峰岸馨VS『最強の犯罪者』
新年一発目なので、ぶっ飛んだ物で行きます。
十メートル近い距離を取って、二人は睨み合う。お互い、手には何も持っていない。しかし、このレベルの戦いになってくると武器など不要だ。むしろ、手が塞がる分邪魔にしかならない。
「先制攻撃と行こうか」
『最強の犯罪者』は言うが早いか、先程と同じく大振りに腕を振った。今度は、さっきよりも少しだけ強めだ。
直後、峰岸の周りの次元が切断された。
『超切断』。力の入れ具合で次元すらも切断できる、彼の持つ力である。生身の人間に叩き込もう物なら、ギネスに載るくらい奇妙な人間オブジェに成り下がるだろう。
だが、
「流石だな・・・」
『最強の犯罪者』は、眉をひそめる。確かに自分は峰岸目掛けて攻撃を放ったはずだ。なのに、切断されたのは峰岸の周りの空間だ。
攻撃を逸らされた。即座に気付いた老人は、ニヤリと笑う。
「面白い」
切断された空間すらも無視して、峰岸がこちらに向かってくる。その顔には、蔑むかのような笑みか広がっていた。
「そう言えば昔よ、こんな理論を聞いたことがあるんだが」
何事もなかったかのように、峰岸は歩いてくる。
「三次元の物を切るとそれは二次元となり、二次元の物を切るとそれは一次元になる。・・・いまいち理解が出来なかったんだが、分かるかジジイ?」
『最強の犯罪者』は、その質問には答えず無言で掌を伸ばした。そして、その手をゆっくりと握り込む。
その動作と同時、峰岸の付近の廃ビルが一斉に浮き上がった。ビルはまるで意思を持ったように空中でユラユラと揺れると、峰岸の体目掛けて次々に襲い掛かる。
「あ?」
峰岸が怪訝な顔をするが、もう遅い。老人の念動力によって操られた十数のビル群は四方八方から峰岸目掛けて飛んでいき、その体を押し潰す。
ドガガガガ! という音が、離れたここまで届いた。ビルは峰岸の居た場所に折り重なるようにして倒れ、そこにビルの山を築き上げる。中にまだガスが通っていたところもあったのだろう、ガスが充満し、最後に飛んできたビルの摩擦熱で大爆発を引き起こした。爆風と爆音が、離れたここまで鮮明に届く。
「・・・・・・」
続けざまに飛んできたビルだけでも手一杯なのに、爆発と来れば生き延びるのはヘルズでも難しいだろう。音速を越える速度で避ければ話は別だが、峰岸にそのような身体能力がない事を『最強の犯罪者』は知っている。
だが、老人はまだ油断しない。その証拠に、火祭りと化したビル群の中から峰岸の姿が見える。
「だから、今史上最強の爺さんと戦ってるから無理だって言ってんだろ、志穂。悪いが手が放せん。え? 死んじゃやだよ? 馬鹿野郎、誰に物言ってやがる。オレがあんな腐れジジイに負ける訳ねぇだろ。え? 汚い言葉遣いは駄目? ・・・分かった」
こんな時にも関わらず、峰岸は呑気に電話をしていた。しかもアドバイスを聞くでもなく、ただの世間話を。あろうことか、『最強』の称号を持つ老人の前で。
「ふざけているのか?」
思わず口から、そんな言葉が漏れる。そんな老人の見ている前で峰岸は携帯を切ると、『最強の犯罪者』に向き直った。
「で、何やってんだ老害。さっさと掛かってこいよ」
クイ、と指を曲げて老人を挑発。それにイラッと来た『最強の犯罪者』は眼力をエネルギーに換えて峰岸にぶつけるが、今度は見えない盾にぶつかったかのように明後日の方向に弾かれる。
今度は逸らされたのではなく、弾かれた。
「やはり、遠距離攻撃は効かないか・・・」
『最強の犯罪者』は呟くと、軽く地面を蹴った。瞬間、その音からは決して考えられないような速度を叩き出しその体が滑空する。
「接近戦が一番だな」
音速の5倍の速度を出した老人の体が、峰岸に突っ込む。対して峰岸は、不敵に笑ったままポケットに手を突っ込んでいるだけだ。手で体を守るという最低限の防御すらしていない。
『最強の犯罪者』は腕を伸ばし、至近距離から『超切断』を放とうとした。しかし、指先がピクピクと揺れているのが見えたため、慌てて取り止める。空中を蹴り、自分の方向を180度変えるという神業を行い元の位置に戻ってきた。直後、全身を怖気が走る。
「これは・・・」
「どうした、いいのは威勢だけか?」
峰岸が笑いながらも、確実にこちらに近づいてくる。それは、さながら獲物を追い詰める狩人のようだ。このくらいの獲物を狩るくらい訳ないという、意思表示。
「成る程。『恐怖』の力は伊達ではないという事か」
全身から殺気を噴出し、『最強の犯罪者』は呟く。未だ震え続ける指先を、ジッと眺める。すると、数秒して指先の震えは治まった。
峰岸が体から出している威圧感は、有機・無機物問わずあらゆる物に『恐怖』を与える。それは本来、『心』という概念が存在しない空気や車も例外ではない。
峰岸に飛んで行った物体は峰岸に恐れをなして自ら軌道を変えるし、峰岸を傷つけまいと空気が凝縮してバリアのような物を展開する。生身で殴り掛かればその前に恐怖し、自らの心臓を止めてしまうだろう。
威圧一つで、存在するあらゆる物を恐怖させる事が出来る力。
