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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
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追い詰められる北見方⑥

「それで、話って何?」


 屋上に着き、扉を閉めるなり沙織は豹変した。明るい楽しげな気配が消え、声のトーンも女子特有の高い声から冷徹な声色に変わる。


「その前に一ついいか? 何で学校で呼んでるんだよお前」


「あら、悪い? いつでもいいって言ったのは貴方の方じゃない」


「まぁ、それもそうなんだがな」


 そう言った手前仕方ないが、まさか学校内で相談事があるとは思わなかった。


「それにしても、貴方って本当に学力が高いのね。驚いたわ。てっきり名前も乗らないくらいのランク外なのかと思ったのに」


 沙織が前回のテスト結果を、こちらに見せてくる。そこには満点でぶっちぎりの一位を取った弐夜の名前が乗っている。


「調べてみたらその前のテストも一位。唯一全教科50点の時があったけど、全教科の点数を合わせてみたかったのかしら」


 どうやら全部調べているらしい。何て事に労力割いてるんだよお前、と思いながら弐夜は答える。


「昔クルシアと一緒に勉強したからな。アイツ純粋な物知らずだったから、この世界に存在する大学が東京大学しか無いと思って、ひたすら勉強してたのさ。俺はそれに乗っただけだ」


 東京大学以外に大学があるとクルシアが知ったのは、ハーバード大学を余裕の満点で合格できる学力に到達した後だ。もはや馬鹿なのか天才なのかよく分からない。


 弐夜はそれに乗っただけだ。分からない問題を聞いてくる彼女が愛おしくて、聞いてくる彼女の期待に応えたくて、ひたすらクルシアを越えられるように勉強した。元々知能指数は高い方なので、あっという間に学力が伸びた。


「お姉ちゃんなら本当にありそうなのが怖いわね・・・」


 弐夜の言葉に沙織は呆れたように息を吐いた。クルシアと言う少女は、弐夜や沙織のような黒い心で構成されたような輩とは正反対の心を持って生きている。普通の人間ならあり得ないような話でも、クルシアなら「ああ、仕方ないな」と思えるくらいには純粋過ぎた。


「さっき科学の先生が狂喜乱舞してたわよ。新しい公式を発見した生徒が居るって。どんだけ頭いいのよ、貴方は」


「知らねぇよ。学校外のテストなんか受けたこともねえし。まあでも、受けたら世界の歴史が塗り変わるくらいには頭がいいかね」


 とは言え、弐夜はこの力を使うつもりはない。繰り返すがこの学力は聞いてくるクルシアに答えてあげるために培ったものであり、後は留年回避にしか使いたくないからだ。もしその他の理由で大した理由もなく使おう物なら、クルシアの名が汚されるような気がするので使いたくない。


「で、莫大な学力を手に入れた感想は?」


「別に。ただ語彙力がさっぱり上がらずいくら勉強しても会話の言語レベルが上がらない辺り、あまり意味ないなと思った」


 所詮、勉強は勉強。その使い道など良い進学先、会社に行くための物であり、別に極めても超能力が身に付いたり会話のレベルが宇宙人レベルになるなどと言う、面白そうな事はないと再認識したに過ぎなかった。


「まぁいいや、本題に入ろうぜ。これ以上下らない物の話をしても意味がない」


「そうね。で、話って言うのは?」


 ようやく本題に入ったと思い、弐夜は切り出す。沙織になら、この胸のモヤモヤをさらけ出しても問題ない。


「『吸血鬼の覚醒(ヴァンパイアドロー)』の事だ」


 その言葉に、沙織の顔が強張る。


 『吸血鬼の覚醒(ヴァンパイアドロー)』。


 それは弐夜が有する細胞《人工吸血鬼(コード・ヴァンパイア)》の力の覚醒状態に付けられた名前だ。


 一度の跳躍で月まで飛び、腕を一度振るえば風圧で敵の意識を刈り取っていく。正に『怪物』と呼んでも差し支えない。


「あれを直接見たお前の感想を聞きたい」


「感想ねぇ・・・」


 沙織はおとがいに手を当てて少し考えた素振りを見せる。


「そんな事言われても、答えに詰まるわね。ただ、私ですら勝てない相手、と言うのは一目で分かったわ」


 弐夜は頷く。自分で言うのも何だが、あれに勝てる人間はまず居ない。かつて弐夜と沙織が二人掛かりで挑んで手も足も出なかった強さを持つ松林でも、あの状態の前では瞬殺されるのがオチだろう。


 そのくらい、あの力は強かった。


「でも、気負うことはないんじゃない? だってあれの発動条件は相当量の血よね? それも人間何人分とかそのレベルの」


「この前の戦いを見て知ったのか」


 弐夜が『血の泉』に沈められる所から見ていれば説明が付く。


「ま、考えても仕方のない事よ。むしろあの場で試せてよかったんじゃない? もしあれを使ったのが一般人の大勢居る場所なら、死人が出てたわよ」


「だな。それは俺も良かったと思った」


 怪盗は人を殺せない。これは絶対の掟だ。故に弐夜はいかなるときも敵を殺さないように工夫して戦っている。そのせいで戦闘が長引くことも多々あるが、仕方のないことだ。


 だが、『吸血鬼の覚醒(ヴァンパイアドロー)』はそんな弐夜の手加減の努力を無に帰す力だ。手加減して攻撃をしても一般人なら死ぬ可能性がある。ましてや直接触れてしまった時にはもう、改造人間でもバラバラになってしまうかもしれない。


