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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と自由になりたい王女
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究極の一撃

 更新一日遅れ、申し訳ございません(風邪で倒れてました)。

 今回は、ティルムズとヘルズの戦いに終止符が打たれます。

『ねえ、今日はどんな技を見せてくれるの?』


 敵の刃が迫る中、ヘルズは走馬燈を見ていた。

 それは、古い記憶。


 ――――あの少女が、まだ生きていた頃の記憶。


『今日は俺の一番の必殺技を見せてやるよ』


 幼き頃の弐夜が言い、林の中に入って行く。その後ろに、少女二人が続く。


『で、今日はどんな物を見せてくれるの?』


『はは、そう焦るなよ、チャルカ』


 弐夜はそう言って片方の少女、チャルカをなだめると、意識を集中させた。


「よし、行くぜ。この技はちょっと危ないから、二人とも下がっててな。そうそう、そこら辺でいいや。じゃあ行くぜ、俺の新必殺技―――――」


 弐夜は左手を掲げると、右の手首をしっかりと握った。右腕が、何かに耐えかねるかのように震動する。


 そして――――


『あれ、ここは・・・』


 後頭部に柔らかい感触を感じ、慌てて起きる。どうやら気を失っていたようだ。


『起きた? 弐夜』


 すぐ近くで、少女の声が聞こえる。正座をしているところを見ると、弐夜に膝枕をしてくれていたらしい。どうりで寝起きが良いわけだ。ついでに言うと、何故か唇が濡れている。人工呼吸でもしてくれたのだろうか。


『俺は、一体・・・』


 全身が軋むように痛い。辺りを見回すと、そこには相変わらず無表情のチャルカの姿があった。しかし、その体は傷だらけだ。そして、何故か付近一帯の木が根こそぎ折れている。


『弐夜、自分の使った技の衝撃で六時間も眠ってたんだよ』


「マジかよ。それは凄いな。今度訓練をサボる時に使ってみようかな」


『ふざけないで!』


 よく見ると、少女は泣いていた。目を赤く腫らしており、本気で弐夜の心配をしているのが見て取れた。


『弐夜が死んじゃったんじゃないかって私、怖くて心臓が止まるんじゃないかと思ったんだから!』


「あ、ああ。すまん」


 自分はここまで少女を心配させてしまったのか。弐夜の胸が、ズキリと痛んだ。


『ねえ、弐夜。お願いがあるの』


 少女が弐夜の頬に触れる。


『何があっても、その技は私の見ていない所で使わないで。―――その技を使うことで、弐夜が私の見てない所で大怪我をしてると思うと、耐えられないから』


 そこで走馬燈が終わり、ヘルズの意識が引き戻される―――――













「は・・・・」


 影未は、目の前の光景が信じられなかった。


 ティルムズの首から上が、綺麗に分断されていた。さらにティルムズの心臓に赤い、棒のような物が突き刺さっていた。棒はヘルズの肩口から伸びている。

 否、それは棒ではない。ヘルズの腕だ。ヘルズ自身の血で、腕は真っ赤に濡れている。


「悪いな。この技、使っちまった・・・・」


 ヘルズの顔は、どこか儚げだ。


「一体、何が・・・」


 影未が呟くと同時、ヘルズが腕を引き抜く。ヘルズの腕が心臓から引き抜かれた瞬間、ティルムズの身体に異変が起きた。身体がドロドロになり、物質が元の粘土に戻る。ティルムズの回復力が限界を超えて、ただの土塊に戻ったのだ。


