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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
84/302

彼の正体はーーーー

 さあ、今回は伏線を回収します!

「あ、あの、連れの人が――――」


「あんな奴の事は放っとけ」


 急に、男の口調が怖くなる。ただならぬ恐怖を感じて姫香は逃げようとするが、男の手が腰を掴んで離さない。


「は、離してください! さもないと、叫びますよ」


 強がるように、姫香は言った。すると予想もしなかった返答が来た。


「叫びたきゃ叫べ。だが1つ忠告してやる、お前は大きな勘違いをしている」


「勘違い?」


 オウム返しに聞き返す姫香を無視して、男は曲に合わせて踊る。テンポよく足がステップを刻み、姫香の体をコマのように回す。


「ひゃ、ひゃあああああ!」


 だがこれが正しいのだろう。現に、他の客も同じような事をしていた。目を回しかけている姫香の耳元に、男は囁く。


「まあいいさ。どうせすぐに分かることだ。そう、すぐにな」


 その時、曲が終わった。男はそれを知るや否や、人混みに紛れて姿を消した。


「いったい、今のは・・・・・」


 男の言葉が、頭にこびりついて離れない。姫香が考えていると、人混みを掻き分けてヘルズが出てきた。


「おっ、ようやく見つけた。次で最後の曲らしいし、最高に華麗に決めて終わろうぜ。ちょうど花火の場所取りをしに行く奴らのおかげで、少しすいたしさ」


 周りを見回すと、確かに客の数が激減していた。どうやら、屋上の場所取りに向かったらしい。


「じゃあ、最後の一曲、踊ろうか」


「は、はい」


 曲が流れだし、2人はそれに合わせて踊る。途中まで行ったところで、ヘルズは姫香の腰を回して、背中を壁に押し付けた。


「姫香、ちょっといいか?」


「え、え⁉」


 突然のことに、理解が追いつかない。姫香が混乱していると、ヘルズが壁にドン、と手を着いた。世に言う『壁ドン』という物である。自分には一生訪れないであろう状況だと思っていただけあって、その驚きも尋常なものではない。


「一目見たときから、お前に惚れていた」


「ふえっ⁉」


 ヘルズの衝撃的な告白に、姫香の顔が真っ赤になる。そんな姫香を見て楽しそうに笑いながら、ヘルズは続ける。


「ずっと、好きだった。愛してる」


「ふぇっ! え、え、え、え・・・・・」


 脳が理解を拒んでいる。いや違う、脳がショートしたのだ。何も考えられない。3秒に1回、視界が真っ白になる。心臓の鼓動が大きくなり、ヘルズにも聞こえてしまいそうだ。それを考えるとますます顔が赤くなる。そんな姫香の反応を見て、ヘルズが心配そうな顔をする。


「おい、大丈夫か」


「だ、大丈夫ですぅ・・・・」


「そうか。なら良かった」


 姫香の言葉を聞いてヘルズはニッコリと笑うと、姫香に顔を近づけてきた。その動作がなにを意味しているのか、恋愛に詳しくない姫香でも分かる。


「え、え、え、え」


 言語能力を失ったかのように、言葉が上手く発せられない。ヘルズはそんな姫香の反応を楽しむかのように、ゆっくりと顔を近づけてきた。


(う、嘘・・・・こんな所で、この状況で? そ、それに、好きだなんて―――――)


