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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
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追い詰められる北見方⑦

 沙織との話し合いが終わり、その日の放課後。


 北見方のチームに参加したチームは、二分された校庭の東側に集まっていた。メンバーは弐夜や姫香を含めた数十名。


 今日から出場競技決めと作戦、及び練習会だ。校庭を半分で均等に使用し、当日まで練習することが可能となっている。


「皆、こんな僕のためにわざわざチームに入ってくれてありがとう」


 朝礼台に昇った北見方が、マイクも使わずに一同に声を張り上げる。その声は校庭中に響き、服部陣営に居る生徒の数名が振り返るほどだった。北見方は続ける。


「僕はこの体育祭を以て自分の無実を主張したい。けど、それは僕一人の力では無理だ。君達の力を貸してくれないか⁉」


 ヒーローショーのような子供向けな呼び掛けだったが、それも北見方が言えば様になる。事実、彼の呼び掛けに皆は


「「「「オオオオオオオオッ!」」」」


 という、非常に頼もしい熱声で答えている。


 弐夜はそんな熱狂する一同の中、一人冷めていた。まあ無理もない、弐夜にとって『皆で仲良く戦いましょう』は死ぬほどどうでもいいことだからだ。盗みの際に各個撃破な理由もそれだ。


『小さな存在でも集まれば大きな存在を打ち破れる。人間は一人じゃ生きていけない』と言う言葉は、弐夜に言わせればゴミ中のゴミだ。どんなに小さな存在が集まっても勝てない敵、更に誰とも関わらなくても、銀河が滅びるまでは生きているであろう自称人間を、ずっと身近に見続けていたからである。 


 弐夜は敵のチームを眺めた。向こうのチーム数はこちらの数倍と合ってか、密集した生徒の数は数えきれない。多分あの中に行けば、あまりの人の多さに五臓六腑を撒き散らしながら血を吐いて死ぬだろう。そのレベルの多さだ。


「北見方は犯罪者です。あんな奴、恐るるに足りません! 我々が力を会わせれば必ずや! 北見方のチームを倒せるはずです!」


 服部が拳を握って力説している。その顔に浮かんだ余裕を見て、弐夜は眉をひそめた。


「何であんなに余裕そうなんだ・・・?」


 あれだけの人数が居る以上、勝てる確率はかなり高いのは分かる。だが、だからと言って北見方に勝てると思うのは早計だ。北見方には、常人には持ち得ないスペックを有している。


 服部には、既に北見方に勝てると思い込ませる程の手札があると考えるのが的確か。


「面倒だな」


 いくら弐夜や沙織が居るとしても、向こうがそれ以上の数の裏社会の人間を出してくれば負ける可能性は充分にあり得る。単純な殴り合いならともかく、これは体育祭だ。


「俺達が数種目に出たとしても、裏社会の奴を一人ずつ全種目に仕込んでおけば勝ちを拾えるからな」


 そうなれば終わりだ。こちらで()()()()()()()()()確実に勝ちを拾えるのは北見方、弐夜、沙織の三人。つまり一人一種目に参加したとしても、確実に勝ちに行けるのは三種目と言うことになる。


「弐夜くん。余所見をしているようだけど大丈夫かい?」


 弐夜が服部の戦力を分析していると、北見方から声が飛んだ。慌てて首を戻す。


「あ、ああ。ちょっと向こうとの戦力差を確認して驚いたんだ。こんな人数差で勝てるのか不安になってな」


 沙織と姫香から『絶対嘘だろお前』と言いたげな視線を受けるが、無視する。北見方は思っても顔に出さないのか、いつもの爽やかな笑顔を浮かべたままだ。


「そうだね。確かに僕達のチームは人数こそ少ない。でも、人数だけが勝敗を決める訳じゃない。僕達はただ全力を尽くして、勝ちを狙うだけだよ」


 弐夜が咄嗟に放った言い訳すらチームの士気を上げるのに使ってきた。もはや神業だ。北見方にしか出来ない所業かもしれない。


「それじゃあ、聞こえなかった人も居るかも知れないからもう一度言うね。今からどの種目に出たいかの希望を取る。もしも人数に不足や余りが出たときは順次補っていく。あまりにも人が殺到した所は実際にやってみて、メンバーを決める。それでいいかな?」 


