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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と『名も無き調査団』
252/302

ヘルズ勢力の自由奔放な作戦会議

 伝家の宝刀とばかりに、『最強の犯罪者』は右手を前に突き出した。その手に、力が収束していく。


「『才能吸収』」


 『最強の犯罪者』が呟くと同時、轟音と共にその右手に風が集まった。風が派手に動いた影響で大気の流れが急激に乱れ、異常なまでの突風が吹き荒れるが、老人の顔は浮かない。峰岸を見据え、聞こえるように言う。


「・・・分かってはいたがその力、やはり努力の賜物か」


「当たり前だろ。長年の喧嘩で培った能力舐めんな」


 笑いながら答える峰岸に、『最強の犯罪者』は舌打ちした。


 能力『才能吸収』。あの伝説のヒーロー、ア〇パンマンすら殺し切る『最強の犯罪者』が七十年間の努力の末に手に入れた力である。


 効果は『半径二百メートル以内に居る人間が能力に見合う努力をせずに手に入れた力を、根こそぎ奪う』と言う物。要は、生まれ持って持っている『才能』や、神や悪魔からタダで入手した『チート能力』と呼ばれる物が全て手に入るという、恐ろしい力だ。


 この力を使えば、ありとあらゆる無敵能力が手に入る。先程この世界に存在しない概念『魔法』を使えたのもその一環だ。あれはとある世界から来た勇者が女神から受け取った物らしいが、『最強の犯罪者』に牙を剥いたため容赦なく奪わせてもらった。


 ただし、この力には大きなデメリットがある。それは、『努力で手に入れた力は奪えない』と言う事である。よって、努力系キャラにこれを使っても『何してるんだコイツは?』と憐みの目を向けられてしまうという、惨めな技に成り下がってしまう。事実、それで十三回ほど恥を掻いた。


 今使ったところ、峰岸馨からは『何の力も奪えなかった』。つまり、峰岸には秀でた才能は何もないと言う事になる。・・・まあ、それはそれで惨めであるのだが。


「オレの『恐怖』は、無数の喧嘩をした上で得た、喧嘩の集大成だ。そんじょそこらの受け売りの力と同等にするなよ、クソジジイ」


 峰岸が中指を立てて挑発してくる。『最強の犯罪者』は額に青筋を浮かべたが、これ以上の攻撃方法はない。『才能吸収』で峰岸の持つ『恐怖』を奪えれば勝つ見込みはあったが、特に期待はしていなかった。


「終わりか。我が輩から攻撃する手段はもうない」


「だな。オレも攻撃方法を『恐怖』に限定しちまった以上、攻撃の手段はねえ。直接殴るのが可能なら、勝ち目はあるんだがな。・・・まあ仕方ねえ、不本意だが今回は引き分けって事で許してやる、よッ!」


 峰岸が突然、地面を大きく踏みつけた。瞬間、バキン! と何かが壊れるような音がする。


 それが合図かのように、二人の体から闘気が消えた。戦闘意欲の失せた『最強の犯罪者』に、峰岸は釘を刺すように言う。


「ああ、そうそう。一つ言っておくがな。テメェがこれからやろうとしている計画がどんな物か、オレは知っている。そこでテメェの弟子と、数人の一般人が必要な事もな。もし仮にーーーーテメェの薄ら寒い計画に志穂を巻き込んでみろ。その時は、五体満足では死ねないと思え」


「承知した」


 会話はそこまでだった。


 二人の怪物は、互いに背を向けて歩き出す。



「ギャン!」


 一方その頃。眠っていたライラ=イーデアリスは目を覚まし、悲鳴のような声を上げていた。


 手に持っていた紙が、自然に燃えていく。本来はライラの設定した条件をクリアするか、ライラ本人が能力を解除しない限り燃えないはずのルールブックが、彼女の意に反して燃えていく。更に、体の調子がおかしい。まるで体内を無数の蛇が駆け巡っているかのようだ。熱い。体が熱い。


「アアアアア、アアアアア」


 思わず体を掻き毟るが、ベッドの上には誰も居ない。倉根は先程、狙撃銃を構えてどこかに行ってしまった。誰も、助けてはくれない。


(まずい。これはまずい。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬーーーー)


 ライラの声にならない絶叫が、部屋中に響き渡った。




 ヘルズが税金対策に買った埃まみれの部屋の中で、ヘルズ勢力のメンバーは輪になって座っていた。


「・・・・・・」


 しかし、姫香はメンバーの行動に、何も言えなくなっていた。そんな中、二ノ宮が一石を投じる。


「それで、どうするの?」


 そう言った二ノ宮の手には、携帯ゲーム機。画面に大きな動物と人間が映っている様から、恐らくはアクションゲームだろう。画面から顔を上げずに問いかけた二ノ宮の問いに、綾峰が答える。


「正面戦闘は馬鹿のやる事じゃ。ここはヘルズに任せて、後は全員雲隠れという案でどうじゃろう?」


 綾峰の手にはパソコン。懸命に何かを書き込んでいるらしく、カタカタというタイピング音が聞こえてくる。


「それはいい考えだな。ヘルズなら主人公補正付いてるから一人でも勝てるだろうし、任せようぜ」


 そう言って賛成する降谷の手には、何故か宇宙食が。しかも、備蓄食料とばかりに足元に大量に置いてある。別に悪いわけではないが、せめて作戦会議の時くらい食べないで欲しい。


「主席一人に突っ込ませる訳には行かない。私も一緒に行く」


 チャルカは意気込みだけはいいが、持っている武器がおかしい。いつもは手に木刀を持っているはずが、今日に限っては大根を持っていた。本人が自分の持っている武器を認識していない辺り、完全に終わっている。


