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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
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いざ体育祭

 出場競技決めが終わってから数日間は、練習の期間だ。


 皆、それぞれに割り振られた場所を使って練習をし、本番に良い結果が出るように善処するのだ。


 同時にチームの指揮も高めていかなくてはならないため、姫香と弐夜はほぼ強制的に毎日駆り出され、夜遅くまで北見方との会議をする羽目になった。


「北見方の奴、まさか俺がサボるのを防止するために副団長の座に着かせたのか? やってくれたな・・・」


 弐夜は怒りでワナワナと震えていたが、今さらどうしようもない。そして何だかんだ言って、体育祭当日に突入していた。


「皆、聞いてくれ」


 朝八時。朝礼台に立ち、北見方は全員の顔を見回した。


「僕達は今日という日のために、一生懸命練習してきた。その言葉に嘘はないはずだ。だから、今日は全力を尽くそうじゃないか!」


 北見方の言葉に、一年から「オー!」というやる気の籠った声が聞こえてくる。全員が活気に満ち溢れているのだ。姫香に指揮を取らせたのは正解らしい。


 北見方は満足げに頷くと、二、三年生の反応を見た。不安なのはこちらの方だ。弐夜から指揮権を返された覚えはないが、気分屋の彼の事だ。ひょっとすると挑発的発言などでチームの指揮をマイナスまで下げてしまっているかもしれない。


 そんな北見方の不安をよそに、二、三年生はーーー




「「「ッシャやったらオルァァァァァァ!」」」




 ・・・滅茶苦茶活気づいていた。というか、全員殺意の波動に目覚めていた。


「何をしたんだ弐夜くん⁉」


「何って、チームの士気を上げたんだよ。何が悪い」


 弐夜があっけらかんと言い切る。そんな彼とは対照的に、二、三年生は恐ろしい闘志を燃やしていた。


「服部ぶっ殺す! 取り巻きも殺す! yeah!」


「勝たなきゃ終わりだぞHey,yo! 服部ミンチだyo!」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーー!」


 もはや熱意を通り越して殺意だった。しかも怖い事に、上記の叫びを上げているのが普段はそんな事を死んでもやらないようなガリ勉たちなのだ。殺意のラップを繰り出しているガリ勉達を指差しながら、北見方は弐夜に詰め寄った。


「あれのどこが士気を上げたのかな⁉ 全員狂戦士(バーサーカー)と化しちゃってるじゃないか!」


「別にいいだろ。熱意も殺意も似たような物だ。大体、向こうの方が数が多いんだ。こっちだって仲間の洗脳くらいーーー」


「今洗脳って言ったよね⁉ 何したんだよ君は!」


 北見方が怒鳴っている間にも姫香のチームは姫香の指揮で入場隊形に並んでおり、殺意の波動に目覚めた軍勢は粛々と並び、敵チームを楽しそうに見据えていた。中には涎を垂らしている者までいる始末だ。


「ついに・・・ついに服部を殺れる日が来たぞ」


「奴を八つ裂きにして、我らが大魔王黒明様に捧げるのだ! さすれば我らは救われる!」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すーーーー!」


 北見方はだんだん不安になってきた。このままでは自分の疑いは晴らせるが、代わりに仲間が犯罪を犯してしまうのではないか、と。


 そんな北見方の不安をよそに、体育祭がついに幕を開ける。保護者が続々と校庭に集まり選手が入場、準備運動と校長の長話が終わり、北見方と服部が選手宣誓の舞台に立つ。選手宣誓を終えた時、服部が小声で呟いてきた。


「生徒会長は会長なりに頑張ったみたいですね。でも、最後に勝つのは俺ですよ」


 それは、北見方個人に対する服部の宣誓布告。今日という日を迎えるまで、彼から直接言われる事はなかったため、北見方は一瞬驚く。


 だがすぐに顔を引き締めると、服部の目を見て言った。


「悪いけど、勝たせてもらうよ。僕達も今日のために一生懸命やって来たからね」


 北見方が言うと、服部はフッと笑い、仲間を率いて陣地に戻る。北見方もそんな彼を見据えつつ、仲間と共に自分の陣地に戻ってくる。すると戻るなり、弐夜が焦った面持ちで近づいてきた。


「おい、チャルカはどうした?」


「え? チャルカさんですか。彼女は確か弐夜くんの勢力でしたよね。なら、こちらのチームでは?」


「それが居ないんだよ。クソ、朝から晩まで会議だの指揮だのをやってたせいでアイツの存在をすっかり忘れてた。そうだよ、何で気が付かなかったんだ⁉」


 弐夜が服部の陣地を指差す。するとそこには、陣地の一番前で強面の上級生に混じってちょこん、と座っているチャルカが居た。


「・・・やられたぜ、北見方。どうやら服部はあちこちに罠を張り巡らせてたみたいだな。こちらの有力選手の恫喝、及び暴行。それに身体能力の高い選手の引き抜き。他にも複数の罠を張ってるはずだ」


 チャルカはテロリストと戦ったときに実力を多くの人間に知られてるからな、と弐夜は毒づく。その時、校長からアナウンスが入った。


「えー、今回の体育祭はですね、いくつかの競技に一般の方が参加できる枠がございます。服部くん率いるチームの味方をする方は青色のリングを、北見方くん率いるチームの味方をする方は赤色のリングを付けて、参加することが可能です。一般の方の参加できる枠は、配りましたプログラムの上に書かれた★印をした物のみとなります」


