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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と囚われの姫
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表の顔と裏の顔

 今回はいつもに比べると少し長いです。でもその分面白くなるように頑張ったので、どうぞお楽しみください。

暗い部屋の中で、男はパソコンを操作していた。


「これで俺の勝ち、と。チッ、経験値少なすぎるだろ。業火の炎で焼き尽くしてやろうか運営め」


 運営に向かって毒を吐くと、男は時計を見た。


「十一時半か・・・。まあいいや、今日は元々学校サボる予定だったし」


 黒明(くろあき)弐夜(にや)、一七歳。引きこもり、ネトゲ廃人、厨二病と、三拍子そろった駄目人間。一応、高校二年生である。両親とは離れて暮らしており、現在一人暮らしだ。


「おっ、このモンスター格好いいな。くくっ、右腕が疼くぜ」


 弐夜がそう言った時、ポケットの中から着信音がした。弐夜は面倒くさそうに携帯電話を取り出すと、着信ボタンを押した。


「はい、黒明さんちの弐夜君です。間違い電話、もとい悪戯電話だった場合、太陽系外まで吹き飛ばしますのでご了承下さい」


『おい黒明お前、今日も学校に来ないつもりか』


 誰かと思ったら我らが担任教師だった。面倒くさいので、知らないふりをする事にした。


「どちら様でしょうか?名前を名乗らない場合、間違い電話と認識して太陽系外まで吹き飛ばしますが」


『オレだよオレ。(ふる)()幸一(こういち)だ。ほら、これでいいだろ』


 相手が名乗ったが、面白そうなのでもう少しふざけてみる事にする。


「なるほど、オレオレ詐欺ですか。ならば塵も残さず滅却する事になりますが、よろしいですか?」


『おい、これ以上ふざけるようならお前の机の中にあるラノベ全部燃やすぞ』


「やってみろ、血の雨が降るぞ」


 弐夜が半分本気で言うと、降谷は溜息を吐いた。


『そろそろ本題に入るぞ。お前、今日も学校来ないつもりか?』


「当たり前だろ。今日はかっこいいキャラの経験値をためるのと二時から始まるイベントで忙しい」


『いい加減学校に来い』


「やだよ、俺は二週間に一日しか学校に行かないと決めてるんだ」


『じゃあ今日をその一日にしろ』


「断る」


 ある意味力強く弐夜が答えると、受話器の向こうから呆れた声が聞こえてきた。


『お前、顔だけはいいんだから学校来れば女子からモテまくりだぞ? お前が女子からなんて呼ばれてるか教えてやろうか? 〝神出鬼没のイケメン〟だよ』


「顔だけ褒められてもうれしくねえよ」


 弐夜が答えると、受話器の向こうから降谷の苦笑した声が返ってくる。


『お前の中身を褒められる奴の神経が信じられねえよ』


「そうだな。まあどうせ俺なんて顔がいいだけなんだし、学校に行っても意味ないだろ。てなわけで切るぞ」


 そう言って電話を切ろうとすると、降谷が慌てた声で止めた。


『待て待て、勝手に切るな』


「何だよ、まだ何かあるのかよ?」


『お前が居ないと報酬の分配の話が出来ないだろうが、怪盗ヘルズ』


 幸一が言った言葉に顔色一つ変えず、弐夜は聞いた。


「いいのか、職員室で俺の二つ名を呼んで」


『安心しろ、オレがかけてるのは屋上からだ』


「さすが、俺の助手だな」


『いつからオレがお前の助手になったんだよ。まあいい、とにかく今日は学校に来いよ』


「はいはい」

 

