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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
243/302

エピローグ 体育祭閉会式

 全ての競技が終わり、ライラ達は応援席に座っている。


「いやー、なかなか楽しかったね体育祭。アタシも久しぶりに頑張っちゃったよ」


「そうですか」


 倉根は楽しそうなライラに淡々と言うと、壇上を眺めた。壇上では、北見方が全校生徒に語り掛けている。マイクをあえて使わず、肉声のみで語り掛ける様は圧巻と呼んでもいいだろう。


「・・・確かに、生徒会長である僕が休んでしまったことで、皆に迷惑を描けてしまったことに関しては本当に申し訳ない。でも、もう一度だけチャンスが欲しいんだ。この体育祭で僕を信じて戦ってくれた皆の為にも、やり直すチャンスが欲しい!」


 つい先程知った情報だが、警察と学校は例の写真を証拠不十分と断定したらしい。無論、確認の意味も込めて北見方は取り調べを受ける羽目になるが、間違いなく無罪だろう。


 それに、『この体育祭で勝った方が正しい』という何気ない風潮が流れている以上、今の北見方の言葉は大きく生徒達の心に響くことだろう。風潮、空気と言うのは恐ろしいもので、それが間違いだったとしても広まればそれが暗黙のルールとなってしまう。


 北見方が犯罪者という空気が流れたのと同様に、北見方が無罪であるというニュースが流れるのも時間の問題だろう。


 服部は自分が負けたことに驚きを隠せないでいるらしく、拳をワナワナと震わせている。露骨な数の暴力を行った挙句、負けたから無理もないだろう。あくまでもこれは個人的な予想だが、今後服部の評価は爆下がりする。まあ自分には関係ないかと倉根は視線を逸らした。


 するとそこに、ライラの顔があった。


「・・・不快ですから顔を近づけないでください、ライラさん」


「えー、いいじゃん。この体育祭中ずっと倉根君と話せなかったんだし。何で競技に出なかったの?」


「俺は運動神経が悪いので」


 それは事実だ。頭脳面では万能な倉根だが、運動面は酷い。


「別に足遅くてもいいのに。アタシがちょっとルールブックに書き込めば、運動神経なんてどうにでもなるんだからさ」


 ライラはそう言って、手に持った書類を見せる。そこには、今回の体育祭の事が書いてあった。


「ここに倉根君の運動神経を上げる一文を書き足せば問題なかったのに。どうして頼んでくれなかったの?」


「思い付かなかっただけですよ。自分が体育祭に参加するなんて」


 今回の体育祭は異常だった。罠と生徒の数ならまだしも、一般人参加など加えてしまえば一方的な偏りが出来てしまう事が明らか。にも関わらず、何故こんな所業が可能だったのか。


 答えは簡単だ。ライラが能力で歪めた。


 勿論、全てを歪めたわけではない。例えば数の暴力や卑怯な罠の存在は全て、服部が一人で仕掛けたものだ。あくまでも彼女は『最後の一押し』をしたまで。


「でも、倉根君には出て欲しかったなー。あーあ、せっかく倉根君を取るためだけにビデオカメラも買ったのに」


「そう言えば」


 倉根は意図的に話を変える。


「とある最強な人にあって、どこかの誰かが失禁したみたいですね。いやぁ、見たかったなあ」


 ライラの顔がパッ、と赤く染まるのを倉根は見た。そんな倉根の目の前で、ライラは真っ赤な顔であたふたと手を振る。


「そ、それはね、峰岸さんだったから。そ、その、べ、別に見るほどの物でも、ないからね!」


「誰もライラさんの事だなんて言ってないじゃないですか。あくまでも俺は噂を聞いただけです。そんな挙動不審な態度を取り続けていたら、俺じゃなくても分かりますよ」


 はうわ⁉ と今時珍しいリアクションをするライラから顔を逸らし、倉根は空を見上げた。その時、前方から声を掛けられた。


「今回はお疲れさまでした。倉根君、ライラさん」


 見ると、眠そうな青年がこちらに歩いてきていた。確か自衛隊特殊作戦軍隊長の浅見雪寒とか言ったか。


「お疲れ様でした、浅見さん」


 倉根が椅子に座ったまま頭を下げると、雪寒は詰まらなそうに後頭部を掻いた。


「今回は残念でしたね。まさかあの状況から逆転されるとは。やはり、素人だと思って侮ってはいけませんね」


「そうですね。まあ、仕方ないですよ。自衛隊のそちらからしたら、雑魚に感じるのは無理もありません」


 相手の表情、声色、トーン全てに注意を払いながら、倉根は発言をする。ここで相手を逆上させては元も子もない。


「ところで、リレーの際からずっと気になっていた事があるのですが。一体どうして黒明君はアンカーを他人に譲ったんですかね? 自分で走れば勝ちは確実だと言うのに。倉根くんは分かったりしますか?」