 弐夜と北見方はガバッ! とプログラムを開いた。ほとんどのプログラムに★印が付いている。これでは飛び入り参加がいくらでも可能だ。


「やられたな、生徒会長。これじゃあほとんど勝ち目がねえ」


 弐夜が諦めたようにプログラムを置く。北見方もこれは無理かも一瞬諦めかけるが、ふと弐夜の言葉に引っ掛かりを覚える。


「『ほとんど勝てない』ですか。と言うことは、まだ勝てる見込みがあると」


「当たり前だろ。この俺様を誰だと思ってるんだ。天下の大怪盗、ヘルズ・グラン・モードロッサ・ブラッディ・クリムゾン・ライトニングだぞ。俺がその気になった以上、必ず勝つ」


 弐夜はそこまで言うと優雅に足を組み、敵チームで余裕そうに構えている服部を見た。


「さあ、開戦だ格下野郎。自分が誰に喧嘩を売ったのかをその目にとくと焼き付け、散っていけ」


 弐夜が自信に満ちた言葉を吐いたとき、沙織がやって来た。沙織は北見方をチラリと見ると、二人に聞こえるくらいの声量で呟いた。


「『月明かりの調査団』が現れたわ。あと、フリーの人間が何人か」


「『月明かりの調査団』ってなんだ?」


「犯罪組織よ。『調査団』と名乗ってはいるものの、実態はただのテロリストね。主に要人の暗殺などを行っているわ。実力は平均して姫香ちゃんと同じくらい。どこの誰に頼まれたのか知らないけど、わざわざこんなちっぽけな国のちっぽけな場所までご苦労なことよね」


 沙織がやれやれと肩をすくめる。その時、第一種目である100m走の選手集合を呼びかける放送が鳴った。弐夜と北見方は椅子から立ち上がる。


「じゃあ、行ってくるとするか。ククッ、奴らに地獄という物を見せてやるぜ」

 

「そうだね。やる以上は勝たないと。リーダーである僕が負けたら示しがつかないからね」


「私も出るわよ。まあ私は正体がばれたくないから、そこそこしか本気を出さないけど」


 沙織も100m走だったようで、三人で共に入場門へと向かう。


 入場門は殺意で溢れていた。北見方チームに所属する二、三年生の生徒が全員、殺意の波動に目覚めているためだ。服部チームの生徒たちがギラギラと目を光らせる彼らに委縮している中、弐夜は青いリングを付けた一般人達を視界に捉える。


「おい沙織。見るからに淫乱そうな巨乳と殺気がダダ漏れな切れ目の男、そして金髪をボブカットにした女がいるぞ。アイツら全員殺し屋か?」


 沙織は弐夜の見る方向を一瞬チラリと見ると、即座に視線を戻す。


「居乳と殺気がダダ漏れなのは『月明かりの調査団』のメンバーね。どっちも貴方には劣るでしょうけど、一般人に比べれば遥かに足が速いわ。金髪の女は一般人でしょうね。少なくとも、私は知らないわ」


「そうか」


 他に青いリングを付けた人がいないところを見ると、まずは三人で様子見と言ったところか。北見方が戦いの行く末を案じていると、姫香が近づいてきた。


「あ、北見方先輩ここに居たんですか。それに沙織も」


「やあ花桐さん。どうしたんだい?」


 北見方が聞くと、姫香は少し困ったような顔をした。

 

「その・・・一年生の皆から、上級生が殺気立ってて怖いって苦情が相次いでるんです。どうにか出来ませんか?」


 北見方は苦笑しながら、隣の弐夜を見た。洗脳を掛けたのはこの男だ。となれば、責任を取らせる意味でも解除するのは弐夜の役目だろう。


「出来る訳ねえだろ。アイツらはもう止まれねえ。この体育祭が終わるまで、加速し続けるだけだ。そもそも俺は殺意の波動に目覚めさせる事は出来ても、戻す方法は知らねえ」


 だが、弐夜は無責任な発言を言い切った。そして、入場門の入り口に向かう。


 唐突に前に進み出た弐夜に担当の教師は驚くが、そんな事は知った事かとばかりに弐夜は集まった選手たちに声を張り上げた。


「北見方チームの同士共!」


 叫ぶ弐夜に、出場選手全員の視線が集まる。弐夜はそんな彼らに声を張り上げた。


「勝たなきゃどうなるか分かってるな? 勝て! 服部の軍勢を叩き潰し、我が軍を勝利へと導いて見せろ! 必ず敵を踏み付け、蹂躙し、あの余裕そうなクソ野郎の鼻っ面を叩き折るために勝ちを拾え!」


 滅茶苦茶な弐夜の命令。しかし、北見方チームの生徒からは大きな雄叫びが上がった。


「オオオオオオオオオオオオオッ!」


 気が付けば、その叫びは二、三年生だけではなく一年生にも伝播していた。三分の一ではあるが一年生も殺意の波動に目覚め、目をぎらつかせて拳を振り上げていた。


「これで問題解決だな。全員があの状態に覚醒すれば、怖がる奴は居なくなる」


「弐夜くん・・・」


「先輩・・・」


 北味方と姫香は何とも言えない目で弐夜を見たが、本人はそれに気が付いていないのか前を見据えている。


「さあ、始まるぞ」


 その言葉と同時に入場の合図が鳴り、生徒達が入場した。


 一種目目、100m走が始まる。

 


 




 

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