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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
厨二病怪盗と『名も無き調査団』
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プロローグ 開戦の雄叫び

 オレの名前は降谷幸一。ヘルズ勢力に所属するスパイだ。


 勿論、この名前は本名ではない。ヘルズに出会った頃は音新羽昴という名前を名乗っていたし、その前だって対して変わらないような偽名を名乗っていた。あまりにも多くの偽名を持ちすぎて、本名なんか覚えていない。


 オレは産まれてからすぐに、クズみたいな目に遭った。


 まず、家計が火の車だった両親に捨てられかけた。幸い、近所のおばさんが止めてくれて事なきを得たが、両親はオレの顔を見るなり「チッ」と舌打ちをした。


 親友だと思っていた奴に裏切られた。それもあっさりと、簡単に。やってもいない罪を被せられた。


 先生にも裏切られた。オレに散々味方だの何だのと調子の良いことを言っておいて、いざとなったらオレの言う事は全て嘘と見なしてオレ一人に罪を被せた。オレの言っていたことが真実なのに、だ。


 人は簡単に裏切る。口では皆調子の良いことを言っていても、いざ自分がピンチになったら簡単に誰かを切り捨てる、弱い者だ。


 そんな中、オレを裏切らない唯一の存在があった。



 金だ。



 初めて小遣いを貰ったとき、オレは震えた。コイツだけは、逃げていかない。この手の中にある薄い紙切れは、オレの手の中から逃げていかない。


 人は簡単に裏切る。だが、手に入れた金はオレを裏切らない。


 そう分かってからの行動は早かった。一生懸命勉強して、金持ちの居る中学校に特待生で入学した。そして全校生徒を巻き込んで詐欺事件を起こし、莫大な金を手に入れた。


 どんな奴とでも10分以内に親友になるコミュニケーション能力も身に付けた。また、自分の発言を信用させるための心理学も叩き込んだ。詐欺がバレてリンチされた時のために、体術も覚えた。全ては、金のためだ。


 三年もする頃には、オレの悪評は後輩にまで知れ渡っていた。だが、すぐに卒業だ。オレは次の金のある高校に行き、そこでも荒稼ぎをした。しかし高校ではその過程の行為の一つが問題となり、オレは退学となった。警察にパクられなかったのは不幸中の幸いかもしれない。


 高校中退と言う肩書きのオレに残されたのは、16歳にしては多すぎる金と、金の為に培ったスキルだけだった。


 その後、オレは金を稼ぐためにあらゆる事をやった。詐欺、恐喝、強盗・・・アシが付かないように、かつ金を大量に稼ぐために、死に物狂いで努力した。幸いにも、オレが捕まるような事はなかった。


 二年もする頃には、オレの総資産は三億を越えていただろうか。オレは持っている金を元手に金を増やし続けた。株にFX、不動産投資・・・などだ。この頃から既に、別の名前を大量に保有していた。裏社会には身を投じていなかったが、半分浸かっていたのは間違いない。


 『最強の犯罪者』の訓練場に着き、六年間の訓練を始めるまでにオレが稼いだ額は、十億に届きかけていた。短期間で数億と言う金を稼いだ技術は、今でも自画自賛したくなる。


 そして修練を終えて更に金を稼げるようになり、オレは多くの金を稼いだ。今度は金の為に殺人すら厭わない。オレが鍛え上げた技術は、相当の金になる。


 いつしかオレには、金を稼ぐ事が目的となっていた。


 金を稼いで何かを成したいのではない、金を稼ぎたいのだ。


 人間は、いざとなれば簡単に人を裏切り、自己保身に走る。


 別にそれを否定するつもりはない。人間と言う生き物が生き残るために、立派な行動だと思う。だから、オレもその方法を使わせてもらおう。


 仲間のフリをして金を奪い、自分が得をするために行動し続ける事を。


 ヘルズ陣営だろうが、『名も無き調査団』だろうが関係ない。金を稼げるならどちらかに、または両方に付くし、金を稼げないのなら両方切り捨てる。


 胸は全く痛まない。この世は、金を持った生者こそが勝者なのだから。





 テレビの画面の中で、ニュースキャスターが慌てた口調で何かを喚き立てている。


『速報です。たった今、世間を騒がせている怪盗、ヘルズのアジトが明らかになりました。繰り返します、世間を騒がせている怪盗ヘルズのアジトが明らかになりました。警察は現在、アジトの周りを包囲中の模様です』


