最後の競技、始まる
女子の騎馬戦も完敗だった。
と言うのも、こちらの過剰戦力が姫香しか居ないのに対して、向こうはチャルカと金髪の女を中心とした戦略陣形。まず姫香の騎馬が複数の騎馬に囲まれる。姫香は鍛えたバランス感覚を活かして二騎を撃墜させるも、三騎目であえなくハチマキを取られ敗北。
残りはチャルカと金髪の女が尋常ならざる身体能力を用いて、次々にハチマキを奪っていった。チャルカは弐夜の勢力では雑魚だが一般人から見ればかなりの脅威。こちらのチームはあえなく敗戦した。
作戦も何もない、ただの戦力差の問題だった。
「12対0で、服部チームの勝利!」
これで逆転された。騎馬戦は残っていた騎馬に応じてポイントが加算される。現在は向こうの方が有利だ。
弐夜はグシャグシャと頭を掻いた。自分が参戦していても騎馬の耐久力の問題で負けていたであろうが、それでも自分が出ていればという感覚が拭えない。
モヤモヤした感情を抱えて応援席に戻ると、北見方が近付いてきた。
「今計算してみたんだけど、服部チームと僕たちの点数差は40点。これなら最後のリレーで取り返せるね。服部君が万が一の時に備えて、リレーに入る点数を大きくしてたのが災いした」
北見方がルールブックを見せながら弐夜に言う。そしてまだ勝ち目はある、とばかりにすっかり気勢を削がれた弐夜の肩を掴んでくる。
「弐夜君。君が何に悲しんでいるのか僕は知らない。でも、今は勝たなくちゃいけないんだ。君の力を貸してくれ」
普段なら捻くれた弐夜には届かない、北見方の言葉。しかし普通の人並みに悩み、考えている弐夜にとってこの言葉は救いだった。
「あ、ああ。そうだな」
そうだ。ここで勝たなければあの恥ずかしい動画を削除してもらえない。それに弐夜の性格上、敗北するのは耐えがたい屈辱だ。
「それで北見方、ルールは?」
「どうやら5人グループを2つ作って、合わせて4グループで戦うみたいだね。男女は問わない。一位と二位にはそれぞれ30点、20点が入るから、一位と二位を独占すれば勝てる。さて、どうしようか」
北見方はグルリ、と一同を見回す。殺意を削がれた生徒達は皆、不安げな表情をしている。それもそうだろう、向こうは足の速い人材が数多く揃っている。そんな彼らに、殺意の波動に目覚めても居ないのに勝ち目がないと思っているのだろう。
「本番のメンバー変更は可みたいだから、遠慮なく変えさせてもらおう。えっと、まずは僕と花桐さん、弐夜君は確定だね。他に誰か居ないかな? 自薦、他薦を問わないよ」
北見方が明るく言うが、皆俯いて反応しない。どうやら一足先に心が折れてしまったようだ。その時、眼鏡を掛けた女子がおずおずと手を上げる。
「あ、あの・・・沙織ちゃんがいいと思います。さっきの走り、すっごく速かったし」
「だ、そうだよ。どうかな? 片道さん」
北見方の問いに、沙織は表向きの表情を貼り付けて答える。
「うん、いいよ。私、チームの為に頑張るねっ」
その顔が一瞬、とてつもなく嫌そうになったのを弐夜は見逃さなかった。やはり公の場で走るのは嫌らしいが、一度実力を見せてしまった以上仕方ない。腹痛だと何だので休めば少なからず一般生徒と摩擦を産むだろうから、引くに引けないのだ。
「これで四人か。後はーーー」
「私が行くわ」
手を上げた方向を見ると、そこには絶世の美女が居た。
二ノ宮だ。細くて白い手を目一杯上げ、参加の意思を表明している。彼女の姿に、諦めかけていた男の目が輝いた。彼女の存在はそれだけで神々しいのだろう。
「じゃあ二ノ宮さん、これで五人だ。後はこれを二つに分けて、残りを足の速い人で埋めればいいんだけど、どうしようか?」
北見方の全員への問いかけに、弐夜は即答する。こうなるだろうとは思い、考えておいたのだ。
「さっき速かったとはいえ、これはリレーだ。短距離走の時とは訳が違うことを考えると、片道の速度も信用できない。だから、片道と北見方、俺と花桐と二ノ宮で行こうと思うんだが」
これは表向きの理由を考えた上でだ。沙織は出来るだけ注目されずに終わりたいはず。ならば、この体育祭において一際存在感を放っている北見方とセットにすれば、北見方が注目されて沙織は目立つことなくフェードアウト出来る。
北見方もそういう部分を分かっているためか、弐夜の意見に同意する。
「うん、いい考えだね。それじゃあ、立候補した人はこう分かれて、後は足の速い人を埋めるって形でいいかな? ーーーうん、じゃあ決まりだ」
誰からも否定が上がらないのを確認すると、北見方は足の速い人を選出する。選ばれた生徒は最初あまり乗り気ではなかったが、「一緒に頑張ろう。僕たちで力を合わせれば~~~~~~」
という北見方の言葉に騙され、すっかりやる気になってしまった。
「向こうからは誰が出てくるんでしょうね」
北見方が他の生徒に指示を出している間、姫香が弐夜にスッと近づいて聞いてきた。弐夜は素っ気なく答える。
「さあな。だがあの金髪の女と殺し屋、そしてあの眠そうな奴と大将である服部は出てくるだろ。後は知らん」
「このリレー、誰かが二周走るみたいですからね。そこに誰を置くのかが勝負所です」
