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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
233/302

競技、開始②

 第六走目の勝者は弐夜だった。わざわざ本気を出すまでもなく、ランニング程度のスピードで難なく勝てた。


「見たかオルゥゥゥァァ!」


 男子達が歓喜に震えるが、当の弐夜は複雑な気持ちだった。


「マジかよ・・・」


 弐夜はこれまでの流れから、自分にも何か妨害のような物が入ると思っていたのだ。現に姫香には金髪の女が、沙織には巨乳がそれぞれ付き、彼女達の一位獲得を妨げようとした。


 だが、裏の総大将とまで呼ばれた弐夜に何も横槍を入れなかったとは何事だ。流石に沙織を越えるとは思わないが、姫香よりは上だと弐夜は思っていた。姫香よりも下だと思われたのは心外だ。


 弐夜が複雑な気持ちを引きずりながら戻ると、北見方が近づいてきた。


「一位おめでとう、弐夜くん」


「当然の事をしたまでだ。お前こそ頑張れよ」


「もちろんだよ。僕もチームに貢献しないとね」


 ニコリと笑う北見方から視線を外すと、弐夜は一位の旗へと戻った。そしてそのまま、勝負の成り行きを見た。 



 その後はとにかく平凡に進んだため割愛するが、結果は16対4で北見方チームの勝利だった。これで序盤から服部チームと差を付けられた事になる。ちなみに北見方は普通に一位を取った。


 その後、何事もなくムカデ競走が終わり、障害物競走の番となる。


「また俺の番じゃねえか。面倒くせえなあ本当に」


 弐夜は愚痴りながら立ち上がる。そもそも北見方が依頼してこなければ体育祭に参加する気すら見せなかった所を考えると、妥当な呟きだろう。


「頑張りましょうね、弐夜先輩!」


 弐夜の隣では姫香が拳を握り、誠実に取り組もうと意気込んでいる。アホクサ、と呟きながら弐夜が入場門に向かうと、そこには意外な人間が二人ほど居た。


 藤方綾峰と降谷幸一。共に弐夜の所属する学校の教師であり、怪盗ヘルズの一味でもある。


 二人は教師と言う立場上今回の戦いには参加できないはずだが、こんな所で何をしているのだろうか。審判なら一人で事足りる。


「何してるんだよ、こんな所で」


 弐夜は姫香を先に列に並ばせ、声を掛ける。姫香は良くも悪くもポテンシャルによる感情の変化が裏の世界のプロよりも激しい。もしもバッドニュースで姫香が落ち込み、結果に影響が出てはいけない。彼女には、純粋な気持ちで取り組んで貰いたかった。


 姫香も弐夜の放つ空気を察したのか、スッと無駄のない動きで列に並んだ。それを確認した上で、声を掛ける。


 弐夜の声に、二人はほぼ同時に振り返る。


「おお、弐夜か。ちょうど今、探しに行こうと思っていた所じゃ」


「何かあったのか?」


 弐夜の質問に、降谷が答える。


「敵チームの服部が、裏組織の人間と片っ端から同盟を結んだらしい。今の所確認できるのは『月明かりの調査団』と呼ばれるテロ組織だけだが、他にも複数、協力を仰いでいる物と思われる」


 ほとんど沙織から聞いて知っていた情報だったが、「そうなのか」と弐夜はわざとらしく頷いておく。沙織の事はギリギリまで伏せておくのが得策だ。相手に見えないカードは何枚持っていても、困るものではない。


「で、この障害物競走にもそいつらが出てくるのか?」


「ああ。100m走に出ていた男と、金髪の女の二人だ。もう一人の胸のでかい女は何があったのか服を細かい布に切断された挙げ句、全身に痣を作って泣きじゃくっていた所を校舎裏で発見された。現在詳細を調べているが、詳しいことは何も分からん」


「・・・・・・」


 やりやがったな沙織、と弐夜は口の形だけで呟く。ボコボコにするとは思っていたがまさかここまでやるとは。これでは強姦とほとんど何も変わらないではないか。何をされたかは知らないが、恐らくあの巨乳はしばらく精神的ショックで外に出られないだろう。弐夜は不思議とそういう確信を抱いてしまった。


「で、要件はそれだけか?」


「いや、それだけではないのう。と言うかそれだけなら、わざわざこんな場所まで来ないぞえ」


 綾峰が雅な仕草で扇子を扇ぎながら、綾峰は校庭を指す。するとそこには、一般的な障害物とは程遠い器具がズラリと並んでいた。


 『落とし穴あり』と書かれた看板が立てられたエリア、何故か太陽光を受けて輝いている平均台、どう考えても50キロはありそうな長い紐付きの重り・・・などなど。


「何だありゃ?」


「この障害物競走の為に服部が準備した物だ。見て分かるとは思うが、凡人からしたら相当危ないぞ」


「北見方の犯罪や学校の修繕に伴う諸々の処理に手間取って、種目の内容を全て生徒会に丸投げしたのが失策じゃったの。既に競技として開始しかかっている以上、中止は出来ん」


 綾峰が服部チームを指す。服部チームの面々はやる気満々だ。北見方チームのメンバーの大半が覚醒状態でマトモな思考が出来ていない以上、この競技の安全性を危惧する者は居ない。


