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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
235/302

昼休み

 その後も粛々と競技は進み、午前中の競技は終了した。アナウンスが入り、約一時間の昼休みの時間となる。


 残るは騎馬戦、棒倒し、借り物競走にリレーなど、盛り上がる競技ばかりだ。


 弐夜は校舎の窓に貼られた点数表を見た。現在、北見方チームと服部チームの点数差は僅かにこちらが上回っている。だが、今後点数の高い競技で敗北すれば、あっという間に逆転されるであろう事は明白だ。


 今日、弐夜は服部の罠に対して、打てる限りの手を打ってきた。罠を破壊し、仲間を犠牲にし、時には自分自身がその荷を背負ってでも、服部の妨害工作を遮ってきた。その上でこの成績なのだ、受け入れるしかない。


「午後からはもっと過酷になるだろうな。まぁ、今考えても仕方ないか」


 そう、向こうの策が読めない以上今考えても仕方ない。もし敵の手が読めているならこの昼休み中にこちらも何か手を打つのだが、生憎と打ってくる攻撃までは開始寸前まで分からない。


「さて、どうしようかね」


 ふと周りを見回してみると、周りは仲のいいメンバーで固まって既に食事を開始している。やはり北見方や弐夜達のような一部のメンバーを除いて、皆この戦いをイベントのように考えているらしい。


「ん?」


 そんな中、弐夜は面白い光景を見た。


 服部チームの食事風景だ。リーダーである服部を中心として、周りを筋肉質な生徒が囲い、黙々と食事をしている。まるで軍隊だ。


「何なんだろうな、あれは」


 大方、自分の権力でも見せつけて牽制しようと言う狙いだろうか。確かに北見方チームの殺意の波動に目覚めていない面々は戦いている。だが、ギラギラと戦いに燃えるメンバーには何も効いていない。


 いつまでもそんな物を見ていても仕方ないので弐夜が視線をずらすと、一年生の応援席に座っていた姫香と目が合った。彼女が手に弁当箱を持っている様、またこちらと目が合った様子から、弐夜と一緒に弁当を食べたいのだろうか。弐夜がそう察したその時、姫香の元に例の金髪の女が現れた。


「あの二人、知り合いだったのか?」


 そう思ったが、それにしては漂う空気が違う。そのまま弐夜が観察していると、金髪の女が姫香に二、三言話し掛ける。かと思うと、姫香が血相を変えて立ち上がった。そして、金髪の女と共にどこかに消えていく。


「何だったんだろうね、あれは」


 まぁ、あの100m走で意気投合した可能性もあるだろう。弐夜はあまり深く考えることはせず、椅子から億劫げに立ち上がる。


「近所のラーメン屋でいいか」


 弐夜に料理を作る技術はない。常にカップラーメンのみで生きてきた身だ。栄養失調で速攻で死にそうだが、吸血鬼の力は強く、案外死なない。


「いや、でもたまには他の食べ物でもいいか・・・どうしようかな?」

 

 弐夜は何にしようか熟考しながら歩き出す。とりあえず、学校の外に出てから決めようと思い、人知れず学校を出た。




「それで、話って何ですか?」


 校舎裏に連れてこられた姫香は、露骨に警戒しながら金髪の女に向かって問いかけた。すると、金髪の女はクルッと振り返る。


「ちょっと姫香ちゃん、顔怖いよ? もっと明るく、笑顔で行かないと」


「どうして私の名前を知ってるんですか?」


 冷たく、淡々と話すことで感情を悟らせないようにしながら、姫香はポケットの上に手を置いた。そこには、何かあったときの為に、尖った石が数個入っている。


 石は便利だ。そこら辺に落ちている凶器だし、様々な用途に使うことが出来る。姫香は体育祭で一波乱あると踏んだときから、事前に石をポケットに入れていた。


 相手の実力は定かではないが、今の姫香ならこの石一つで充分に一般人を殺害できるレベルに至っている。姫香は僅かに腰を落とし、構えた。


「そんなに警戒しないでよ。アタシはただ、姫香ちゃんとお昼ご飯を食べたかっただけなんだから」


 金髪の女は飄々とそんな事を言う。だが、名乗ってもいない姫香の名前を知っている時点で、只者ではない。


 それに、さっきの言葉を姫香は忘れない。


『ねえ、黒明弐夜くんの正体、知ってる?』


 一瞬白を切ろうとも思ったが、次の彼女の言葉がそれを咎めた。


『本名は早船弐夜って言うんだって。凄いよね、あの年で名字を変えてるなんて』


 ーーー耳を疑った。まさかあの『黒明』と言うのが、自分で作った名字だったなんて。驚いた姫香は、金髪の女についていく事にした。


「どういう、意味ですか?」


「ん? 何が?」


 金髪の女はにこやかな笑みを崩さないが、それが逆に怖い。姫香は平静を装いながらも、内心ではかなり動揺していた。


(何なんですかね、この人)