「え? そうなの?」
初めて聞いたルールに、弐夜は戸惑う。だが既に周知は事実のようで、当たり前のように話を進めている。
「マジかよ・・・どうせ俺が二周走るんだろ」
「まあ、そうなりますね。頑張ってください弐夜先輩」
姫香の言葉に、弐夜は頭を掻く。一体自分はいくつ後付け設定に振り回されれば気が済むのだろうか。いい加減、ルールくらい事前に包み隠さず教えて欲しい。
「で、順番ですけど私→二ノ宮さん→弐夜先輩という方向でーーー」
「あー、それなんだがな姫香」
勝手に決めつけ始める姫香を遮り、弐夜は言う。
「このリレー、お前がアンカー走れ。二周は俺が請け負ってやるから」
「え?」
ポカン、とする姫香。やがて、その顔が驚愕に染まる。
「えええっ⁉」
弐夜はそっと手で両耳を塞いだ。姫香の悲鳴はいつどこで聞いてもうるさい。
準備時間も終わり、いよいよリレー開始。
火薬銃が鳴らされ、第一走者が走り出す。
北見方チームの第一走者は二人とも、三学年屈指の実力者。対して服部チームの第一走者は共に、走りにおいてデタラメなタイムを叩き出すと噂される陸上部のエース二人。距離があっという間に離されていく。
半周早く、服部チームの走者二人が次の走者にバトンを渡す。続いての走者は、チャルカと殺し屋の男。二人はバトンを受け取るなり、尋常ならざる速度で駆け出した。そのすぐ後に、北見方チームの二人がバトンを受け渡す。
「悪い、遅れた!」
「気にしないで。誤差の範囲内よ」
第二走者、二ノ宮はそう言うと走り出す。その横を、陸上部の女子が駆け抜けていく。彼女の後ろ姿を見ながら、二ノ宮は自分に意識を集中させた。
(私の中に眠る、エネルギー)
うまく使えば日本を沈めることも容易いそれを、二ノ宮は制御する。
(全身に力を。体重を支えて体を軽く。スピード重視)
あれから、ずっと部屋に籠って力を制御する練習をし続けた。何度も何度も失敗し、ようやくコツを掴んだのは一昨日の夜。
地中に眠るエネルギーを、自分の中に蓄積、解放すると言う一歩間違えば大怪我をするかもしれない所業の練習。
その成果を、ここで発揮する。
「んっ」
全身に力がみなぎり、体が火照る。二ノ宮は一歩踏み出してみた。足が軽い。これなら行ける。
「行くわよ」
二ノ宮は走り出した。軽い助走をしただけなのに、周りの景色がビュンビュン後ろに流れていく。ヘルズはいつもこんな感じなのかしら、と二ノ宮がどうでもいい事を考えながら走っていると、チャルカと殺し屋の男の背中が見えてきた。
「ーーー居た」
二ノ宮の本来発動せざる力を用いたお陰で、半周差は埋まり掛けている。二ノ宮はあと少しとばかりに駆ける力を強くして、チャルカと殺し屋の男を追い抜いた。
驚いた顔をしているチャルカを尻目に減速することなくダッシュし、バトン受け渡しゾーンの数メートル手前で減速体勢に入る。
(エネルギーを解放。体内に蓄積されたエネルギーを解き放ち、急激な減速を)
瞬間、体からドバッ! とエネルギーが放出された。全身の力が抜けていくのが分かる。エネルギーが大気中の物質と結合して小爆発を引き起こし、派手な爆音が二ノ宮の周りで響いた。
そんな爆発を無視して、二ノ宮は次の走者にバトンを託す。
「よろしくっ!」
「え? ああ、はい」
バトンを渡された生徒はキョトンとしていたが、すぐに走り出した。しかし敵の次の走者は例の眠そうな青年と、筋肉質な男子。二ノ宮が開けたアドバンテージはみるみる内に埋められてしまう。
「あーあ、せっかく繋いだのに」
二ノ宮は残念そうに言うと、力が抜けたようにパタリと倒れた。本部に居た生徒が慌てた様子で飛んでくるが、何もすることが出来ない。
(この操作ーーーエネルギーを蓄積することは出来るんだけど、解放する時に元々自分が持ってたエネルギーまで一緒に持ってっちゃうからね。要するに、エネルギー不足で動けなくなる訳よ)
指一本どころか口すら動かせない状態で、二ノ宮は考える。
(未完成な物を使うなんて、私らしくもない。まあいいわ、ここまでしたんだもの。後は頼んだわよヘルズ、姫香ちゃん)
雪寒、二ノ宮が繋いだ生徒、筋肉質な男、北見方チームのモブ生徒の順番で、全員校庭を駆ける。雪寒の実力は圧巻と呼べるレベルで、既に二番目の走者とおよそ半周近い差を付けていた。
「さて、どうなるのかな」
前の光景を見ながら、雪寒はふと呟く。次の走者は、このチームの大将である服部と、北見方チームの参謀と思われる黒明弐夜。どちらも屈指の実力者だ。
「まさか北見方と戦わないとはなーーー」
雪寒は作戦会議の事を思い出す。内通者、と言うかライラが懐柔したスパイのお陰で情報は漏れていたため、敵の戦略は手に取るように読めていた。だが、ライラは何故か服部に情報を提供しなかった。
ーーー北見方は五番目に走ると言うことを。
それにより、服部は四番目に来てしまった。そこに居たのは弐夜。戦いがっていたのに、残念なことだ。
「まあ、俺には関係ないか」
雪寒は加速すると、服部にバトンを渡すべく急いだ。
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