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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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怪盗達の伏線

 

 ――それから数時間後

 ヘルズはようやく二ノ宮から解放され、息を荒げていた。


「じゃあ私は新しいおもちゃを作っている途中だから、帰るわね」


 二ノ宮は天使のような微笑みを浮かべながら姫香に背を向けた。


「ああ帰れ、さっさと帰れ」


 ヘルズの言葉に、二ノ宮が悪魔の微笑みを浮かべる。


「あ、そうだヘルズ。もうすぐで三次元を二次元に転生させる機械が出来るんだけど、その実験台になってくれない?そうすれば私は君と・・・」


「おい、今さらりと怖い事言っただろお前⁉やだよ、お前のおもちゃの実験台とか絶対死ぬじゃん俺⁉」


「大丈夫、優しくするから」


「死ぬに優しいとかねえよ!」


 ヘルズのツッコミを流し、二ノ宮は姫香の顔を見た。


「じゃあね、姫香ちゃん。貴方可愛いから、また遊びに来るわね」


 玄関から開閉音がする。ヘルズは二ノ宮が帰ったのを見て、安堵の溜息を漏らした。


「ったく、ふざけ過ぎなんだよあの馬鹿は」


 文句を言いながらヘルズが起き上がる。姫香は苦笑しながらヘルズに言う。


「でも、元気があっていいと思いますよ。先輩も嬉しそうでしたし」


「あれが嬉しくなるのは病気だよ。・・・・ところでお前、いい加減呼び方決めろよ。先輩だったりヘルズだったり忙しくてしょうがねえ」


「じゃあ、日常的には黒明先輩、仕事の時はヘルズって呼んでいいですか?」


「好きにしろよ。あと黒明先輩じゃなくて弐夜先輩にしてくれ。そっちの方がしっくりくる」

 遠まわしに名前で呼んでほしいと頼まれた事に面食らいながらも、姫香は頷く。


「分かりました、弐夜先輩」


 その時、また玄関の開く音がした。二ノ宮が戻って来たのかと考えていると、顔を出したのは降谷先生だった。


「ったく、あの教務主任、俺の事こきつかいやがって・・・お、花桐も居たのか。どうだ、ヘルズの部屋は。とても怪盗には見えないだろ?」


「はい、とっても」


「だろうな。オレも始めて来たときには『コイツ本当に怪盗か?』と疑ったからな」


 笑いあう二人を、ヘルズが不満そうな顔で言う。


「こう見えても俺は怪盗だぞ。どこからどう見ても怪盗だろ」


 どこからどう見ても、引きこもりの駄目人間にしか見えない。


「まあそれは置いといて、花桐、お前の家って確か門限あったよな。いいのか、ご両親が心配するぞ」


 降谷先生の言葉に、姫香の顔が一瞬、―――一瞬だけ強張った。だがすぐに元の笑顔に戻る。


「多分、大丈夫ですよ。私の親、私に甘いので。今日は弐夜先輩の家に泊まらせてもらいます」


「そうか。だが年頃の女の子が一人で男の家に泊まるのは教師として見過ごせないな。お前らが羽目を外さないようにオレも一緒に――」


「お前は帰れ、この駄教師」


 降谷先生の言葉を途中で遮り、ヘルズが不機嫌そうに言う。


「というか花桐も急に泊まるとか、普通あり得ないぞ?まあ俺の家にはよく二ノ宮が泊まりに来るって事で生活用品の予備はあるから、不可能ではないけどな」


 そこでヘルズは立ち上がると、ポケットから携帯電話を取り出し、姫香に放った。


「でも一応電話は掛けておけ。子供が親を心配させるものじゃない」


「は、はい」


 姫香は頷くと、番号を入力した。急に人の家に泊まると言ったら、両親はなんと言うだろうか。

緊張で手が震える。震える指で通話ボタンを押し、両親と話しをしようとした時――、

 ヘルズが横から携帯を取り上げた。


「あ、もしもし。俺だよ俺。え、誰かって? もしかして俺を知らないの? ったく、世間知らずだな。俺だってば。いたずら? おいおい、俺は大まじめだぞ。え、警察? あー、それは辛いなー。今回限りは見逃してくれよ。な? え、もう呼んだ? せっかちな奴だな。んじゃ切るぜ。じゃあ、また今度な」


