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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
245/302

番外編 峰岸馨のお茶会②

日常パートの続きです。

あと一話だけ、筆者の趣味にお付き合いください。

 外交官だったお父さんが、殺されたのだ。


 ここ最近、どこか様子がおかしいとは思っていた。二日前なんか私とお母さんを呼んで『もし俺が死んだら、後の事は任せたぞ』とかフラグ臭がバンバンする台詞を吐いていたし、机の中に遺言書をこっそり入れていたのも知っていた。けど、まさか本当に死ぬだなんて思わなかった。


「遺体を・・・確認されますか?」


 警察の人に言われて、私は首を振った。そこまでの度胸はない。


 射殺と言うことで案外簡単に犯人が見つかるかと思っていたが、一ヶ月経っても何の進展もなかった。不思議に思った私は担当の刑事さんに聞いてみることにした。


 すると、驚くような返事が返ってきた。


「捜査を打ち切った? それも、二週間も前に」


「うん。あの事件は通り魔の殺人として処理されたよ。僕たちも、もうこの案件には首を突っ込んでないかな」


 担当の刑事さんはそう言うと、私を追い払うようにシッシッと手を振った。私は少しの間呆然としてたけど、おかしいと思って聞くことにした。


「で、でも、お父さんは一月前に私たちにーーー」


「いいから出ていけ!」


 私の言葉を遮るようにして叫んだ刑事さんの顔は、とても怖かった。私は恐れながら家に逃げ帰った。そして布団の中で泣いた。


 それから数日の間は行く気が沸かなくて、学校には行かなかった。私が学校に行こうと再び思ったのは、刑事さんに怒鳴られてから三日が経った後だった。


 いつものように荷物を整理し、学校に行く。これだけの事が、私には重労働のように思えた。


 全くと言っていい程頭に入らない授業に嫌気が差し、私は教室を出た。無意識に、足が目的地へと向かう。


 そこに着くと、いつも通り寝転がった馨ちゃんが手を上げる。


「よう。三日ぶりだな。何してたんだ?」


 私はいつも通り、笑おうとした。馨ちゃんおはようって。けど、目から垂れてきた水に先を越された。


「ウッ、ウッ・・・」


「お、おいどうした? 誰かに殴られたのか?」


 馨ちゃんが珍しく焦った様子で起き上がり、私に近付いてくる。焦った馨ちゃんを見るのはこれが初めてかもしれない。レアだなあ。


「だ、大丈夫、何でもないよ・・・」


「そんな訳ねえだろ。話してみろよ。話すことで楽になることだってある。オレだって、下僕共に密かに考えてる国家転覆の事を話したくなることだってあるしーーー」


 馨ちゃんはとても焦っている。いつも笑っている私が泣いていて、どうしていいか分からないんだろう。


 そんな彼女を不器用だな、と思いながらも私は全てを話した。起こった事件から、刑事さんの対応まで全て。


「私思うんだ。お父さんは何か国に不利益な情報を手に入れたから消されたんだって。国からの命令だから、警察も事件を隠すことにしたんだって」


 馨ちゃんの胸に顔をうずめながら、私は泣いた。人の胸の中で泣くのは、幼稚園の時以来だった。


「警察も警察だよ・・・いつもはニコニコ笑顔で助けてくれる癖に、いざとなったら助けてくれないんだもん。人が死んだんだよ? こんなの間違ってるよぅ・・・」


「・・・・・・」


 私の言葉は、泣き声に消されていく。馨ちゃんはしばらく無言でそんな私の背中を撫でていたかと思うと、唐突に私から離れた。


「よし、じゃあ国滅ぼすか」


「え?」


 私は顔を上げる。するとそこには、自信に満ちた表情の馨ちゃんが居た。


「だから、国を滅ぼすんだよ。志穂を泣かせた奴は許さねえ。例えそれが国家だろうと、問答無用だ」


 馨ちゃんはそう言うと、思い立ったが吉日とばかりに歩き出した。私は初め彼女の言葉を理解できなかったが、その意味を理解したとき振り返る。


「か、馨ちゃん! 国を滅ぼすって・・・私の為にそんな事しなくても!」


 すると、馨ちゃんが苦笑しながら首だけ振り返る。


「気にするな。ってか、さっき言ったろ? 元々オレは国家転覆の計画を立ててたんだ。転覆も滅亡も変わらねえよ。それに、オレはどこの誰に迷惑を掛けようが、自分の望みを叶えるって決めてんだよ。止めてくれるな」

