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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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動き出す裏家業達

『嗅覚』が血を吐き、その体が揺らぐ。だがフラフラとしながらも、その足は倒れたヘルズの元に向かっている。その姿はまるでゾンビのようだ。正直、見ていて気持ちのいいものではない。


「イーデアリス、もう一発頼む」


 少女は頷くと、目を閉じた。すると『嗅覚』の頭上に、数台の廃車が出現した。廃車は重力に従って『嗅覚』に落下していく。


あっという間に、『嗅覚』の居た場所に、廃車のオブジェが出来上がった。それを見ていた老人が少女に聞く。


「なあ、なんで車なんだ?」

「なんとなく」


 少女は素っ気なく答えると、いつの間にか手に持っていたチョコレートを齧った。『聴覚』はしばらく『嗅覚』の最期を見ていたが、やがて眼をそらした。


「これで本当に終わりか。随分と長かったな」


「ああ、この事件はな」


 老人の意味深な言葉に、『聴覚』は眉をひそめた。


「まだ何かあるのか? もう疲れたから、帰って寝ようと思ったんだが。というか俺が居ようといまいと変わりないでしょ。だから――――――」


 ネガティブな言動をしようとする『聴覚』を手で制し、老人が言う。


「関東最強の組織『血まみれの指』が倒されたという情報は、すぐに伝わる。そうすれば、今まで北見方の力を恐れて、冷戦をしていた組織が一斉に動き出す。――――具体的には、関東のナンバー2,3と、関西の暗殺組織だな。そして彼らが全面戦争をすれば、当然一般人にも被害は出る。人間のクズはともかく、何の罪もない人間が無差別に被害を負う事だけは避けねばならない」


 その剣幕に、『聴覚』は言葉を失う。


『最強の犯罪者』は、基本的に善人は狙わない。狙うのは、大した覚悟もないのに悪事に手を染めた者や、他者を嘲笑って生きる者達だ。自分で決めた信念であるからか、1万以上の犯罪に手を染めた『最強の犯罪者』も、その部分だけは1度も破ったことがない。


そもそも、弟子の育成を始めたのも、『こんな無慈悲な社会に無垢な子供たちが蹂躙されるのはあまりにも哀れだから、自分が社会に通用する力を付けてやろう』という思いから始めたのだと噂されている。


「『名も無き調査団』に新たな指示だ。関東組織と関西組織が正面衝突を始める前に、一般人を避難させろ。それが難しいようなら、暗殺組織そのものを潰しても構わん。とにかく、奴ら外道の戦いから、一般人を守れ。いいな?」


「だったらイーデアリス1人で十分じゃん。なおの事俺要らなくね?」


 何が何でも仕事をサボりたい『聴覚』を、老人は静かに見据える。


「お前は《反響把握(エコーロケーション)》を使って、一般人の避難を手伝え。それか組織皆殺しの際、残党が居ないか確認しろ。―――――ああ、別にサボってもいいぞ? この我が輩を敵に回したいのならな」


「はいやりたいですやらせてください」


 とてつもない棒読み口調で、『聴覚』は返事をする。いくら無敵の壁を形成できようと、人間をやめた存在に立ち向かえるほど、『聴覚』は無謀な人物ではない。


「ま、その必要はないと思うんだけど」


 ボソリと呟いた『聴覚』の言葉を、少女が拾う。


「それ、どういう事?」

「言葉通りの意味だよ」


『聴覚』は素っ気なく肩をすくめる。彼はどこかの厨二病怪盗ではないので、二次元クラスの美少女相手でも顔色1つ変えない。そもそも、恋愛感情があるかも定かではない。


 そんな雰囲気を漂わせながら、『聴覚』が呟く。


「あの会場で1人、面白い奴を見つけた。気になったから調べてみたけど、結構驚きの人物だった。組織狩りは多分、そいつがやってくれるよ」


 少女が『聴覚』の前に出現し、その顔を覗き込む。


「その人って?」

「そいつの名前は―――――」







 奈良県最強暗殺組織、『(みなごろし)』にて。


「が! はぁ・・・・・」


『鏖』のボス、奈落(ならく)幾夜(いくよ)は、喀血して床に膝を付いていた。周りには惨殺された仲間の死体が大量に転がっており、床が赤色に染まっている。


「馬鹿な・・・・・俺達の組織が、やられるだと!」


 構成員90人、うち改造人間55人の、関西地方一体を占める暗殺組織。

 そんな無敵を自称していた組織は、一夜にして壊滅の危機を迎えていた。


 構成員の内、78名が死亡。うち15名が重症。助けに来たヤクザも含め、全93名が、被害を被ったという事になる。


「テ、テメエ、何者だ・・・・」


 自分を見下ろしているソレ(・・)に、幾夜は聞いた。


 ソレは、人の形をしていた。顔に縁日で売っているような仮面を被り、手には小型のナイフを一本持って、全身に返り血を余すところなく浴びながら、そこに静かに佇んでいる。



 ソレ一体に、自分たちの組織は壊滅させられたのだ。



 今でも信じられない。もし幾夜が同業者からそんな情報を聞いても、おそらく笑い飛ばすだろう。だが、それが自分の所なら話は別だ。



 11秒。



 それが、敵が侵入してから仲間が78人死ぬのにかかった時間だ。突然の出来事に驚いたのとあふれ出る仲間の鮮血で視界を塞がれ、なすすべもなく蹂躙もされた。それも、サバイバルナイフ一本で。


「ば、化け物・・・・」


 思わず、そんな言葉が口をついて出る。すると、背中に鋭い痛み。どうやらナイフで刺されたらしい。それを知覚した直後、背中のあちこちに、同じような痛みが走る。


「ぐ、ああああああ‼」


 叫び声をあげるも、敵は容赦ない。急に声が小さくなったと思ったら、声帯を切断されていた。さらに背中を蹴られ、血の水たまりの中に顔から突っ込む。


(う、嘘だろ・・・・)


