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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と『名も無き調査団』
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とある少女の告白

 姫香は震える手で、封筒を開いた。すると中には、達筆でこんな文字が書き込まれていた。


『ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニング殿。


 貴公に組織間での全面戦争を申し込む。期間はどちらかの戦力が半分以下になり、かつ降参するまで延々と続く事とする。拒否すれば貴公の日常を破壊する。それでは、よい返事が聞けるように待っている』


 姫香がそこまで読むと同時に紙がバン! と破裂し、紙吹雪となって宙を舞った。姫香は驚きすぎて数秒間、呆然と立ち尽くしてしまった。


「今のは・・・」


 冷静に分析する限り、警察に紙を提出されないための策だろう。証拠さえ消してしまえば、警察に言ってもあまり問題にされない。


 結局、姫香は弐夜達に果たし状の事を言い出せずに戻ってきた。弐夜と二ノ宮は楽しそうにチャルカのキャラ変、及び次回の『黒い人生ゲーム』で降谷から金を巻き上げるための方法を、それはもう楽しそうに話し合っている。


「やはりここはIPOを狙うか、バイアウトしまくってだな・・・」


「いちいちファンダメンタルズ分析をしなくちゃいけないこと分かってる? 株は駄目よ、散々調べた挙げ句、最終的には運勝負になるんだから。FXはいいわよ、そう言うのを考えなくていいから」


 ・・・こうして聞いているとゲームの話と言うより、リアルマネーの稼ぎ方の話のようである。時々専門用語が出てくる二人の話を意識から閉め出し、姫香はじっと考える。


 先程来た『果たし状』。送り主は『名も無き調査団』。


 『名も無き調査団』の話は聞いたことがないが、調査団と言うからには何かを調べる組織なのだろうか。分からないが、そこまで強そうには思えない。


 だが、弐夜にはこの手紙を見せるべきだろう。この手紙はもともと彼宛に届いたものだ。うん、やっぱり見せよう。


「あの、ヘルズさんーーー」


 姫香が弐夜に何かを言い欠けたその時、弐夜の携帯に電話が掛かってきた。弐夜は携帯を取る。


「はいもしもし、こちら黒明。出前なら頼んでないぞ。・・・って麻耶か。どうした?」


 電話の相手は新しい女らしい。表現はややおかしいが、事実だろう。


「今から? ああ、別に構わないぞ。部屋? いいけど知り合いが二人居る。ん? ああ、両方女だけど。・・・分かった、公園な」


 弐夜は電話を切ると、複雑な表情になった。


「何か麻耶の奴、部屋に女二人が居るって言ったら急に不機嫌になって『・・・お盛んな事ですね』とか言ってきたんだが。何だったんだろうな、アレ?」


「気付け鈍感主人公。そして知り合いって何よ知り合いって!」


 二ノ宮が弐夜の膝の上に飛び乗り、馬乗り状態になる。弐夜は至極冷静にそれを引き剥がした。


「落ち着け。アイツに仲間なんて言ったら誤解を招くだろ。女の知り合いって聞いただけでも嫉妬する奴なんだから」

 

「アイツって何よ。と言うか、新しい女を作って恥ずかしいとは思わないの⁉」


 二ノ宮が弐夜の顔をポカポカと殴り付ける。弐夜は迷惑そうな顔でそれを受けると、溜め息を吐きながら答えた。


「新しい女って何だよ。麻耶は俺の妹だぞ。そりゃあ確かに可愛いし男の俺でも惚れる事があるくらい凛としてるしでも予想してない物が来ると焦ってしどろもどろになっちまう様とかコロッと行きそうになるけどーーー妹だぞ?」


 強調するように、『妹』という単語を二度繰り返した。二ノ宮はそれを聞いて、不満げに拳を下ろした。


「まぁ、妹って言うなら勘弁してあげるわ。妹に会うことまで浮気と呼ぶわけにはいかないし」


「何が浮気だよ。お前俺と付き合ってねえだろうが。・・・じゃあ、行ってくるな。二ノ宮が合鍵を持ってるから、それ使って鍵を掛けてくれ」


 弐夜はそう言うと、部屋から出ていく。残された姫香は、弐夜が出ていった瞬間にコントローラーに飛び付いて『ネバー・ファンタスティック・ストーリー』をやり始めた二ノ宮を見た。


「確かここには宝箱があって・・・あ! 番人出た!」


 嬉々として番人を滅多打ちにする二ノ宮を見て、姫香は溜め息を吐いた。こんな人に言っても仕方ない。


 姫香は天井を見上げた。



「それで、二人っきりで話し合いたい事ってなんだ?」


 弐夜は自宅のアパートの前の公園に来ていた。平日の夕方だからか人はおらず、ベンチに座る麻耶にすぐに気付けた。麻耶は何故か、不機嫌そうなオーラを出していた。


「頼み通り、一人で来てくださったんですね兄様」


「まあ、無理な頼みじゃないからな。それで、話ってのは?」


 弐夜は麻耶の隣に腰掛ける。麻耶はそんな弐夜を見てムスッとしていた。その口から、呟きが漏れる。


「・・・まさか兄様が家に女の人を連れ込むような人だとは思ってませんでした」


「何を怒ってたと思ったら、そんな事を怒ってたのか」


 弐夜は呆れ返ってしまった。どうにも不機嫌だから何かしたのかと思っていたが、そんな事だったとは。


「麻耶、さっきも言ったが部屋に居る二人は知り合いだ。・・・正確には仕事上の仲間だが、とにかく彼女とかではない」


 語尾をやや強めて、弐夜は断言する。この際だからはっきり言っておこう、という気持ちが滲み出ている。


 ・・・あまり麻耶を裏社会に触れさせたくないのだが、もう仕方ない。女は一度疑えば最後、そうそう疑いを晴らしてくれないことを知っている。ここまで疑われてしまった以上、本当の事を言うしかあるまい。