 もういっそここは気絶をさせて別の場所で尋問しようか、と姫香が思っていると、まるでそれを読んだかのように金髪の女が「ふふふ」と笑った。


「やめときなよ、姫香ちゃん。争いは何も産まないよ? それにアタシ、結構強いよ~」


 軽い口調。しかし、姫香の右腕が強張る。


 金髪の女の口調に重みはない。むしろ、ますます軽くなったくらいだ。しかし彼女の言葉に、姫香の本能が反応した。


 ーーー今ここで戦いを挑めば、間違いなく負ける。


 弐夜の特訓のおかげでみるみる強くなっているから、よりよく分かる。姫香はこの女には勝てない。


「・・・分かりました」


 姫香はポケットの上に置いていた手を離すと、ピンと立った。ただし、最低限の警戒はしておく。


「やっと話し合う気になったね、姫香ちゃん」


 金髪の女は変わらぬ口調で言うと、後ろ手に持っていた弁当箱を取り出した。


「さて、ここで話すだけなのも何だし、お昼ご飯にしようか。そこのベンチでもどう?」


 そう言って金髪の女が指したのは、日当たりのいいベンチだった。二人して並んで座る。互いに弁当箱を開くと、姫香は聞いた。


「で、どうして私を?」


「お、いきなり本題に入ったね」


 金髪の女はサンドイッチを手に取り口に運ぶ。


「そもそも、私はまだ貴方の名前を聞いていません。名前も知らない相手と仲良く食事だなんて、出来るはずがないでしょう」

 

「流石、伝説の怪盗の元で修行してるだけあるね~。でもま、怪しい者じゃないから安心してよ。

 アタシはライラ=イーデアリス。今日はヘルズくんを見に、彼氏と来たんだ」


 金髪の女ーーーライラはあっけらかんと言い切る。しかしもうここまで来るとそれはポーカーフェイスだ。ニコニコ笑顔のポーカーフェイス、しかも美人と来た。これなら多少違和感があっても気が付かないだろう。


「ヘルズ。という事は貴方、ヘルズさんのお知り合いですか?」


「別に知り合いって程でもないかなぁ。アタシが一方的に知ってるだけだし」


 ライラはサンドイッチをもう一つ食べる。


「姫香ちゃんの事知ってるのもその関係。後はユルさんと降谷くんとか、ヘルズ勢力に属する人間は一応把握してるよ。情報網が広いっていい事だね」


 姫香は体を強張らせる。降谷や弐夜はどこかで足が付いたとしても、あくまでも裏方である姫香や綾峰まで把握しているとは。一体どこから情報が漏れていたのだろう。


「あ、どこから自分の情報が漏れたんだろうって顔してるね。ほら、身に覚えはない? 前回、仲間の二ノ宮さんを救いに行った時、対峙した敵達」


 ライラの言葉に、姫香はハッとなる。そうだ、前回の敵は事前に二ノ宮の情報を得ていた。基本的に盗みの裏方に徹し、一切証拠を残さないはずの彼女を。


 敵は把握していたのだろう、弐夜の仲間達を。だから弐夜の不在に襲撃できたし、あれほど手際よく運べたのだ。そう考えればつじつまが合う。


 姫香はニコニコ笑顔でサンドイッチを食べるライラを見る。彼女の持つ異様な覇気から見て、彼女はあの誘拐犯の組織よりも強いのだろう。だとすれば、情報を盗み取っていてもおかしくない。


「納得した? じゃあ前座は終わりにして、ここら辺で本題に入ろっか」


 ライラは自然な動作で姫香の弁当から卵焼きを取ると、口に運ぶ。・・・あまりにも自然すぎて気が付かなかった。


「ねえ姫香ちゃん。服部チームも北見方チーム、どっちが勝つと思う?」


 ライラの問いに、姫香は一瞬言葉に詰まる。だがすぐに迷いなく答えた。


「もちろん、北見方チームです。メンバーを洗脳するなど手段こそ常軌を逸していますが、彼らは皆、勝つために全力を尽くしています。卑劣な罠を使って相手を蹴落とすことで勝とうとする服部先輩では、勝ち目がありません」


 ライラは「ふうん」と言うと、おもむろに空を見上げた。姫香も吊られて空を見るが、そこには一面に青く澄み渡った景色があるだけだ。


 一体何か見えたのかと姫香が目を凝らしていると、ライラが唐突に呟いた。


「つまらないね、その答え。正義ぶった解答」


「え?」


 姫香はライラを見る。すると、ライラもこちらを見返していた。


「アタシから、一つ忠告してあげる。姫香ちゃん、そろそろ表か裏かはっきりさせる頃だと思うよ。流れに任せる、っていう優柔不断タイプなら別にいいけど、自分で選びたいならもうあんまり時間は残ってないよ」


 ライラの口から、言葉が紡がれる。その声はライラの物だが、口調が180度違うからか別人のようだ。ライラは先程の軽い感じはどこへやら、すっかり真面目な話し方になっていた。


 弐夜や二ノ宮が持つ、裏社会特有の二面性だと姫香はすぐに察する。一見ふざけているようで、その裏では虎視眈々と生き残る術を、相手の狙いを看破する方法を模索していく裏でのみ培われていく技能。


「全ての物事は、いつまでも曖昧にする事なんて出来ない。例え出来たとしても、それによって起こる結末は選んだ物よりも遥かに悲惨な物になる。アタシの経験談だよ」


 ライラの二ノ宮とはまた違った美しさを持った目が、姫香の瞳を正面から捉える。しばらく、二人は見つめ合っていた。


 永遠にも続くかと思われた時間。そんな二人の交錯する視線を遮ったのは、ライラの携帯が奏でる着信音だった。


「あ、ちょっとごめんね」


 ライラが姫香から視線を外し、電話に出る。


「もしもし」


『ライラさん、今どこにいるんですか? 新たなメンバーが来ましたよ。すぐに戻ってきてください』


「あ、了解。すぐ行くね!」


 ライラはそう言って電話を切ると、姫香にニコッ、と笑った。


「そういう訳だから、ごめんね姫香ちゃん。機会があったら一緒にお茶しようね」


 ライラは立ち上がると、バッと駆け出した。


 その後ろ姿を、姫香は呆然と見つめていた。


 


 

 

 





 


 

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