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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
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現れた魔王

「もう、そんなに怒らないでよ。ちょっとした悪ふざけじゃない」


「・・・フン」


 拗ねる弐夜に、悪戯をした事を詫びる二ノ宮。


「ちょっとふざけただけじゃない。そんなに怒ることないでしょ」


「・・・じゃあお前は、不特定多数の人間の前でカードを突き出して『これが自分の恋人だ』って恥ずかしげもなく堂々と言い切れるのかよ」


「ごめんなさい私が悪かったわ」


 二ノ宮は即刻で謝罪する。流石の彼女も、それは恥ずかしいらしい。


「で、この後は?」


「連続で出ることになるな。棒倒しに騎馬戦、そしてリレーで終わりだ」


 

 リレーはまだ出ると決まったわけではないが、恐らくこのまま行けば出る羽目になるだろう。北見方がこんな最大戦力に手を回していないはずが無い。


 何はともあれ、次は棒倒しである。弐夜はポキポキと指を鳴らす。


「棒倒しか。ククッ、掛かって来いよ雑魚共が。この伝説の大怪盗ヘルズ様が直々にぶっ倒してくれるわーーーー」


 弐夜がそんな風に息巻いていると、校門の近くからザワザワというざわめきが聞こえてきた。ざわめきは伝染し、どんどんこちらに近づいて来る。


「何だ?」


 弐夜が眉をひそめていると、生徒の一人が報告にやって来た。


「た、大変です! 何やら特効服を着た奴が体育祭に来てます! 教師が大慌てで警察や特殊部隊に連絡し始めてます!」


「は?」


 訳の分からない伝令に、弐夜は疑問符を浮かべる。警察? 特殊部隊? 暴走族が特攻してきたから警察なら分かるが、なぜ特殊部隊まで呼ぶ必要があるのだろうか。


 それに生徒の口ぶりからして、侵入者は一人。それなら、まずは体育教師辺りが取り押さえに掛かるのが普通じゃないのだろうか。二ノ宮も、意味不明といった表情を浮かべている。


「おい、一体どういうーーーー」


 弐夜が聞いたとき、その人物の姿が視界に入った。同時、全身の毛が逆立つ。



 何故、教師の大半が急な事務処理に追われたか、その理由がようやく分かった。敵の能力でも何でもない、『奴』が来れば、必然的にそうなる。



「冗談だろ・・・」


 弐夜は視界に映る人物ーーーー峰岸馨を見て、乾いた笑みを浮かべた。






「久しぶりだな、日本の高校に来るのは」


 校門をくぐった峰岸は、校舎を眺める。日本の学校もアメリカの学校も外見だけは大して違いが無いというのに、違うように感じてしまうのは何故だろうか。


「あ、峰岸さん来た。おーい、こっちこっち!」


 峰岸が校庭に入ると、応援席に座ったライラが手を振ってきた。峰岸はそこに向かって真っ直ぐに歩く。途中、何人か行く手を阻む人間が居たが、峰岸の姿を見ると恐れをなしたような顔で、サッと道を空けていく。峰岸はさながらモーセのように、空いた空間を進んでいく。


「やっほー峰岸さん、やけに遅かったね。何かあった?」


「別に。久しぶりの日本だから道に迷っただけだ。ついでに、オレに絡んできた族を潰すのに手間取った」


 よく見ると分かるが、峰岸の着ている特効服には所々に血がこびりついていた。ただしそこに峰岸自身の血は全くない。たかが一暴走族如きが、峰岸馨にダメージを与えられるはずも無いのだ。