「あ、それアタシも気になる!」


 すっかり復帰したライラが近付いてくる。二人に見つめられ、倉根は溜め息を吐いた。何故か自分が知っている扱いになっている。


 ・・・まあ、本当に知っているのだが。


 これは提示しても問題ない情報だと判断し、倉根は口を開く。


「多分ですが、黒明君は線引きをしたかったんだと思いますよ」


「線引き?」


 疑問符を浮かべるライラに、倉根は続ける。


「今回の体育祭はいわば、チート持ちの合戦です。互いに身体能力が高い奴を呼んできて戦う・・・それは体育祭という場を借りた、裏社会の決戦です」


 倉根はそこでフウッと息を吐く。手助けをする筈の倉根達が、戦いの要となってしまった事に関しては弁明のしようもない。


「本来は補助の役割であるチート持ちが幕引きをするなど、本気で戦い楽しもうとしている人に失礼極まりない。だけど勝たなければならない。その二つに答える為に、彼は花桐さんをアンカーにしたんだと思いますよ。まだ、辛うじてグレーである彼女を」


 チート持ちが戦いを左右し、あろう事か決着まで着けてしまう。それは幼稚園児の喧嘩に大人が武力介入して解決するのと同じくらい、卑劣な行為だ。


 表社会の連中に裏社会が出ばってきて問題を解決していくなど、弐夜からすれば納得できない勝ち方だったのだろう。それはそうだ。


 チート能力を持った人間が全てを解決するのなら、そいつ一人で十分だ。ヒロインもライバルも仲間も全て要らない。全て、自分で解決すればいいからだ。


 だからこそ、弐夜は自分が幕引きをする事を否定した。自分の力を信じ、しかし一線は決して踏み越えない形で、チームを勝利へと導いた。


 弐夜の思考のプロセスを読めた人間が、この会場に何人居ただろう。倉根は弐夜の信念を込めた思考に戦慄した。


「うーん、よく分からないや」


「そうですね。意味不明です」


 やはりと言うべきか、弐夜ほど高度な思考を持たない二人は、倉根の説明を聞いても首を傾げるだけだ。まあ予想はしていた。と言うか、どうせ理解できないと思って説明したのだから。


「とにかく、俺は一旦戻ります。これからも自衛隊特殊作戦軍、そしてそちらの組織に居る向井原共々よろしくお願いします」


 雪寒はしっかりとお辞儀をすると、クルリと踵を返して去っていった。その後ろ姿を見ながら、ライラは倉根に聞いてくる。


「さて、と。倉根くん、アタシは指示通りに動いたけど、情報はちゃんと掴めた?」


「ええ、お陰さまで。これでいい作戦が立てられそうです」


 倉根が言うと、ライラは満面の笑みを浮かべながら振り返った。幸せ一杯、と言ったオーラが漂っている。


「良かった! 何でわざわざこんな表社会の体育祭に参加してヘルズ達を妨害したのかと思ったけど、これで倉根くんの作戦が一段と強固な物になるなら出てきた意味があったね!」


 ライラは小躍りしながら倉根に近づくと、その頬に軽く口づけした。倉根はそれを避けない。ライラのキスを、平然と受け止めている。

 

 やがて、ライラははにかみながら倉根から離れる。その頬は赤い。

 

「ちょっ、ちょっと喉乾いちゃった。何か買ってくるね」


 言うが速いか、小走りで自動販売機に向かっていく。どうやら自分で行った行動にも関わらず恥ずかしくなってしまったようだ。


「・・・大人なんだか、子供なんだか」


 倉根は息を吐くと、走り去るライラの後ろ姿を眺めた。辺りに誰も居ないことを確認すると、口から言葉を紡ぐ。


「ありがとうございますライラさん。お陰で、全てのピースが揃いました」


 倉根は懐からプリントされた紙を取り出す。倉根の頼みで、降谷が調べてくれた情報だ。倉根は紙の内容を眺めながら、思考を続ける。


「今回の目的は、前回に引き続く黒明弐夜の能力調査ーーー」



 などではない。



 前回の事で、既に必要なデータは取れている。一般人からすれば何気ない情報でも、頭脳明晰な倉根から見れば色々な事が分かる。よって、弐夜達の勢力の情報は既に揃い終えている。


「では俺が、本当は何を求めたか。それはーーー」



 ライラ=イーデアリスの持つ能力の詳しい弱点と、それに順応する彼女自身のスペック。

 

 

 『対象を選び、ルールを制定して戦わせる能力』


 ライラの能力は恐ろしく強い。最悪、彼女の一存で戦争すら引き起こせる。だがそれ故に、彼女の力には大きな穴があるのだ。

 