 

 馨ちゃんの背中が遠ざかっていく。不思議と私は、馨ちゃんを止める気にはなれなかった。



 そして、『峰岸事件』が起こった。



 短時間であまりにもたくさんの出来事が起こりすぎたから事件の内容は分からないけど、起こった結果はよく分かる。


 警察組織はほぼ壊滅、数日ではあるが機能が完全停止に追い込まれた。日本の企業の過半数は倒産、もしくは業績が恐ろしく低下し、一時的に株価が大暴落した。


 政府は事件を解決するより、『誰がこの事件の責任を取るか』と言うことで揉めたことにも拍車が掛かって、この事件は日本の文明技術を著しく衰退させるに至った。


 結果、国が本当に滅びる前に政府が馨ちゃん達に一兆円を払い、事なきを得たとかなんとか。


 最後の方は、私にもよく分からない。馨ちゃん本人も何も言ってなかったし。


 ただ、数日後に馨ちゃんが訪ねてきて、私の元に一兆円の入ったケースを寄越してきた。


「これは・・・」


「今回の獲得報酬だ。足りなければ後二倍でも三倍でも要求してくる。今回の被害者は国じゃねえ、お前だ志穂。お前が賠償金を決めろ。オレがその額を取ってきてやる」


 馨ちゃんは楽しそうに笑う。それはまるで、いい好敵手が出来たかのようだ。

 

 結局、私は今後生活に必要であろうお金だけ受け取り、後は馨ちゃんに返した。一兆円なんか持ってても、使い道とかないもんね。


 その後、馨ちゃんは事件の首謀者と言う事で指名手配されてしまい、外国に高飛びすることになった。「しばらく会えなくなるね」と私が少し寂しそうに言うと、「機会を見つけて会いに来てやるよ」と少し照れ臭そうに言っていた。


 ピー、ピー、というオーブンの音で、私は我に返った。


「・・・あれ?」


 どうやら長い回想に浸っていたようだ。私はフルフルと首を振ると、クッキーをオーブンから取り出す。いい焼き加減に仕上がっている。


「そうだ、時間はーーー」


 時計を見ると、回想に浸る前からもう十五分も経っている。私は急いでクッキーを皿に盛り付け、家の掃除を済ませた。


 それから五分後、馨ちゃんが訪ねてきた。特攻服に血の付いた、ぶっ飛んだ服装だ。けど、こんな事で驚いていては馨ちゃんの友達は務まらない。


「いらっしゃい、馨ちゃん!」


 久しぶりの馨ちゃんに、私の頬が自然とほころぶ。馨ちゃんは「よう」と言うと、靴を脱いで上がり込んだ。


「馨ちゃん久しぶりだね。元気してた?」


「ああ、お陰様でな。相変わらずクズみてぇな連中に囲まれて色々やってるよ。志穂はどうだ? イジめられたりとかしてないか?」


「毎日楽しくやってるよ。勉強の方はあんまり良くないけど、友達も居るし」


 お金の方も、無駄遣いをしなければ後数十年は無収入でもやっていける。お陰様で、楽しい日々だ。


「そうか。それは良かったな」


 馨ちゃんは私の笑顔に頷くと、近くのソファに腰を下ろそうとした。私はそれを止める。


「あ、待って。クッキー焼いたから、せっかくだし庭で食べない?」


「それはいいな」


 馨ちゃんと私は連れ立って庭に出た。日が暮れた事もあってか、けっこう寒い。


「うう・・・寒いね馨ちゃん」


「そうか?」


 馨ちゃんは首を傾げるが、私が本当に寒そうなのを見ると溜め息を吐き、来ていた特攻服を脱いで私の肩に掛けた。


「ほら、これでも着ておけ。風邪を引かれたら目覚めが悪い」


「ふふ、馨ちゃんが心配してくれてる~」


「べ、別に心配してねえよ」


 馨ちゃんは照れ臭そうに顔を背ける。ーーー瞬間、馨ちゃんを中心として風が巻き起こった。風は草を揺らし、テーブルを揺らし、そして空間すらも揺らす。

 

