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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
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騎馬戦、開始

「で? この冷血で天才で公明正大なるこの私に、何の用かしら?」


「何だその無駄に長い肩書きは。ってか、会ったから声を掛けただけで深い意味はねえよ」


 弐夜はそう言ってコーラのキャップを開ける。すると、落ちた事で中に衝撃が加わり、炭酸が暴発寸前だったコーラが


 ブシャッ!


 と噴き出した。噴き出たコーラは正面に飛んで行きーーーーーーーー沙織の顔面にぶっ掛かった。


「あ・・・」


 何故か避けなかった沙織の端正な顔から、コーラがポタポタと垂れる。しばらく、二人は無言だった。


「・・・顔射とはいい度胸ね、ヘルズ」


「い、いや、ちょっと待て。俺は別にそんなつもりはなかったんだ。ってか、たった一回地面に落ちたくらいでこんなに噴き出るコーラの方にも問題があってだな・・・」


 何故だかは分からないが、コーラは凄い勢いで噴き出した。それこそ、誰かがメントスでも入れたかのような勢いで。


 それに顔射と言うなら、コーラではなく牛乳ーーー


「いや、辞めよう」


 弐夜はそこで思考をぶった切る。ただでさえ目の前に不健全の塊が居ると言うのに、自分まで下ネタに走るわけにはいかない。


「何スッキリした顔してるのよ。私の顔面にぶっかけられてご満悦? 気持ちの悪い変態ね」


「お前はその口を閉じろ!」


 弐夜が突っ込むと、不健全の塊は不満そうな顔をしながらも下ネタ発言をやめる。


 気を取り直して、take2。


「で、だ。俺がお前に声を掛けたのはたまたま出会ったからだ。別に出会った相手に声を掛けるのは普通じゃないだろ?」


「そうね、普通はね。でも貴方は特別よこの●£◎$野郎」


 ・・・規制してはいるが、結局ディスられている。


「そもそも、貴方のような変態と一般人を比べる方がおかしいのよ。一般人は貴方みたいに£%≠≒じゃないし、$◎②●◎でもないわ」


「規制用語もやめろ。訳が分からなくなる」


 弐夜が注意すると、後ろから二つの気配があった。殺意も闘気もない、ただの一般人。沙織もそれに気が付いたのか、すぐさま表向きのモードに戻る。


 気配は弐夜に用があったようで、こちらに話し掛けてくる。


「よう黒明。こんな所で女と密会か?」


 弐夜が億劫げに振り向くと、そこにはクラスメイトの男が居た。名前は知らない。


「・・・誰だお前は?」


 弐夜は本心からそう聞いた。いや、別にクラスメイトというのは分かる。問題は、彼が何と言う名前をしているかと言う点だ。


「お、お前、こっちが下手に出たら調子に乗りやがって・・・」


 弐夜の質問に、クラスメイトは苛立った表情を浮かべた。・・・いや、確かに今の質問は失礼だっただろうが、だからと言って調子に乗っているわけではないのだが。


 その時、唐突に首筋に悪寒がして弐夜は振り返る。そこには、いい事を思い付いたとほくそ笑む沙織が居た。


「おい沙織、何をーーー」


「弐夜せんぱーい。この人達、先輩のお友達ですか?」


 弐夜が青ざめた顔をしていると、沙織が袖を掴み、上目使いで聞いてきた。その行動に当然、反応する一同。


「可愛い後輩持ちとは、随分だな黒明」


 ーーーいや、コイツは猫を被ってるだけなので望むなら熨斗を付けてアナタ方に上げますが、と言いそうな気持ちを、弐夜は何とか堪える。


「もしもこの体育祭、敗北したらいい恥さらしだよなぁ。最悪、女子からの評価もがた落ちだ」


 いや、女子からの評価は心底どうでもいいので早くこの何考えてるか分からない大悪魔を何とかしてください、と弐夜は言いたくなったが袖を掴んだ沙織が超絶的な威圧を放っているため、何も言えない。


「この人、先輩のお友達ですか? 口が悪いですね。怖ーい」


 沙織も男子の怒りが自分ではなく弐夜に向くように、言葉を選んで発言している。敵からの口撃だけではなく、味方だと思っていたものの裏切り。精神的にまいりそうだった。


「おい、そこの後輩。その男は色々気持ち悪いから近づかない方がいいぞ」


「え、そうなんですか? 私先輩が格好よくて運動も勉強も出来て浮気なんか絶対しない人だと思ってアタックしたのに。残念です」


 沙織がゴミを見るような目で、弐夜を見てくる。何なんだよこれは、と弐夜は頭を掻いた。


「おい沙織、あのな・・・」


「あ、でも弐夜先輩が勝ったら付き合ってもらおうかなあ」


 弐夜が止めようとするよりも早く、沙織は言った。それも、弐夜では無く敵対している男子生徒の方を向きながら。


「いいぜ黒明。俺たちのチームがお前のチームをぶっ潰して、お前から彼女も尊厳も何もかも奪ってやるよ」


 前時代的なメンチの切り方をして、男子生徒は去っていった。残されたのは、ポカンとした顔で事の成り行きを見ていた当事者弐夜と、そんな彼を見てクスクス笑っている沙織の二人だった。