「もしここで中止すれば、全生徒からブーイングが起こるじゃろうな。特にどこかの誰かが殺意の波動に目覚めさせた面々が。最悪、暴力沙汰になるかもな」


 綾峰は弐夜を横目で見ながら溜め息を吐いた。どうやら、勝つために選んだ手段を敵にまんまと利用されたらしい。


「でも、服部達も条件は同じなんだろ? なら問題ないじゃねえか。むしろ痛覚が機能してないウチのグループの方が有利だろ」


「そんなに上手く行くわけないじゃろ。服部チームが持つ重りの方が遥かに軽いし、落とし穴の位置だって事前に伝えてある。他の障害物だって、安全かつ素早く攻略できる方法が教え込まれているじゃろ。つまりはチート、ズルじゃ」


 成る程、それならこちらの勝ち目は極端に薄い。もちろん100m走とは違い、確実な勝負にはならないだろうが。こちらの敗けが近いことに変わりはない。


 それに、落とし穴は一度掛かれば使えなくなる。故に服部チームは足の速い人間を後の順に置いてくるだろう。対して落とし穴の情報を知らなかったこちらは、そんな編成をしていない。足の速い人間だろうが遅い人間だろうが関係なく、先の順番になった人間は引っ掛かり、負傷してしまう事になるのは間違いない。


「メンバーの順番の変更は出来るのか?」


「出来たらとっくに呼び掛けてるぞえ。出来ないからこうしてあたふたとしているのじゃ」


 綾峰の残念そうな視線が、周囲を眺め回す。


「他のボンクラ共は雑務と校長のご機嫌取り・・・今現在、使えるのは妾と幸一しかおらん。服部の奴、一体どこまで罠を張っていると言うのじゃ」


 弐夜は釣られて辺りを見回す。確かに、開会式まで居た教師連中が半数ほど居なくなっている。教師とて大人、馬鹿ではないはず。この日の為に雑務は終わらせたはずだ。


 にも拘らずこうして半数が雑務に取り組んでいると言う事は、新たに片付けなければならない事態が起こったと言うことだろう。それも一大イベントである体育祭に、最小限の人間を手配しなければならない程の。


「随分とご都合主義じゃねえか。今度は敵チームのメンバー全員に異能力でも目覚めるか?」


 弐夜は指の関節をパキ、と鳴らす。障害物競走は戦う前から圧倒的不利に立たされ、更に向こうが不正をして来ても確認できる審判が少ない以上心許ない。更に服部は事前の策をいくつも張り巡らせているだろう。


「弐夜ーーーいや、ヘルズ。服部、もしくはその協力者は、妾達が思っているよりもずっと賢い。このまま手をこまねいて入れば、訪れるのは必敗のみじゃぞ」


「俺も今それを思い知ったところだよ」


 その時、障害物競走開始のホイッスルが鳴る。綾峰と降谷は弐夜にアイコンタクトで『頑張れ』と送ると、指定の持ち場所に着いた。弐夜達一同は入場門を潜り、校庭の中央に移動する。


「降谷先生と綾峰先生、何か言ってました?」


 入場中、姫香が近付いてきて話し掛けて来た。弐夜は極力声を落として答える。


「障害物競走の罠がえげつないらしい。お前も気を付けろよ」


 弐夜はあえて細かな部分は一切話さず、大まかな部分だけを伝えた。そうする事で相手は事実のみを飲み込み、下手に感情が揺れ動かなくて済む。


「そうなんですか。分かりました、気を付けます」


 その一言で姫香は納得したのか、頷きながら列に戻った。普段はあまりにもポンコツなのでつい忘れがちになるが、彼女はあれでも理解力の高い、優等生なのだった。


 弐夜は二、三年生に目を向ける。彼らの目に浮かんだギラギラは止まっていないが、それが返って不安だ。


 今の彼らの辞書に、痛覚と言う文字はない。ただ敵を、そして総大将服部を倒すために彼らはその身を焦がしてでも特攻する。


 そんな貴重な軍勢を、ここで失うのは惜しい。彼らは考えなしに突っ込むため、十中八九落とし穴に引っ掛かるだろう。そうなればその分、戦力が減る。


 この後には騎馬戦や棒倒しなど、足の速さではなく力の強さが関係してくる競技が行われる。そこでの彼らの活躍は、きっと目を見張る物となるだろう。


「さて、どうするか・・・」


 今までずっと並みいる敵を一人で倒し続けてきた弐夜にとって、軍師の経験はない。だが、ここで弐夜以上に良い指揮を取れる人間を弐夜は知らない。


「ここで指揮を取らなければ仲間は壊滅、今後の俺の負担が大きくなる。そして負担が大きくなれば、後から出てくる裏社会の人間に負ける可能性が高まる・・・ヤバイな」


 弐夜は思考をフル回転させて考える。そして競技が開始する直前ーーーー伏せていた顔を上げた。


「これで行くしかねぇな。名付けて『犠牲者による破壊活動(ブレイク・ビクティム)』」


 弐夜は今にも戦おうと息巻いている北見方チームの一同の前に立つと、全員から懸命に威厳のオーラを出しながら一同に呼び掛けた。


「皆、聞いてくれ。今から勝つための秘策を授ける」


 第三種目目、勝ち目の薄い障害物競走が始まる。



 

 


 


 



 




 


 

 



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