 思考が空白になる。ヘルズの顔が近づいてくる。

 2人の鼻が触れ合う――――寸前、唐突にヘルズが顔を引いた。


「うん。これで十分かな」


「?」


 首を傾げた姫香の耳に、聞きなれた、怒気の籠った男の声が聞こえてきた。


「《獣王(キングダム)――――》」


 怒りに震える声と共に、何者かが飛び込んできた。ヘルズはそれを見ると、真横に飛び退いた。


「《無塵(フラッド)》!」


 直後、1秒前までヘルズが居た場所に、クレーターができる。遅れてきた風圧が四方八方に吹き荒れ、姫香の髪を弄ぶ。


そんな事をした人物は――――


「貴方は、さっきの⁉」


 そう、その人物は先ほど姫香が一緒に踊った、あの男である。男は目に殺意を迸らせ、ヘルズを睨んでいる。


「テメエ、よくもやってくれたな」


 すると、ヘルズは肩をすくめた。


「こうしないと、貴方が出てきてくれないと思いまして。それに、僕の仲間を皆殺しにしたのは、貴方達でしょう?」


 姫香は目を見開いた。この声は――――


「ヘルズさんじゃ、ない⁉」


 姫香の驚きに、男はため息を吐いた。


「アホ。本物はこっちだ」


 そして自分の顔を右手で撫でる。すると変装道具が男の顔から剥がれ落ち、男の本当の顔が現れた。丹精な顔立ちに、目の下の色濃い隈。その顔には、見覚えがある。


「ヘルズさん!」


 姫香の黄色い歓声に、ヘルズは冷たい視線で返す。


「おい、どうしてアイツが偽物だと見抜けなかった」


「そ、それは・・・・」


 今までの変装した状態のヘルズとの会話を、姫香は冷静に思い返してみる。


「お金の使い道は自由ですけど、ちゃんと山分けして下さいよ? もし報酬の事で皆が怒ったら、手が付けられませんからね」


 姫香のこの言葉に対して、ヘルズはこう答えた。


『ああ、流石に俺1人じゃ無理があるな』


 だがやはり、何度考えてもこの発言はおかしい。天上天下唯我独尊の塊であるヘルズが、降谷達程度を相手にして『無理がある』などと弱音を吐くはずがない。そもそも、仕事前にヘルズは降谷、ユル、チャルカの3人を瞬殺していた。


 それなのにあんな言葉を言ったのも、ヘルズが偽物だったからと言えば納得がいく。


 そして変装しているヘルズが偽物だと分かると、医務室の会話の意味が分かる。


『これで残りは1人、ボスの『視覚』だけだ。だが奴は組織の中でもずば抜けて強い。正直、俺でも勝てるか分からない。そこでだ、今戦える奴全員で『視覚』を倒しに行こうと思う』


 これによってヘルズ勢力に総攻撃を仕掛けさせ、まとめて潰す魂胆だったのだろう。見事な策だ。


「えっと、その・・・・」


 これらの発言の違和感に気が付けなかったのは、姫香の落ち度だ。姫香は申し訳なさそうな顔をする。


「まあいい。その件についての説教は後だ。それよりも、今は目の前の敵だ」


 本物のヘルズが拳を構え、偽ヘルズに向き直る。


「さて、化けの皮が剥がれたところでガチバトルと行きますか。『血まみれの指』、ボス『視覚』―――――いや、生徒会長、北見方修吾」


 ヘルズの発言に、姫香の顔には戦慄が、偽ヘルズの顔には笑みが浮かんだ。


「ご名答、弐夜君。いや――――怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングと呼んだ方がいいのかな?」


 偽ヘルズ―――――北見方は両手を広げて、爽やかな笑顔を見せた。その顔は、とても暗殺者の組織のリーダーとは思えないような、明るい笑顔だった。


「長いからヘルズでいいぜ。――――それより、覚悟はいいか」


「何の覚悟かは分かりませんが、いいでしょう。僕も死んだ仲間のために、貴方と一戦交えなければと思っていましたから」


 直後―――ヘルズが動いた。


 北見方の胸倉を掴むと、反対側の壁まで放り投げる。北見方の体が宙を飛び、テーブル数台を巻き込んで落下する。ガラスの破砕音が、まるで演奏楽器のように響き渡った。


 それを見た客たちが恐怖に顔を引きつらせ、出口に向かって殺到し始めた。まだ『嗅覚』のテロの舌の根も乾いていない内だからか、その恐怖は絶大の模様だ。人が密集しすぎたせいで通れなくなった出入り口を眺めながら、北見方がヘルズに提案する。


「ヘルズさん、戦う場所を変えませんか? ここではあまりにも狭く、障害物が多すぎる。ですので、外のグラウンドで戦いませんか? あそこなら、十分なスペースがある。どうでしょう?」


「いいだろう」


 1秒の隙もなく、ヘルズが頷く。こんな悪人同士の抗争に、一般人を巻き込むわけにはいかない。


「姫香、お前は屋上に行って、俺たちの戦いを見て勉強しろ。あとで原稿用紙10枚以内にまとめてもらうから、しっかり観察しとけよ」


「は、はい!」


 姫香は返事をすると、出口へと向かった。その様子を見て、北見方がヘルズに言う。


「後方の憂いを断ちましたか。それでは行きましょう」


「ああ、そうだな」


 そして2人は窓に向かって歩くと、窓ガラスを蹴り壊し飛び降りた。


次回は8月28日更新予定です。

・今回分かった詳細

・バイトらしき青年・・・ヘルズ ではなく『視覚』

・謎の男・・・・・・ヘルズ

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