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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
64/302

チャルカ&第三期暗殺者次席vs 暗殺組織『血まみれの指』

現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳(死亡)

・ピエロ・・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・メイド・・・ユル

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

「先手必勝」


 チャルカが杖を振りかぶり、『味覚』に突撃する。『味覚』はそれを、笑って見ている。


「遅いよ、君」


『味覚』が笑うと同時、その右手に短剣が出現する。短剣でチャルカの杖を受け止め、『味覚』は残虐的な笑みを浮かべる。


「ほら、もっと頑張らないと」


「ッ!」


 チャルカが後ろに跳び退き、距離を取る。杖の表面が削り取られ、銀色の刀身が露出している。やはり、杖に見せかけた細剣(レイピア)だったらしい。


「君、改造人間だよね? 弱すぎなんだけど」


『味覚』が挑発するように、チャルカに言う。ムッとして飛び出そうとしたチャルカを、ユルが止める。


「待ってください、チャルカ。ここは、ワタシが行ってみます」


 主席や次席の位を持っていないとはいえ、チャルカも立派な超人だ。そんな彼女の攻撃を余裕で受け止め

られる小学生など、只者ではない。


「へえ、次はお姉さん? いいよ、どんどん来なよ!」


『味覚』が興奮気味に叫ぶ。ユルは床を強く蹴ると、一瞬で『味覚』の眼前に跳躍した。


「――――くらいなさい」


「おわっ!」


 跳躍と同時にポケットからナイフを取りだし、『味覚』の首元目がけて突き刺す。『味覚』がそれを紙一

重で躱した瞬間、さらに追撃。


「冥土暗殺秘儀一の型―――――」


 ナイフを持つ腕に全体重を掛け、横に振り払う。


「《(しゅ)(どう)一閃(いっせん)》!」


 ユルが全力を込めて薙いだナイフはしかし、『味覚』の歯によって受け止められる。


「なッ・・・」


 ユルが驚いた隙に、『味覚』はナイフを噛み砕く。バリバリ、と破砕音を立て、金属製の突起物が食べられる。


 ゴクリ、と喉を鳴らし、ナイフを食べ終わった『味覚』は口を開いた。


「うん、これはあまり美味しくないね。星5中2ってところかな」


 その口の中には、金属製の欠片など一つも無い。全て飲み込んだのだ。


「くっ!」


 ユルは唇を噛むと、再び敵の懐に飛び込んだ。飛び込み様『味覚』に足払いを掛けて転ばせ、その腹を踏

みつける。


「ぐうっ!」


 いくら敵といえど小学生だ。大人に腹を踏まれればさぞかし痛いだろう。ユルは容赦なく足に体重を掛けていく。


「これで終わりです」


「―――――それはどうかな」                                   


 不意に足首を掴まれ、ユルの思考に一瞬、空白が生まれる。


「ッ――⁉」


「じゃあ、いただきます。《酸味》」


 身の危険を感じたユルは、敵の腹を蹴り跳躍。直後、ユルの居た場所を透明な何かが通過する。液体は床に着弾すると、ジュワジュワと床を溶かし始める。


「あらら、失敗しちゃった。折角、お姉さんの足を溶かせると思ったのに」


『味覚』が残念そうに言う。ユルは目を剥いた。


「まさか、その液体は――――」


「そ。酸性の液体だよ。人の肉すら溶かす、とっても濃い酸性。学校で使う塩酸なんか目じゃないくらい、とっても濃いんだ」


 おどけたように言う『味覚』に、ユルは背筋が寒くなるのを感じた。


 人の身体というのは面白い物で、身体の一部を切断されても刺し貫かれても、何らかの治療を施すか薬品を使うかすれば、案外再生したり、くっついたりする。


 しかし、溶けるとなれば話は別だ。


 斬られたりした場合と違い、溶けた場合は元に戻らない。失われた部位も、細胞も溶けてしまうからだ。


機械人間の手術を受ければ『腕』という部位自体を取り戻すことは出来るが、自分の肉体の一部としての『腕』は二度と戻ってこない。


そして『肉体』としての腕を失う事は、メイドであるユルにとって万死に値する。


「どうしたの? ほら、行くよ!」


『味覚』が口を開き、酸性の液体を飛ばしてくる。ユルはそれを躱すと、懐から毒針を取り出した。


「これで不意を突けば――――」


「バレバレだよ、お姉さん」


『味覚』の《酸味》がユルの指先をかすめ、毒針を溶かす。


「ッ―――!」


 爪を数ミリ溶かされ、ユルが息を呑む。その時、耳元を何かがかすめた。


「ユル、邪魔。私が行く」


 チャルカだ。右手に細剣(レイピア)を構え、『味覚』に突貫する。『味覚』は口を開くが、何を思ったのか口を閉じ、チャルカの攻撃を短剣で受け止める。


 その光景を目の当たりにしたユルは、不思議な感覚にとらわれた。


(一体、これは―――)


 チャルカが細剣(レイピア)を振り回す。『味覚』はそれを避け続けた後、後ろに跳んだ。そして、口を開

く。


 それを見て、ユルは一つの考えに思い当たる。


(そうか、もしかして――――)