 希望制と実力制を合わせたメンバー編成だ。なかなか無難な案だと言える。一般生徒も不満はないのか、しきりに頷いている。


「それじゃあ、一旦散らばって。あと二年の弐夜くんと一年の花桐さんはこっちに」


 北見方の指示と共に、一般生徒が動き出す。弐夜も指示に従い、北見方の前に移動した。その隣に姫香がスッと立つ。


「何の用だよ、生徒会長」


「今回の作戦、君にも副団長として指揮を取ってもらいたくてね。どう頑張っても、僕一人では今回の作戦の荷は重すぎる」


「服部はその倍の人数を指揮するんだろ。頑張ってみろよ」


 弐夜が言うと、北見方は首を振った。


「服部くんは恐らく、指示を出さない。彼を指示する同級生数人が指示を出し、彼は恐らく高見の見物を決め込むだろうね」


「それで、私たちは何をすれば?」


「僕が全体の指揮を取る。弐夜くんは二年と三年の、花桐さんは一年の指揮を取ってもらいたいんだ。勝つための作戦は練ってあるんだけど、チームがバラバラになったら上手くいくものも上手く行かなくなるからね」


 姫香は頷く。前に二ノ宮も同じような事を言っていたからだ。それにかつての歴史を紐解いても、似たような例がある。チーム戦は個人の実力だけでは成り立たない、と言うことを姫香はよく知っていた。


「私は構いませんよ。いい練習になりますし」


「俺は断る。俺が烏合の衆の指揮とか夢でも嫌だ」


 姫香は統率力やカリスマなどの訓練が出来ると思い了承したが、案の定と言うべきか弐夜は断った。


「大体、俺に着いてくる奴なんて居ないだろ。俺なんて引きこもりで厨二病な学年の嫌われ者だぞ」


 本当は弐夜の持つ暗いオーラ故に誰もが話し掛けるのを躊躇っているだけであり、実際に弐夜に話し掛けたい人は学年だけでも男女会わせて百人を下らないのだが、本人は全くそれに気が付いていないだけだ。

 

「大丈夫だよ。弐夜くんならきっといい指揮を取れるさ」


「そんな爽やかスマイルと甘いマスクで騙せるのは一般人だけだぞ生徒会長。裏の顔を知った俺に、そんな偽りの顔は通用しねえ」


「正直な感想なんだけど・・・」


 もはや捻くれているとまで取れる弐夜の言葉に、北見方は苦笑する。姫香も北見方に賛同なのか、苦い顔をしていた。


「何だよ二人して苦い顔しやがって。まぁいいや、やるだけやってみるがあんまり期待するなよ。駄目なら途中でも投げ出してやる」


「それでもいいよ。ありがとう弐夜くん」


 一応とはいえ引き受ける気になった弐夜に、北見方は微笑む。そして、自分の後ろにあった移動式のホワイトボードを提示してくる。


「ところで、花桐さんと弐夜くんはどの種目にするんだい? このまま行けば全員、最低でも二種目は出ることになるんだけど」


 通常ならあり得ない数字だが、人数的に考えればあり得る数字ではある。弐夜は行われる競技一覧を見る。


「えっーと・・・100m走、借り物競走、二人三脚、綱引き、棒倒し、玉入れ、ムカデ競走、障害物競走、リレー、騎馬戦・・・etc. 対戦型の種目ばっかりだな」


「ダンスや組体操は点数が入らないからね。それに去年、組体操で怪我を負った人が結構居た関係で、組体操は禁止。女子だけダンスをやらせるのは酷だって事だから、元々無いみたいだよ」


