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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と『名も無き調査団』
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ヘルズと沙織の作戦会議

 ヘルズの質問に人影ーーーー沙織は無言で引き金に力を込める。ヘルズはそんな彼女の動きに対して、動けない。


 片道沙織は、ヘルズが知る限りでも十本指に入る強さを持ち合わせた人間だ。


 純粋な戦闘力は勿論の事、優れた頭脳を持ち合わせておりヘルズではほぼ間違いなく勝てない。せいぜい百回に一度勝てればいい方だ。


 偶然、及び彼女がヘルズ以上にクルシアへの愛情が高かったためにヘルズは辛くも勝利し和解することが出来たが、根本的には何も解決していない。クルシアを殺した犯人がヘルズである事に変わりはないのだから。最悪、睡眠中に襲われる可能性だってあり得る。


 今殺されかけているのだって、ヘルズへの恨みが再燃しているのかもしれない。


「何でだよ・・・何でなんだよ、沙織!」


 ヘルズは否定するように叫ぶ。すると、沙織の冷徹な視線がこちらを射抜いた。


「何で、ですって?」


 その声は、冷たく重い。人を気絶で済ませてしまうヘルズと違い、何人もの人間を殺してきた本物の『殺意』が、ヘルズの体を包み込んだ。次の攻撃に備えてヘルズがジッと身構えているとーーー


「決まってるでしょ。『名も無き調査団』が攻めてきたのに便乗して、密かに貴方を葬ろうと思ったからよ」


 ・・・とんでもない台詞が出てきた。


 面食らったヘルズに、沙織は続ける。


「火事場泥棒、ってよく言うでしょ? 皆がパニックになってる中、密かに動く奴。あれの殺人鬼バージョンよ。火事場殺人鬼。騒ぎに乗じて人を殺すわ」


「いや勝手な用語を作るな!」


 シリアスな場面にも関わらず、ヘルズは思わず突っ込んでしまった。一体、この女は何がしたかったのだろうか。


「全然問題じゃないわね。そもそも敵組織に狙われているのに呑気に徹夜なんかする方が悪いのよ。五徹だっけ? むしろそこまで動ける方が異常だわ死ねヘルズ」


 沙織の悪口が再燃した。ヘルズは突っ込もうとして、ふと引っかかりを覚える。


「またその語尾・・・って、ん? 俺は今、どこかの組織と戦ってるのか?」


 最近降谷に会っておらず、情報を仕入れられていないためよく分かっていないが、少なくとも組織間の戦争と言う情報は聞いていない。律儀な組織なら果たし状が、躊躇いのない組織であってもその前兆くらいは察知できるものなのだが。もし仮にヘルズが寝不足で感知できなかったとしても、綾峰と降谷が見逃さないだろう。どちらも、前兆を読むことは得意としていたはずだ。


 ヘルズの言葉に、沙織は心底呆れた顔をした。一周回ってムカつく顔だ。


「そんな事も知らないの? 大体、組織間の戦争でもなければ誰が貴方の住所を警察にタレ込むのよ。生半可な覚悟で貴方の住所を教える人は居ないわ。報復を覚悟しないと」


 確かにその通りだ。半端な攻撃をしてしまえば反撃されるのは当たり前の事。ましてやヘルズは裏社会の中でも上位に立つ存在だ。中途半端な組織が挑めば、ひとたまりもなく潰される。


「マジで気付かなかったな。で、どこの組織がカチコミを掛けて来たんだ?」


「・・・『名も無き調査団』」


 沙織は、ボソッと呟く。まるで、本当は言いたくないかのような口ぶりで。


「『名も無き調査団』? どこかで聞いた事あるようなないような・・・強いのか、それ?」


 沙織が驚いた表情をする。今度は一周回ってコミカルな顔だ。


「『最強の犯罪者』の懐刀の組織よ。裏社会の深部の深部まで探りを入れなきゃ名前すらも上がらない、超秘匿部隊。具体的な人数はおろか、構成員の名前も分からないわね。同じくらいの深部に居るはずの私ですらこの程度なんだから、敵の情報隠匿技術は化け物よ」


 沙織がスラスラと言うが、ヘルズは聞いていない。呆然と、沙織の最初の言葉を脳内で反芻している。


「おい、待て。冗談だろ? 師匠の懐刀? そんな奴が、なんで」


 峰岸馨の父親に続けて、今度は『最強の犯罪者』の懐刀とは。ふざけているにも程がある。


 峰岸馨が『相対事すら許されない、絶対の存在』であるのに対し、『最強の犯罪者』は、『相対しても絶対に勝てない存在』だ。どちらにせよ、万が一にもヘルズの勝てる可能性などない。


「さあ。ついに貴方の存在が鬱陶しくなったんじゃない? 私が師匠なら間違いなくその理由ね。貴方の顔は見ていて吐き気がするもの」


「いや、お前の偏見は参考にならん」


 流石にそんな下らない理由で部下を差し向けるような事、あの老人はしないだろう。大体、そんな事なら自分でやると思われる。ヘルズを殺す程度、あの老人が本気を出せば一秒も掛からないのだから。


「でも、どうして当事者の俺が知らない事をお前が知ってるんだ?」


 ヘルズは至極当たり前の疑問を呈する。すると、沙織は薄ら笑いを浮かべながら懐に手を突っ込んだ。


「決まってるでしょ。私も、敵のターゲットの一人だからよ。こんな手紙が郵便受けに届かなかった?」


 懐から一枚の封筒を取り出し、ヘルズに見せる。そこには丁寧な字で『片道沙織様』と書いてあった。


「凄いわよね。敵の情報操作能力は。私も自分の痕跡は出来るだけ残さないようにしてるはずなのに、私の事をこんなにも簡単に突き止めちゃうなんて。まあ十中八九、存在がバレたのは『復讐屋』潰しの際に貴方と行動を共にしてた時でしょうけど」


