天下の厨二病怪盗は、どんな時でもフリーダムに否を突き付けられるようです。
今回は、いよいよ謎解きタイム!
ガチャリ、という音を立てて、窓が開く。どうやらヘルズが来ると聞いて事前に空けていたようだ。
「ったく、面倒な事させやがって・・・」
愚痴をこぼしながら、ヘルズは部屋の中に忍び込んだ。部屋の中を見渡すと、寝台のすぐそばに、キルファが立っていた。
「へ、ヘルズ、さん・・・」
その声は震えている。驚きと恐怖の入り混じった声だとヘルズはすぐに気が付いた。
「正解。よくわかったな」
ヘルズは武器を持っていない事を示すために両手を軽く開閉させて見せる。それを見て少し落ち着いたのか、キルファは安堵の息を吐くと、寝台に腰かけた。
「こんな夜分に、どのようなご用件ですか?」
「なあに、ちょっと謎解きを少々」
ヘルズの不思議な発言に、キルファは眉をひそめた。
「謎解き?」
「ああ、それから一つ言い忘れていたが」
キルファの疑問を無視して、ヘルズは続ける。眼帯の付いて居ない方の目をカッと見開き―――
「俺は、お前の期待には応えられない」
キルファの目を見て、はっきりと告げた。
「期待に応えられない、とは?」
不思議そうな声で、キルファがヘルズに聞いた。
「言葉の通りだ。この俺、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングは、イギリス王女・キルファ=ヴァーテルを盗めない、って意味だよ」
その言葉に、キルファの身体が少し揺らいだ。まるで、確かだった物が崩れ落ちたかのように。
「どうして、ですか?」
数秒の静寂の後、キルファが暗い声で尋ねた。
「どうして、って言われてもな。自己中を助けるほど、俺もお人よしじゃないし」
ヘルズが相変わらずの飄々とした態度で答える。その態度には、王女の御前であるから少しは礼儀正しい態度にしようとか思う姿勢は微塵も無い。
「じゃあ、疑問も解消された所で謎解きといこうか。悪いが探偵としては素人だから、説明力がないのは目を瞑ってくれ」
ヘルズは壁に寄りかかると、指を一本立てた。
「まず一つ目。俺が最初に疑問に思ったのは、お前の依頼だ。どうして、お前は俺達に依頼した?」
いつもと変わらぬ声色で、ヘルズがキルファに聞く。キルファはうつむいて答えない。
「イギリスの王女であるお前が、反国家勢力に狙われているのは分かった。そんな物、国の歴史を紐解けばいくらでもある事だ。だが何で隠れ場所として俺を選んだ?
『反国家勢力に狙われている=ヘルズに助けてもらう』っていう式はどう考えてもおかしい。そんな事、誰だって分かる簡単な事だ。別に俺に助けてもらわなくても、助けてくれる機構なんていくらでもある。それなのに何故、俺を選んだ?」
そう、思えばこの事件は最初からおかしかった。
何故王女ともあろう人間が、わざわざヘルズに頼むのか。漫画なら打ち切りレベルの超展開を、何故彼女は行ったのか。
「二つ目。なんでテロ組織が狙ってるっていうのに、アンタはそんなに冷静なんだ?」
普通、自分が四六時中テロ組織に狙われていると分かれば、キルファくらいの年ならここまで冷静ではいられない。軽く精神崩壊を起こし、数日寝込んでもおかしくない。
「女性っていうのはどんなに取り繕っても根本は弱い生き物だ。テロリストどころか、ストーカーに二週間追尾されただけでも精神を病むくらいだ。なのに、どうしてアンタは現在進行形でテロリストに狙われていて、そんなに元気そうなんだ?」
幾多の修羅場をくぐり抜けて精神が強化されたという可能性もあるが、それは無いと切り捨てる。もしそうなら、その者特有の覇気が身について居るからだ。そしてキルファにはそれが無い。
「そして三つ目。俺の組織のスパイが、こんな物を入手して来たんだけど」
ヘルズが懐から新聞取り出し、キルファに放る。それは、キルファが応接室のソファに隠していた物と全く同じ物だった。
「それは俺が花桐を盗んだ時の記事だ。どうしてこんな物が応接室にある?」
ヘルズの眼光がキルファの目を貫く。その目に浮かぶ燃えさかるような殺意を見て、キルファ背中に氷塊を入れられた気分になった。
「今の三つを踏まえて、さあレッツシンキング! といきたい所だが、悪いがもう答えは出てるんでな。答え合わせと行こうか」
「あ、ヤバい」
ホテルの一室で、二ノ宮が呟いた。
「どうしたんですか、二ノ宮さん」
床に寝転がってラジオをいじっていた姫香が、振り返って二ノ宮に聞いた。
「ヤバい、予想外だどうしよう・・・さすがにヘルズもこれじゃ無理かも・・・」
「どうしたんですか?」
慌てて二ノ宮の近くにより、肩越しにパソコンを覗き込む。そこには、十数人の男達が立っていた。
「この人達が、どうかしたんですか?」
「彼ら、ICPOの連中よ」
