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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗vs 暗殺組織『血まみれの指』
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プロローグ

 今回から、新章開始です!

 その男は、ビルの屋上に居た。


 やや紫がかった黒髪をかきながら、ぼんやりと屋上のドアを眺めている。場所が場所だけに、来ているバーテン服がそぐわない。 


「8時ジャスト、か。そろそろいいか」


 バーテン服の男は腕時計を見て時間を確認すると、ポケットから手を抜き、右手に意識を集中させた。すると、右手に小型の球体が出現した。


「じゃあ、始めるか」


 球体をそのまま親指の上に乗せ、中指で弾く。


「ま、運が悪かったと思って諦めな」


 ピッ、という音と共に、球体が男の指から射出された。轟! という音と同時に球体は爆発的な速度を叩き出し、屋上の壁に激突した。壁が倒壊し、屋上の壁に人ひとり通れるくらいの穴が完成する。


「屋上侵入完了。これから皆殺しに移行する」


 男がインカム越しに呟くと、インカムの向こうから不機嫌そうな女の声が聞こえてきた。


『ちょっとアンタ、まだ始めてなかったの⁉ 皆もう始めてるわよ!』


「うげっ、マジか」


 俺は予定通りに開始したのにな、と愚痴りながらも階段を降りる。するとそこには案の定、壁の破壊を聞きつけて慌てて飛んできた警備員達が居た。


「止まれ、侵入者!」


 警備員達が男に拳銃を突き付ける。だが男は意に介せず、気楽な口調で言う。 


「おいおい、人がこれから仕事をしようとしているのに、その態度は無いんじゃないか? というか、お前らここがかの無名な暗殺組織『デッドキラー』だって事知ってんのか?」


 そして、まるで警備員達など見えていないかのように、歩き出す。


「止まれ! 止まらないと撃つ!」


 警備員が引き金に力を込める。――――瞬間、その腕から血が噴き出した。


「うわあああああ!」


 警備員が絶叫し、拳銃を取り落とす。直後、拳銃にコイン程の穴が穿たれる。


「な、何だ⁉」


 もう一人の警備員が破壊された拳銃に目を落とした刹那、男が警備員に肉薄した。


「じゃあな。楽しかったぜ」


 男の手が警備員の顔を掴む。警備員は抵抗しようとするが、男の手は鉄のように硬く、上手く引き剥がせない。


「あばよ。《窒息死(エクスティア)》」


 男が呟くと同時、警備員の口の中に水が流れ込んで来る。


「がぼっ!」


 咳き込み気道を確保しようとするも、水は絶えず入って来る。


「がぼっ! 貴様、水を―――」


「水を操る能力者だと思ったか? 残念、外れだよ」


 警備員の口に水を流し込みながら、男が退屈そうに言う。


「まあでも良かったじゃん。地上で溺死できるのなんて、きっとオッサンが初めてさ」


 その時、インカムから声が聞こえた。


『あーあー、てすてす。こちら「味覚」。社長の部屋に侵入。副社長を殺害したけど、社長が逃亡。「聴覚」の話だと、このまま行けば正面入り口から逃げるつもりみたいだよ』


「あー、悪い。俺は無理そうだから、誰か代わりに行ってくれ」


『大丈夫、正面にはボスが居るから』


「そうか。なら安心だな」


 男はインカムの通信を切ると、右手に力を収束させた。







「はあ、はあ・・・・」


 (ひびき)(かつ)(ふみ)は、息を荒げていた。


 響は大手株式会社『サン・レジデンズ』の社長だ。25歳という若さで社長に昇格し、その後も新しい企画を次々に成功させ、会社の実績はうなぎ登り。『経営の天才』と呼ばれるまで上り詰めた、稀代の秀才である。会社も黒字が続き、「ヘルズに金を盗まれる可能性が高い会社ランキング」の上位に君臨する程になった。 


 しかし、それは世を忍ぶ仮の姿だ。


 この会社の実態は、金で依頼されれば婦女暴行から重要人物の抹殺までとにかく何でも行う、残虐非道な組織『デッドキラー』。社員の半分が暗殺者で構成されており、金を稼ぐためならどんな手段もいとわない、完全な悪の組織である。


「クソッ、私の城が!」


 拳を地面に叩きつけ、吠える。それでも怒りが収まらず、拳を2,3度打ちつける。


「アイツらのせいで・・・クソッ! どうする、奴らがあれを警察に出せば終わりだ。チッ、こんな事なら裏メニューに売春を追加しとくんじゃなかった。あれさえなければいくらでも誤魔化し用はあるのに・・・」