「・・・ついに始まったか」


 暗い部屋で画面を眺めていた男は、リモコンを手に取るとテレビの電源を消した。これ以上、テレビから学べることは何もないだろう。テレビを消すと男は立ち上がり、部屋を見回した。


「ここも、もう駄目かね」


 部屋には男の『匂い』を消すために、競馬新聞やパチンコの玉が散乱していた。別名義で、しかも金で雇った男に契約させた隠れ家だ。だが敵が本気な以上、ここも危険と見える。


「ここを放棄するのは痛いがーーー仕方ないか」


 男は玄関まで歩いていくと、玄関に置いてあった缶を手に取った。缶の中身はガソリンだ。男は缶のキャップを捻り、中のガソリンを室内にばら撒いた。


「オレの痕跡なんか何一つないが、ほんの僅かな痕跡でバレても困るしな。徹底的にやるしかねえ」


 向こうもプロだ。そんじょそこらの雑魚ならともかく、今回の敵の事を考えるとここは充分に危ない。念には念を入れなければならないのだ。せっかく他の痕跡を消しても、ここの僅かな痕跡で敵に居場所を気付かれてしまえばいい面の皮である。


 男は部屋の最奥までガソリンを撒き終えると、ポケットから取り出したマッチに火を点けた。マッチの火を、ガソリンの水溜まりに落とす。


「・・・・・・」


 マッチの火が、ガソリンの中に落ちる。ボウッ! という大きな音がして、室内に火が点いた。男はそれを確認すると、踵を返して外に出る。男が外に出ると同時、室内から小爆発の音が聞こえてきた。ガス管でも爆発したのだろうか。


 男は振り返り、燃え盛る室内を眺める。ユラユラと蠢く火を見つめていると、何故こんな事になったのかという事態がおぼろげに浮かび上がってきた。


 そう、アレは数日前の出来事ーーー


 