「・・・ってアレ⁉ 状況飲み込めないうちに一人敵に回しちゃったんですけど⁉ しかもアイツ同じクラスの人間だよね⁉」


「別にいいじゃない。これで勝つ気負いが一つ出来たわよ」


 沙織が楽しそうに笑う。弐夜はそんな彼女をジロリと見た。


「随分と楽しそうだな。そんなに俺を陥れる事が楽しいのかよ?」


「ええ、とっても。流石、仕方なくとは言えお姉ちゃんを殺した男ね。不快感MAXよ。そしてそんな不快感の高い奴が嵌められてる姿を見ると、私はとっても嬉しくなるの」


これが弐夜に好意があるなら可愛いものだが、沙織は冗談抜きで好きではない性質の人間だ。小悪魔、というかただの悪魔だ。


「コイツに姉の優しさの一%でもあればな・・・」


「そんなんじゃ裏社会で生き残れないわよ。いい? どこまでも冷酷にならなくちゃ死ぬのよ。貴方、自分の手が汚れてる自覚は本当にあるの?」


 沙織に問われるが、弐夜は首を縦にも横にも振れなかった。言われてみれば、その通りだからだ。


 怪盗は、高いスペックを誇る代償として人を殺せない。その気になればいくらでも殺せるのに、だ。だから弐夜は、普段は力を極力セーブしている。うっかり殺してしまった、では済まないからだ。


 力をセーブし、かつ人を全く殺さず盗みだけを行う。その行いに手が汚れているか聞かれても、正直微妙なところだ。


 無論、法律上では悪だろう。気持ちの上でも悪なのは分かる。だが、面と向かって悪かと聞かれると、返答に困る。


「・・・まあ、きっと悪なんだろうな」


 弐夜が罪悪感から逃れるように言う。おかしい。自分で自分に言い聞かせる分には『外道』だの『クズ』だの言えるのに、殺してしまった人のーーークルシアの妹を前にすると、無駄だと分かっていてもつい言い逃れをしてしまいたくなる。


 そんな弐夜の弱い心を殺すように、沙織が胸ぐらを掴んだ。


「曖昧な言葉で誤魔化しても何も変わらないわよ。いい? 貴方はどうしようもない悪人なの。人を殺し、金を盗む極悪人なのよ。いい加減自覚しなさい。自分が『悪』だと言うことを」


 分かっている。


 分かっているが、口が動かない。どうしてだ。前はあんなに悪を自称していたではないか。何故動かない。


 動かない口を懸命に動かそうとする弐夜に、沙織は残念そうな目をした。胸ぐらを掴んだ手を離す。


「・・・もういいわ。今話しても効果が薄いだろうし。貴方の中で色々整理が出来たらもう一度言って。私は貴方のカウンセラーにはなれないけど、貴方の決断を聞いてあげることは出来るから」


 そこまで言うと、沙織は踵を返して歩いていった。その後ろ姿を、弐夜は呆然と見つめていた。


 その時、ピストル音が鳴り響いた。ハッとなって校舎まで戻り、時計を見る。まずい、もう競技が始まってしまう。


「ヤベエ!」


 弐夜が大慌てで校庭まで戻ると、そこには地獄のような光景があった。


 今は男子騎馬戦の最中。だが、こちらの騎馬は数えるほどしか居なかった。


「何、が・・・」


 よく見ると、服部チームの騎馬は誰も動いていない。たった一騎を除いて。


「アレはーーー」


 下に殺し屋の男、強そうな青年、筋肉の護衛、そして騎乗者が服部だ。彼らの騎馬は恐ろしい一体感を用いて超スピードで動き回り、他の騎馬に激突して騎馬を破壊していく。


「・・・」


「弐夜先輩、こんな所に居たんですか⁉ 探しましたよ」


 一年の生徒が弐夜を発見し、走ってくる。だが弐夜は、目の前の光景に釘付けになっていた。


 殺意の波動に目覚めた上級生で組まれた騎馬が、服部の乗る騎馬に体当たりをかます。だが騎馬は破壊するどころかビクともせず、お返しとばかりに体当たりをぶつけて来た。


 上級生の騎馬が破壊され、全員地面に倒れた。その目から殺意が抜けていく。峰岸による恐怖に加え今の敗北に、彼らの殺意が砕け散ったのだ。


 よく見ると、既に大半の目から殺意が消えている。そんな中、楽しそうに服部の騎馬が校庭を駆ける。彼らは目に届く範囲に居る騎馬を倒し、落馬させていく。


 やがて、北見方の乗る騎馬を残す一騎のみとなってしまった。


「さあ、決着を付けましょうか北見方生徒会長」


 服部が死の宣告をするように、騎馬に突撃の命令を下す。何騎も騎馬を破壊してきた死の騎馬が校庭を駆け、ぶつかってくる。


「ゲホッ!」


 北見方の騎馬になっている生徒が、思いきり咳き込む。それにより北見方の騎馬がバランスを崩し、北見方は転落し掛けた。


「今だ!」


 そのタイミングを逃さず、服部が手を伸ばす。北見方のハチマキを掴みかけーーー北見方に手の甲で弾かれた。


「チッ、ならもう一度!」

 

 服部の指示に、服部の騎馬が再度体当たりを繰り出す。筋肉質な体に全面的に激突され、騎馬の生徒がたたらを踏んだ。二度もぶつかられて騎馬が崩れないのは、その手で直接北見方を敗北させたいからか。


「ハハッ!」


 服部が手を伸ばし、北見方のハチマキを狙う。北見方は再度手で防ぐも、体勢が安定せず思うように防御できない。


「無様ですね北見方生徒会長。生徒の代表がそんな無様な姿を見せていいんですかね!」


 崩しかけたバランスを見事な体幹で支える北見方に、服部の手が伸びる。北見方は防戦一方となり、攻めに転じられない。


 その時、試合終了の発砲音がなった。同時、北見方の乗っていた騎馬の生徒が地面に両膝を突く。


「25対1騎で、服部チームの勝利!」


 審判の声が、弐夜の耳に鮮明に残る。それと同時、弐夜の心に浮かぶ物が一つ。


 ーーー負けた。 

 

 



 





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