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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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最強美少女、二ノ宮登場!

 今回はちょっと百合っぽいです。

降谷先生に早退扱いにしてもらい、二人はヘルズの家に向かう。

ヘルズのアジト、というより弐夜先輩の家は、アパートの一室だった。


「凄い事になってるかもしれないけどまあそこは目を瞑ってくれ」


 ヘルズが鍵を開けながら姫香に言う。もう何が来ても驚かないと思いながら姫香は家の中に入る。


「お邪魔します」


 姫香は家の中に入る。


ヘルズは凄い事になっていると言ったが、床にカップラーメンの空き箱と学校のプリントが散乱している事と、部屋の隅に雑誌と一緒に教科書が紐でくくられている事を除けば、至って普通の部屋だった。姫香は部屋の隅を見て、ヘルズに聞く。


「あの、何で教科書が紐でくくられてるんですか?」


 するとヘルズは首を傾げた。


「捨てるからに決まってるだろ」


「何で捨てるんですか?」


「だって要らないじゃん」


 優等生の姫香は、ヘルズを宇宙人だと思うことにした。


「この部屋、片づける気はないんですか?」


「ないよ。だってどうせまた散らかるじゃん」


 綺麗好きの姫香には、ヘルズの感性が理解できない。


「まあ座れ。長くなりそうだしな」


 ヘルズに言われ、プリントを退かして座る。ヘルズが机を挟んで向かい側に座る。


「じゃあ改めて自己紹介から行くか。まず俺はヘルズ。本名はヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング。略してヘルズだ」


 ヘルズが手を差し出してくる。握手のつもりだろう。姫香がその手を取ろうとした時、玄関の開く音がした。つい反射的に手を引っ込めてしまう。


「安心しろ、俺の仲間だ」


 ヘルズが苦笑した時、銀髪の女が入って来た。その容姿を見て姫香は息を飲んだ。


(か、可愛い・・・)


 腰まで伸びる銀髪に、端正な顔立ち。モデルにも劣らない細い身体は華奢で、抱きしめたら折れてしまいそうな雰囲気を醸し出している。細く白い指先は、女性ですら虜になってしまいそうだ。


 どこからどう見ても、完璧美女だった。


「よう、二ノ宮」


「久しぶりね、ヘルズ。実際に会うのは二か月ぶりかしら?」


 ヘルズと一言言葉を交わし、美女は姫香の方を向く。ヘルズと会った時とは別の緊張が、姫香の身体を突き抜ける。彼女の美貌の前に怯んでいる、と数秒遅れて気が付く。


「あら、貴方が例の美少女ちゃん?」


 話しかけられた瞬間、姫香の身体がビクッと震えた。全身の毛が逆立つ。こんなきれいな声は聞いた事がない。見た目だけではなく声も綺麗なのか。ああ、今すぐにあの胸元に飛び込みたい、彼女と愛を分かち合いたいと、脳が訴えて来る。今すぐに頭の中を彼女で一杯にしたい。そこまで考えた時、目の前のヘルズの顔が現れた。ショートしかけていた脳が正常に戻る。


「おい、大丈夫か?」


「あ、はい、だ、大丈夫でしゅ」


 思わず変な言葉が出てしまう。それを見て美女がクスクスと笑う。


「貴方、可愛いわね」


 その言葉にまた脳がショートしかけるが、寸前で耐える。


「コイツは俺達のおもちゃ担当、二ノ宮来瞳にのみや くるみ。見た目は超絶美少女だが、極度の引きこもりで、俺以上にネトゲ廃人だ。そして自分が安全と認めた人間以外誰ともコミュニケーションを取らない人間だ。二ノ宮、コイツは姫香。俺達の秘密を知っている唯一の一般人だ」


 ヘルズの言葉に、二ノ宮は微笑む。


「紹介ありがと、ヘルズ。何か質問はある、姫香ちゃん?」


 その言葉に、姫香の脳がまたショートした。脳が彼女の言葉を欲している。もっと自分に言葉を向けてほしい。向けてくれる言葉は何でもいい。何であろうと、それが自分に向けて放たれる言葉であれば。彼女をこの手で感じたい。そう思い姫香が二ノ宮に向かって手を伸ばした瞬間、その手が叩かれた。その痛みで我に返る。


「悪ふざけはよせ、二ノ宮」


「分かったわ。で、質問は無しでいい?姫香ちゃん」


 さすがにもう耐性がついて来たようだ。脳がショートする事はない。姫香は深呼吸をすると二ノ宮に聞いた。


「さっきヘルズさんが言っていた通りだと、二ノ宮さんは極度の引きこもりだそうですけど、何で引きこもってるんですか?その容姿なら、恥ずかしい所なんてどこにもないのに」


 姫香の言葉に、二ノ宮がうつむいた。代わりにヘルズが答える。


「だからこそ、だよ。外に出れば下心丸出しの低レベルな男どもが寄って来る。可愛すぎるってのは罪だな。ちょっと外を歩くだけでコイツには強姦の危険が付きまとう」


 そこで一旦言葉を切り、ヘルズは吐き捨てるように続ける。


「それにコイツは外で遊ぶよりも部屋で新しいおもちゃを作ってる方が楽しい人間だ。それなのに馬鹿な奴らと来たら、コイツを自分の人気を上げるための箔として扱う為だけにコイツを外に連れ出そうとするんだ。だからコイツは自分を無理矢理外に引きずり出そうとしない、安全な人間とだけコミュニケーションを取ろうとするんだ。よかったな、お前は一発で安全と認められたみたいだぞ」


 ヘルズがそこまで言ったとき、二ノ宮がヘルズに抱き着いた。突然抱き着かれてヘルズがバランスを崩す。自然と、二ノ宮がヘルズを押し倒す形になった。


「もういいよ、ヘルズ。私のために怒ってくれるのは嬉しいけど、これ以上私の中の好感度を上げると君を本当に二次元に転送しちゃう」


 二ノ宮がヘルズに抱き着く。ヘルズが苦しそうに叫ぶ。


「二ノ宮お前、胸!胸が当たってるから、離せ!」


「胸がどうしたのかな、ヘルズ?三回言わないと分からないよー」


 抱き着いて来る二ノ宮からどうにか脱出し、ヘルズは姫香に言う。


「コイツについて、補足があと二つあった。一つ目、コイツは俺達と同じ学校の三年一組に在籍してる。もっとも、一度も学校に来た事は無いがな。二つ目、コイツは二次元にしか恋が出来ない。以上!」


 二ノ宮がまたヘルズに抱き着き、ヘルズは再び押し倒される。二ノ宮は姫香の方を向くと、ニッコリと微笑んだ。


「じゃあ姫香ちゃん、私はヘルズとちょっと遊んだら帰るから、ヘルズの介護よろしくね」

 その微笑みに、また心が動きかける。ヘルズが叫ぶ。


「そんな事より、助けてくれ!コイツ、一度スイッチが入ったら数時間は続くんだ!おい花桐、いや姫香さん!お願いですから助けてください!」


「ふふふ、せっかく外に出たのにすぐに帰ったら無駄骨じゃない。何かスイッチも入って来たし!」


「ぎゃああああああああああ!」


 ――天下の怪盗ヘルズが、超絶美少女に押し倒されて絶叫している。

 この光景を賢一が見たらヘルズのあまりの情けなさに泣くだろうな、と姫香は思った。



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