 無論、ライラ本人もそれを知っているから不用意に弱点を露呈させることはしない。だから、倉根は彼女の能力の細かい穴を突くことにした。大きな穴の他にも、ライラの能力には複数の細かい穴がある事を倉根は知っていたからだ。


 その為の調査。倉根がいざという時にライラを確実に切り捨てるための、大事な調査だった。


 倉根は先程見たライラの笑みを思い浮かべながら、ボソリと呟く。


「友情や愛情と言った絆ーーーそんな物は、人を利用するための都合のいい解釈でしかない。仲間意識は時として人を無償で動かせるからな」


 金銭的な繋がりとは違い、気持ちによる付き合いに金は掛からない。よって安上がりで済むし、都合よく利用することも出来る。


「・・・日常パートは終わりですよ、ヘルズさん」


 倉根の目が不気味に輝く。その瞳は澄んだ空を見ているようで、中は真っ黒に濁っていた。


「ここからが本番です」


 その時、ライラが戻ってきた。手には牛乳のパックを持っており、顔や胸には牛乳が付着している。


「えーん。倉根君に掛けられちゃった~。もうお嫁に行けないよ責任取って~」


 倉根は腰のホルスターから拳銃を抜くと、迷わずライラに向けて撃った。



 倉根がそんな発砲沙汰を起こしていた頃ーーー


『もう! 馨ちゃんはすぐ無茶するんだから』


「それが性分なんでな。オレにはこの糞みたいに平和な日本より、戦乱の世界の方が向いてるんだよ」


『またオレって・・・馨ちゃんは()()()()()()()()、もっと丁寧な言葉にしなきゃ駄目だよ』


「いいんだよ。私って言うのはどうにも合わねえ」


『もう・・・とにかく、日本に戻ってきてるんだ。じゃあ、ちょっとだけでも会えるかな?』


「まあ、多少はな。じゃあ今体育祭も終わったことだし、そっちに行くな」


 そう言って峰岸が電話を切ろうとしたとき、志穂が『あ、あの!』と叫んだ。


「どうした?」


『わ、私、その・・・ずっと馨ちゃんに「ありがとう」も「ごめんね」も言えてなくって。私のせいで馨ちゃんは、海外に逃げなくちゃ行けなくなったのに』


「気にするなって前から言ってるだろ。あれはオレが馬鹿みたいに平和ボケした日本社会をぶっ壊そうとしてやった、オレの功績だ。お前が謝る事もなければ礼を言うこともねえよ」


 峰岸はそこまで言うと、僅かに眦を柔らかくした。


「じゃあ、これから向かうからな。オレの好きだったクッキーでも焼いて待っててくれ」


『うん、分かった。待ってるね馨ちゃん』


「ああ。それじゃあまた後でな、志穂」


 峰岸は志穂と呼ばれる人物との電話を終えると、目つきを元に戻して振り返った。瞬間、その殺意の片鱗に触れた生徒が恐怖に震える。


「峰岸さん、今回はお疲れさまでした。これ、さっきそこの花屋で買ってきたのでよろしければお友達に上げてください」


 北見方がどこからか薔薇の花束を持ってきて、峰岸に渡す。薔薇は素晴らしいが棘があって志穂が嫌だな、行く途中で全部抜いていくかと峰岸は思いながらも、北見方の手から受け取った。


「そう言えば、弐夜はどこに居るんだ?」


「ここです、峰岸さん」


 北見方の背後から、スッと弐夜が出てくる。その表情は少しうかない。


「どうした? 何か嫌なことでもあったような顔だな」


「いえ、ちょっと探してる人が居まして。ライラ=イーデアリスって言うんですけど、そいつが最近俺らにちょっかいを掛けてきてるみたいで・・・」


「ああ、ライラか。それならさっき居たぞ」


「えっ?」


 驚く弐夜に、峰岸はパッと答える。


「ライラはさっきまであそこに居た金髪だ。お前が何の目的で探してるかは知らないが、アイツはお前と同じ、生粋の裏家業だぞ。まあ、オレからすればお前もライラも雑魚中の雑魚だけどな」


 弐夜の顔に、衝撃が走った。そんな彼の変化を見ていながらも気にする事はなく、峰岸は続ける。


「気を付けろよ黒明。何だかこの日本ーーーーいや、下手をすれば世界中を巻き込んだ『何か』が起きる気がする。まああくまでもただの予想だし、お前らが何をしようがオレは傷一つ付かないからどうでもいいがな」


 峰岸の一言に、北見方の顔にも戦慄が走った。


 峰岸は空を見上げる。アホみたいにカラッと晴れた空。しかし翌日には果たしてどうなっている事やら。


「一寸先は闇。何が起こるか分からねえからな。晴れてる内にやれる事をやっといた方がいいんじゃねえのか?」


 峰岸の呟きに、返答を返す者は居なかった。


 

 

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