「それでライラ、遺書は書いたか? まだ書いてないなら五分の時間をやる。安心しろ、一撃で葬ってやるよ」


 今まで楽しそうにしていたライラの目に、誰が見ても明らかな程の恐怖が浮かぶ。


「え、えーと、マジでやる気?」


「当たり前だろ。オレの睡眠を妨げる奴は例え宇宙人だったとしても潰す。朝の五時に掛けて来やがって。常識がないじゃ済まされねえぞ」


 峰岸は腕を振り上げる。ただそれだけの動作で、ライラだけではなく周りに居た人間も恐怖に顔を引き攣らせた。中には尻餅を着き、失禁している者も居る。


「自分の非常識さを恥じるんだな。もしお前が一般常識に乗っ取ってマトモな時間に掛けてくれば、少なくともここで死ぬことはなかっただろうに」


 死の宣告をするかの如く、峰岸は言い放つ。ライラは恐怖で空気を吸うこともままならないのか、過呼吸になりかけている。そんなライラに諦めたような顔をして、峰岸は腕を振り下ろそうとした。


「ちょっ、ちょっと待ってください」


 しかし、峰岸の腕は振り下ろされなかった。峰岸の腕は振り上げた状態から動かず、その肘に青年の手が置かれている。


「腕を下ろしてください、峰岸さん」


 青年は峰岸の腕に手を添えたまま、峰岸を咎める。峰岸はそんな彼をギロッと睨んだ。


「誰だテメェは。すっこんでろよ、オレは自分以外の常識の無い奴を見るとムシャクシャするんだ」


 峰岸はもう片方の手で、小刻みに痙攣する青年の手を掴もうとする。しかしその直前、青年が言った。


「陸上自衛隊特殊作戦群隊長、浅見雪寒です。峰岸さん、ここは引いてくださいよ。理由は二つ。まずここで殺人をするといろいろ面倒な事。そしてーーーーこんな失禁女、峰岸さんが手を下すまでもありませんよ」


 そう言って、ライラの座っている椅子を指し示す。ライラの椅子には、決して少なくない量の液体が垂れている。峰岸はそれを見ると、フンと鼻を鳴らした。


「特殊部隊の隊長様か。なかなか面白いじゃねえか。おいライラ、いい仲間に恵まれて命拾いしたな」


 峰岸が腕を引くと、周囲に安堵の空気が流れた。ライラはまだ恐怖で上手く歩けないのかフラフラと椅子から立ち上がると、峰岸から逃げるように教室に入って行った。恐らく、替えの下着でも探しに行ったのだろう。ライラが去ったことで、雪寒と峰岸は向かい合ような形になる。


 雪寒の好戦的な目と、峰岸の見る者を恐怖の底に陥れる目が交錯する。


 先に口火を切ったのは峰岸だった。


「陸上自衛隊ってのはずいぶん面白い訓練をやってるじゃねえか。あの状況で動けたのはこの場で、いやこの日本中でお前だけだぜ」


「恐怖耐性は高い方ですから。でも驚きましたよ、数多の修羅場を潜ってきた俺でさえ、あれだけの恐怖を感じたんですから。手に力が入らなかったのは生まれて初めてです」


 そう、裏社会の奥深くに在籍するライラですら思わず失禁してしまうような超絶的な恐怖の中動けたのは、雪寒ただ一人だ。だが、彼も峰岸の攻撃を止められた訳ではない。


 あくまでも、手を添えただけだ。それも僅かに。


 あまりの恐怖心に体が腕の力が抜け、雪寒は手を添えるくらいの事しか出来なかったのだ。つまり峰岸を止めたのは雪寒ではない、峰岸自身だ。


「まさかあのジジイ以外にも動ける奴が居たとはな。どうやらオレの見聞は狭かったらしい」


「動けただけ、ですよ。あれなら赤子にも負けます。それにしても、流石『峰岸事件』を起こした首謀者だけありますよね。見事な戦闘力です」


 雪寒の瞳の奥がギラリ、と光る。峰岸はそれを無視して、校庭を見た。


「で、今は何の競技中だ?」


「ちょうど今、借り物競争が終わったところですね。次は棒倒しです。やって行きますか?」


「ああ、肩慣らしに丁度いいな」


 峰岸は承認するが、何かに気がついたように辺りを見回した。


「・・・オイ、何だかこっちのチームだけ人数多くねえか?」


「それはですね、今回の体育祭が個人が入りたい方に入る、という形を取ってるからですよ。北見方生徒会長率いるチームと、服部副会長率いるチーム。比率は1:9ってところですかね。・・・って、どこに行くんです?」


