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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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降谷vs『触覚』

 さあ、いよいよ降谷が戦います!

 5メートルの距離で、降谷と『触覚』は向かい合っていた。


「アンタの事は噂に聞いてるぜ。何でもヘルズ勢力のスパイなんだとか。他にも暴力団の組織を叩き潰し

たり、自衛隊相手に大立ち回りやらかしたとかその手の筋じゃ有名だ」


「べつに。そういうのは全部、暇つぶしでやっただけだ。特に深い意味はない」


 降谷は素っ気なく言うと、ショットガンを放り捨てた。ヘルズの予測が正しければ、これは逆に足手ま

といになる。


「じゃあ、雑談もなんだしそろそろ行くぜ」


『触覚』は口を歪めると、降谷に突貫した。降谷は両手を開いて構えると、繰り出された拳を掌で受け流した。それと同時に足払いを掛け、敵を転ばせる。


「おっと」


『触覚』は転ぶ寸前床に手を着くと、勢いもそのままに一回転した。綺麗にハンドスプリングを決め立ち上がると、降谷に向き直った。


「お見事。まさか攻撃を受け流されるとはな。てっきり正面から突っ込んでくるのかと思ったぜ」


「アホ。そんな事じゃスパイは生き残れねえよ」


 降谷は左手で胸の辺りを防御すると、右拳を軽く引いた。それを見た『触覚』も同じように構える。


「遠距離戦は不利と見た。しばらく喧嘩に付き合ってもらおうか」


「構わないぜ。それもまた面白い」


 瞬間、二人の拳がぶつかった。両者の拳は互いの左手によって防御され、あと数ミリあれば相手の胸に届くギリギリの距離で停止している。


 その時、『触覚』の手が一瞬光った。反射的に降谷は跳び退く。直後、『触覚』の両手から電撃が迸った。――危ない、あと一秒遅れていたら電撃に撃たれて死んでいた所だ。


「へえ、やるじゃねえか」


『触覚』が関心したように呟いた。


「よく見抜いたな。俺が電撃を使うって事を」


「なに、ちょっと考えれば分かる事さ。お前の能力は、『触覚』。つまり神経全般だ。当然その中には『痛覚』も含まれてるだろ? だったら痛みのみを与えて外傷を与えない『電気』なんかはうってつけだ。違うか?」


 降谷は懐から絶縁体の手袋を取り出し装着する。これを使うと指先の感覚が少し鈍るためあまり使いたくなかったが、仕方ない。電気を浴びて死ぬよりはマシだ。


「そこまで読んでたか。凄いな、アンタ。普通、そこまで想像力を働かせる奴は居ないぜ?」


「ウチに一人、厨二病が居てな。そいつが色々教えてくれたんだ」


 あの小生意気な生徒兼怪盗の顔を思い出しながら、降谷は苦い顔をした。それを見た『触覚』が心配そうな顔をする。


「おいおい、顔が凄い事になってるぞ。大丈夫か?」


「・・・・大丈夫だ。安心しろ」


「全然大丈夫そうに見えないんだが・・・・まあいいか。続けるぜ」


『触覚』は呆れたように溜息を吐くと、降谷に胸倉に手を伸ばした。その手を払いのけ、降谷は後方に跳び退いた。あの手に触れたら最後、電撃をくらって即死だ。非常に戦いづらい敵だ。


「ほらほら、どんどん来いよ!」


『触覚』が吠え、降谷の喉元に手を伸ばす。降谷はその手を掴むと、『触覚』の股間を蹴り飛ばした。腕を掴んでいるせいで衝撃を後ろに受け流せず、『触覚』は「ウッ」とうめいた。


「お望み通り、どんどん行くぞ」


 降谷はもう片方の手を握ると、『触覚』の頬を殴り飛ばした。『触覚』はもろにくらい、痛そうな顔をする。唇が切れたのか、口の端から血が出ていた。

 降谷は容赦なく、二撃、三撃と殴りつける。その度に『触覚』の頬が腫れ、やがて『触覚』の頬は真っ赤に腫れあがった。


「仕上げだ。安らかに眠れ」


 降谷は冷酷な口調で言いきると、ポケットから手榴弾を取り出した。躊躇いなく安全ピンを抜くと『触覚』の胸元に放り込み、自分は『触覚』の胸を蹴って後方に跳ぶ。


「避けきれるか?」


 手榴弾の爆破範囲から脱出し、降谷はホッと息を吐いた。いくら降谷でも、爆発に巻き込まれればひとたまりも無い。降谷が余裕を持って次の攻撃に移ろうとした―――


「おいおい、俺を舐め過ぎだろ」


 瞬間、降谷の目の前に手榴弾が出現した。手榴弾は―――爆発していない。


「は・・・・?」


 目の前で怒った事実が、理解できなかった。


 弾いた? あの時間で? 


