銀髪の超絶美少女は、ヘルズに感謝しているようです。
今回は、二ノ宮と姫香のデート回です。
今回はいつもに比べると長いです。
「どう? 美味しい?」
「はい、とっても」
「そう。それならよかった」
二ノ宮と姫香は、ショッピングモール内のフードコートに居た。二ノ宮は肘をつき、美味しそうにチャーハンを食べる姫香を微笑ましそうに見ている。
「でも、よかったわね。欲しかった服も買えて」
「はい。ありがとうございます、二ノ宮先輩」
「先輩?」
二ノ宮が不機嫌そうな顔をする。姫香は慌てて撤回した。
「あ、えっと、二ノ宮さん」
律儀な性格だからか、どうしても上級生に対しては『先輩』と言ってしまう。
「そう言えば、さっきも言ってたわね。『先輩』って」
二ノ宮が言っているのは、姫香が一人で悲しんでいた時の事だろう。姫香が手を振って弁解しようとすると、二ノ宮はかぶりを振った。
「別にいいわよ。ただしこっちも、姫香ちゃんが枕に突っ伏して泣いてた事をヘルズに報告するから」
ギクッ、と全身が硬直する。まさか、気付かれていたとは―――
「後は、その突っ伏した時に枕についた涙が、私の顔にたくさん付いた事くらいかしらね」
「お願いします、言わないでください!」
姫香は頭を下げた。今でも思い出すと顔が赤くなる。
「まあいいけど。でもこれからは『先輩』って呼ばないでね」
二ノ宮が、天使のような微笑みを見せる。その笑顔に、姫香だけではなく周りに居た客も、
見惚れてしまった。大勢の視線を感じた二ノ宮は、机に突っ伏した。
大勢の視線の嵐が止むのを待って、姫香は二ノ宮に話しかけた。
「もう大丈夫ですよ、二ノ宮さん」
姫香の言葉に、二ノ宮がガバッ、と顔を上げる。
「ありがとう、姫香ちゃん。それで、何の用?」
姫香は周りに盗み聞きして居る人がいない事を確認すると、小声で聞いた。
「弐夜先輩のいい所について、教えてくれるんじゃなかったんですか?」
あえて弐夜先輩と言ったのは、ここが公共の場だからだ。さすがに一般人がひしめいているここで、ヘルズという名前を出すわけにはいかない。
だが二ノ宮は、
「ああ、ヘルズのいい所を言う約束だったっけ」
と、隠す素振りもなく言い切った。
「ちょっと、二ノ宮さん――――」
姫香が止めに入るが、二ノ宮は動じない。姫香は慌てて辺りを見回した。今の言動を聞いていた者が居るとまずい。姫香が神経を張り詰めて探していると、二ノ宮の妙に安堵した声が聞こえてきた。
「大丈夫よ、姫香ちゃん。ヘルズの名前は良くも悪くも有名だから、こんな所でヘルズの名前を出しても、ヘルズのファンが話をしているようにしか聞こえないわ」
確かに、周りの客の反応を見ると、こちらを一瞬ちらっ、と見たものの、その後は何事もなく過ごしていた。
「それで、彼のいい所だけど」
二ノ宮はポケットからルービックキューブを取り出し、それを手で弄びながら、話し始める。
「姫香ちゃんから見て、彼はどう思う?」
姫香は数秒、考えたのちに、言葉を返した。
「普段はネットゲームばっかりやって、家にずっと引きこもっている駄目人間ですけど、いざという時には頼りになる、不思議な人、ですかね」
「二十点」
二ノ宮が頬杖を突きながら、姫香に返す。
