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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と『名も無き調査団』
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番外編 ごく平和的な夏祭り①

 この先ほのぼのとした日常を書けないと思うので、番外編です。

 シリアスな雰囲気のまま次章に行きたい方はご遠慮ください。

 夏休みの、とある日の夜。


 近くで夏祭りがあると聞いた峰岸馨と宮野志穂は、夏祭りに出向いていた。


「わぁー、凄い人だね!」


 志穂が楽しそうにはしゃぐ。浴衣を着て目をキラキラと輝かせている彼女に、峰岸は溜め息を吐いた。峰岸は家で寝ていたかったのだが、志穂がどうしても一緒に行くと言って聞かなかったのだ。


「ああ、本当に凄い数の人ゴミだな。まとめて消し飛ばしたくなる」


 人混みが嫌いな峰岸にとって、この数は不快を通り越して気持ち悪くなってくるレベルだ。


 その時、人の波に押された誰かが志穂に軽くぶつかった。ぶつかった範囲も威力もそれほど強くはなかったので志穂に影響はなかったが、それを見た峰岸が眉を軽く吊り上げる。


 ---直後、峰岸の体から超強力な威圧が噴き出した。


 峰岸の体から噴出したのは、幾千幾万の場数の喧嘩を積んできた故の圧倒的な威圧。この気配を感じた人間は本能的に恐怖を感じ、身動き一つ取れなくなる。


 現に、峰岸の周囲に居た人々が指一本動かせず硬直していく。あと一段階レベルを上げれば、恐怖で自分の心臓を停止するだろう。抗えない威圧。

 この威圧に逆らえる者など『最強の犯罪者』以外にはーーー


「あ、馨ちゃん。また力を使ってるでしょ! もう、駄目だよ皆をびっくりさせちゃ!」

 

 一人しか居ない。


「・・・なあ志穂、前からずっと疑問に思ってたんだが、どうしてお前には効かないんだ?」


 峰岸は呆れたように威圧を解除しながら志穂に聞く。周囲の人々は急に訪れて急に消えた威圧に怯え、二の腕を擦りながら四方八方に散らばっていく。


「そこに愛があるからだよ!」


「意味分からねえぞオイ」


 志穂の意味不明な説明に、峰岸は嘆息した。何故かは分からないが、志穂にはこの絶対の威圧が効かないのだ。


「さ、屋台を見に行こう!」


 しかしそんな理解不能な領域を考えても仕方ない。峰岸は志穂に手を引かれるまま、人混みの中に入っていった。



 峰岸と志穂が入り口ですったもんだしていた頃ーーー


 黒明弐夜と片道沙織も、別の入り口で待ち合わせをしていた。


「お待たせ。待ったか?」


 デートのテンプレのような台詞を吐く弐夜。その目には色濃い隈が浮かんでいる。ついさっきまでネトゲをやっていたのだ。


「大丈夫です。私も今来た所ですよ」


 それに対して、沙織も笑顔で答える。全体的にやる気のない弐夜とは違い、彼女は浴衣をしっかりと着こなしていた。


 美男美女カップルの集合に、周りの目が引き付けられる。きっとこれから楽しいデートが始まるのだろうーーー


「何て言うとでも思ったのかしらこのゴミクズ。脳の思考回路が全部焼き切れてるんじゃないの?」


 なんてふざけた幻想は、秒で灰塵に帰した。


「・・・相変わらずの毒舌だな沙織。俺はマゾじゃねえから、この手の悪口は喜べないんだがーーー」


「あら。女を食いまくってるゲス男が何かを言ってるわね。一度四国八十八ヶ所を巡って324の煩悩を消してきたらどうかしら。真人間に生まれ変われるわよ」


「俺の煩悩は一般人の三倍なのか?」


 これで平常運転と言うのだから恐れ入る。


「三倍で足りるだけありがたいと思いなさいよ。大体、私が何分前からここに居たと思ってるのよ」


「何分前だ?」


「44分44秒44前よ」


「不吉すぎるわ!」


 とは言え、恐らく事実だろう。片道沙織は弐夜を呪うためならそのくらい厭わない女だ。その事は身を持って知っている。


「・・・ったく、何でこんな奴と祭りになんか来たんだか」


「あら。『二人で祭りに行きたい』と言って来たのは貴方の方よ」


 そう、沙織を誘ったのは弐夜の方である。


 別に沙織に特別な感情があるとかそういうラブコメめいた事実がある訳ではない、ただ少しでも親睦を深めたかったのだ。


 頼まれたとは言えーーーそれが彼女自身の為だったとは言え、弐夜はクルシアを殺した。だからその事で沙織にどんな侮蔑の言葉を掛けられようと否定はしないし、受け入れるつもりだ。


 だが、少しでも仲良くやっていきたいのも事実だ。だから駄目元で祭りの誘いをしたのだった。


「それにしても、他のチョロイン共は平気なの?」


「チョロインって言うなよ。大丈夫だと思うぜ、皆それぞれ違う予定が入ってたし」


 二ノ宮は新しいおもちゃの試作、チャルカはヤンキー狩り、降谷と綾峰はこんな夜中まで仕事らしい。誘ってきそうな麻耶もクラスの男子がしつこいらしく、渋々夏祭りに一緒に行くらしい。


「そう言えば、姫香ちゃんが私と真理亜を誘いに来たわ。てっきり貴方と行くものだと思っていたから驚いたわよ。何かあったの?」


「いや、別に何も。たまには女子三人で遊びたいと思ったんじゃないか?」


 常に弐夜が居るわけではない。姫香には姫香の人間関係がある。


「で、どこか行きたい場所でもあるの?」


「ああ、まず最初になーーー」


 その時、ゾクリとする気配がヘルズを襲った。全身を恐怖が包み込み、金縛りにあったかの如く動けなくなる。


「なッーーー」


 動けない中、それでも眼球のみを動かすと、そこには同じく硬直している沙織が居た。彼女も動けないのか、顔に緊張を走らせている。


(これは、まさかーーー)


 いや、間違いない。裏社会でも上位に入る二人を縛るほどの強力な威圧。かつ、こんな平和な夏祭りに顔を出す人物はヘルズの知る限り一人しか居ない。


 そしてその者の性格上、この威圧が解除されることはーーー


(・・・アレ?)