 もしそうなら、迷っていられない。床に踵を打ち付ける。靴の踵部分から極薄の刃が飛び出し、ギラリと

光る。


「チャルカ、援護します!」


 声を張り上げ、『味覚』に正面から突撃する。『味覚』は自分の元に走って来るユルを見ると、口を開い

た。


「――――今です!」


『味覚』が口を開いた刹那、ユルは床を蹴った。地面すれすれを滑り、『味覚』の元に一瞬でたどり着く。


「さあ、《酸味》を使ってみなさい」


 声と同時に、踵の刃を敵の肩に見舞う。『味覚』はそれを紙一重で躱すが、チャルカの追撃をくらい数歩

後退する。


「うおっ!」


「貴方の《酸味》は強すぎた。それこそ、一滴でも付着すれば致命傷なほどに」


 ユルは淡々と踵を振り下ろしながら、『味覚』に指摘する。


「だから近距離では使えない。敵に着弾した際、飛び散った液体が自分にかかるといけませんものね」


 ユルの振り下ろした踵が『味覚』の短剣を弾き飛ばす。ユルはメイド服の袖から小型のクナイを取り出すと、斜めに構えた。


「もう《酸味》は使えません。この距離でワタシに着弾すれば、飛び散った液体で貴方の身体も溶けます

よ。大人しく諦めてください」


 降伏を促しながら、ユルはじりじりと詰め寄る。クナイを首の高さで構え、足を前後に開く。


「もう終わりです。大人しく諦めて金庫の場所を吐くなら、命だけは――――」


「くくっ」


 その時、ユルは誰かの笑い声を聞いた。


 見ると、『味覚』の肩が上下している。両手は腹に添えられており、顔はわずかに震えている。


「ふふっ、あははははははは!」


 笑っているのだ、この状況の中で。もう《酸味》は使えず、頼みの短剣も無い。おまけに数は2対1。ど

う足掻いても勝てる物ではない。


 ――それなのに、笑っているのだ。


 狂ったかのように。いや、初めから狂っていたかのように。


「ふふふっ、あははははははははははははは!」


「このッ!」


 馬鹿にされている、と気が付いたチャルカが、『味覚』に突進する。『味覚』はそれを見ると、口の端を

歪めた。


「やあッ!」


「バーカ。《甘味》」


 チャルカの剣と『味覚』の口が交差する。そして、


 ―――チャルカの右手首から先が、消失していた。


 いや、消失ではない。『味覚』に食われたのだ。


「え?」


 チャルカが驚いた声を上げた直後、床に倒れる。その隙を逃さず、『味覚』が動く。倒れているチャルカ

の身体に近寄ると、小声で何かを呟いた。


「《―――味》」


 そして、チャルカの首筋を舐めた。途端、チャルカの全身がビクンッ! と飛び跳ねる。


「チャルカ?」


 ユルが聞いても、チャルカの返事はない。ただ、飛び跳ね運動を繰り返している。


「あっ、あっ、あううううううう」


 チャルカの口から、変な呟きが漏れる。『味覚』は嗜虐的な笑みを浮かべると、今度はチャルカの耳を舐める。瞬間、チャルカの揺れが更に激しくなる。


「あっ、あうっ、うああああああ!」


 うめき声が大きくなり、チャルカの身体がビクビクッ! と震える。それでも震えは止まらない。チャル

カの身体はまだ震動を続けている。


「へえ。まだ耐えるんだ。凄いな、『最強の犯罪者』の弟子は」


「貴方、チャルカに何をしたんですか⁉」


 ユルが感情的に叫ぶと、『味覚』は楽しそうに答えた。


「そんなの、敵である君に教えるわけないだろ・・・・・って言いたい所だけど、特別に教えてあげるよ」


 そして、バッと手を広げた。


「僕は『味覚』。その能力は、主に舌を使った攻撃全般。『五基本味』って言ったら分かるかな? 僕の攻

撃はそこから取ってるんだ」


「『五基本味』・・・・?」


「そう。まあどうせ君なんかじゃ勝てないから能力を公開するよ。まず口から超強力な酸性の液体を飛ばす《酸味》。敵を舐める事で相手の脳をとろけさせて数秒身体の自由を奪う《甘味》。舐める事でその部位だけ痛覚を超上昇させる《苦味》。特にこれは地獄だね。だって電気信号が通っただけでも感じちゃうんだもん。あ、でもそういう趣味の人からすれば、天にも昇る快感らしいよ」


 ぞっとするような能力だ。


 この3つだけを使っても、ヘルズといい勝負が出来るだろう。


 しかも、まだ3つ。全部ではない。


 ユルは、せめて情報だけでも持ち帰ろうと、探りを入れる。


「他には・・・・」


「まだ聞いちゃう? 別にいいよ、どうせ僕の能力は無敵だし。えっと、他にはね―――」


 その時、通路の奥からコツ、コツという音が聞こえてきた。ユルは慌ててチャルカの元に跳躍し、その体を抱きかかえた。このままでは学校の二の舞だ。


「お、もう行くの? じゃあねー」


『味覚』が呑気そうに手を振るが、そんな物に構っていられない。メイド服を着た女がここに居る、という情報が広まれば、困るのはこちら側だ。


「失礼します」


 簡潔に挨拶を済ませると、ユルはチャルカを抱きかかえたまま、元来た道を戻り始めた。



次回は7月14日更新予定です。

現在分かっている詳細

・ニノ見留薬味・・・二ノ宮来瞳(死亡)

・ピエロ・・・・・・松林尚人

・バイトらしき青年・・・ヘルズ

・メイド・・・ユル

・シルクハットの男・・・チャルカ

・赤いランドセルを背負った小学生・・・『味覚』

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