「な、何をしたの⁉」


「くくっ。腕に秘められた黒龍の力を解放しただけだよ」


「ふざけないで!」


 どこまでも厨二病を貫こうとするヘルズに、影未は思わず叫んだ。


――――人間が、超合金を切断する。


 そんな事が、あり得るわけがない。少なくとも影未は、今までそう思って生きて来た。

 だが、この男はその常識を覆した。


 まるで、最初から無かったかのように。ルールは破られるために会ったかのように。

 あまりにも呆気なく、世界の常識(ルール)は破られてしまった。それも、たった一人の男の手によって。


「一体どんな手を使ったら、そんな方法が出来るっていうのよ?」


「《暴帝撃滅(キリング・ゼロ)》。俺の超必殺技の一つだよ」


 やはり疲労しているのか、ヘルズが息も絶え絶えに答えた。血まみれの腕を左手で支え、体幹を失っているのかふらふらしている。


「自分の右腕に全エネルギーを収束させて、それを左手で押さえる。そして肉体の暴走を促し、タイミングを見て一気に解き放つ。まあ世に聞く『暴走』って技だな」


「で、でもそれじゃあ、大した威力は出ないはずよ!」


 かつて『最強の犯罪者』が作ったとされる、人体の神秘とも呼ばれる奥義の一つ。


『暴走』


 ヘルズが述べた通り、一時的に力を収束させて、それを解き放つ事で、通常の5,6倍の力をも叩き出す事が出来る、超技だ。肉体なら全身の力を、精神なら精神状態を極限まで溜めて行うそれは、時にミサイルにすら匹敵すると言われている。


 影未もその技は知っている。確かにそれを使えば今のヘルズの攻撃力以上の力が出せるかもしれないが、それだけでは超合金で出来たティルムズを破壊する事は不可能だ。

 だが、ヘルズはそれを聞くと、口の端を歪めた。


「だから、肉体と精神の両方を暴走させた。力を収束させた事によって起こる破壊欲求に半分以上理性を支配させて、それをギリギリの所でとどめる。こうする事で軽い精神崩壊を引き起こし、精神にも同等の暴走が起こって威力が更に倍増するって寸法だ」


 ヘルズの答えに、影未は戦慄した。


 肉体と精神、両方の暴走による、自壊の一撃。


「嘘でしょ・・・そんな事が・・・・」


 肉体か精神、どちらかを暴走させることは、ある程度の戦闘を積んで来た戦士なら誰でも出来る事だ。

 だが、それを同時に暴走させることは限りなく不可能に近い。


 そもそも、この暴走技は失敗作なのだ。


 肉体の暴走は相手に与えるダメージが大きくなるが、それ以上に自身の肉体自壊のダメージの方が大きくなる。


 また、精神の暴走を促すと、自我を失い一時的に全身のリミッターを切って、肉体の限界を超えた特攻する事が出来るという利点があるが、自我を失っているためか攻撃が単調になり、攻撃が全て避けられてしまうという事が確認されているからだ。


 よって、この『暴走』技は、今では誰も使う者が居ない。メリットよりデメリットの方が多い技を使う者は居ないからだ。


 誰も使っていない技を使う男、ヘルズ。まさに厨二病と言える、貴重な人材だ。


「ま、自慢できる程凄い技でもないぜ。使えば確実に腕一本を代償にするからな。最悪、肩から先がちぎれ飛ぶし」


 ヘルズが荒い息を吐きながら、それでもキザな口調で言う。その右腕からは、未だにおびただしい量の血が流れ出ている。


「ったく、まさか一日に二回も俺の奥義を解放する事になるとはな。もっと精進しないとな、俺も」


 身体の一部を媒体として使い、肉体と精神に極限まで負荷をかける事であらゆる物を破壊できる攻撃力を叩き出せる、ヘルズの超必殺技、《暴帝撃滅(キリング・ゼロ)》。


 まさに『攻撃特化の必殺技』と呼んでも差し支えない一撃に、影未は戦慄していた。



「さて、と」


 ヘルズがそう呟くのと、影未の顔面が掴まれるのはほぼ同時だった。


「あ、ぐぁっ・・・!」


 万力の力が影未の頭を締め付け、影未はうめき声を上げる。


「なあ、どうしてわざわざこの俺があんな泥人形一体を倒すために、右腕一本を犠牲にしたんだと思う?」


 地獄の底から聞こえて来るような冷え冷えとした声が、影未の鼓膜に響き渡る。


「答えは簡単。この技が、一番厨二力が高いからだ」


 その目には、先程までは無かった、殺意の炎が揺らめいていた。


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