 暗殺の依頼以外にも金を稼ぐために、裏メニューとして売春を入れていたのは失敗だった。売春は効率的に金を稼げるために重宝していたが、やはり間違いだったようだ。 


「クソッ! どう出る、ビルに戻って賊を全滅させるか? いや、あの副社長を瞬殺するくらいだ、よほどの腕だろうな」


 響の脳裏に、先程の光景が蘇る。


 ―――突然、小学生くらいの男の子が現れたと思ったら、驚きで固まっている副社長を瞬殺、そして私も殺そうとした。


「彼は良い私の右腕だったのに、残念だ」


 響は大して悲しくも無さそうに言うと、スッと立ち上がった。


「仕方ない、ここは社長として人肌脱ごうじゃないか」


 響自身も暗殺者であり、同時に身体に機械を仕込んで自らを強化した『機械人間』だ。並みの相手なら負けないし、仮に恐ろしく強い相手でも、身体に仕込んだ特殊装備を駆使すれば互角の戦いは出来る。


「暗殺家業、17年。鍛え上げられた私の能力、舐めるなよ」


 その時、パチパチという、拍手の音が聞こえた。


「誰だ⁉」


 響が振り返ると、そこには一人の青年が立っていた。逆光で顔は見えないが、暗殺歴17年の響が気付けなかったという事は、只者ではない。


「何者だ?」


 響は腰を落として尋ねる。それを聞くと、青年は頭を下げた。


「社長単独で敵地に攻め込むとは、見事なご決断です。感服しました。そして感服と同時に、謝罪申し上げます。今回は僕の仲間がご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした」 


 頭を下げる青年に警戒を解かず、響は聞いた。


「お前があの組織のボスか?」


「まあ、簡単に言うとそうなります」


「ふん、そうか」


 響は鼻を鳴らした。 


「で、この責任はどう取ってくれるんだ? こっちは社員を半分殺され、さらに副社長も殺されたんだぞ。貴様らどう責任を取ると言うんだ?」


 すると、青年は頭を上げた。


「あ、その点は大丈夫です。それについては、ぬかりありません」


 その言葉を、響は鼻で笑った。


「大丈夫だと? 不法侵入に器物損害、挙句大量殺人までやらかしておいて、一体どこに大丈夫な要素があると言うんだ?」


 響の嘲笑に、青年は肩をすくめた。


「だから、大丈夫なんですよ。だって貴方が死ねば、全て解決するんですから。目撃者が全員死に、証拠も全て隠滅すれば、完全犯罪の完成ですよね」


「なッ・・・・⁉」


 その、あまりにもサラリと放たれた青年の発言に、響の脳が一瞬、凍り付いた。


 青年が両手を広げる。


「もうあまり時間がありませんし、さっさと終わらせましょうか。どうぞ、かかってきてください」


 その言葉に、響の中で何かが切れた。


 暗殺者としての尊厳を踏みにじられたのだという事に気が付いた時には、既に地面を踏みしめて駆け出していた。


「うおおおおおおお!」 


 拳を構えて、青年に突撃していく。作戦などない。ただ、目の前に居るこの忌々しい敵を一刻も早く殲滅する事しか頭になかった。


「おりゃあああああああ!」


 叫び声と同時に、靴底に仕込んだ火薬を起動。身体が前に押し出され、青年の眼前に移動する。そのまま、拳を振りかぶる。 


「《・・・(ティング)》」


 青年が何かを呟くと同時、響は青年を殴りつけた。鈍い破砕音と共に青年の身体がひしゃげる――――事はなく、響の拳は虚しく空を切る。


「は?」


「暗殺歴17年と言うから強いと思っていたのに、残念です」

 その声に驚いて響が真横を見ると、そこには青年が立っていた。


(一体・・・何が起こって・・・・)


 響の拳は確かに当たったはずだ。いや、当たらなければおかしい。あの間合いで、機械人間である響が外すはずがない。なのに、何故―――


「では、さようなら」 


 青年の姿が掻き消え、響の目の前に移動する。響は防御しようとしたが、それよりも青年の拳の方が速い。青年の拳が、響の胸に突き刺さる。


「《叛逆(はんぎゃく)未遂(みすい)(いかずち)》」


 青年の拳が響の心臓を突き破り、響の生命はそこで途切れた。







「俺達は、『血まみれの指』」


 バーテン服の男が、血まみれの指を舐めながら言う。その足下には、溺死した警備員の死体が転がっている。


「お前らじゃ絶対に勝てない、暗殺組織だよ」

 次回は6月14日更新です。

 番外編は時間のある時に更新致します。

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