 ずっとこのまま石像状態である事を覚悟した弐夜は素っ頓狂な声を上げる。何故だか体が動く。


「嘘でしょ・・・」


 隣の沙織も驚いている。こんな事は前代未聞だ。


「「あの威圧が、止んだ?」」


 暫定容疑者、峰岸馨。


 弐夜も沙織も勝てないその人物は、一度何かに苛立ったら最後、気が済むまで力を振るうと言う暴君のような事をすることが多々ある。


 そんな人物の八つ当たりが、こんな短時間で済む筈がない。何か事情があるのだろう。


「・・・まさか、復讐相手が瞬殺されたとか?」


「可能性としてはあり得る話ね」


 心の中で峰岸を怒らせた哀れな被害者に同情する弐夜と沙織。二人はその生涯を終えるまで、気が付かなかった。


 ----威圧を止めたのが、ただの一般人であると言う事に。


「とりあえず、屋台を見て回りましょうか」


「あ、ああ。そうだな」


 弐夜と沙織は隣に並び、しかし決して手を繋ぐことはなく屋台巡りに出た。



「見て見て馨ちゃん! たこ焼き屋さんがあるよ!」


 華やかな光で出迎える屋台軍に、志穂は目を輝かせている。一方で峰岸は、疲れたように溜め息を吐いた。


「たこ焼き屋くらい珍しくもねえだろ・・・」


 志穂のテンションに付いていけない。どころか、あちこちに走り回る志穂を見ているだけで疲れてくる。


 そもそも、周りを楽しくする祭りと周りを恐怖に陥れる峰岸では、絶望的に合わなすぎる。大人の男がブランコに座って遊んでいるような違和感だ。


「やっぱり行かない方が良かったな・・・不快になるだけだ」


 人混みに見えなくなった志穂を見て、峰岸は再び大きなため息を吐いた。一番峰岸を不快にしているのは、この人混みだ。もしここに一人で放り込まれたら威圧で辺り一面皆殺しにしていただろう。だが志穂と共に祭りを堪能する以上、彼らを殺すわけにはいかない。


「チッ、滅びろよ雑魚共がーーー」


「あの、ちょっと、止めて下さい!」


 峰岸が呪詛を呟いたその時、人混みの奥から志穂の声が聞こえてきた。峰岸は不思議に思い、人混みを避けて声のする方に進む。するとそこには、いかにも遊び慣れていますと言った感じの大学生が二人、志穂を取り囲んでいた。


「いーじゃん。俺らと遊ぼうぜ?」


「いや、でもその、馨ちゃんと来てるのでーーー」


「じゃあその子も連れて、四人で遊ぼうよ」


 どうやら俗に言うナンパらしい。峰岸が少しずつ近づきながら観察していると、志穂は頑張って断ろうとしているのか、懸命に声を絞り出している。


「いや、でもその・・・」


「いいから一緒に遊ぼうぜ、な?」


 大学生の片方が、志穂に手を伸ばす。だがその手が志穂の細い腕を掴む寸前、峰岸は素早くその間に割り込んだ。


「気安く志穂に触れてんじゃねえよ、ゴミ共が」


「か、馨ちゃん・・・」


 志穂がその名を呼ぶと同時、大学生のもう片方が動いた。


「君が馨ちゃんって言うのか。デート中悪いけど、俺らと遊ばない?」


「その口を閉じて、さっさと消えろ。二度は言わねえぞ」


 声だけで相手に恐怖感を与えようとする峰岸。しかし大学生二人は極端に殺意の感知が出来ないのか、峰岸の危険さに気が付かない。


 それどころか、あろうことか敵意を向けてきた。


「あ? なんだその態度は? 喧嘩売ってんのか?」


「身の程も知らねえガキには思い知らせてやらねえとな」


 ーーー瞬間、峰岸の苛立ちが限界まで達した。しかし志穂の手前、必死でそれを押さえながら峰岸は大学生二人に言う。


「・・・ちょっと来い。志穂の見えないところに行くぞ」


「あ? なんだお前ーーー」


 ヘラヘラ笑う二人の腕を本気で掴み、峰岸は二人を引っ張っていく。人が多いからか、少し移動しただけでも人混みで隠れて見えなくなる。志穂の姿が完全に見えなくなった所で、峰岸は大学生の手を離した。


「ただでさえゴミが多いって言うのに、その上に志穂に寄って来るゴミ虫、挙げ句オレに『身の程も知らない』だと・・・」


 その口から冷たい声が漏れると同時、峰岸の蹴りが大学生二人の膝に直撃した。もんどりうって倒れる二人。


「悪いが限界だ。テメェら如きじゃほんの少ししかストレス解消にならないだろうが、まあいいや」


 峰岸馨。威圧を消し、一時的にただの一般人になってから早五分。


「ここで肉片になって人生終われ」


 裏の世界で生きてきた『最凶』が普通の生活をするのには、一体どれほどの年月が必要なのだろうか。


 ヴォギ、と言う聞くにもおぞましい音が、辺りに響き渡った。


 



 








 何か感想等ございましたら、気軽に書き込んでください。

 ※この番外編、あと1~2話は続きます。

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