 ヘルズが電話を切る。終わると同時、姫香はヘルズに詰め寄った。


「ちょっと、何やってるんですか⁉ 私の親と警察に喧嘩売ってるんですか⁉」


「まあ確かにサツにはいつも喧嘩売ってるよな」


「降谷先生はちょっと黙っててください!」


 姫香はヘルズの胸倉を掴み、激しく揺さぶった。ヘルズの首がメトロノームのようにガックン、ガックンと前後に揺れる。


「な、何だよ。今の電話のどこに問題があった?」


「大ありです! 大体何ですか一言めのあの言葉! 『俺だよ俺』じゃありませんよ!それもはや怪盗じゃなくてオレオレ詐欺じゃないですか!」


「でもスカッとしただろ?」


「し ま せ ん‼先輩への怒りしか浮かびませんよ!」


 さらに激しく揺さぶる。ヘルズの首がさらに激しくガクガクと揺れる。降谷先生がそれを見て笑う。


「この調子なら大丈夫か。じゃあ、俺は帰るぞ」


 降谷先生は鞄の中から書類の束を出すと、机の上に置いた。


「ここ二週間の間に配られたプリント、ここに置いておくからな。ちゃんと目を通しておけよ」


「それは助かる。じゃあな、駄目教師」


 姫香の怒りから解放されたヘルズが、降谷先生に向かってマッチ箱を投げる。それをキャッチし、降谷先生は帰って行った。


「さて、暴れて疲れただろ。風呂でも入ってきたらどうだ?」


 ヘルズが机の上の書類を見ながら、姫香に聞く。ちょうど暴れて汗をかいていた所なので、その言葉に甘えて入って来る事にする。


「分かりました。ではお言葉に甘えて、入って来ますね」


「・・・・・」


 ヘルズからの返事がないので気になって振り返ると、ヘルズは降谷先生が置いた書類に夢中になっていた。これなら覗かれる心配も無いだろう。姫香は安堵の溜息を吐くと、風呂場に向かった。


















「やっぱりそうか」


 誰も居なくなった部屋で、ヘルズは呟いた。


 彼が持っているのは学校のプリント・・・ではなく、降谷に頼んでおいた報告書だ。そもそも、降谷がくれたプリントの中には学校のプリントなど一枚も入っていない。ヘルズは報告書を見ながら、悪役の親玉のようにニヤリと笑う。


「相変わらず恐ろしい情報収集能力だな。ま、おかげで知りたい事は半分わかったけどな」


 その時、ヘルズは姫香の着替えを脱衣所に置いていない事に気が付いた。


「やっば。早く用意してやらないと」








 風呂場はアパートにしては意外に広く、姫香の家の風呂場の半分くらいの広さだった。

身体を洗い、浴槽に入ろうとした時、右腕の怪我が目に入った。怪我、というには少し小さいが、今も少し痛むので立派な怪我と言えるだろう。


(どうして周りのみんなは、こんな私と仲良く接してくれるんだろう)


 真理亜や沙織、賢一や降谷先生。二ノ宮にヘルズまで。どうしてこんな自分に対しても優しく接してくれるのか。姫香には、それが分からない。


(そろそろ出よう・・・)


 考えていても仕方がない。姫香は風呂場から上がる。溜息を吐いてバスタオルを身体に巻きつけた時、風呂場のドアがガラガラと音を立てて開いた。


「着替え、忘れたから持って来―――」


 手に着替えを持って風呂場に入って来たヘルズが固まる。姫香は自分の状態を再確認し、


―――悲鳴を上げた。


「きゃああああああ!」


「ちょ、待て!頼むから落ち着いてくれ!」








『で、その後どうなったの?襲った?』


「襲わねえよ・・・お前は何を期待してんだよ」


『別に。ただ君にもっと人生経験豊富になってもらって、二次元に転生して私を襲ってほしいなと思って』


「二次元でも三次元でも俺はお前を襲わねえよ・・・」


――結局、脱衣所での件は事故という事で納得してもらった。


 あの後、夕食カップラーメンを食べた。何故か姫香はとても美味しいと言っていたが、別に大した味付けはしていない。その後、特にする事も無かったため寝る事になったわけだが、脱衣所の件もあり、ヘルズは姫香にベッドを譲り、自分は布団で寝る事になった。姫香は既に熟睡していたが、寝顔が可愛かったので数枚写真を取っておいた。


『で、何の用?もうすぐネトゲのイベントが始まるから早くして』


「二ノ宮、作ってほしいおもちゃがある」

 そう言った時のヘルズの顔は、まるでいたずらを考え付いた子供のようだった。

















「アイツも凝った事するなあ」


 一方その頃、降谷も屋上で微笑を浮かべていた。


 彼が手に持っているのは、ヘルズが投げたマッチ箱だ。マッチ箱の中にマッチは入っておらず、代わりに一枚の紙が入っていた。降谷はその紙を読んでいた。


「チッ、ヘルズの奴、また仕事を増やしやがって。残業代ふんだくってやる」


 舌打ちをすると、降谷は職員室に戻った。


 今回は裏家業らしさが出ました。

 マッチ箱の中に紙とか、面白そうだな・・・

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