「え・・・・」
ICPOの噂は、姫香も聞いた事がある。
何でも、凄腕の逸材が揃っているのだがどれも個性が強く、集団行動には向かない警察隊の事らしい。
人数は全部で十二人。そのどれもが凄まじい実力を誇っており、一流の犯罪者ですら『敵に回さないが吉』と言っているらしい(ヘルズファンの真理亜と沙織から聞いた事なので、あまり信用は出来ないが)。
「しかも多い・・・まさか全員出動させたっていうの⁉」
だとすれば大惨事だ。一対一ならとにかく、いくらヘルズが強くても彼らを同時に相手取って勝てるわけがない。見つかれば最後、ヘルズの逮捕は確実だろう。
「ヘルズへの通信手段はないし・・・ああ、もう! どうしたらいいの⁉」
二ノ宮が珍しく焦った声を出す。姫香も焦る気持ちを抑えながら、打開策を考える。
まず、自分達が出て説得、というのは論外だ。彼らが説得に応じるとは思えないし、最悪ヘルズの一味と思われて、その場で逮捕される可能性もある。
「どうすれば、どうすれば―――――」
頭が混乱する。焦り過ぎてゲシュタルト崩壊を起こしそうになったその時―――肩に手が置かれた。振り返ると、そこには二ノ宮の輝いた顔があった。
「打開策があったわよ、姫香ちゃん。――――厨二病になり切ってみて」
「本当にヘルズは居るんだろうな」
『猟犬』アシュル・ウィナーが、松林に喧嘩腰に聞いた。
「知るかよ。俺はヘルズじゃない」
対する松林も、ぶっきらぼうに答える。
「テメエ、そんないい加減でよく刑事なんてやってられたな!」
「ああ、悪かったな刑事なんかをやっていて!」
アシュルが松林の胸倉を掴み上げる。松林も負けじと胸倉を掴んでいるアシュルの手首を掴み、自慢の握力で締め上げる。
「まあまあ、その位にしときましょうよ。ほら、他の皆さんにも迷惑ですし」
『一般人』フツウ・ジンが割って入り、どうにかその場は収まった。バチバチと火花を散らす二人を見て、松林の部下たちは冷や汗を流した。
「ど、どうしてこうなったんだっけ・・・?」
「確か、ICPOの人達と合流して数分後に、アシュルさんが『お前なんかに俺達を仕切れるのか?
あ?』って聞いたのが事の発端だよな・・・・」
「ああ、胃が痛い・・・」
なにを言おうが、彼らは松林達とは次元が違う高みに居る存在だ。その気になれば、一瞬で松林達をクビに出来る、いわば上司だ。
それなのに、そんな存在とタメを張っている松林を見て、部下たちは自然に溜息を零していた。
「そう言えば、松林さんってこういう人だったっけ・・・」
「犯人検挙率は関東地方ぶっちぎりのトップなのに、上司にはっきりと否を突き付けるせいで昇進の可能性はゼロ・・・・」
「もう少し上手く立ち回ればいいのに・・・」
部下たちが落胆の声を漏らした時、『完掘王』タクオ・ムルが前方を指さして叫んだ。
「おい、あれは何だ⁉」
その言葉に、全員の視線が前方に向く。前方に居たのは、一人の男だ。目に眼帯を付け、腕には包帯、背中にマントを付けている。この格好は―――――
「ヘルズだ!」
松林がいち早く反応し、拳銃を抜いた。ヘルズは全員が自分に注目した事を確認すると、手を腰に当てた。
「ハッ、その通り! 我が名はヘルズ! 怪盗を生業とする者であり、狙った獲物は逃がさない、神出鬼没の怪盗!」
ヘルズはそう言って、高らかに笑うが――――
「え? ヘルズって、女?」
そのソプラノボイスに、松林の目が点になる。そんな松林を突き飛ばし、『猟犬』アシュル・ウィナーが前に進み出る。
「どっちでもいい。そんな事は逮捕すれば分かる事だ」
その右手には、メリケンサックがはめられている。どうやらアシュルの得意武器は『拳』らしい。
「おい、怪盗ヘルズとか言ったな!」
アシュルが声を張り上げ、ヘルズに怒鳴る。
「よく俺達の前にのこのこと現れてくれたな。その勇気に免じて、半殺しで許してやる」
その言葉に、ヘルズは一瞬身体を震わせ――――
「ふ、ふっふっふ。き、貴様らにこの俺が捕まえられるかな!」
一目散に、逃げ出した。
「あ、待て!」
アシュルがその後を追う。それに続いて、他の皆もその後を追う。
「ふははははは!」
ヘルズはシェルマンジェ宮殿内を逃げ回る。それを一二人+部下たちが追う。
そして三〇分後、鬼ごっこもついに終盤を迎えた。
「もう逃がさないぜ、神出鬼没の怪盗様よ」
袋小路に追い込まれたヘルズを見て、アシュルが残忍な笑みを浮かべる。
「さあ、大人しく捕まりな!」
アシュルの指示で、その場に居る全員がヘルズに向かって足を踏み出した、その瞬間。
地面に大きな穴が空き、ヘルズを除く全員が穴に落下した。
「うあああああああああ!」
「な、何故、ぐはっ」
皆口々に何かを言いながら、穴に落下していく。ヘルズは全員が穴に落下した事を確認すると、安堵の息を漏らした。




