ヘルズvs降谷
今回はヘルズと降谷が戦います。
学校には五分ほどで着いた。ヘルズが本気で走ればこんな物だ。
(さて、どうするか)
ヘルズの目的はただ一つ。あの鬼畜教師をぶん殴る事だ。当然、授業は受けたくないし教室にも行きたくない。
だがこのまま廊下を歩いていけば巡回中の先生に捕まるだろうし、何より降谷は教室に居る。そんな所に顔を出せば、「とりあえず授業に出ろ。話は昼休みに聞いてやる」とかなんとか言われて強制的に授業に参加させられる。授業に出たら負けだと思っているヘルズにとってそれは死活問題だ。
悩んだ末に、ヘルズは名案を思い付いた。
まず鞄の中から煙玉を数個取り出し、床に叩きつける。煙玉が割れ、煙が廊下に充満する。
ジリリリリリリ、と日常的には味わえない音が鳴り響く。火災報知器が煙を感知したのだ。火災と勘違いしたスプリンクラーが、床を水浸しにする。それと同時、生徒達が教室から飛び出してきた。彼らは火事ではないと分かっていても、構わず校庭を目指す。スプリンクラーで濡れたくないのだ。ヘルズは近くにあった教室に隠れ、生徒が全員出るのを待つ。
スプリンクラーが床を濡らす音以外、何も聞こえなくなった事を確認し、ヘルズは教室から出て廊下を歩く。まず自分のクラスを確認する。教室内は無人だった。かなりずぶ濡れになっており、掲示物の三割が破れたり、剥がれたりしている。少しやり過ぎたとヘルズは反省する。
「さて、次は屋上だな」
職員室という可能性もあるが、他の先生が居る可能性がゼロではないため、先に屋上に向かう事にする。
屋上の鍵をピッキングし、ドアを開ける。ヘルズが屋上に出ると、楽しそうな声が聞こえた。
「思ったよりも速かったな。どうしてここだと分かった?」
降谷の声だ。屋上の柵に寄りかかり、ニヤニヤ笑いながらヘルズを見ていた。
「火事だっていうのに高い所に居る馬鹿は、俺かお前しか居ないからな」
ヘルズも憎まれ口で返す。鞄の中に手を入れ、中にある道具を左右のポケットの中に入れる。
「何が狙いだ?オレを殴る事か?」
「話が早くて助かるぜ」
言うが早いか、ヘルズは降谷に突進した。つま先が床すれすれを動き、床に黒い擦過痕を残す。突っ込んで来たヘルズを、降谷は悠々と躱す。突進が躱された瞬間、ヘルズは身体を捻り回し蹴りを放つ。降谷はそれを片手でガードし、後ろに跳ぶ。
「やるじゃねえか、駄目教師。てっきり連日の授業でなまってるのかと思ったぜ」
「お前が弱いだけだ。オレは変わらねえよ」
ヘルズが再度、降谷に突進する。降谷は横に跳び、ヘルズの胴体に蹴りを喰らわせた。ヘルズの身体が柵に叩きつけられる。降谷がバックステップで距離を取り、腰を落とす。
ヘルズは柵を掴んで立ち上がると、降谷に向かって赤いボールを投げ、自分は耳を塞いだ。降谷が驚いて耳を塞いだ瞬間、悪戯専用音爆弾が爆発する。凄まじい音が響き渡り、鼓膜を叩く。この道具は、耳を塞いでいても凄まじい威力だ。
降谷より一瞬早くヘルズが耳から手を離し、降谷に肉薄する。距離を取ろうとした降谷の足を払い、顔面にストレートを叩きこむ―――寸前で降谷の手が動き、眼前に迫っていたヘルズの腕を掴む。転びそうになった身体を空いた片手で支え、降谷が下半身を回転させた。
降谷の足が鞭のようにヘルズを襲う。ヘルズは掴まれた腕を振り片手の自由を取り戻すと、バク転で降谷の足を避ける。そして降谷が立ち上がろうとしたタイミングを狙って、煙玉を投げつけた。煙で降谷の視界が遮られる。降谷が気配を探ろうと目を閉じた瞬間、煙の中に飛び込みその顔に回し蹴りを放つ。間一髪で降谷はその攻撃を躱すが、続く右ストレートを避けきれない。
―――取った!
ヘルズがそう思った瞬間、降谷がその腕を掴んだ。そのまま支えを失ったかのように仰向けに倒れる―――刹那、脚を伸ばしヘルズを巴投げの要領で吹き飛ばす。ヘルズの身体が宙を舞い、ろくに受け身も取れずに床に落下した。
「くそっ!」
「オレの勝ちだな」
降谷の勝ち誇った声が聞こえる。ヘルズは立ち上がると、服に付いたホコリを払った。
「第二ラウンドは?」
「無理だな。そろそろ生徒達が教室に戻って来るころだ。オレも戻らないといけない」
「そうか」
ヘルズは感情の無い声で言うと、降谷に背を向けた。
「じゃあ、俺は調査に行くわ。クラスの男子達の誤解を解くのはまた今度だ」
「そうかよ。そうだヘルズ、頼まれた事はやっておいた。二時間が限度だから、効率よく調べて来いよ」
「分かってる。お前こそちゃんとやれよ、ニセ教師」
ヘルズがポケットからインカムを出し、降谷に投げる。降谷がインカムに気を取られている間に、屋上から飛び降りた。
飛び降りながら白いボールを下に向かって投げ、即席の蜘蛛の巣で衝撃を相殺する。
「くくっ」
ヘルズは嗤うと、左手で顔を隠しながら言った。
「さあ、調査の時間だ。この漆黒の眼光を欺けると思うなよ」
以上です。短くて申し訳ございません。