「そうだな。だが一つ訂正がある。降谷と綾峰、お前らは大人なんだから俺と一緒に戦え」


 そう命令を下す我らが勢力のボスにしてネトゲ廃人は、足でポータブル機器を操作しながらパソコンを操作するという、神業を披露していた。しかも、いかにもラスボス風の雰囲気を出している敵を無傷でフルボッコにしている。


 そんな変人達の中、常識人姫香は一人、取り残されていた。


「何この、ハイスペックな雑談・・・」


 会話が成立している以上は咎める権利はないが、それにしてもぶっ飛びすぎている。特にヘルズと綾峰、そして二ノ宮。会話しながらの電子機器などどちらかの動作が遅れそうな物だが、彼らは当たり前のようにこなしていく。この知能は絶対にもっといい場所で活かせるだろと姫香が思っていると、ヘルズが眉をひそめた。


「ってかまずいぞ。俺のアジトがバレた事が、全国に拡散してる」


 ヘルズが、見ていたパソコンをクルリと回転させる。するとそこには、『悲報 怪盗ヘルズのアジト、ついに判明する』というタイトルで、サイトが作られていた。


「これは・・・2ちゃんねると言う奴ですか?」


「正確には5ちゃんねるだがな。・・・とにかく、俺の情報が公開され始めたぞ。クソ、一体どこから漏れやがったんだ!」


 姫香はヘルズの情報とやらを見る。しかし、『アジトには引きこもり一匹居ただけw』、『怪盗が引きこもりとかあり得んやろ釣りか?』などと言う、懐疑的な言葉しか書き込まれていない。・・・というか、一つ目の文は的を射ていると仲間である姫香でも思う。


「ああ、それ作ったの妾じゃ」


「お前かよ!」


 衝撃。まさかの味方からの裏切りだ。ヘルズは足元にあった宇宙食を綾峰に向けて投げるが、綾峰は首を傾けただけでそれを避ける。


「あまりにも暇だったものでな。お主の情報を書けば金になると思ったのじゃ。まあ、お主の存在は異質すぎるから、誰もお主を怪盗だなんて思わんと思うがな」


「確かにそうですね」


 引きこもりの不登校児が怪盗をやっていると言われても、姫香なら信じない。そんな明らかな不確定事項を認めてしまうくらいなら、都市伝説を信じていた方がまだ楽に生きられるだろう。


「あ、ついにスレ主の妾が叩かれ始めたぞえ。『ソースはどこだよ』、『嘘乙』---ああ、こ奴本当に鬱陶しいのう。荒らしをするでないぞえ」


「お返しだよ。個人情報を晒さないだけ感謝しろ」


 『鬱陶しい』のはヘルズらしい。もう、ここまで来ると直接話し合ってほしいと思うのは姫香だけだろうか。滅茶苦茶不毛な合戦が、ネット上で行われている。


「私も加勢するわ。『なお、引きこもりには可愛い彼女が居た模様』・・・と。写真を載せると身元を特定されるしストーカーが出てきそうだから、言葉だけなのが残念ね」


「あ、おい変な事をするな。ほら、『どうせ画面の中だろ』とか言われ始めたじゃねえか。変な事をしないで、綾峰を叩くのに集中してくれ二ノ宮」


「こらお主ら、荒らしを辞めるのじゃ。このスレの信ぴょう性がどんどん下がって妾の儲けがどんどん下がっていくぞえ!」


 白熱する三人に、姫香はキレたくなった。だがここで自分が参戦しても何も始まらない事に気が付き、大人しく自体が沈静化するのを傍観することにする。


 結果、五分ほどで三人の戦いは終了した。理由は簡単で、三人の弁舌が高度になりすぎて他の人が付いてこれなかったらしい。


「ハァ、ハァ・・・結局、ネット上で怪盗ヘルズは『満月の日に月からやってくるゲームの達人で、かつ美少女の彼女が居る、二刀流使いのタコ』になったぞ」


 もはや珍獣か都市伝説だ。最後の『タコ』になった経緯を聞いてみたいが、そんな事をすればまた話が逸れてしまうので、姫香はニッコリ笑顔で話を戻す。


「じゃあ、そろそろ本題に入りましょうか」


「了解・・・」


 ヘルズ、二ノ宮、綾峰は疲れた面持ちでパソコンを閉じた。


「でもな、さっきの話し合いで充分まとまったと思うぜ? 俺と降谷と綾峰で、敵の本隊を叩く。二ノ宮とチャルカと姫香はばらけて雲隠れして、戦いが終わるのを待つ。これが最善だと思うが?」


「何言ってるんだヘルズ。オレはこれでも怪我人だぞ。怪我人を借り出すって事はお前、充分な報酬は付くんだろうな?」


「その通りじゃ。妾は報酬など別にどうでもいいが、何の見返りもないというのが気に食わん。全ての物事には、正当な対価と言う物があるじゃろ。お主は妾達に、どのような対価を払うと言うのじゃ?」


 降谷と綾峰の目が、ギラリと光る。嘘でも仲間を守るためと言わない辺り、流石裏社会と言えるだろう。


 彼らの世界に、助け合いなどない。姫香や二ノ宮のようなグレーゾーンを助ける事はあっても、どっぷりと闇の世界に浸かっている降谷や綾峰、ヘルズと言った者達にとって無償の救助と言う物は皆無に等しい。


 必ず何かしらのメリットを求め、どこまでも夢想的に、しかし現実的に動く。二律背反の中で己の居場所を探して生きていくその様に、姫香は僅かな感動を覚える。


 ー--これが、裏の世界の生き様。

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