 二つ返事で返して電話を切る。そして、来ていたジャージを脱いだ。


 そう、さっき降谷が言っていた通り、弐夜は怪盗である。表の顔は引きこもり学生。しかし裏の顔は世間を騒がせる天才怪盗。水戸黄門も驚きの二つの顔である。


 制服に着替えると、携帯ゲーム機を数台持って家を出る。できるだけ授業は受けたくないので歩いて学校に行くことにした。


 学校に着いたのは四時間目の半ばだった。昇降口で靴を履き替え、職員室に向かう。


「さて、と」


 職員室の前に立った弐夜は、さてどうやって挨拶しようかと考えた。何せ二週間も引きこもっていたのだ。高校は義務教育ではないので怒られる事は無いだろうが、質問はされるだろう。それは非常に面倒くさい。弐夜はどうやって挨拶するか考え、考えた末に・・・


「失礼します。二年三組の先ほどまで絶賛引きこもり中だった黒明弐夜です。あのニセ・・・じゃなかった、降谷先生居ますか?」


 ノックもせずにいきなり職員室の扉を開けると、驚いている教師陣に言い放った。


 教師達が唖然としている中、降谷だけは高笑いしながらこちらに近付いて来た。


「おい黒明、その職員室の入室の仕方は良くないな。ちょっと屋上まで来い。説教してやる」


 言いながら弐夜の襟首を掴むと、屋上まで引きずって行った。



「で、ちゃんとした職員室の入り方について教えてくれよ、先・生」


 屋上に着くなり、弐夜は降谷に皮肉を言った。降谷はそれを笑い飛ばす。


「ハッハー、冗談はよせヘルズ。でもまあ、中々面白かったぞ。特にあの教師共の顔がな」


 言っている間に思い出したのだろう。目が笑っている。


「発言がオッサン臭いぞ、助手君」


「誰がオッサンだ若造。俺はまだ二十六だぞ」


 降谷は太ってもいなければ痩せてもいないという、至って普通の体型だ。平凡的な顔立ちに黒ぶち眼鏡という、一見すると悪事とは全く無関係そうな人間だ。


 しかし弐夜は知っている。この男の正体は一流のスパイで、『降谷幸一』という名前も顔も、この男の仮の姿の一つだという事を。


「おい、怪人無限面相。お前の仮の姿は一体いくつあるんだい?」


「伝説の怪盗ヘルズに言われると皮肉にしか聞こえないな。変装術において、オレはお前に勝てないんだからな」


「そうだったっけか?」


「ああ。スパイのオレが言うんだから間違いない。悔しいが、変装術においてはお前に僅差で勝てねえよ」


 降谷がタバコを出して、口に咥える。ポケットからライターを出し、火を付けようとした瞬間、ライターが手の中から消える。


「スリの腕でも、俺には勝てないな」


 弐夜が一瞬のうちにスリ取ったライターを渡しながら言う。降谷は苦笑し、弐夜からライターを受け取る。


「で、今回の報酬の分配の話だろ?そんな物、9:1で決まりだろ」


 当たり前のように、弐夜が言う。その発言に、降谷の眉がピクリと動いた。


「ちょっと待て。なんでお前が9なんだ? お前はただ盗みに入っただけだろ。振り込め詐欺グループのアジトの場所掴んで来たのも、あのビルをハッキングして侵入を余裕にしたのも、オレの活躍だろ。1:9が打倒じゃないのか、ヘルズ?」


