破壊の悪魔vs数の暴力①
作戦会議も終了し、両チームの男子が全員、入場門を潜って入場した。
服部はチラリ、と北見方チームの戦力を確認する。相手はただでさえ少ない人数に加えその中の3分の1を女子が占めていたため、数えられる程しか人数が居ない。対してこちらは元々の人数が多いこともあってか、居るだけで相手に威圧感を与える程の規模である。
もしも罠も裏社会の住人も何もなく、ただの棒倒しであったなら数の差で圧勝するであろう人数差。いくら弐夜と北見方が居ようと、この数は倒せまい。
「もう一度、作戦を確認する。武道の心得を持つ奴が前衛に、残りを全員守りにする。そうすれば例え前衛が突破されても、守りを固めて前衛が回復するまで待つ」
こちらの守りに掛ける人数は三桁。それこそ一騎当千の実力を誇る正真正銘の猛者でも無い限り、この絶対の布陣を破ることは不可能だ。たった二人でこの壁を抜けられたら、それこそ異常だ。
その時、隣から殺気を感じて振り向く。するとそこには、切れ目をした殺し屋らしい男が立っていた。
「服部。首尾は順調か?」
「ええ、まあ。でも心配要りませんよ。こっちのチームには武闘派が揃ってますからね。北見方と黒明弐夜は相当まずいですが、他は問題ありませんね。何か問題でも?」
「大有りだ」
男はスッと目を細めた。
「この戦い、かなり過酷な物になるかもな・・・いや、誤魔化すのは辞めよう。この戦い、俺たちに勝ちはない」
「何言ってるんですか。数は圧倒的、更にこっちには戦闘力の高い面子が揃っています。一体何が問題だと言うのですか?」
服部は男に聞く。この状態で万に一つも負けはないと踏んでいるが、男は腐っても裏社会の人間だ。自分には見えない何かが見えているのかもしれない。
「さっき、ライラから報告を受けた。実はーーー」
「そろそろ始まりますよ。二人とも、持ち場について下さーい」
言いかけた男に、眠そうな青年が声を掛ける。それと同時、競技開始の発砲音が鳴り響く。
「始まりましたね。それでは」
青年は怠そうに呟くと、地面を蹴って敵陣に突撃していった。残像を置き去りにする速度で突っ込んだ青年に、周囲が驚きの声を上げるのが聞こえる。
服部は敵陣を眺める。向こうは予想通り弐夜と北見方、そして数人の一般生徒で構成されていた。
「予定通りの編成で行くぞ」
「「「応!」」」
服部の指揮の元、筋肉の塊のような生徒達が次々に走っていく。それを迎え撃つは、弐夜によって殺意の波動に目覚めた怪物たち。
「ウルァァァァァァァ!」
「殺sqdpa6cd!」
理解不能な言語を繰り返しながら、怪物たちか筋肉隊とぶつかる。互いが互いを抑え込む接戦。その隙に、弐夜と北見方は真っ直ぐこちらに向かってくる。
「俺があの男を止める。お前は北見方とやらを止めろ」
男は言うなり素早い速度で助走を付けると、弐夜に向けてタックルをくらわせた。弐夜は半身をのけ反らせてそれをかわそうとするが、男の反則すれすれの肘打ちが顎にクリーンヒットし、たたらを踏む。
「さて、俺も行くか」
服部はゆっくりと歩くと、こちらに走ってくる北見方の前に立ちはだかった。
「ここから先は行かせませんよ、北見方生徒会長」
「・・・まさか、君が直々に出てくるとはね。てっきり護衛の人にやらせると思ってたよ」
「筋肉隊は皆そちらの殺人兵器に送り込んでしまいましたからね。出ざるを得ないんですよ」
どこまでも挑発するような口調で、服部は北見方を煽る。北見方が怒りに任せてルール違反を犯すとは思えないが、してくれたら御の字だ。
「悪いけど、通らせてもらうよ。下手をすればこの戦い、血の海になるからね。一刻も早く決着を着けたいんだ」