 まるで、馨ちゃんのオーラに怯えているように、空間全てが震動する。震動していないのは私と馨ちゃんだけ。他の物ーーー地球すらも震動しているような気がしてならない。


 ある程度まで揺れたとき、馨ちゃんがフッと肩の力を抜いた。全ての物の震動が停止する。全てが元通りになった後、薫ちゃんは私の方を向いた。


「風を止めた。それと、ここだけ夕焼けの日の光の当たりをよくして貰った。これで少しは暖かくなるだろ」


「私の為に⁉ 馨ちゃんありがとう!」


 言われてみれば、確かに寒さがなくなり、ちょっとだけど暖かくなっている。これも馨ちゃんの力なのかな。


 すると、私の考えを読んだかのように馨ちゃんが答える。


「オレは能力者じゃねえよ。ただ、ありとあらゆる存在に対して敵意をぶつけられるだけだ。敵意自体はこれと言って手を加えた物じゃないし、思考能力がある奴ほどオレの恐怖に反応する」


 そう言えば、前にそんな事を言っていたような気がする。確か馨ちゃんに対して好意以外の感情を少しでも抱いていれば、馨ちゃんの敵意の対象になるとかなんとか。それだけで色んな物を倒せるんだから、馨ちゃんの敵意はさぞかし強いんだろう。


 それに、その力が馨ちゃんの片鱗でしかないことを、私は知っている。綿密な計画の元に裏打ちされた『峰岸事件』の立案、どんな相手でも素手で、しかも無傷で倒す戦闘力。どれを取っても、馨ちゃんのステータスが計り様のない次元まで到達してしまっていることを意味している。


