番外編 峰岸馨のお茶会①
これから先日常パートが書けなそうなので、書いてみました。
私の名前は宮野志穂。高校二年生だ。
家は普通の一戸建てで、お母さんと二人で暮らしてる。成績はあんまり良くないけど、結構楽しく暮らしている。
「ふんふーん、ふふふーん」
鼻唄を歌いながら、私はクッキーを作っている。今日は馨ちゃんが訪ねてくる日だ。馨ちゃんは私のクッキーが好きだから、たくさん作っておかなくちゃ。
電子レンジにクッキーを入れてスイッチを押すと、室内に風が吹き荒れた。するとどこからか、桜の花びらが舞ってくる。
「・・・桜かぁ」
私はしみじみと呟く。確か私と馨ちゃんの出会いも、桜が舞ってた時期だったっけ。
私は当時の思い出を振り返る。
一年前。入学式も無事終え、入学式当初の緊張感もだいぶ無くなってきた位の事。
授業中に急にお腹が痛くなった私は、保健室に向かって歩いていた。
「痛たたた・・・」
お腹を押さえながら、私は廊下を歩く。女の子の日は先週来たはずなんだけどなあ。お腹がとっても痛い。
「痛いよお・・・」
痛みから逃れるように視線を左右に逃れさせていた私は、ふと窓の外を見た。桜の木が並ぶ、綺麗な芝生が見える。昼休みになると多くの人達が使う、日の辺りのいい場所だ。
「・・・あれ?」
そんな綺麗な場所に、一人の子が仰向けに寝ていた。ちょうど顔の位置だけが日陰になるようにして、呑気に寝そべっている。
「だ、駄目だよ授業をサボっちゃ!」
私はお腹が痛いのも忘れて、窓から飛び出した。叫ぶ私にその子は気が付いていないのか、両手を枕にしたまま呑気に寝た体勢をキープしている。スカートではなくズボンな所を見ると、男の子なのかな?
「ね、ねえ! 聞いてるの⁉ 授業はちゃんと受けなきゃ・・・ひゃあ⁉」
そこで私は悲鳴を上げる。寝ていたその子が、ジロリとこちらを見ていたからだ。
その子は私をしばらくの間睨みつけていると、興が覚めたとでも言うかのようにゴロリと寝返りを打った。そして、また眠りだす。
「だ、だから、授業中に寝たら駄目だってば!」
それでもめげずに私は声を掛ける。成績の悪い私が言えたことじゃないけど、やっぱり授業には出た方がいいと思う。だって大人になったら授業を受けられなくなるんだよ。今の内に勉強しておかないと。
「うっせーなあ」
私の諦めない叫びについに折れたのか、その子が起き上がって大きなあくびをする。髪の毛の短い、まさに爽やか系男子と言った感じだ。彼は私をジロリと睨んでくる。
「人がせっかく睡眠を取ってるってのに、なに邪魔してるんだよ。お前は学級委員タイプなのか? それとも、オレに喧嘩を売りに来たのか?」
ギロ、と擬音が出るくらいの目付きで睨まれる。怖い、足が震える。それでも私は震える足を精神で抑え込んで、この不良に一言言ってやろうとした。
「関係ありません。ですから授業中にーーー」
「見ーつけたぜぇ」
突然、後ろから声が掛かった。振り向くと、そこにはいかにもTHE 不良と言った御前がズラリと並んでいた。
「テメェが海道中の番長だったって言う峰岸だな。この前はよくも俺らの仲間をやってくれたな」
「どうしてここが分かったんだろうな。つーか、アイツ生きてたのかよ。殺し損ねるとかオレも甘っちょろい事したな」
峰岸と呼ばれた彼は立ち上がると、詰まらなそうに首をゴキゴキと鳴らした。それを見て、不良達がいきり立つ。
「舐めた真似しやがって・・・」
まずい、暴力沙汰になってしまう。そう思って私は止めに入ろうとするけど、今度は足がウンともスンとも動かない。私は足に力を込めるけど、足は怖いとばかりに動かない。
そうこうしている内に、不良達は峰岸くんに迫ってきている。それに対して峰岸くんは見ているだけだ。時折、彼らの人数を目で数えているのみ。
・・・このままじゃ、峰岸くんがリンチにあっちゃう。
お願い、動いて私の足!