「に、二十点ですか⁉」
「そう、二十点。貴方は彼の事を、一部しか見ていない。それじゃ、あげられても二十点」
二ノ宮は姫香の額を指で触れた。
「例えば―――そうね、貴方は自分の両親から救われて、どうして嬉しかったの?」
「そ、それは・・・」
姫香は言葉に詰まった。自分が嬉しかったのは、ひとえに両親から助けられたから、だけではない。自分を救うと約束してくれたヘルズが、本当に助けに来てくれたからだ。血まみれになりながらも、全身傷だらけになりながらも、来てくれた。
―――――こんな、何の価値もない自分を、ヘルズは助けてくれた。
それが姫香にとって、何よりも嬉しかった事だ。
そんな姫香の表情を読んだのか、二ノ宮が頷いた。
「そう。あの男は、ただのコソ泥や、人助けの善人じゃない。何だかんだ言いながらも、一度その人を救うと決めたら何があっても助ける。―――――その人の事を、それこそ、何度でも」
二ノ宮の言葉には、異様な迫力があった。まるで、自分が過去に何度も助けてもらったかのように。
「あの男は自分の事を、『どうしようもない悪党』って言うけど、そう思ってるのはアイツだけ。周りは皆、ヘルズに感謝している。それは姫香ちゃん、貴方も同じはずよ」
二ノ宮の真剣なまなざしが、姫香を貫く。姫香はヘルズの言葉を思い出した。
『心配するな。俺に任せろ』
―――そうだ、自分はあの言葉に救われたんだ。
その事を思い出した瞬間、胸の奥が熱くなった。それはどんどん熱くなっていき、姫香の心を熱く燃やす。
「分かったでしょ? ヘルズは決して、ただの悪党なんかじゃない。アイツは、どんな時でも仲間を絶対に見捨てないし、裏切ったりしない。アイツは私達にとって、『感謝してもし切れない存在』なのよ」
そこまで言うと、二ノ宮はフッ、と微笑んだ。言うべき事は言い終わったようだ。
「それじゃあ、行きましょう。ネトゲのイベントが始まってしまう」
ショッピングモールから出ると、涼しげな風が吹き抜けた。もう四時過ぎだ。日は半分落ちかけ、夕暮れが街を照らしている。
「じゃあ、一緒にヘルズの所に謝りに行きましょう。ヘルズは今ストライキ中で連絡が取れないらしいから、ヘルズの家の前で待っていましょう」
「は、はい」
姫香が返事をすると、二ノ宮は満足そうに笑って、口笛を吹き始めた。
(『感謝してもし切れない存在』か・・・)
姫香の頭の中で、その言葉が反芻していた。
今まで、ヘルズの事をどうこう考えた事はなかった。人間としても、もちろん異性としても。
(いや、でも・・・)
最近、ヘルズの事ばかり考えてしまう。授業中でもヘルズの顔が頭に浮かんできたり、街を歩いている時でも、ヘルズに似た男性を見ると、つい目で追ってしまう。
「ちょっと、何ですか⁉」
二ノ宮の悲鳴に近い声で、姫香は現実に引き戻された。二ノ宮の近くに柄の悪いチンピラが二、三人寄って来て、姫香たちを取り囲んでいるのだ。
「いやー姉ちゃん可愛いな、と思ってさ」
「よかったら俺らと遊ばない?」
そうか。姫香は今まで忘れていた事実を、今さらになって思い出した。
二ノ宮が、外に出なくなった理由。
今のような状況が多発するから、彼女は外に出なくなったのではなかったか?