「なるほどな。ちなみに、人数が有利になる競技ばかりなのはひょっとしてーーー」


「服部くんにやられたね。とことん僕達を倒すつもりみたいだ。ちなみにほとんどの個人種目の点数を一律にする事で、逆転をさせないようにもしてるみたいだよ」


「チッ、面倒くせえな」


 弐夜はホワイトボードを睨む。個人競技はともかく、棒倒しや玉入れはどうしても人数が必要だ。手が二本しか付いていない以上、弐夜にも限界がある。


「数の暴力か。忌々しい攻撃方法だなこりゃ」


「でも何も不正はしていない。これじゃあ手の出しようが無いですよね」


 姫香の言葉に、弐夜は「チッ」と舌打ちする。そして改めてホワイトボードを確認した。


「数の攻めで勝てない、おまけにどの個人種目に出ても点数が一律となると、あまり工夫は出来ないな・・・おい姫香、お前はどれに出るんだ?」


「私は100m走と障害物競走に出ようかと思ってます。訓練のおかげでスピードは上がりつつありますし、障害物を避けるのなんて私にとっては打って付けの競技です」


 確かにその通りだ。日々本物の障害物を避ける訓練をしている姫香にとっては、学校の生ぬるい障害物などあってないような物だろう。


「ちなみに僕は100m走と二人三脚だね。二人三脚の方のペアはまだ決まっていないから、弐夜くんが二人三脚を所望するなら是非ともペアになってもらいたいとは思っているよ」


「考えとして悪くねえな。だが二人三脚は俺には合わねえ競技だ」


 確かに、足の速い北見方と弐夜で組めば、どんな相手が来ても確実に勝ちを拾えるペアが存在するかもしれない。だが、かつて『最強の犯罪者』の元で修業した弐夜からすれば、誰かに合わせるのは至難の業だ。


 何しろ『周りと自分を切り離し、常に己のみを鍛え続けよ』というような方針だ。弐夜だけでなく、クルシアを除くほとんどの人間が、周りと明確な交友関係を築く事無くただ自身のみを鍛え続けたような環境。


 純粋に力と技術のみを求め続けた弐夜達『最強の犯罪者』の弟子は、手加減する事こそ出来ても誰かに合わせるのは恐ろしく苦手としている。


「二人三脚は却下だ。となると、俺も姫香と同じく100m走と障害物競走になるかな」


 弐夜が選ぶと、北見方が後付けのように追加して来る。


「あ、弐夜くんには三種目出てもらおうと思ってるから、あと一種目選んでくれないかい?」


「は?」


「ごめんね、言い忘れていて。でも今人数を計算したところ、このまま行くと三分の一の人間に三種目目を出てもらう事になるんだ。頼めるよね?」


 有無を言わせぬ台詞。弐夜は溜息を吐いた。


「分かったよ。借り物競走も出ればいいんだろ」


 借り物競走も弐夜の性格を鑑みると得策とは言えないが、他の個人種目を見てもより面倒くさそうなので仕方ない。『パン食い競走』とかマトモにやれば風圧で全てのパンが吹き飛ぶし、『30kgダンベル投げ上げ』とか加減が効かなくなりそうなので嫌だ。別にダンベルを空に打ち上げてしまう分には弐夜一人に迷惑が掛かるのでいいが、もし落ちて来たダンベルが観客に直撃しようものなら大惨事だからだ。


「分かった。弐夜くんはその三つだね。じゃあ、後は僕が纏めておくからゆっくりしててよ」


 北見方が爽やかに言い切る。どうやら副団長としての所信表明演説はあえて無しにしてくれたらしい。生徒会長のさりげない心遣いにほんのわずかに感謝しながら、弐夜はさりげなく敵チームを見る。


 すると、台の上に立った服部がこちらを凝視しているのが見えた。


「何だ・・・?」


 服部の探るような視線。その目が何を探っているのか看破した弐夜は、姫香の方を向いた。


「おい、姫香」


「はい、何でしょう?」


 振り返った姫香に、弐夜は警戒したように言う。


「今回の戦い、どうやらこの他にも二重三重の妨害工作が来るみたいだぞ」


 圧倒的に不利な戦いになりそうだ、と弐夜は思った。


 

 

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