「そうですね。確かに、ウチの筋肉隊が本気を出せば血の海になるでしょうね。でも大丈夫ですよ、そこまでやるようには命令していないので」
服部が言うと、北見方は悲しそうに首を振った。
「違うよ。事態はそんなに生易しいものじゃない。下手をすれば死人が出るものだ」
「何を言って・・・」
その時、筋肉隊とぶつかっていた殺意の部隊が派手なタックルをくらって吹っ飛んだ。やはり殺意に目覚めた部隊と言えど、人体構造上欠陥となる部分を集中的に攻撃されれば、肉体に疲労が蓄積していく。
「残念でしたね。ウチの筋肉隊がそちらの包囲陣を突破しましたよ。後は棒を守っている殺意の軍勢だけですねえ」
服部は敵の棒を持つメンバーを見る。殺意の波動に目覚めたメンバーが数十人、棒を囲っている。恐らく来た敵を返り討ちにする為だろう。しかしやや知能のある筋肉隊なら、彼らをすり抜けて棒を倒す位の事はやってのけるだろう。
「まずいな・・・」
「ええ、まずいですね。このままなら、俺達が勝ちますよ。何を企んでいるかは知りませんが、全て水泡に帰ります」
服部は言うが、北見方は聞いていない。自身の陣を見て、怯えた表情をしている。
「こうなったら・・・仕方ないか。最悪の事態になるのだけは避けなくちゃ」
「何か言いましたか?」
挑発するような服部を、北見方はキッと睨む。そして、何かをソッと呟いた。
「・・・算」
「はい?」
服部が嫌みったらしく聞き返した瞬間、北見方は服部目掛けて突っ込んできた。服部は余裕を持ってそれを制する。
北見方程ではないが、服部にも武術の心得はある。倒すことこそ出来ないだろうが、焦って判断能力を欠如させた北見方を止めるくらい、訳ないだろう。
「悪いですね、北見方生徒会長。ここで止めさせてーーー」
手を広げて阻止しようとした服部はしかし、北見方が踏み込もうとした足を再び地面に戻しているのを見る。
「えーーー」
服部が声を上げるまでもなく、北見方は拳を握って目にも止まらぬ速さで正拳突きを打ち込んだ。ビュオ! という風が、服部の眼前で吹き荒れる。
北見方の拳はーーー服部の鼻の数センチ前で、寸止めされていた。
「直接当てていないから反則ではないよね。じゃあ、僕はこれで」
思わぬ一撃に体が数秒硬直してしまった服部にそう声を掛けて、北見方は横を駆け抜けて行く。残された服部は、たった今受けた攻撃に動揺を隠せないでいた。
タックル、ないしは合間を縫ってすり抜けようとした、北見方の動作。しかしそれはフェイクで、実際には強く地面を踏みしめて拳を放っていた。
動作、発想、どれを取っても武道のそれではない。服部は呆然と、北見方が棒を倒しに突っ込むのを見るしかない。
北見方は得意の足の速さを活かして、敵の棒に向かっていく。服部は歯噛みした。もし今のような技を食らえば、こちらの一般生徒の守りなどあっという間に崩壊してしまう。
服部は視線をさまよわせる。するとそこには、弐夜相手に苦戦している男の姿があった。
「この動き、やはり裏家業ーーー」
「オイオイ、そんな詰まんねえ事言ってるとやられちまうぜ?」
弐夜が楽しそうに言いながら上段蹴りを繰り出す。男はそれを右手で払い除けながら、弐夜を掴もうと左手を伸ばす。弐夜は払われた左足を大きくぶん回して伸ばされた左手を弾き、男の胴体目掛けて横蹴りを入れた。
そんな動作が一秒間に繰り出される光景に、服部は思わず絶句した。
「何だ、これーーー」
まるで二人の居る空間だけ、時間の流れが違うかのようだ。服部は彼らの攻防を、一秒遅れて揺れ動く残像でしか捉えられない。
審判が彼らを注意できないのも無理もない、目で捉えることが出来ないものをどう裁けと言うのか。