 ・・・でも、そんな馨ちゃんもここではただの女の子だ。私は馨ちゃんに抱き付く。


「じゃあ、何で私には効かないのかな~」


「お、おい⁉」


 馨ちゃんが目に見えて焦り出す。こんな彼女の姿を見ることが出来た者など、全宇宙で私くらいではないだろうか。


「私、さっきの馨ちゃんのあれ全然効いてないよ~。ホラホラ、ほっぺたつんつーん」


「止めろ志穂。そろそろ怒るぞ」


「ふふ、普段は誰彼構わず『殺す』って言って言葉通りにやっちゃうくせに、私相手だと『怒る』なんだ。へえ~」


 からかうように私が言うと、馨ちゃんは顔を背けた。


「や、止めろ志穂。それ以上続けるとオレも本気で怒るぞ」


「いいじゃないたまには~」


 私が馨ちゃんの首筋に頬擦りすると、馨ちゃんの体がビクッ! と震えた。昔から馨ちゃんは首筋の一部に弱い部分があるのを私は知っている。


 まあ、触れる間合いまで行けるのが私だけだから、この情報はあんまり意味ないんだけど。


「えへへ~、馨ちゃーん」


「や、止めろ。今のお前からは本気で貞操の危機を感じるぞ。つーかお前、危ない趣味してるよな!」


 馨ちゃんが私を引き剥がそうと手を動かすが、私が抱き着いているためほとんど動かせない。結果、馨ちゃんは為すがままになる。


「えへへ~。今日はお母さん帰って来ないし、まずは馨ちゃんのお着替えして一緒にお風呂入ってそれから一緒に寝て、それからそれからーーーー」


「待てよオイ! ってか前から思ってたがお前、実は百合なんじゃーーーーうわっ!」


 何かを言いかけた馨ちゃんは、私に押し倒されて地面に倒れこむ。私はそんな馨ちゃんの頬に顔をうずめ、執拗に頬ずりを繰り返す。・・・すべすべしてて気持ちがいい。


「・・・鬱陶しい。志穂、いい加減離れろ」 


 馨ちゃんが割と強い力で私を引き剥がし、ジト目で見てきたので私は熱烈なスキンシップをやむなく断念。チェッ、せっかくの機会だったのに。


「ああ、そう言えばお前に渡したい物があったんだ」


「何⁉」


 私は目を輝かせる。馨ちゃんから物を貰うのなんて、一兆円の現金以来だ。


「知り合いがくれたんだ。持ってってやれってな」


 そう言って馨ちゃんがくれたのは、薔薇の花束。その瞬間、私の脳は沸騰した。


「薔薇の花言葉は純愛ーーーーつまり結婚、プロポーズ」


「おい待て。余計な想像をするな」


「しよう結婚! 馨ちゃんとなら私嬉しい!」


「女同士だろうが! 同性婚が認められてねえの知ってるよな⁉ 政治家になって法改正でもするのか、それとも渋谷に住民票を移すのか⁉」


「馨ちゃんとの結婚の為なら、それも辞さないよ!」


「辞せよ!」


 馨ちゃんが後ろのテーブルまで後退する。馨ちゃんの周りの空気がビリビリ震えてる所から殺気か何かを出してるのかもしれないけど、私には全然効いてない。


「式場どこにしよっか? 神社? 協会? ねえ、馨ちゃんはどっちがいい?」


「協会はオレのイメージに合わねえから神社かな・・・って、何言わせてんだ」


 馨ちゃんが冷静に戻り、私を睨みつけてくる。他の人にやられたら怖くてすくみ上っちゃうような、そんな目だ。しかし、馨ちゃんにやられても全く怖くない。


「お母さん、喜んでくれるかな? 馨ちゃんはどう思う?」


「話聞けよ。ってか、絶対喜ばねえと思うぞ」


 馨ちゃんはそこまで言うと、諦めたように椅子の上にドカッと腰を下ろした。そして、テーブルの上に置いておいたクッキーを一口齧る。


「相変わらずその脳内がお花畑な所、変わってねえな志穂。いいか、同性婚は法律で認められてねえんだよ。現実に気付け」


「そんなこと言ったって・・・したいものはしたいんだもん」


 私がしょげると、馨ちゃんは溜め息を吐いた。


「いくらオレでもこれは無理だ。国を一つ潰して来いとか国のミサイルをパクって両国に戦争を起こさせろとか言う頼みなら二つ返事で了承してやれるが、法改正は無理だ。オレにそういうちまちました作業は向いてねえ」


 国を滅ぼす戦闘力があるなら、法改正くらい簡単だと思うけどなあ。けど馨ちゃんは、何が何でも嫌らしい。


「だ、大体な、オレは指名手配されてる上に、裏社会にも繋がりがある怪物だぞ。それにいつも外国に行ってるから会えないしーーーーいい事は何もねえぞ」


「それでもいいよ。離れていても、心は繋がってるって思えるから」


 私の発言に、馨ちゃんはまた溜め息を吐いた。ポケットから何かを出したかと思うと、私の方に放ってくる。


「これはどうしようか悩んでたんだが、お前に預けておくことにした。どうせ対して気にしてねえし、好きに使え」


 私は両手でキャッチする。手帳のようなそれは、名義の違う預金通帳だった。中に大量の金額が印字されている。


「オレの日本での金だ。いちいち外国の金と換えるのが面倒でな。仕方なく持ち歩いてるんだが、金額が金額だけに無くした時が痛い。だから、一番信用できるお前に預けておく。ああ、中の金は好きに使ってくれて構わねえからな」


 馨ちゃんが何か補足のような物を言っていたが、私は聞いていない。大事なのは、これを受け取ったという事実。


「夫婦の、共有財産・・・馨ちゃん、やっぱり結婚を」


「うん、お前は一度病院に行った方がいい」


 ・・・頭の具合を疑われてしまった。私がいじけていると、馨ちゃんが眠そうにあくびをした。


「眠いの、馨ちゃん?」


「ん? ああ、ちょっとな。久しぶりに戦闘機に乗ったからな。旅の疲れって奴だろ。悪いが、ちょっとここで休ませてもらうぞ。特殊部隊の連中が来たら起こしてくれ」


 物騒な事を言うと、馨ちゃんは目を閉じる。その周りの空気が揺らいでいるところを見ると、自己防衛程度の殺気は展開させているのだろう。私は馨ちゃんが寝たことを確認すると、そっと近づく。


「馨ちゃん、寝顔も可愛いなあ・・・」


 頬をプニプニと突いてみると、柔らかい弾力を感じる。私は嬉しくなって、つい頬をプニプニしまくってしまう。


「ふふっ。こうしてると普通の女の子みたいなのにね」


 その時ふと私は、馨ちゃんの持つオーラの詳しい説明を思い出した。


 何でも馨ちゃんの持つ殺気だか何だかは、ほんの僅かな感情の変化でも許さないらしい。0.0001%でもそこに好意以外の感情があれば、馨ちゃんの殺気をもろに浴びてしまうらしい。


 それが効かないって事は・・・・・・そういう事だよね。


「馨ちゃん、大好きだよ」


 私はそう言って、馨ちゃんの額に口づけをした。指名手配犯だろうと裏社会と吊るんでようと構わない。


 馨ちゃんは、馨ちゃんなのだから。


何か感想等ございましたら、気軽に書き込んでください。


次回から本編に戻ります。新章開幕です。

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