 数日前。


 姫香は相変わらず、黒明弐夜に説教を垂れ流していた。


「また徹夜ですか⁉ これで三日続いてますよね? どれだけそのネットゲームが面白いのか知りませんけど、三日続けてやるとかどんな神経してるんですか⁉」


 手に持った国語辞典を、丸まった背中に投げる。しかし国語辞典は弐夜の背中に当たる寸前、どこからか来た手によって阻まれる。


 たった今国語辞典を防いだ弐夜は、目まで掛かった黒髪の奥から姫香を見つめた。


「うるせーなあ。いいじゃねえかよネトゲくらい。今いいメンバーがパーティに入ってくれてるんだ。あと二日くらいやり込めば全クリ出来るだろうな」


「あと二日も徹夜するんですか⁉ 死にたいんですか貴方は!」


 姫香は怒るが今回の弐夜の意思は硬く、姫香でも止められない。姫香は溜め息を吐くと、部屋を申し訳程度に片付け学校に行く準備をした。


「・・・そう言えば、北見方先輩が感謝してましたよ。君達のおかげで服部君は無事制圧、生徒会長としての威光も完全に甦ったって」


「そうか。報酬のブツは忘れるなよって伝えとけ。ククッ、いったいどんな情報が手に入るのか楽しみだぜ」


「・・・分かりました。では、先輩も遅刻しないように学校に来てくださいね」


 姫香はそんな弐夜をゴミを見るような目で見ると、部屋から出た。口から自然と、溜め息が零れる。


「はぁ・・・」


 最近は少しマシになって来たのに、すぐこれだ。これではヘビースモーカーの喫煙宣言と変わらない。もはや中毒者だ。ネトゲ中毒。


「・・・いや、アレは廃人ですね完全に」


 病人を通り越して廃人だ。姫香は自分の付けた敬称に少し誇らしげに思いながらも、学校への道を歩いた。


 その日の授業を姫香が終えて弐夜の部屋へ戻ってくると、そこには来客が居た。


「あら、三日ぶりね姫香ちゃん。元気してた?」


 二ノ宮来瞳。弐夜を越える重度の引きこもりであり、機械工学におけるエキスパートである。


 おまけに美少女だと言うのだから、神は人に二物も三物も与えると言う話は恐らく本当なのだろう。


「二ノ宮さん。どうしてここに?」


「体育祭の時に私が使用した、エネルギー応用のデータ解析が出来たから持ってきたのよ。メールでも良かったんだけど、ヘルズにも会いたかったし」


 二ノ宮は手に持った紙をヒラヒラと振る。エネルギーの応用云々は姫香にはビックリするほど分からなかったが、また何か難しい理論に挑んで成功を納めたと言うのは嫌なほどよく分かった。


「流石ですね、二ノ宮さん」


 姫香が言うと、二ノ宮は嬉しいような悲しいような苦笑を見せた。


「えっと・・・自信作はもう一つの方なんだけど。誉めるならこっちを誉めて欲しいかな」


「あ、えっと、すみません」


 姫香は慌てて謝罪する。まさかアレだけ難しい理論が前座で、本命があるなどとは思わなかった。


「本命はこっち。チャルカちゃんの持つ、機械の腕の強化版のデータよ。機械の手を、更に一段階進化させられるわ」


「ああ、あの初期の頃から出番があまりなくて持っていた昔からの知り合いポジションと機械人間としてのオリジナリティもクルシアと『血まみれの指』に奪われてしまった可哀想な女か。いいよ、別に放っておいても」


「辛辣!」


 早口すぎて途中何を言っているのかよく聞き取れなかったが、弐夜がチャルカに対する悪口を言っているのはよく分かった。


「いいじゃない。ここらでチャルカちゃんにも何かキャラを作って上げましょうよ」


 二ノ宮までフォローしているようで、サラっと悪口を挟んでいた。姫香はチャルカの扱いの悲しさに嘆息したが、残念ながらフォローしようにもこれと言ったエピソードがなかった。


「大体アイツな、影が薄いんだよ。訓練時代も色々問題を起こしてたから悪目立ちはしてたけど、気が付くと姿が見えなくなってるような奴だったからな。おまけに表情を読み取りづらいし」


 弐夜が愚痴る。二ノ宮もそれに同意するように愚痴り始めた。姫香は二人に気付かれないように、そっと部屋を出た。


「はぁ・・・」


 姫香は疲れたように息を吐いた。やはり、誰かの陰口を聞いているのはいい気持ちではない。


 もっとも弐夜の場合は陰口の内容を箇条書きにして直接本人に送り付けるという、非常にありがた迷惑なサービスを気まぐれでしてくれるのでまだマシだが、本人の聞こえないところでその人を貶すのは姫香には許容できない。


「まあ、今更どうしようもないんですけどね」


 陰口は今やほとんどの人が言っている、当たり前にも近い動作だ。そんな物に歯止めを掛けることは不可能に等しい。


 それでも姫香は、そんな陰口の風潮を止められるのなら止めたいと考えていた。


「どうしたらいいんでしょうね、本当に」


 解の出ない悩みを悶々と抱えながら、姫香は何気なく弐夜の部屋の郵便受けを覗き込んだ。基本的に学生かつ一人暮らしの彼には、広告はあまり届かない。その為彼は見ず、姫香が定期的に確認することになっているのだ。


「先週から一通も増えていない・・・ん?」


 郵便受けの中を見て姫香は、妙な声を上げた。


 郵便受けの中に、封筒のような物が入っているのだ。


「何でしょうか、これ?」


 手に取り、確認してみる。瞬間、姫香の思考が真っ白になった。


 封筒は高級そうな便箋で、止めるためのシールもなかなかの物だ。そんな封筒の中に、達筆で文字が書かれていた。


 ーーー『果たし状』と。


 

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