「オラ、来いよ殺し屋!」
弐夜の二段蹴りが、男の鳩尾を蹴り上げる。痛みに呻く男を見て服部が目を逸らしたその時、自陣から悲鳴が上がった。
「ッ⁉」
見ると、北見方が服部チームの棒を守る生徒たちを華麗なステップで回避しながら棒に近づいていた。
一人、二人・・・十人。
何人単位で飛びかかろうが構わないと言うかのように、北見方は捌いていく。そして数十に渡る捌きの後、北見方は棒のすぐ前に立っていた。
「さて、このゲームも終わりと行こうか」
北見方はそう言うと、突然の登場に驚いている生徒を軽く押し退け、棒を倒そうと手を伸ばすーーー寸前、支えを失ったように地面にうつ伏せに倒れた。
「なッ・・・」
そこで、服部は見た。
例の眠そうな青年が、北見方に手刀をくらわせた体勢のまま、立っていることを。
その時になって、服部は気が付く。青年が視認できない速度で戻ってきて、棒を倒そうとする北見方の後頭部に手刀をくらわせたと言うことに。
「北見方!」
男を倒した弐夜が、北見方に向かって走り出す。しかしそこに、青年が立ちはだかる。
「お二人に暴れられると面倒ですからね。少々俺と遊んでもらいますよ」
「チッ、面倒だな!」
弐夜は今度は暴力を使わずに突破しようとするが、青年は怠そうながらもなかなか遠そうとしない。服部は弐夜から視線を背けた。青年のおかげで、しばらく二人は動けない。と言う事はーー
ーー
筋肉隊が、動揺する殺意の軍勢をタックルで倒しているのが見える。恐らく総大将と副大将の二人が苦戦している様を見せられ、困惑していることだろう。残念なことだ。
「・・・紆余曲折はあったが、これで俺の勝ちか」
服部は感慨深く呟く。一時は北見方の予期せぬ行動に負けかけたが、最後に勝ったのは自分だ。筋肉隊はあと少しで守りを打ち破る。いつの間にか現れた青年も、楽しそうに無双している。北見方チームは、もう壊滅状態だ。
「まずい・・・弐夜くん!」
「無理だ! ちょっとでも背中を見せたら殺られる!」
北見方と弐夜の叫びを聞きながら、服部はニヤリと笑った。
ーーー勝った。俺の勝ちだ。
「でもこのままじゃまずいよ! せっかく死ぬ気の説得で、切り札になってもらったのに!」
「諦めろ! 最初から前衛に立とうとしなくなっただけ良かったと思え!」
切り札とか何とか言っているが、所詮ハッタリだろう。服部はそう結論付けると、筋肉隊の活躍に高笑いした。
ーーーだからこそ、筋肉隊が空に打ち上げられるのを見たとき、開いた口が広がらなかった。
「は・・・?」
我がチームが誇る戦闘力自慢の筋肉達が空中に吹き飛び、地面に落ちるのを、服部は何かの冗談かと思った。
しかし、服部が目に捉えたのは事実だった。彼の頭が『これは現実だ』と認識すると同時、服部の視界の先に一人の人物が億劫げに支えにしていた棒から体を起こすのが見えた。
かなり遠くにいるはず。しかし、服部にはその人物がはっきりと見え、また目が離せなくなっていた。特攻服を着たその人物は体を起こしたかと思うと、特攻服のポケットに手を突っ込んだまま、ゆっくりと歩き出した。
ただ歩いただけ。それなのに、服部にはそれが自分の力を誇示するかのように見えた。
服部が驚いていると、その人物は何かを呟いた。普通なら聞こえないはずの、文字通りの呟き。しかし、まるで空気すらその人物の存在に恐怖しているかのように、声が恐ろしく鮮明に聞こえてきた。
「さあ、血祭りの時間だ。狩られる準備は出来てるか、豚ども」
ゾクリ、と服部の全身に震えが走った。
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