そう私は思うが、私の足は貼り付いたように動かない。不良達は峰岸くんの目の前まで来てる。やがて、鼻にピアスを付けた不良が拳を振りかぶる。私は目を瞑った。
次の瞬間、グシャリと言う音が辺り一面に響き渡る。
何やら生暖かい物が、私の太腿に掛かる。私が目をギュッと閉じようとしていたその時、一つの悲鳴が聞こえてきた。
「うぎゃあああ!」
その声に、私は咄嗟に目を開けてしまった。とはいえそれは、峰岸くんの泣き叫ぶ声に驚いたからではない。
悲鳴を上げたのは、不良の方だったからだ。
「このくらいで喚くなよ。情けねえな」
見ると、峰岸くんが右手を伸ばし切った態勢のまま、楽しそうに笑っている。その手の先には血が。どうやら、不良の鼻面をぶん殴って鼻血をブーさせたらしい。
「お、お前・・・」
「ほら、掛かって来いよ。喧嘩上等だ」
峰岸くんが笑いながら手招きすると、不良たちは顔を見合わせながらも飛び掛かっていく。峰岸くんはそれに対して笑いながら、カウンターを放つように彼らを沈めていく。その顔に焦りはなければ、敵意もない。
す、凄い・・・。
ただのワンサイドゲーム。来た拳を一発も受けることなく、峰岸くんは不良を全員そろって一撃昏倒させて見せた。
不良の皆様は峰岸くんにやられて以降、起き上がってこない。一人の様子を確認すると、口から泡を吹いて白目を剥いていた。全員同じ状態らしく、誰一人として起きる様子はない。どうやら、さっき峰岸くんが言ってた『殺し損ねた』って言うのは本当らしい。
「こんな物かよ。詰まんねえな」
たった今その右手一本で不良集団を全滅させた峰岸くんは心の底から退屈そうに言うと、一人の不良の元まで歩いて行き、その顔面を踏みつぶした。私は驚いて、峰岸くんに駆け寄る。・・・あれ、足動いてる? という疑問は後回しだ。
「ちょ、ちょっと何してるの⁉」
「あ? 八つ当たりだよ。せっかく挑んできたって言うのに思いの外雑魚だったからな。次はもっと骨のある奴にして欲しいもんだ」
峰岸くんは言いながら、不良一人一人の顔面を潰していく。その威力は筆舌に尽くし難い程で、折れた鼻を中心にクレーターが出来たというよく分からない表現をするしかなかった。
全ての不良の顔面を踏みつぶし終えた後、峰岸くんは頬に付着した血を指先で拭った。よく見ると、彼の制服のあちこちに若干の血がこびり付いている。・・・刃物も使ってないのに、どうやってここまで血を流させたんだろう?
その時、峰岸くんが私を睨むように横目で見た。
「お前、名前は?」
「わ、私? 宮野志穂だけど」
私が名乗ると、峰岸くんは頷いた。
「そうか。オレは峰岸馨だ。ここでの出来事は、誰にも言うんじゃねえぞ」
念を押され、私は反射的に頷いてしまう。もし言えば、この物凄く喧嘩が強い不良男子に何をされるか分からない。
「だ、大丈夫。誰にも言わないからーーーーー」
その時、強い風が吹いた。私のスカートが大きくめくれ上がり、中の下着が峰岸くんの目に思い切り映ってしまう。峰岸くんの瞳孔が、ほんの少しだけ見開かれる。
「え・・・きゃああああ!」
私は悲鳴を上げながら、スカートを抑える。しかしもう既に後の祭り。峰岸くんの目には、しっかりと私の下着が焼き付けられた事だろう。
ど、どうしよう。男の人に下着を見られちゃった。しかもこんな、初対面の不良に。こういう時ってもう、責任取って結婚するしかないんじゃーーーー
「おい」
などと私が考えていると、峰岸くんが声を掛けてきた。
「ひゃ、ひゃい!」
「別に同性の下着を見ても何も思わねえから安心しろよ。ってか、その反応小学生かよ」
そ、そんな、小学生て・・・しかも同性の下着なんて・・・・・・ん?
