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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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動き出す両勢力③

今回は久しぶりに“奴”が出ます!




現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・メイド・・・ユル

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

 月明りが、屋上を照らしている。


「ふう・・・・」


 ヘルズは腕で額の汗を拭きながら、深く息を吐いた。


 あれから姫香に技を教え、帰らせたのがつい今の事。12時28分の出来事である。


「まあでも、これで一応大丈夫か」


 あの技さえあれば、姫香は大丈夫だろう。

 問題は、ヘルズの方だ。


「久しぶりだな。たまには直接会って話をしようぜ」


 目の前の光景を眺めたまま、ヘルズは嘯く。当然、聞いている者は居ない。


 そう、一人を除いては。


「そこに居るんだろ? 出て来いよ。たまには肉体言語以外で話会おうぜ」


 ヘルズが再び声を掛ける。すると、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。


「そうだな。たまには対話をするのも一興か」


 低い、芯の通った声が聞こえ、何もない空間から一人の老人が姿を現した。ヘルズは老人の姿を視界にとらえると、フンと鼻を鳴らした。


「久しぶりだな、師匠」


「久しぶりだな、弟子よ」


 老人――――『最強の犯罪者』は、ヘルズの挨拶に右手を上げて答えた。ヘルズも右手を上げて、これを返す。


「のぞき見とは趣味が悪いじゃねえか。『最強の覗き魔』に改名したらどうだ? そっちの方がお似合いだぜ」


「なに、たかが空間に溶け込んでいたくらいでそこまで言わなくてもいいだろう。見抜けなかったのが悔し

いからと言って負け惜しみを言う物ではないぞ、ヘルズよ」


 ヘルズの嫌味にカウンターで返し、『最強の犯罪者』は不敵に微笑む。


「ハッ、あんな簡単な技すぐに見破られたぜ。―――それより、何の用だ?」


 探るような目を向けると、『最強の犯罪者』は両手を上げた。


「別に、大した用はないさ。ただ、弟子の成長を見届けようと思っただけだ」


「なら俺じゃなくてチャルカの所に行け。俺よりアイツの成長を見る方が効率的だ」


「いい女を見つけたな」


 唐突に、『最強の犯罪者』が言った.


「は?」


「花桐姫香と言ったか? いい女じゃないか」


 言葉の意図を掴めず、ヘルズは曖昧な返事を返す。


「ああ、まあ、いいんじゃないか?」


「なら安心だな。良かった良かった」


 その意味深な発言に、ようやくヘルズは『成長』の意味を悟る。


「おい、それってひょっとして」


「いやー、ヘルズが死んだ女の事をきっぱり忘れて、他の女と幸せになって、良かった良かったー」


「テメエ!」


 棒読みな口調に、ヘルズがブチ切れる。あらんかぎりの力で床を蹴り、老人を締め上げようと突貫する。

『最強の犯罪者』はそれを優雅に躱すと、その腹に強烈な膝蹴りを見舞った。


「ぐはぁ!」


 ヘルズが血反吐を吐きながら天に撃ちあげられる。『最強の犯罪者』はそれを冷たく一瞥すると、軽く床を蹴った。それだけで床が陥没し、大きな亀裂が出来る。


「その程度か。つまらんな」


 ヘルズと同じ高さまで跳ぶと、『最強の犯罪者』は人差し指を伸ばした。それをヘルズの身体に突き刺し、引きぬく。それを連続で繰り出す。


「ぐあっ!」


 ヘルズの胴体に小さな穴がいくつも穿たれ、その度にヘルズがうめき声を上げる。


「終わりだ」


『最強の犯罪者』が脚を振り上げ、ヘルズの背中に踵落としをくらわせる。見た目は《没落(ぼつらく)権勢(けんせい)天覧(てんらん)(ざくら)》だが、威力が圧倒的に違う。ヘルズは音速を超える速度で床に落下すると、派手に1回バウンドし、仰向けに転がった。


「よっ」


 一秒後、『最強の犯罪者』が床に着地し、ダルそうに首を鳴らす。その体には傷一つついていない。当然だ。核ミサイルですら跳ね返す彼の身体は、この程度で傷つくほど柔ではない。

