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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
232/302

競技、開始①

「俺は6走目、生徒会長が8走目か・・・相手は?」


「足の速い人ばかりです。弐夜くんの方は?」


「一般人が三人」


 人数の都合上この競技は一度に4人走るが、その割合は服部チームと北見方チームで3:1だ。一見するとかなり不公平なように見えるが、一位以外は点数が入らないので問題ない。


 まずは女子からだ。女子の競技がどんどんスタートしていく。


「やっぱり、厳しいか」


 女子の走りを見ながら、弐夜は呟いた。女子には覚醒している人間が少ないため、純粋な足の速さで抜かれている。


 現在7レースが終了したところだが、うち6レースを服部チームの人間が占めていた。かなりまずい流れだ。


「お、次は姫香か」


 ふと気が付くと、姫香がコースに立っていた。敵の中には、沙織が一般人と呼んでいた金髪の女が居る。


「勝てるかね・・・」


 金髪の女は一般人のようだが、足の速さは分からない。多分、一位二位争いは姫香と彼女で行うことになるだろう。


「さあ、どう出るか」


 パァン! という火薬銃の発砲と共に、四人が一斉に走り出す。やはりトップを走るのは姫香。しかし、金髪の女もそれに食らい付いてくる。


 半分辺りまで行ったところで、姫香が不自然に振り返った。あり得ない物が聞こえたかのような調子だ。その隙に、金髪の女は追い上げて姫香を抜かす。


「何やってんだ、アイツ」


 姫香はあの女から何を聞いたのだろうか。何にせよ、油断するなんて情けない。このまま負けたらいい恥さらしである。


 だが姫香は挽回するように腕を大きく振ると、金髪の女を追い抜いた。そして、勢いもそのままにゴールテープを切る。


「危ねえな・・・」


 気が付くと、弐夜は胸を撫で下ろしていた。予想以上にハラハラさせてくれる戦いだった。弐夜は戻ってきて息の上がっている姫香に近づく。


「よう。どうした途中で振り返って?」


「弐夜先輩・・・」


 姫香は弐夜の方を向くと、息も絶え絶えに声を潜めた。


「実はあの人が、怪盗ヘルズの正体を知っているかって妙なことを言い出して・・・」


 確かに妙だ。この場の話題にしては不自然だし、何より走っている最中に聞く物ではない。あの金髪の女、本当に一般人か怪しくなってきた。だが弐夜は不確定事項を頭の中から排除し、分かっていることだけを告げる。


「確かに妙だが、振り返る理由にはならねえな。敵の気を引くための罠かもしれない。掛かったのはお前の失態だ」


 そう、結局はそこである。弐夜の言葉に、姫香は悲しそうに俯く。自分が失敗した事が悔しいようだ。


「はい・・・」


 そんな彼女の頭に、弐夜はポンと手を置く。


「だがまあ、よくやったのは事実だ。一位おめでとう、姫香」


 姫香の顔が驚きに見開かれ、パアッと明るくなった。


「は、はい!」


「次も頑張れよ」


 弐夜はそう激励し、待機場所に戻る。すると、次に走る選手に見覚えがあった。


「沙織じゃねぇか・・・」


 そう、何を隠そう片道沙織その人であった。表向きのオーラを放ったまま、明るい表情で立っている。その隣には例の巨乳が。この二人がここで当たってくれるのは、嬉しくもある。


「アイツが本気を出せば一勝は確実・・・いや、でもアイツは一般人としての面を保つために適当に走るとか言ってたしな」


 せっかく裏社会の人間を含めて潰せるのに、と弐夜は残念そうに唸った。



 一方その頃、沙織はーーー


「ねえ、そこのアナタ」


 巨乳に話し掛けられ、沙織は隣を向いた。


「はい、どうしました?」


 あくまでも丁寧に、かつ明るく沙織は言う。どこまでも自分の正体は悟らせない。


「アナタ、随分と胸が小さいのね」


 いきなり挑発的な言葉が来た。沙織を怒らせてペースを崩そうというつもりらしい。しかし沙織の精神年齢はそこら辺の大人よりも高い。沙織はわざとらしく胸を押さえた。


「え~、そうですかぁ? 平均レベルだと思うんですけど~」


 人に媚びるような、甘ったるい声。恐らく相手は少なからず不快感を覚えただろう。普通の女子が可愛いと思ってやるこれは、主に相手に不快感しか与えない。


「そうかしら。私が高校生の頃はアナタのその貧相な胸の二倍くらいはあったわよ。その貧相な胸のね」


 執拗に胸の話題ばかり持ち出してくる巨乳。沙織がそんな事で怒るとでも思っているのだろうか。論外だ。


「そうですかぁ。それは良かったですね」


 沙織は相変わらず不快感しか与えない声で、相手の神経を煽る。とうせ精神に1ダメージも受けていないのだ、全く問題ない。


 だが、巨乳の次の言葉で形勢が変わる。


「ま、遺伝の問題よね。アナタにもし姉や妹か居たら、きっとその人達も貧乳でしょうね。可哀想に」


 ビキリ、と。


 沙織のこめかみに青筋が走った。しかし巨乳は気付かずに、言葉を続ける。


「ま、無理も無いでしょうね。アナタのように貧相な顔の人間の血が混ざった姉妹なんて、きっとブサイクに決まっているものね。ああ、ごめんなさい。そろそろスタートラインに立たなくちゃ。まあ、どうせ私が一番だけれど」


 ビキビキビキ! と。


 沙織のこめかみが、激しく嫌な音を立てた。一同でスタートラインに立ち、審判が火薬銃を構える。そのタイミングで、沙織は巨乳の方を向いた。そして、弐夜に接するときの低い声で、中指を立てる。