「あのハッキングプログラムを開発したのは俺だぞ。つまりハッキングはお前の手柄じゃなくて俺の手柄だ」


 弐夜が言うと、降谷も負けじと言い返す。


「そのハッキングプログラムを起動させずにセキュリティの中突っ込もうとしたのは何処のどいつだ?オレがプログラムを起動させなきゃ、お前はとっくに捕まっていたぞ」


「馬鹿も休み休み言え。あんなセキュリティ、俺にかかれば無いも同然さ」


 弐夜が挑発気味に言った時、チャイムが鳴った。昼休みの時間だ。


「おっと、昼飯の時間だ。じゃあ俺、学食で何か食ってくるわ」


 背を向けて逃げようとする弐夜の肩を、降谷が掴む。


「まだ話は終わっていないぞ、ヘルズ」


「え、でも腹減ったし、また後で・・・」


「決・め・て・か・ら・な」


 そこに得体の知れない殺気を感じた弐夜は、反射的に頷いた。







「ねえねえ、今日は屋上で食べよう」


「今日は天気もいいし、絶好のお弁当日和だと思うよ」


 昼休み、真理亜と沙織が姫香の元に来て、言った。


「うん、いいよ」


 特に断る理由も無いので一緒に行くことにする。

 屋上のドアを開けると、爽やかな風が吹き抜けた。その時、真理亜が何かを指さした。


「あ、あれ」


 真理亜が指さす先を見ると、そこには二人の人間が居た。

 片方はこの学校の先生だ。確か降谷先生。姫香たちの一つ上の学年の担任だ。もう一人は、姫香たちの先輩だろうか。制服をだらしなく着こなし、髪には寝癖がついている。教師の前だと言うのにポケットに手を突っ込んでいる。一見すると素行不良の生徒にも見えるが、それにしては体から出ているオーラが違う。


「あれ、噂の・・・」


「噂通り、凄いイケメン!」


「噂って何?」


 目を輝かせている真理亜と沙織に、姫香は聞く。


「知らないの? 私達の一つ上の学年に、凄いイケメンが居るって噂」


「でも何でか知らないけどほとんど学校に来なくて、ごくたまに学校に来るの。それで、女子たちから付いたあだ名が、〝神出鬼没のイケメン〟。二人とも、挨拶しに行こうよ。先輩に会えることなんて滅多にないよ」


 沙織が真理亜と姫香の手を引く。姫香は反対しようとしたが、二人の嬉しそうな顔を見てその気が失せた。


 三人で並んで、イケメンの先輩に近付く。先輩は、ぎこちなく向かってくる姫香たちに気が付くと、降谷先生に「ちょっと待て」と言い、姫香たちの方を向いた。


「俺に何か用か?」


「あ、あのっ!」


 真理亜が先輩に手を差し出した。


「一年二組の伊藤真理亜です!よ、よろしくお願いします!」


「あ、ああ。俺は二年三組の黒明弐夜だ。よろしく」


 突然の自己紹介に驚きながら、黒明先輩がその手を握る。二人の手が離れると、次は沙織が手を差し出した。


「同じく一年二組の片道(かたみち)沙織(さおり)です。名前だけでも覚えてくれると嬉しいです」


「ああ、俺は二年三組の・・・ってもういいか。よろしく」


 沙織の手を黒宮先輩が握る。沙織は嬉しそうな顔になると、繋いだ手をブンブンと振った。


「よろしくお願いします! 弐夜先輩」


「ああ。よ、よろしく」


 二人の手が離れる。次は姫香の番だ。姫香は緊張しながら前に出ると、おずおずと手を前に差し出した。


「い、一年二組の、は、花桐姫香です。よ、よろしくお願いします」


 緊張で何回か噛んだものの、何とか最後まで言えた。先輩は驚いたように姫香を見ると、笑顔でその手を取った。


「ああ、よろしく、花桐さん」


 その手に一瞬力がこもった、ように感じた。黒明先輩は姫香の手を放すと、三人を見回した。


「それで、今日は何の用かな?」


「え、えっと、今日は名前だけでも覚えてもらおうと思って・・・」


 真理亜が恐る恐る言うと、先輩はニッコリと笑った。


「そうか、なら大丈夫だ。ちゃんと覚えたよ。伊藤さん、片道さん、花桐さん」


「あ、ありがとうございます。では、失礼します」


 沙織が言い、三人でその場を去る。屋上から出ると、真理亜は沙織に詰め寄った。


「ちょっと沙織、何が『弐夜先輩』よ。抜け駆けしないでよ!」


「フッ、そこが私と真理亜の差ね」


「何が差よ!私より胸が小さいくせに!」


「そ、それを言うな!」

 ギャーギャー喚く二人を、姫香は無視することにした。


 ヘルズの厨二病、どうでしたか?楽しんでいただけると嬉しいです。

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