 安全ピンを抜いてから手榴弾が爆発するまで、約4秒。そんな短時間で、空中にある手榴弾を掴み取り、敵の目の前に的確に投げるなんてほぼ不可能だ。もし仮に出来たとしても、勢いが足りずに空中で爆発してしまうのが関の山だ。


「嘘だろ・・・」


 降谷が呟いた瞬間、手榴弾が爆発した。


 反射的に顔と心臓を庇うも、やはり至近距離なのが大きい。爆発の影響をもろに受け、降谷は後ろに吹き飛んだ。体内がシェイクされたかのような感覚。爆風にやられたのか、腕には広範囲にやけどを負っている。


「ハハハ、ザマあねえなあ!」


『触覚』の嘲笑うような声が聞こえ、直後降谷の腹に強烈な負荷がかかった。まるで鉄球がめり込んだような感覚に、降谷は思わずうめき声を上げた。


「うぐっ!」


「俺の能力が、近接戦だけだと思うな」


どこから取り出したのか、『触覚』が透明の玉を弄びながら吐き捨てる。


「俺は近距離と遠距離、両方に対応してるんだぜ。なあ降谷先生よ、いくらアンタが天才だろうと無知だろうと、『液体粒子』って言葉くらい、聞いた事があるよな?」


『液体粒子』。


 文字通り、大気中に存在する液体の事である。


「人間の指っていうのは案外繊細でね。知らず知らずのうちにこれに触れてるわけよ。んで、俺は指含めた手そのものを改造して、その液体粒子を自由に操れるようになったわけ。だから、液体粒子を操って水を無限生成可能なわけ。今みたいに球体にして撃ちだす事も出来るし、なんなら直接液体に変換して相手を窒息死させたりな」


 それは、強すぎる。


 人間が武器として使用した際、最も強い物。―――それは空気、あるいは空気中に含まれる物質だ。

 理由は簡単。空気なんて、どこにでもあるから。地球上で空気を完全になくし切る事はほぼ不可能だし、現実的ではない。

 それ故に、空気を武器として使う敵は基本強敵だ。

 実際、『最強の犯罪者』ですら、空気を操る敵と対峙した時は、冗談抜きで瞬殺しに掛かるレベルだ。

 そんな敵に軽い気持ちで挑んでしまった事を、降谷は後悔した。


「ま、分かってるとは思うが能力はこれだけじゃねえ。電撃も水も、あくまでも俺の能力の一部だ。これだけで俺を測ろうとするなよ」


『触覚』は肩をすくめると、指先に水の球体を出現させた。それを人差し指で弾き飛ばす。それだけの動作で球体は風切り音を立てて射出されると、降谷の鳩尾に突き刺さった。


「うぐっ」


 その痛みに、降谷は膝を着いた。弾丸が物質なため身体は無事だが、もしこれが物体ならとっくに貫通しているだろう。果たしてこれは『触覚』の気まぐれか、はたまた降谷の体力を削ってからトドメを刺すためか。


「じゃあ、そろそろ仕上げといくか」


『触覚』が右手を高々と上げる。するとその手をかざした空間が徐々に凍り始めた。室内の気温も下がり始め、やや涼しく感じられる。


 右手に氷を纏いながら、『触覚』は叫んだ。


「気体から液体に、液体から物体に。これこそが俺の指先最大の能力、『証拠隠滅の凍死(アイス・ホライゾン)』だ!」


 格好良く言っているが、ネーミングがこの上なくダサい。ヘルズでももっといい物が作れるだろう。降谷は親切に指摘してあげるべきか、割と本気で悩んだ。


「今度は氷を撃ち出すぜ。これでお前は終わりだ」


『触覚』が氷を指の上に乗せ、降谷に宣告する。降谷は避けようとするが、もう膝に力が入らない。そうしている内に、『触覚』の指先に力が溜まっていく。


「じゃあな、降谷先生。悪く思うなよ」


『触覚』が別れの言葉を告げ、氷を撃ち出した。


 降谷はそれを視界に捉えた瞬間、右手を振った。


 次回は7月24日更新予定です。

 現在分かっている詳細

・仁ノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・メイド・・・・ユル

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

・バーテンダー・・・『触覚』

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