同性?
今、同性って言った?
「え? 同性? 峰岸くんって男じゃーーーー」
「アホか。・・・ってこの服装じゃ分かるわけもねえか。オレは女だよ」
峰岸くんはそう言うと、胸ポケットから生徒手帳を出しこちらに投げてきた。キャッチして確認すると、確かに性別は女の子だ。
「え、え、ええええええっ⁉」
「男子の格好をしてるのは、こっちの服装の方が喧嘩に向いてるからだよ。スカートは動きづらくてしょうがねえ」
叫ぶ私にお構いなく、峰岸くんーーーじゃなかった、馨ちゃんは喋り続ける。と言うか、男装の理由が不純すぎる。
「じゃ、じゃあ、女の子が一人でこの人達を・・・」
「驚きすぎて気持ちの悪い奴だな。とにかく、オレは女だ。だから下着を見られた事も気にするな」
馨ちゃんはそう言うと、私の手から生徒手帳を奪い返して校舎の中に戻ろうとする。その後ろ姿を、私は目で追う。凄く格好良かった。
この時、私は何でか分からないけどーーーーー馨ちゃんに惚れてしまった。
具体的にどこに惚れたのかは分からない。私と同性の女の子なのに一人で男の人数人を倒しちゃう勇ましさか、それともその凛々しさか。はたまた私の中にある真面目さが、彼女を更生させようとしていたか。どれだかは分からない。
けれども、私は馨ちゃんに惚れていた。彼女の事をもっと知りたい。もっと仲良くなりたい。そう思うようになっていた。
次の日から、私は毎日少しずつ授業をサボって芝生に行くようになった。お昼休みも馨ちゃんの教室に出向いて、一緒に芝生で食べようと誘い続けた。
初めの内は『オレを誘うとか、どうかしてるんじゃねえのか?』と鼻で小馬鹿にするようだった馨ちゃんだけど、私がしつこく食い下がったら苦い顔になり、やがて「・・・一緒に食うだけだぞ?」と渋々承諾してくれた。
芝生で一緒にご飯を食べるときには、基本私が喋り続け、馨ちゃんがそれに答えるといった形だ。馨ちゃんの返答は素っ気ないけど、私の質問には必ず答えてくれた。
「ねえねえ馨ちゃん、好きな食べ物は何?」
「特にねえな。食えるものなら何でもって感じだ」
「好きな人とか居るの?」
「居ねえよ。オレは恋愛より喧嘩が好きなんだ」
私が出向いていない時でも馨ちゃんは喧嘩の日々を送っているようで、余所から来た相手を無傷で叩きのめしては手下にしているらしい。一度、私が出向いたら五十人くらいの不良たちに『志穂様こんにちは!』と頭を下げられた。あれは怖かったなあ・・・。
前に一度、関西最強の裏社会の組織と戦ったとかで、関西の裏社会の実権を牛耳ったとか物騒な事を言ってた。まあよく分からなかったから、詳しくは聞かなかったけど。
そんなこんなで、私は半年くらい馨ちゃんと一緒に毎日を過ごした。学校の成績は下がったけど、それについてはどうしようもない。馨ちゃんは授業が嫌いみたいで出たがらないんだもん。
事件が起こったのは、それから数日後だ。
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