コンビネーション・バトル
遅れてしまい申し訳ございませんでした!
廃墟の街の中を、二人の人間が走っていた。
一人はフードで顔を隠しており、自分の身の丈ほどもあるライフルを、両手で抱えて持っている。もう一人は赤髪の男で、手には剣を携えている。服にはいたるところに返り血が付着しており、男が何人も殺して来た事は明白だった。
「おい、いたぞ!」
「捕まえろ!」
後ろから追手が迫ってきたことに気が付いたフードの人物は、「チッ」と舌打ちをした。クルリ、と踵を返すと、男に言う。
「ここは私が食い止めるから、君は先に行って」
しかしそれを聞くと、男は首を振った。
「逃げ回ってばっかりじゃ埒が開かねえ。ここで全員倒すぞ」
「・・・・了解」
男に反論しても無駄だと思ったのか、フードの人物は諦めて武器を構えた。
「じゃあ、私が敵の陣形を乱すから、それまで君はどこかに隠れていて」
「分かった。じゃあ、任せたぞ」
男が近くの塹壕に隠れた事を確認すると、女は正面に向き直った。ほどなくして、激しい砂煙と共に、複数の人間が現れた。数は十数人と言った所だろうか。棍棒、刀、ランチャー、ショットガン――――etc.皆、各々に武器を装備し、こちらの様子をうかがっている。
「おい、そこのフードの女。もう一人はどうした?」
一番先頭に立っていた坊主頭の男が、フードの人物――――女に問いかける。
「って、それは今どうでもいいか。―――――なあ、悪い事は言わないから、降参したらどうだ? こっちは十四人。そっちはたったの二人。いくらアンタたちが強くても、流石にこの人数差は無理があるだろ。な、諦めてくれないか? いくら俺達だって、一人を複数人で攻撃するのは好きじゃない」
坊主頭の男が、ガリガリと頭を掻く。この男、見かけによらず優しい性格かもしれない。
だが、女は首を振った。
「お気遣い感謝するわ。けど、残念ながら降参する気は毛頭ないわ」
「そうか。それは確かに残念だな」
坊主頭の男は残念そうに言うと、右手を上げた。その指示で、集団の全員が武器を女に向ける。
「悪いが、死んでくれ」
そう言って腕を振り下ろすよりも早く、女はライフルの引き金に指をかけ、撃った。銃弾が狙い違わず敵にヒットする。
「ぎゃああ!」
「く、クソッ!」
敵の数人が倒され、陣形が僅かに崩れる。その隙を逃さず、女はライフルを連射した。途中、何発か敵の撃った弾丸が耳をかすめるが、どれも当たってはいない。
「怯むな! こっちは十四、敵はたったの一人だ! 撃ち合いになれば確実にこちらが勝利する。怯まずに撃て!」
坊主頭の男の指示で、何人かがライフルを構える。だが、その照準が女に向けられるよりも早く、女のヘッドショットが命中する。
「ぐ、ぐはっ・・・」
「む、無念・・・・」
的確なヘッドショットをくらった敵が倒れ、敵陣形に乱れが出始めた。
「す、すげえ・・・」
「ヘッドショットを二連撃とか、どんな腕前だよ・・・」
その間にも、女は狙いをつけ撃ち続ける。敵が自分に照準をつけるよりも早く、敵が武器を構えるよりも早く、無機質にヘッドショットを成功させ続ける。
「ば、馬鹿な!」
坊主頭の男が戦慄する。その時、女の腕を敵の弾丸がかすめた。女は舌打ちすると、近くにあった岩の影に隠れる。
「交代!」
女の叫び声と同時に、男が塹壕から飛び出す。突然戦場に躍り出た男は口の端を歪めると、剣を構えて
敵陣に突っ込んでいった。
「て、敵が接近中! 前衛部隊、迎え撃て!」
坊主頭の男の命令で、盾を構えた兵士が数人、男の前に立ちはだかる。
「邪魔だ」
だが男はそれを軽々と飛び越えると、剣を数回振るった。
「スキル《バック・カッター》」
男が呟くと同時、盾を持った兵士達の身体に、ギザギザの切れ込みが走った。兵士達が気が付いた直後、兵士達の身体が分断された。
「うわあああああ!」
「悪いな、そこで寝ててくれ」
そう言い残すと、男は敵陣に突撃した。
「連撃!」
―――そこから先は、一方的な蹂躙だった。
男が適当に振るった剣が敵を裂き、敵を次々に倒していく。途中からは敵の落とした剣も使用し、二刀流で敵に切り込んでいった。味方が次々に倒され、右往左往している敵を、女が遠距離からヘッドショットで仕留めていく。
「ひ、怯むな! どう足掻こうが、敵は二人! 慎重に攻めれば、勝機は十分こちらにある!」
坊主頭の男が叫ぶが、誰も指示に従おうとしない。皆、自分が逃げる事で精一杯なのだ。実際、敵の半分は出来るだけ遠くに逃げようと二人に背を向けて逃げ出しており、残りの半分は既に倒されている。
「クソッ! こうなれば俺が!」
――――組織のリーダーたるもの、自分が一番誠意を見せなければ!