チンピラの一人が下劣た笑みを浮かべながら、二ノ宮に手を伸ばした。二ノ宮はその手を払いのけ、叫んだ。
「やめてくださいッ!」
その瞬間、周りの空気は一変した。チンピラたちが敵意をむき出しにし、二人を睨む。
「可愛いからって調子に乗ってんじゃねえよ、おい」
「ちょっと路地裏までツラ貸せよ、二人とも」
そのまま半強引的に路地裏に引きずり込まれる。姫香は何度も叫び声を上げたが、通行人たちは哀れみの目を向けるだけで、誰一人助けようとはしなかった。
「お前ら、これから自分がどうなるか分かってんのか?」
路地裏に着くと、チンピラの親玉らしき男が、二ノ宮の全身を舐めまわすように見ながら聞いて来た。二ノ宮は抵抗しようとしたが、両脇を頑丈な男達に固められていて、身動きが取れない。
「おい、誰かビデオカメラ持ってる奴は居ないか?」
親玉らしき男が命じ、チンピラの一人がそれを渡すと、親玉らしき男は、気持ち悪く舌なめずりした。
「それじゃ、公開処刑タイムだ」
そのまま二人の男に離れるように命じると、二ノ宮を地面に押し倒す。二ノ宮は抵抗しよ
うとするも、圧倒的な体重さの前になすすべがない。
「それじゃ、悪いな」
親玉の手が二ノ宮の胸元にかかる。姫香はそれを助けようと暴れるが、二人の男に取り押さえられて、上手く動けない。暴れる姫香を見て、親玉が溜息を吐く。
「もう片方の女がバタバタ暴れてうるさいな・・・よし、そっちで輪姦しとけ」
「え、いいんですか?」
「どうせ最終的には傷物になるんだ。別に構わないさ」
「さいですか」
チンピラの一人は軽く返事をすると、姫香の方を向いた。
「おい、お前今から何されるか分かってるか?輪姦されるんだってよ」
チンピラの口元には、笑みが浮かんでいた。
「悪いが、大人しくしててくれよ」
チンピラの一人が、姫香ににじり寄る。姫香は逃げようとしたが、もう片方のチンピラに押さえつけられている上に、足がすくんで動けない。
「いやー、お前も残念だったなー。こんな美人な女と一緒に居たせいで、こんな目に遭っちまうんだからなー」
「い、いや、来ないで・・・」
「ざーんねん! 諦めな!」
その時、二ノ宮が叫んだ。
「姫香ちゃん、さっき私が言った事覚えてる⁉」
「何だ? この状況でどっちかが助かるとかそう言うお約束の事でもしようとしたのか?」
「なんだそりゃ、ぎゃははは! でも面白そうだからもう少し見ようぜ」
「そうだな。面白そうだし」
口々に言いながら、チンピラが姫香から一歩離れる。おそらく二人の無様な相談を聞くための配慮なのだろう。だが脱出は不可能だ。二ノ宮は今も親玉に押し倒されているし、姫香は脚がすくんで動けない。
(二ノ宮さんが、さっき言った事?)
二ノ宮の言葉を、最初からリピートしていく。
『何だかんだ言いながらも、一度その人を救うと決めたら何があっても助ける。―――――その人の事を、それこそ、何度でも』
『アイツは、どんな時でも仲間を絶対に見捨てないし、裏切ったりしない』
その二つの言葉が頭に浮かんだ瞬間、姫香はハッ、となった。という事は―――
姫香は息を大きく吸い込むと、天に向かって叫んだ。
「きゃあああああああああああああああ!」
その大声に、近くに居たチンピラが耳を塞ぐ。
「うるっせえな! 何だこいつ、急に叫び出して。やっぱり犯されるのは嫌だってか?」
チンピラが怪訝そうな顔をしたとき、二ノ宮が「きゃっ!」という声を上げた。見ると、親玉が二ノ宮の胸元に手をかけていた。
「余興も終わったみたいだし、そろそろいただくとするか」
「ええ、確かに余興は終わりよ」
二ノ宮が額に汗を流しながら、あくまで冷静に告げる。
「実はさっきからの会話は、通信装置を使ってある人物に送られていたの。つまり、私達がピンチなのはその人に伝わっていた。そして、今姫香ちゃんが叫んだ事により、場所が特定された」
二ノ宮のその言葉を裏付けるかのように、屋上から二人の人物が落ちて来た。片方は、片目の眼帯を付けた、怪しい男。もう片方は、まるで病院から逃亡して来たかのように、全身に包帯を巻いている少女だ。その右手には木刀を下げ、辺りを警戒している。
「な、何だお前ら!」
チンピラの一人が叫ぶと、男―――ヘルズが、呆れたように言った。
「おいおい、お前こういう時のお約束を知らないのか? こういう時に来るのなんて、一つしかないじゃん」
そう言うと、隣の少女の手を取り、格好いい(?)ポーズを決めた。
「『ヒーロー』参上! いたいけな少女をいじめる破廉恥集団め、貴様らはこの俺達『怪盗ズ』が」
「ギッタギタのぼっこぼこにしてやる」
少女が抑揚のない声で、物凄く物騒な言葉を吐くと、数秒間の沈黙が訪れた。
「な、なんだかよくわからんがかかれーッ!」
親玉の命令で、チンピラたちが混乱しながらも、ヘルズ達に向かっていった。