それは『最強の犯罪者』の肉体とて例外ではない。と言うか、この『恐怖』から逃れる事は誰にもできない。この力は『存在する全ての物』に働くため、逃れるためには自分の肉体を完全消滅させるしかない。まあ、それは『死』と同義なのだが。
「見事だな。その年で、我が輩と相対するとは」
「年は関係ねえだろ。ってかもう打ち止めか? オレを殺してみろよ老いぼれが」
こちらだって伊達に『最強の犯罪者』と呼ばれている訳ではない。無論、峰岸を殺す方法は存在する。自身の中に存在するエネルギーを集めて、ビーム状にして撃ち出せばいい。全てを消滅させる砲撃の前には、いかに『恐怖』があろうと関係ない。峰岸の体も共に消滅するだろう。
だが、そんな事をしてしまえば『最強の犯罪者』の力は大きく衰退する。その状態でもヘルズと沙織、『名も無き調査団』を同時に圧倒するくらいなら出来るが、それ以上の増員が来ると敗北する可能性が出てくるくらいの弱体化となるのだ。
それに、そんな体では『計画』の方にも支障が出る。よって、この攻撃は出来ない。
「こうなったら、駄目元でアレを使うかーーーー」
「最終兵器登場、ってか?」
峰岸は余裕そうに歩いてくる。その気になればいつでも接近戦に持ち込めるだろうに、あえてゆっくり近づくことでこちらを煽っているのだ。
「というか、使わねえの? 数多の無双系主人公を殺った『才能吸収』って奴を」
「手の内を読まれていたか」
『最強の犯罪者』は残念そうに言うと、ひとまず足止めの為に右手を前に突き出した。
その手から、数億ボルトの電撃が迸る。
「食らえ。とある世界の勇者の電撃を」
この世界には存在しない概念ーーーー『魔法』を、峰岸に向けて容赦なく撃ち出す。電撃は空気を焼き焦がす勢いで空気中を一直線に突き進んだ。とは言え、これでダメージを与えられるとは毛頭思っていない。あくまでも、目くらましだ。
「いい加減に茶番はやめろよ腐れジジイ」
事実、電撃は峰岸に当たる寸前に、直角に折れ曲がってしまう。峰岸の体に当たっていればその身体を丸焦げに出来ただろうが、当たっていないので意味がない。
『最強の犯罪者』は、峰岸に聞こえるように声を張り上げた。
「やはり強いな、峰岸馨。こうなったら先程お前が喋っていた相手の元に出向き、お前の目の前で解体ショーを展開してやろうか?」
冗談抜きの発言だ。そうでもしなければ、ノーリスクで峰岸には勝てない。事前に宣告したのは、その人物が峰岸にとってどれほどの重要人物か調べるためだ。
どんなに平静を装っても、大切な人に危険があると分かれば動揺する。それに老人は心理学に関しても世界でトップクラスの実力を持っている。プロが見せたほんの僅かな反応からも、その人物にとってどれほど大切な人物かをピタリと当てる事が出来るレベルだ。
故に、『最強の犯罪者』はあえて、自身の狙いを曝け出した。峰岸の反応を見るために。そして峰岸の反応はーーーーーー
背筋が凍るような殺意が、老体を襲った。
「志穂に手、出そうってのか・・・」
峰岸の低い声が、『最強の犯罪者』の鼓膜を叩く。気のせいか、峰岸の周りの空気が激しく振動していた。
「なん、だ・・・」
一応、『魔法』で自分の身の回りに何十ものバリアを張ったはずだ。その強度は硬く、今この場で地球壊滅レベルの隕石が直撃しても、傷一つ付かないくらいの強さを誇る。そのはずのシェルターを貫通して、峰岸の威圧が流れ込んでくる。
「クソジジイ・・・もしンな事したら、テメェの弟子を一人残らず根絶やしにしてやるよ。いや、それだけじゃ済まねえ。テメェの大切にしてる訓練所とやらも、この世から消し飛ばしてやる」
峰岸の怒気の混じった威圧が放出し、『最強の犯罪者』は思わずたたらを踏む。一瞬ーーー本当に一瞬だけだが、意識を刈り取られかけた。
このままあの威圧を受け続けるのはまずいと本能が告げている。いかに強力な放射能や電磁波を受けてもケロリとしている体だが、あの威圧を受けていると体内が壊れそうだ。
「何故かって? ンな物決まってんだろ。志穂はオレの大切なーーーーあ、悪い今の無しで」
峰岸が何かを言っていたが、そんなコメディ的な要素は威圧の前に持っていかれる。とにかく、と仕切り直して峰岸はこちらに向かって来た。
「志穂に手ェ出そうってんなら、本気で潰すぜ?」
ギラリ、と音がしそうな眼光に射抜かれ、老体が思わずブルリ、と震える。化け物を自負する自分の肉体でさえこれなのだ。こんな物を一般人が受ければ、一秒と持たないだろう。
「面白い。掛かってこい」
『最強の犯罪者』は足を大きく振り上げると、思いきり叩きつけた。狙いは、足元の地面。踏みつけた場所から直線に地割れが発生し、峰岸に襲い掛かる。
しかし、怒気を孕んだ峰岸にそんな攻撃は通じない。峰岸が「あ?」と不良のような声を上げると、地面に巨大なクレーターが出来上がった。地盤が急激に変化した事で、軽い地震のような物が沸き起こる。
「そろそろワンパターンの防御も飽きてきた。潰していいか?」
峰岸の体から、一段階高い威圧が噴き出す。それを見て、『最強の犯罪者』は腰を落として構えた。
「では、こちらもやるだけやってみるとしよう」
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