 叫ぶ事も抵抗することも出来ないまま、ここで苦痛を感じながら終わりを迎える。

 そんなのは嫌だ。


「う、わああああああ!」


 残った体力を振り絞り、幾夜は振り返る。幾夜とて改造人間だ。一撃。一撃でも当てれば、それだけで敵の身体をバラバラに引き裂く力くらいは、持ち合わせている。


 振り返りざま、右手の力を解放。右手の指が全て2メートルほどの刃物に変形し、敵に襲い掛かる。


 改造義手『猫の爪』。


 それは猫の手のごとく常に収納されており、有事の際には飛び出して、敵の身体をバラバラに切り刻む。これを不意打ちでくらった者で、生きていた者はいない。流石の敵もこれを食らえば―――――


「ッ!」


 しかし、そこには敵の姿はない。幾夜は驚愕しながらも、辺りを見回す。そして、視界の端に敵の姿を捉える。警戒して飛び退いたのだろうか、運のいいことだ。


(だが、次は外さん!)


 幾夜はそう思いなおすと、敵に向かって一歩踏み出した。ありったけの声を振り絞り、右手を振りかぶる。


「うおおおおおおッ!」


 ―――――それが、幾夜の出した、最後の言葉だった。


「――――――遅い」


 ソレが呟くと同時、幾夜の四肢と首が身体から泣き別れ、床に転がった。ソレは、近くにあった書類で血の付いたナイフを拭うと、窓を開けて飛び出して行った。


 後には、幾夜を含めた計79名の死体と、もう助かる見込みのない15名の負傷者だけが残された。



 ツカ、ツカ、という音が、刑務所の中に響き渡る。


――――刑務所って、いつの時代も変わらないものなんだな。


そんな事を思いながら、男は歩き続ける。ある程度まで歩くと、男は立ち止まった。そして、独房の中を覗き込む。


「こんにちは。復讐屋です。元気かい?」


 男――――復讐屋は、こちらに背を向けていた男に聞く。男はゆっくりとした動作で振り返る。その顔には深い皺が刻まれていた。――――否、皺だけではない。目元には黒々とした隈があり、爪もボロボロ、わずかに露出している腕や脚には、痛々しいミミズ腫れが何十にも浮かんでいた。


 ――――こんな奴が、大手企業の副社長だったとは思えない。


 復讐屋の男は、素直にそう思った。しかしそんな些細な事で仕事を蔑ろにするほど愚かではない。早速本題に入る。


「面会時間も限られてるからな。で、ご用件は?」

「・・・・・この人物を殺してください」


 男が写真のような物を差し出してくる。『ような物』と称したのは、その写真がボロボロのグシャグシャで、なんだかよく分からなかったからだ。よほど恨んでいるのか、顔の部分には赤黒い物がこびり付いている。流石にこれでは分からない。復讐屋の男は頭を掻いた。


「えっと、すみません。これじゃあ誰だか分かりませんね」


「ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング」


 わざわざ言うのも馬鹿馬鹿しくなるような長い名前を、男は滑らかに読み上げる。何度も練習したのだろう、その声に殺意はなく、代わりに冷え冷えとした物があった。


「アイツが、私達の人生を滅茶苦茶にしたんだ。私達の大事な娘を誘拐して、挙句私達に濡れ衣まで着せて、破滅に追い込んだ。おかげで職と娘を失い、人生の終わりだ! お願いします、どうかヘルズを殺して、私達の姫香を取り戻してください!」


 男が縋るように言う。復讐屋の男は頭を掻いた。まさか、敵があのヘルズとは。


「えっと、奥さんはこの事を知っているんですか?」


 すると、男は目を伏せた。


「妻は職を失ったのと姫香が誘拐されたのを聞いて、精神を病んでしまいました。今は病院で入院中で、治る見込みは薄いそうです。お願いします、私達から全てを奪った奴に、しかるべき報いを!」


 復讐屋の男はため息を吐いた。警察が調べた結果、花桐夫妻の虐待は事実、この復讐は逆恨みもいいところなのだが、そんな事を言っていたら商売あがったりだ。


「分かりました。ではこれより本部に戻って作戦会議を行います。なにせ相手はあのヘルズですからね、こちらも綿密な計画を立てないと潰されます。料金は依頼成功後、請求させていただきます。それでは、失礼」


 話を切り上げると、復讐屋の男は一礼してその場を立ち去った。道中、仲間と連絡を取る。


「こちらコードD。今回の作戦、成功すると思うか?」

 

 すると、さほど待たずして返答が返ってくる。


『大丈夫だ。いくら奴が強くても、結局は1人。それに比べて、こちらには優秀な殺し屋が何人もいる。この依頼は成功する。安心しろ』


「そうか。なら大丈夫だな。じゃあな」


 復讐屋の男は通信を切ると、天井を眺めた。薄汚れた石の壁が、男を見返してくる。


「さて、と。どう出る? ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング」


次回は9月19日更新予定です。

ヘルズ陣営VS『血まみれの指』 闘いの結果


・二ノ宮VS『味覚』(罠)・・・・・『味覚』の勝利


・ユル&チャルカVS『味覚』・・・・・・引き分け


・降谷VS『触覚』・・・・・・・・・・・降谷の勝利


・再戦 ユル&チャルカVS『味覚』・・・ユル&チャルカの勝利


・降谷VS『聴覚』・・・・・・・・・・・『聴覚』の勝利


・姫香VS『嗅覚』・・・・・・・・・・・姫香の勝利


・ヘルズVS『視覚』・・・・・・・・・・ヘルズの勝利


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