「仕事上の、仲間? と言うとーーー」


「ああ、そうだ。ヘルズとしての俺の仲間だよ。だから家に入れたのもいかがわしい理由じゃねえ。ただの作戦会議だよ」


 正確には少し違うのだが、作戦会議と言うことにしておこう。全てを正確に言うつもりなど毛頭ない。


「そう、ですか。では、疚しいことは何もしていないと?」


「当たり前だろ。そんな事、俺がする訳ないじゃねえか」


 本当は数えればキリがないのだが、そこは目を瞑ろう。妹とは言え、全てをさらけ出す必要などない。生者で全てをさらけ出していいのは、弐夜の弱味をすべて掌握している沙織くらいな物だろう。


「そうですか。なら信じてあげます」


 麻耶の発言に「お前はいったい何様なんだ」と弐夜は突っ込みたくなったが、我慢する。実の妹にそこまで言うのは非道だ。


「で、話って言うのは?」


「あ、はい。じ、実はーーー」


 麻耶はそこまで言うと、急にもじもじとし始めた。太股を擦り合わせ、自分の指を絡めーーー何と言うか、とても恥ずかしそうだった。


「そ、その、その、最近気が付いたんですけど、兄様の今の名字って、『早船』ではなく『黒明』ですよね?」


「ん? ああ、そうだな」


 弐夜は『最強の犯罪者』の元で学ぶ際に、両親の元から去るという意味を込めて名字を変更している。戸籍上でも『黒明』で登録してあったはずだ。


「と、と言うことは、私と兄様はもう、兄妹ではないという事ですよね?」


 麻耶が顔を赤らめながら、上目遣いで弐夜に聞いてくる。この瞬間から弐夜は、麻耶が何を言いたいのか大体予測できた。しかし、最後まで言わせて上げようとあえて無能を演じる。


「そうだな。だからどうした? もう合わない方がいいって話か?」


「い、いえ、そうではなく・・・」


 麻耶は恥ずかしそうに、顔を下に向ける。弐夜は気付かないフリってのは案外大変だな、と思いながらも妹の為に道化を演じる。


 そして、麻耶はついに口を開いた。



「兄妹でない・・・と言う事は、私と兄様は法的には結婚出来ると言う事ですよね?」



 次の瞬間、弐夜が取った行動はシンプルかつ異常な物だった。


 タン、と音もなく地面を蹴ると、麻耶の目では絶対に視認できない速度で跳躍。そのまま大気圏ギリギリまで跳ぶと、飛行機の羽に腰かけ、非常に残念そうに呟いた。


「気づいちまったか、麻耶・・・」


 名字を変え、戸籍上『早船弐夜』という人物が死亡した事を知ってから、いつかはこんな事になるのではないかと思っていた。だがまさか、それが今日になるとは。


「このまま気付かないで欲しかったんだがな。やっぱり無理だったか」


 本人の前では絶対に言えない言葉を呟くと、飛行機の翼を蹴って地上へと跳躍する。ギュン! という摩擦にしては異常な程の音とともに、弐夜は雲の合間を縫って地上へと戻ってくる。そして両足を素早く動かして衝撃を減殺しながら、座っていたベンチに寸分違わず戻ってくる。麻耶はその間、俯いているため弐夜が上空まで跳んでいた事に気が付かない。


 この間、一秒の隙も無い。アニメなどでよくある『速すぎて見えなかった』という奴だ。


「け、結婚⁉」


 一応驚いているフリをするため、弐夜は道化を演じた。どう考えても白々しいが、極度の興奮に陥っている麻耶は気付かない。

 

「そ、その、兄様さえよろしければ・・・私は構いません、よ?」


 麻耶が上目遣いでこちらを見つめてくる。しかし弐夜は、それに返す言葉がない。


 決まっている。麻耶の事は好きだが、それはあくまでも兄妹としての物。弐夜の愛している人は、現状一人しか居ないのだから。


 ・・・それに、麻耶と結婚したら沙織に裏切りと見なされ血祭りに上げられるかもしれない。以上、二つの理由から麻耶の意見は却下だ。


 だが、そんな事を目の前の恋する乙女に言うわけにもいかない。弐夜はどうにかはぐらかそうと、慎重に言葉を選ぶ。


「う、嬉しいけどな麻耶。でもやっぱり、俺達は兄妹でーーー少し考える時間をくれないか?」


 断ろうとしたが、麻耶の潤んだ目を見ていると思わず否定の言葉を止めてしまった。世の中にはヘタレ主人公、という言葉があるが、それと全く逆の事を弐夜はしてしまった。誘いを拒絶するのではなく、拒絶することを拒絶してしまったのだ。


「・・・そうですよね、こんな重大な事を即決断しろなんて、無慈悲ですよね。分かりました、数日待ちます。兄様、どうぞじっくりお考えください。それでは、失礼します」


 麻耶は立ち上がると、恥ずかしさや嬉しさを隠すように、走り去っていってしまった。その後ろ姿を見て、弐夜は頭を掻いた。


「・・・どうすれば、今の話を聞かなかったことに出来るんだろうな?」


 聞く角度によればクズ発言に成りかねない爆弾発言を、弐夜は呟いた。


 そして弐夜が二日間ぶっ通しでゲームをやり、現在に至る。

 

 


 


 



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