 沙織は苦笑しながら、手に持っていた手紙を破った。四つ、八つと紙が細かくなっていき、無数の紙切れになった瞬間、沙織はそれらを床に捨てる。あえてゴミ箱に捨てなかったのは嫌がらせか何かだろうか。


「だから、今回は私の利益の為にも貴方達の味方をさせてもらうわ。一緒に居れば、囮や楯に使えるし。でも勘違いしないで。私はいざとなれば、貴方達を切って自分だけでも助かろうとする。貴方の首でも手土産に持っていけば、私だけなら助かるかもしれないしね」


 沙織は白い髪をファサ、と掻き上げる。白い短髪は、彼女の整った表情によく映える。


「お前、本当に冷酷だな・・・」


「あら、そんな物でしょ? そんな事より、どうやって『名も無き調査団』を出し抜くのか考えましょうよ。このまま正面衝突しても、待っているのは完全敗北だけよ。間違いなくね」


 『最強の犯罪者』に『歴代最強』とまで言わしめた熟練暗殺者、沙織ははっきりと言い切った。


 勝てないと。


 だが、ヘルズも薄々気付いては居た。敵は師匠の懐刀なのだ、一人一人が並大抵ではない戦闘力を誇るだろう。そんな組織に、ヘルズの盗み専門の組織が勝てる保証などどこにもない。


 ヘルズのチームは、個々の個性は突き抜けているが、戦闘力はそうでもない。チャルカや姫香、二ノ宮の戦闘力はまだまだ期待できない物である。


 かつてヘルズ達は『血まみれの指』と呼ばれる関東最強の組織と戦ったが、あれだって偶然の産物のような物だ。もう一度同じ条件下で戦って、勝てる確証はない。それに今は降谷が片足義足、ユルが死亡とこちらの勢力も若干弱体化している。姫香と二ノ宮のプラスを含めても、総合的に見ればマイナスと言ったところか。


「まあ、貴方があの状態になれば勝ち目は大いにあるのだけれど・・・出来ないんでしょ?」


「・・・・・・まあな」


 沙織の言う『あの状態』とは、ヘルズが持つ覚醒状態『吸血鬼の覚醒ヴァンパイアドロー』の事だ。使えば人間の体など紙切れ同然に吹き飛ばし、いかなる攻撃を食らっても再生する無敵の防御力を誇る。


 だが、この状態への覚醒には膨大な量の血が必要になる。更に一瞬でも意識を途切れさせてしまえば自我が暴走してしまうため、人を殺してしまう可能性が充分にある。


 そのため、ヘルズはこの状態になる事をあまり良しとはしなかった。『怪盗』として、そして殺人を良しとしなかったあの少女の彼氏として、使いたい技ではない。


「だったら、やっぱり出し抜くしかないわね。真っ向勝負をしたとして、勝てるのは私と貴方だけ。他のメンバーは全滅でしょうね。そう考えると、今出来る最善の案はーーーー」


「数人を倒して、雲隠れするのが一番か」


 当たり前の話だが。


 強すぎるメンバーで構成された組織ほど、欠員補充は容易ではない。 


 ましてや敵は機械人間、かつ一定以上の強さを持ち合わせていて、出来るだけその存在が公になっていない者と来た。そんな人材が、数多く裏社会に転がっているはずがない。


 ならば話は簡単だ。数人を倒してしまい、後は逃げる。それを繰り返していけば敵は少しずつ弱っていくだろうし、最悪人員の欠損を慮って戦いの中止を申し出てくるかもしれない。


 何も、全ての戦いに正面からぶつかる必要はないのだ。


 正面戦闘で全ての敵を倒す事を好むヘルズだが、仲間が本気でピンチな時はそれを自粛する。元々、『最強の犯罪者』の弟子は正面戦闘よりもゲリラ戦、闇討ちの方が得意なのだ。それは『怪盗』、『スパイ』、『暗殺者』の三種類にしか分かれていない事からもよく分かる。


「とりあえず、雲隠れするのに必要な書類とかを揃えておかないとな。非公開になっている物件の確保、偽の戸籍の大量購入----チッ、数千万単位で金が飛んでいきそうだな」


「この前『復讐屋』から盗んだのがあるから大丈夫でしょう? そんな事より、今後の具体的な作戦をーーーー」


 その時、インターホンが鳴った。


「お、姫香が来たみたいだな」


 ヘルズが呟くと、沙織は窓まで歩いて行った。


「それじゃあ、私は一旦帰らせてもらうわ。手を組んだとはいえ、素性を知られていい事なんてないから。私の存在はあくまでも、貴方と綾峰先生、そして北見方生徒会長だけに留めておいて頂戴」


「ああ、分かってる」


 ヘルズが返事をすると同時、沙織は窓から飛び降りた。ここは確か地上から優に100メートルはあったはずだが、大丈夫なのだろうか。まあ沙織の事だし大丈夫だろう、とヘルズは根拠のない思いを抱きながら、扉を開けた。


 するとそこには姫香、二ノ宮、綾峰、チャルカ、降谷が立っていた。ヘルズはニヤッと笑う。


「フルメンバーとは、なかなかいい参加率じゃねえか。ようこそ、わが第二の城へ。作戦会議を始めようぜ」


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