坊主頭の男は背中から日本刀を抜くと、男に切りかかった。
「おりゃあああああああ!」
威勢よく走り、日本刀を振りかぶる。直後、七連撃の斬撃が舞った。
「――――遅い」
男の二刀流が坊主頭の男を切り裂いたという事に敵が気が付くのと、男が走り出すのが同時だった。
「ば、化け物だ!」
敵の一人が叫び、背を向けて逃げ出そうとする―――瞬間、赤い華が散った。
「あと四人ね」
女が呟いた瞬間、残りの四人が一斉にこちらに向かって来た。このまま逃げていてもジリ貧だという事を悟ったのだろう。その目には、闘志の色が浮かんでいる。
「相手が悪かったな、お前ら」
男が楽しそうに言い、二本の剣を振り回す。二人の頭が胴と泣き別れるが、残りの二人はわき目もふらずに走り続け、武器を――――
構えることなく、男の横を通り過ぎた。
「は?」
男が素っ頓狂な声を上げた。無理も無い。こちらはてっきり敵が死に物狂いで特攻してくると思っていたのだ。肩透かしをくらった気分だ。
「待って、あれは――――」
見ると、二人の手には緑色の結晶があった。二人は一心不乱に走り続けると、近くに居た仲間達に結晶を近づけた。まるで、この結晶を使えば仲間が蘇生する事を確信しているかのように。
「フン」
結晶が仲間に触れかけた瞬間、女の精密射撃がそれを撃ち落とした。結晶が粉々に砕け散り、破片となって地面に散らばる。スコープを除きながら、女は退屈気味に言う。
「本当にそんな物で、どうにか出来ると思っていたの?」
溜息と同時に、引き金を引く。弾丸は敵のこめかみに寸分たがわず命中し、敵の一人が地面に倒れ込む。狙撃に気が付いた一人が慌てて物陰に隠れるも――――遅い。
赤い線が宙を舞い、最後の敵の首が切断される。男は血まみれの剣を振るって軽く血を払うと、女の方に歩いて来た。
「サンキュ。今回も助かったぜ」
「それはこっちの台詞よ。ありがとう」
男の右の親指を立てる。それに倣って、こちらも同様に右の親指を立てる。
「じゃ、そろそろ戻るか」
「そうね。そろそろ街に戻りましょう」
その時、空に金色の文字が浮かんだ。
「もう朝ですよ、ヘルズさん」
「わきゃッ⁉」
突然装着していたヘッドホンを取られ、黒明弐夜ことヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングは思わず悲鳴を上げた。
ここは、ヘルズの家のリビングだ。ヘルズの足元にはパソコンが置いてあり、画面には金色の大きな文字で『Perfect!』と表記されていた。
「いきなり何すんだよ! せっかく人が二人VS十四人の大立ち回りを演じたっていうのに、その報酬がそれかよ⁉」
「な、何の話ですか⁉」
涙目で掴みかかるヘルズに、姫香は狼狽する。ヘルズはパソコンを指さし、叫ぶ。
「ネトゲだよ、ネトゲ! このゲームで俺らに喧嘩を売って来た身の程知らず達を二ノ宮と二人でフルボッコにしてたの!」
ヘルズに言われ、姫香は画面を見る。確かに、ヘルズが勝利した事が表記されている。
「フン。たかがランキング107位風情が、このランキング2位の俺に勝てるわけがないだろ。というか、雑魚が何体居ても結果が変わらないって事に、アイツらは気付いてないのかね」
ヘルズがやれやれと言ったように肩をすくめる。いくつかツッコミたい部分はあったが、真面目な姫香はその中でも最も重要であると思われる物を絞り、聞く事にする。
「えっと、質問いいですか?」
「突然なんだ? まあ、別にいいけど」
ヘルズの了解を得た事を確認すると、姫香は笑顔で質問をした。
「ヘルズさん、今日何時間眠りましたか?」
「馬鹿かお前。そんなの寝てな――――え?」
ぶっきらぼうに言おうとしたヘルズの顔が、凍り付く。
姫香の笑顔は、先程から寸分たりとも変わらない。笑顔だっていつも通りだ。だが、何故だろうか。
そこには、得体のしれない威圧感があった。
「い、一体、何故そんな事を聞くのでしょうか・・・」
ヘルズの質問に、姫香は笑顔で答える。
「それは当然、ヘルズさんの健康のために言ってるんですよ。だってヘルズさんが病気になったら私、とても悲しいですから」
-----何故だろう、美少女である姫香に言われてときめくはずなのに、何故か発言がヤンデレのそれにしか聞こえない。
ヘルズの頬を、冷たい汗が伝った。
次回は6月16日更新予定です。