 床に倒れ伏しているヘルズに、『最強の犯罪者』は言う。


「おい、いつまで寝てるんだ。お前の体質(・・)を持ってすれば、こんな傷余裕だろう?」


 直後、ヘルズの片目が燃えるように熱くなった。穿たれた穴が徐々に塞がっていき、全身に掛かっていた痛みが消えていく。


 ダメージが完全に癒え、ヘルズは立ち上がる。―――この間、わずか5秒。


 単独で国家を転覆できる『最強の犯罪者』の攻撃を受けたにしては、異常と言える回復力である。


「遅いな。その回復速度では倒れている間に百回は殺されるぞ」


 しかし師匠は手厳しい。ヘルズは顔をしかめた。


「仕方ねえだろ。これは努力云々でどうにかなる物じゃないんだから」


「それなら受けるダメージを減らす努力をしろ。今のお前はお粗末すぎる」


 師匠の手痛い指導に、ヘルズは「チッ」と舌打ちする。


「悪かったな。ちょっとムカついてたもんでな」


「我が輩の挑発の事か」


 自覚はあるらしい。『最強の犯罪者』は月を眺めた。


「あれから2年、お前も少しは成長したと思っていたがな」


「馬鹿言え。それは『成長』なんて呼ばねえよ。ただの『逃げ』だ」


 ヘルズが吐き捨てるように言う。その顔には、苦悶の表情が浮かんでいた。


「まだ忘れられないのか――――クルシアの事が」


『最強の犯罪者』の言葉に、ヘルズが奥歯を噛みしめた。指先が細かく震え、呼吸が荒くなる。それらを理性で抑えつけながら、ヘルズは息も絶え絶えに言った。


「頼む、その名は――――クルシアの名は、今は出さないでくれ。あの時の事がフラッシュバックする」


「そうか。――――まあ我が輩も、これ以上藪はつつかないでおこう。ただ、これだけは覚えておけよ」


『最強の犯罪者』が笑みを消し、真剣な表情になる。


「この件はいつか、お前自身がケリをつけなければならない事だ。その事に、周りの人間を巻き込むな。もしまたお前が無関係な人間を巻き込んで暴れるというのなら―――――容赦はしないぞ」


 猛禽の如き目から殺意の光が奔り、ヘルズを見据える。ヘルズは素直に頷いた。


「分かってる。いつかあの時の事に踏ん切りをつけて、前に進む。その事を、アイツも望んでるはずだ」


 ヘルズの言葉に、『最強の犯罪者』が肩の力を抜いた。


「なんだ、分かってるじゃねえか」


 そして、照れくさそうに笑う。しかしその目は笑っていない。まだ危険視するべき話題が残っているとい

う事だろう。


「まだ何かあるのか?」


「お、流石我が輩の弟子。言葉を交わさなくても意思の疎通が可能になったか」


「いいから早く話せ、師匠」


 ヘルズが促すと、『最強の犯罪者』はまた真顔に戻った。―――まるで役者である。


「実はな、第六期暗殺者主席が、お前の元に向かっているという情報が入った」


「―――そうか」


「気を付けろ。奴はお前を狙っている。四六時中、辺りに気を配れ。さもなければお前は死ぬぞ」


 そこまで言うと、『最強の犯罪者』の姿が消えた。―――自分の身体を空間に溶け込ませたのだ。言うだけ

言って帰るとはさすがヘルズの師匠、師弟揃ってろくでなしである。


「さて、と」


 ヘルズは頭上を見上げた。そこには、相変わらず月が浮かんでいる。


「部屋に戻ってネトゲでもやるか」







 



 バーの入り口が開く音がして、バーテンダーの男は顔を上げた。バーの入り口には、フードを被った男が立っていた。


「いらっしゃいませ。ご注文は――――」


 手に持っていたグラスをカウンターに置き、頭を下げて丁寧に挨拶をしたとき、男が手にショットガンを持っている事に気が付いた。


「――――ございませんよね」


 バーテンダーが呟いた瞬間、男の持っていたショットガンが火を噴いた。












「やったか?」


 ショットガンで店内をハチの巣にした降谷は、容赦なく身構えながら店内を見回した。


 先程、ヘルズから連絡を受けここを襲撃したのだが、居たのはバーテンダーただ一人。しかも、どう見ても善良そうな人間だった。


「もしこれで無関係の人だったら、オレ人殺しになるよな・・・」


 仕事がら何人も人を殺している降谷だが、やはり人を殺しても大して面白い事は無い。人は殺さないに限る。


「無関係の人だったら、ヘルズが殺した事にしよう」


 別にどちらが殺した事にしようが目撃者は居ないため変わらないのだが、そこは気持ちの問題である。降

谷は安堵の息を漏らすと、ショットガンを下ろした。


 ―――と、頬を何かがかすめて、思わず身構える。


 頬を擦過した何かは壁に激突すると、騒々しい音を立てて壁を破壊した。恐ろしい破壊力だ。


「おいおい、俺を民間人なんかと一緒にしてんじゃねえよ」


 バーのカウンターが粉砕し、中からバーテン服を着た青年が出てきた。―――間違いない、さっきのバーテンダーである。


「ヘルズの読みは当たってたか。よかったよかった」


「よくねえよ」


 降谷の軽口に、バーテンダーが苛立ちを露わにする。


「テメエ、これどうしてくれるんだよ、おい。もしテメエが一般人なら、弁償費用として7億請求してるところだよ」


 突然の口調の変化に、降谷は若干驚いた。だがすぐに平然とした顔に戻ると、バーテンダーに聞いた。


「一応確認するが、お前は『血まみれの指』の一員だよな」


「ああ、そうだぜ」


 バーテンダーは両手を広げると、楽しそうに笑った。


「俺は『血まみれの指』の一員、『触覚』だ。よろしく頼むぜ、降谷先生よぉ!」



現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳

・ピエロ・・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・メイド・・・ユル

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

・バーテンダー・・・『触覚』

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