「完膚なきまでにぶっ潰してあげるわ淫乱女」





「沙織速すぎ! 今まで隠してたの?」


 走り終えた沙織が戻ってくると、姫香のクラスメイトの真理亜が驚いた顔で近づいてきた。姫香も、驚愕の表情で沙織を見ている。


「結局やりやがったな、アイツ・・・」


 弐夜はポカンと口を開けた一同を見ながら、頭を押さえた。


 圧勝。


 それが、片道沙織と巨乳の戦いの決着だった。人間の目に視認できるギリギリのスピードで走った沙織に、巨乳は為す術もなく敗北した。


 ちなみにその巨乳はと言うと、破れた服を纏ってボロ雑巾のように横たわっている。恐らくゴール後、沙織が真空刃でも放ったのだろう。通気性の高い服が一転、露出度の異様に高い服になってしまった。


「片道さん、本気を出してくれたんだね」


 嬉しそうに言う北見方に、弐夜はあえてすっとぼけるように答える。


「あの巨乳に身内の事でも煽られたんだろ。何でも自慢の姉が居るんだとか」


 基本的に精神年齢が高い沙織だが、こと姉の事に関すると一気にそれらが瓦解する。クルシアの悪口を言おうものなら、即座に葬られることだろう。


 その時、沙織が弐夜の隣を横切った。すれ違い様、沙織が小声で呟いてくる。


「ちゃんと一位は取ったわよ。これで取れなきゃ承知しないんだからね」


「ああ、分かってる」


 沙織が弐夜を通り過ぎ、巨乳の元まで歩いていく。そして、表向きの声で、巨乳に告げる。


「起きてくださいよ~お姉さん。負けた方が何でも一つ勝った方の言うことを聞く約束でしょう?」


 倒れていた巨乳が、ガバッと跳ね起きる。


「え、ちょっと、私そんな事は言ってなーーー」


「さ、行きますよ。ちょっと校舎裏まで来てくださいね~」


「往生際が悪いですよ。ほら、行きますよ」


 ズルズルと、周りの目も気にせず沙織が巨乳の体を引きずっていく。それを見た弐夜は、背中を冷たい汗が流れるのを感じた。


「あの女・・・死んだな」


 どう考えても校舎裏で巨乳をボコボコにする気だ。間違っても、社会的抹殺は避けられない。


 巨乳も沙織の速度を見て悟ったのだろう。この人間、マトモではないと。だがもう遅い。震える巨乳は訪れる暴力に震えながら、何の抵抗も出来ずにドナドナされていく。


「一種目目で一人消えたな。後は二人か」


 途中で増える可能性はあるが、今のところは残りの二人を排除すれば安心できる。


「次は男子か。さて、どうなるかな」


 女子が何の問題も無しに終了し、男子の第一走がスタートラインに着く。内三人はいかにも速そうな筋肉質の男子、残りの一人は殺意の波動に目覚めた北見方チームの人間だ。


 審判が火薬銃を構える。全員、クラウチングスタートの構えを取った。


「位置に着いて・・・」


 パァン! という音が響き渡る。それと同時、四人が素早く動いた。服部チームの三人は幸先のいいスタートダッシュを切り、順当に加速していく。


 一方で北見方チームの男はーーー 


「ウルァァァァァァァ!」


 獣のような獰猛な雄叫びを上げながら、力強いダッシュを見せた。後先考えない、まさに『脳筋』と言う言葉が相応しい走りだ。


「な、何なんだアイツは・・・」


 服部チームの生徒に動揺が走る中、獣と化した男は他三人を追い抜いてゴール。と同時に、パタリと倒れた。


「流石、狂戦士(バーサーカー)と化した男だ。よくやってくれるな」


 弐夜が満足げに頷いていると、後ろから歓声が押し寄せて来た。


「見たか! これが我々の力だ!」


「後に続け! 勝利は既に俺達の手の中にある!」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーー!」


 今こそ勝ちどきを上げるときだとばかりに、北見方チームの男子が拳を振り上げる。状況がよく読めて居ない生徒達も、流れに乗って拳を上げ始めた。


 そこからの一体感は強かった。『一位を取れなければ死刑』とでも言うかのような空気の前に本気でなかった生徒も死ぬ気で走り、五人中四人が一位を取ることに成功した。


 尚、四走目の生徒が惜しいところで一位を取り逃し、『死刑』とばかりに冗談抜きで仲間からリンチにあっているのを目の当たりにした為か、覚醒していない一般生徒達のやる気が一層上がったのは言うまでもない。


 そして、第六走目。いよいよ弐夜の番だ。


「ついに俺の番か。ククッ」

 

 弐夜がスタートラインに立つと、服部チームの生徒はざわめき、北見方チームの生徒は拳を握りしめた。


「お、おい、アイツ確か不登校のーーー」


「確か『神出鬼没のイケメン』とか言う異名が付いてるーーー」


「そうだ。我らが裏の総大将、黒明弐夜様だ!」


「敬うがいい! あの方が出陣なされた以上、我々の勝利は確実だッ‼‼‼」


 ・・・もはや熱狂的を通り越して狂喜だった。というかアレか、弐夜は『鉄血のオルフェンズ』で言うバエル的なポジションなのだろうか。


「・・・まあいいか。やる事は変わらねえ」


 弐夜は真っ直ぐ前を向いた。そう、やる事は何も変わらない。


 ただ100mを一位で走り抜けばいいだけだ。


 合図があり、床に両手を着く。そして目を閉じ、すぐに聞こえるであろう発砲音を待つ。


「さあ、行くぞ」




 

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