「ヘルズさん、ちょっといいですか」


 買ってきたカップラーメンやスナック菓子(ヘルズ曰く、兵糧)を机の上に置きながら、姫香は声を掛ける。当然、ヘッドホンをしているのだからヘルズは気が付かない。だが、流石にもう慣れた。姫香は近くにあった果物ナイフを振りかぶりながら、もう1度ヘルズに言う。


「ヘルズさん、ちょっといいですか」


 すると、ヘルズが面倒くさそうにゲームを中断し、振り返る。そしてにこやかな笑顔のまま果物ナイフを構える姫香を見て、慌ててヘッドホンを外す。


「ど、どうした姫香⁉ 何か用か?」


 いくらヘルズでも、殺気を一切出さずに笑顔でナイフを振りかぶる人間は怖いのだろう。伊達に毎朝ヘルズを起こしているわけではない。これくらいの事、今の姫香にとっては朝飯前だ。おびえながら拳闘の構えを取るヘルズに、姫香は果物ナイフをテーブルの上に置き、ため息を吐いた。


「今回の事で、少し聞きたい事があります。よろしいですか?」

「ん? ああ、全然構わないぜ」


 ヘルズがパソコンを閉じて立ち上がる。そして、ポケットから眼帯を装着した。


「で? 聞きたい事ってなんだ?」


 姫香は大きく深呼吸をすると、早口にならないように気を付けながら、話し始める。


「今回、初めてヘルズさんの戦いを見ました。私はアクション系はそこまで好きではありませんが、ヘルズさんの戦いは、見ていてなんだかとても、気持ちが良かったです。まるでアニメの戦いのようにインパクトがあって、それでいて真剣さを感じられる、とても興味深い闘いでした」


 ヘルズが、無言で続きを促してくる。


「でも、そんな闘いを見ている内に思ったんです。それだけの力があるなら、どうしてもっと人々の役に立てようとしないのかなって。そうすればもっと皆の生活も豊かになって、社会にも貢献できるのに―――――」

「社会に貢献して、それが何になる?」


 姫香の言葉を遮って、ヘルズが聞く。


「確かに、俺やニセ教師が本気を出せば、人々の暮らしはより豊かになるだろう。俺達の速度を持ってすれば運送業者や建築業は遥かに楽になるし、裏で得た情報を政府関係者に隠すことなく提供すれば、裏家業を一掃できる。だが、それが何になる?」


「そ、それは、もっと平和な世の中になって・・・・」


「平和な世の中? ハッ、もう十分平和な世の中になってるじゃねえか。医療が進歩して皆長生き出来るようになったし、日本が条約結んだおかげでもう戦争もない。まあ多少いじめや喧嘩はあるかもしれないが、大多数の皆さんがそこに目を瞑れば、充分平和な世の中だって言えるぜ?」


 ヘルズの言葉には、どこか嘲笑うような響きがあった。


「大体、命すら失う覚悟もなく喧嘩したり、集団で群れてるだけで自分は強者なんて勘違いして誰かをいじめたりしてるクズが大多数を占めるような腐った社会で、社会貢献? ハッ、笑わせんな。冗談でもやめてくれ。じゃあ何か? お前は困っている人を見ても『関わりたくないから、放っておこう』って思う事なかれ主義な奴が8割以上を占めるこの世の中を見ても、まだ世の為、人の為に動こうっていうのか? ハッ、馬鹿げてる!」


 姫香は、反論できない。


 なぜなら、ヘルズの言葉は―――――どこまでも正論だからだ。


 困っている人を見て、『助けよう』と思って動く善人がいるのは、紛れもない事実だ。だがその反面、ヘルズが言った現状になっているのも事実だ。


「お前は『人間』という生き物を過大評価しているようだがな、それは半分正解で半分不正解だ。確かに人間は進化し、成長する。物理的にはな! だからこそ人間はここまで成長し、自らの肉体を改造することで新たな力を手に入れ、様々な方法を用いて進化していった。 だが彼らが精神的に進化する事はない! それが人間という生き物なんだからな!」


 ヘルズの片目に一瞬―――――一瞬だが、赤い物が見える。


 血のように赤い、何か。


 それが何かは分からない。ただ、姫香はそれを見た瞬間、身体が硬直したのを感じた。


「ま、こんな逆恨み的な物をお前にぶつけても、意味ねえか」


 ヘルズが詰まらなそうに言い、ソファに腰掛ける。すると、身体の硬直が解ける。急に身体の制御が戻ったことで、姫香はその場に膝を突く。そんな姫香を、ヘルズは退屈そうな目で見ている。


「お前はまだ純粋だからいい。今のお前の立場は『共犯者』。まあ裏社会の法律で言うなら、半分犯罪者ってところだな。つまり、今ならまだ『裏』から抜け出せる。社会に仮初めの希望を感じ、生きられる。だがな、今俺が言ったような社会の『闇』を感じ、失望し、絶望したら裏家業に来い。お前も正真正銘、裏家業の仲間入りだ」


 お前にはまだ選択権がある、とヘルズは言った。


 表の社会か、裏の社会。


 どちらを選ぶかはお前次第だ、と。


 その男は、言ったのだ。齢16歳の少女に。


「・・・・・1つだけ、聞かせてください」


 姫香は立ち上がると、ヘルズの眼をまっすぐに見据えて、聞いた。


「もし私がどちらの道を選んでも、ヘルズさん達は後悔しませんか?」


 もし姫香が表の社会を選べば、『ヘルズ』とはそこでお別れだ。『黒明弐夜』としての彼と過ごすことはできても、もう片方の顔に踏み込むことは、もう出来ない。そして、ヘルズ達にとっては、貴重な仲間を1人、失う事になる。


 ヘルズにとっては仲間を、姫香にとっては『ヘルズ』としての彼を、それぞれ失う結果となる。


「――――――くくっ」


 姫香の問いに、ヘルズは―――――笑った。


「オイオイ姫香、何言ってんだ? 自分の生き方1つ、自分で決められないでこの先どうやって生きていくつもりだよ。なに、別に今すぐ決めろってわけじゃねえ。来たるべき時、お前が決断を迫られる瞬間になった時に、即座に答えられるようにしておけってだけの話だからな。ま、そんな時なんてないのが一番だけどな」


 カカカッ、とヘルズは笑うと、近くにあった一升瓶を手に取った。


「よし、じゃあ真面目(笑)な話も済んだところだし、この新開発の『ドリンクバーのジュースを全部混ぜてその中にアルコール足してみました☆ ~味は保証しないよ~』でも飲んでみるか。いやー、大変だったんだぜ、なにせこれ1本買うのにわざわざ偽造免許証作らなきゃいけなかったしな。てなわけで、飲もうぜ?」


「絶対に嫌です」


 もし仮に自分が裏の社会を選んだとしても、この男とのプライベートの付き合いは最小限の物にしよう。


 姫香は今、はっきりとそう思った。


次回は9月25日更新予定です。

また、今回で3章を完結とさせていただきます。

次回から新章となります。 

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