テロ組織、壊滅(こいつら何かしたっけ?)
ヘルズは静かに、影未の言葉を吟味していた。
やがて、その口が開く。
「だから、何?」
影未はしばらく、その発言の意味が理解出来なかった。
「は?」
何故影未という低犯罪者が、『最強の犯罪者』の弟子であるヘルズ相手に余裕でいられたのか。その理由は先程述べた通り、彼女が6か国のテロ組織の参謀を努めているからに他ならない。影未が命じればテロリストたちが飛んでくると言うのも、ハッタリではない。
それなのにこの男は、そんな高い位に立つ影未に、「だから何?」と聞いたのだ。影未がその気になれば6か国のテロリストを敵に回す事になるにも関わらず、この男は平然としている。
その事に、影未は優越感が消えていくのを感じた。
「余裕ぶっていられるのも今のうちよ。今組織の皆を呼び出して、貴方をリンチにしてもらうから」
影未は口の端を歪めると、腰のベルトから無線機を抜いた。6か国同時に通信は不可能なため、最も凶悪なテロリストが揃っている、ロシアのテロリストに連絡を取る。
「応答せよ、こちら影未。シェルマンジェ宮殿にて、私の妨害をする者が現れた。直ちに応援求む。繰り返す。シェルマンジェ宮殿にて、私の妨害をする者が現れた。直ちに応援求む」
ところが、返信が返ってこない。昼寝でもしているのだろうか。
「お、応答せよ! こちら影未。シェルマンジェ宮殿にて、敵と交戦中。直ちに応援求む。繰り返す。直ちに応援求む!」
それでも返信が返ってこない事に影未は焦りを覚えた。慌てて他の国との連絡も試みるが、どの国からも返信が返ってこない。今回の計画の要となる、イギリスのメンバーからさえも、だ。
「クソッ、どうなってるのよ! 何で誰も出ないわけ⁉ 百歩譲って5か国は出ないとしても、何でイギリスまで出ないわけ⁉ ふざけてるの、ねえふざけてるの!」
影未が発狂するのを、ヘルズは冷ややかな目で見つめていた。
影未が通信を送る、十五分前。
ロシアの組織は、大混乱に陥っていた。
「う、うわあああ!」
「畜生、なんだコイツ⁉ 人間じゃねえ!」
「銃を! 誰か銃を渡せ!」
「無駄だ! 奴に銃は効かないぞ!」
テロリストたちの叫び声が、四方八方から聞こえて来る。
アジトはすでに、壊滅状態だ。
テーブルや椅子はひっくり返り、粉々に破壊されている。棚は倒れており、書類が床に散乱している。
その中を、割れ関せずといった感じで一人の人間が歩いて来る。テロリストたちはその人間を見ると悲鳴を上げ、我先にと逃げ始めた。
「こ、この侵入者が!」
一人のテロリストが勇気を振り絞って、その人間に散弾銃を向ける。そのまま何の躊躇いもなく連射し、背を向けて逃げる。
「や、やったか⁉」
テロリストたちが状況を確認しようと振り返る。
と、その目が見開かれる。
人間は飛んで来た散弾を全て掴み取っていた。それも、素手で。
「う、嘘だろ・・・」
一人のテロリストが膝を突く。その時、一人の男が進み出た。組織内でも一、二位を争う豪傑だ。彼は肩にロケットランチャーを担いでいた。それを見た仲間の顔が青ざめる。
「お、おいそれって・・・」
「俺たちの切り札だろ? こんな所で使ってもいいのか?」
仲間の不安そうな声に、男は吠えた。
「うるせえ! ここで死んだら元も子もないだろうが!」
そしてロケットランチャーの引き金を引いた。轟音と共に対戦車ミサイルが発射され、人間に向かって一直線に飛んでいく。爆発音が轟き、爆風が男たちを襲う。
「こ、今度こそやったか?」
「分からん。でもあれをくらえばただでは済むまい」
「奴が負傷していれば、我々にも勝ち目はあるぞ!」
「おお、わずかだが勝ち目が見えてきたぞ!」
その時、近くからガツンという音が聞こえた。続いて、抑揚のない声が聞こえて来た。
「ふう。危なかった」
その、明らかに仲間の声ではないその声に、全員の背中に冷や汗が流れる。まさか、死ななかったのか?
「でも、この程度なら余裕」
その言葉を皮切りに、その場に居た全員が逃げたした。とにかく出口を目指して、一目散に走り続ける。
「ぎゃあ!」
近くから仲間の悲鳴が聞こえる。だが立ち止まってはいられない。元々、互いの名前もロクに覚えていない組織だ。一人や二人死んだところで、誰の心も痛まない。
「ぎゃあ!」
また、誰かの悲鳴が聞こえる。だが構わずに走り続ける。
その時、何者かに襟首を掴まれた。
「捕まえた。貴方、人質ね」
少女らしき声が男の耳元で聞こえ、男は思わず身震いした。
「主席は『6か国あるから、ちょっとはリハビリになるだろ』って言ってたけど、これじゃリハビリにもならない。主席、私を舐めすぎ」
少女の不満そうな言動に、男は我が耳を疑った。
(6か国⁉ まさかコイツ、テロリスト5か国を潰して来たのか⁉)
「まあいい。ねえ、そこの貴方」
少女は相変わらず抑揚のない声で、男に言う。
「金庫がどこにあるか、知ってる?」
その身体から殺気を感じた男は、首を縦に振った。
「そう。じゃあ、案内して」
拒否権のない“お願い”に男は膝が震えるのを感じながら、少女を金庫へ案内する。
「こ、こちらです」
金庫まであと数歩となった瞬間、男は突然振り向いた。そして、義肢の力を作動させる。
「よくもやってくれたな、小娘がぁぁぁぁぁ!」
そう、男は改造人間。組織でもトップの力を誇る、今回の計画の要でもある男である。
義肢を炸裂させ、少女に突っ込む。そしてーーーーー
男は、瞬殺された。
「弱いね、貴方」
少女の声が、気絶した男の脳内に響き渡る。