 真っ直ぐ歩いていく峰岸に、雪寒が問う。峰岸は面倒臭そうに答えた。


「決まってるだろ。北見方チームだよ。何が悲しくてこんな集団のイジメに参加しなくちゃならねえんだ。アホみたいな数の暴力ごっこは三下の雑魚がやる事だ。オレは向こうの少ないチームに入って、テメェら三下共を血祭りにあげてやる」


 血祭りにあげる、とは比喩表現ではないだろう。ここに来る途中で暴走族の組を一つ潰して来るような怪物だ。確実に死人が出る。


 雪寒はそう思ったが、あえて止めないでおいた。常識的に考えれば、明らかにこちらが有利なのは明白だからだ。数の攻めに裏社会の住人の乱入、更に事前の罠まで張っているのだ。ここまでやって負けているのは、純粋にこちらの対象が無能だからに他ならない。


 こんなハンデの上に峰岸まで足せば、それは公開処刑どころの騒ぎではない。卑怯者のレベルを突き抜けて戦犯だ。よって雪寒は何も言わず語らず峰岸を見送る事にした。


 そんな雪寒の変化を知らない峰岸は、北見方チームの本丸に乗り込んだ。こちらに目を向けた生徒がギョッとするが、構わず質問する。


「おい、ここの大将を出せ」


「は、はい・・・」


 生徒は怯えた表情をしたまま、どこかに去っていく。やがて爽やかそうなイケメンとヘルズが畏まった様子で現れた。


「このチームの総大将をやらせてもらっている、北見方です。こっちは副大将の黒明くんです。本日はわざわざご来校戴き、誠にありがとうーーー」


 頭を下げようとする北見方だが、峰岸はそれを遮る。


「社交辞令は好かねえ。そんな事より黒明、久しぶりだな。元気してた?」


「あ、はい。おかげ様で。峰岸さんこそ相変わらずお元気そうで」


 普段、天上天下唯我独尊を貫く弐夜が、下手に出て対応する。それだけ峰岸という人物は危険なのだ。先程ライラを殺しかけたように、峰岸は単に『気に食わない』という理由だけでその力の片鱗を振るうことがごくたまにある。教師が警察や特殊部隊に頼ったのも自然の行動と言えよう。


「そう言えば、あのオバサンはどこに居るんだ? 確かテロリストが攻めてきた折、フランスパン片手に大暴れしたと聞いたがーーー」


「購買に居ると思います。呼んで来ましょうか?」 

 

「いや、自分で行くから問題ない。そんな事より、随分とまずい状況らしいじゃねえか」


 峰岸は得点の表を見る。弐夜の激闘にも関わらず、現在は服部チームがやや有利。ここで差を広げられてしまっては、勝ちの目が大幅に遠のいてしまう。


「ええ、まあ。でも俺と北見方で突っ込んで突破しようかと話し合ってまして・・・」


 峰岸は北見方をジロリと睨む。細いがかなり筋肉が付いている。おまけに見たところ、両手両足が火薬炸裂式の義肢となっているようだ。確かに、機械人間の彼とヘルズなら、突破は可能かもしれない。

  

「よし、じゃあその突撃部隊にオレも混ぜろ」


「え?」


 聞き返す北見方に、峰岸は告げた。


「オレも混ぜろって言ってんだ。守りなんざかったるくてやる訳ねえだろ。全員まとめて血祭りにあげてやるよ。別にいいだろ?」


 峰岸が挑戦的に、北見方と弐夜を見る。その目に込められた獰猛な眼差しに、二人はガクガクと頷くしかなかった。



 












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