「とにかく、気にしない方がいいわよ。これで貴方がその事を気にしすぎて夜も眠れずその挙げ句、体調を崩して体育祭に出られなくなったらそれこそ大問題なんだから」


「それもそうだな」


 あの力の事は、ひとまず保留にしようと弐夜は決めた。今は沙織の言う通り体育祭で勝つことが大切だ。


「さて、一通り話したところでお昼御飯と行きましょうか」


 沙織が袋の中から二段重ねになった弁当箱を出し、片方を弐夜に放る。


「ほら、これ貴方の分。カップラーメンだけじゃ足りないでしょ」


「お、おう」


 弐夜は片手でキャッチし、弁当箱を開く。するとそこには、形の整ったサンドイッチが並んでいた。


「お前、本当に作ってきたんだな」


 弐夜が感嘆の声を漏らすと、沙織は静かに肩をすくめた。


「貴方にも私の実力の程を知ってもらいたくてね。それに『先輩にお昼ご飯を振る舞う後輩』って言うのも一度やってみたいと思ってたしね。まぁ、相手が貴方なのは非常に不快極まりないけれど」


 毒を吐きながらもマトモに見える食べ物を渡してくる辺り、相当いい奴だと思うのだが。弐夜はそう思いながらサンドイッチを手に取る。カップラーメンは湯が入ってから既に三分以上経っているだろうが、まずはサンドイッチが先だ。


「旨そうだな」


 とりあえずまず一口。そう思って弐夜は口を開ける。だがいざ食べようとした寸前、嫌な思い出がフラッシュバックしてきた。


 ーーー旨そうに見える食べ物、その実態は塩と砂糖のオンパレード、絶対に料理をさせてはいけない女。


「そう言えば、コイツはクルシアの妹。・・・って事は」


 クルシアは最高にいい彼女だ。彼女との思いでは今でも弐夜の中に大切に保存されている。


 だが一つ、どうしても忘れたい忌まわしき思い出があった。それが料理だ。クルシアの料理は常軌を逸するレベルで酷かった。


 弐夜は手に取ったサンドイッチを見る。沙織はクルシアの妹。つまり、味覚も似ている可能性がある。となればまさかこのサンドイッチも。


「食べないの?」


 沙織が食べようとした姿勢のまま止まってしまった弐夜に聞く。そこにあったのは純然たる疑問符。しかし弐夜には、『食わなければ殺す』と言った意味合いに聞こえてきた。


「クソッ・・・成るようになれ」


 弐夜は神経を欠損する覚悟を決めると、サンドイッチに噛み付いた。直後、目を丸くする。


 ーーー旨い。


 見事に旨い。比較対象が比較対象だったからかもしれないが、それを差し引いても純粋に旨い。気が付くと弐夜は貪るように手を伸ばし、全てを平らげていた。


「旨いな。そのーーー」


「お姉ちゃんとは大違い、かしら。それもそうよ。これだけは勝とうと頑張ったんだから」


 沙織が自嘲気味に笑う。


「勉強、運動、どれを取ってもお姉ちゃんには勝てなかった。だからこれくらいは、って自分の劣等感から逃げるようにして極めたのが料理の腕よ」


「沙織・・・」


 何でも出来る姉に育てられた沙織は、どんな気持ちだったのか。それは想像に難くない。何故なら弐夜の妹である麻耶も、同じ境遇であったからだ。


 まあ沙織の場合は実の父親に政略結婚として売られなかった分、マシである。いや、実の姉が殺害されかかっている時点で充分不幸ではあるが。


「同情しないで。貴方に同情されるとかもう世界の終わりだから」


「相変わらず嫌われてるな俺・・・」


 弐夜は苦笑いを浮かべる。この前面と向かって嫌いと言われたばかりだが、やはり改めて言われるとキツい。


「そう言えば、ライラ=イーデアリスの事は何か掴めたのか?」

 

 不意に思い出し、弐夜は沙織に聞く。ここで聞く話でないのは分かっていたが、ここを逃すと聞くタイミングを逃してしまう。


「まだ何も。『アベレージ株式会社』が最近うちの学校に関与してきたのは知ってるけど、ライラ個人については進展は何もないわ」


 『アベレージ株式会社』が弐夜達の学校の修繕を請け負った話は、既に降谷や綾峰の耳にも入っていた。その請け負った際の書類やデータなどから会社の内情について何か掴めないか調べてみたが、情報は何も得られなかった。明らかに不審なほどの情報管理能力だそうだ。つまり、裏社会が一枚噛んでいる事を悟られてでも開示したくない情報という事。


「そうか、残念だな。まあでもこれで安心して体育祭に集中できるな」


 せっかく弐夜が出るというのに、妨害で中断されたら意味がない。外部からの妨害は遠慮願いたかった。


「そうね。お互い北味方先輩のチームとして頑張りましょう、死ねヘルズ」


「また語尾にそれを付けるのが再発したか・・・・・・今なんて?」


 今、サラッと聞き捨てならない言葉が聞こえた。


「聞こえなかったかしら? 私も貴方と同じチームよ。なんでわざわざ一応であるとはいえ協力関係にある北見方先輩を切ってまで、あんな半端な青二才を生徒会長に上げるお手伝いをしなくちゃいけないのかしら。ついに心だけじゃなくて頭まで腐り始めたのねこの駄目怪盗は」

 

 滅茶苦茶な物言いだが、確かにその通りだ。沙織と北見方はオペの一件で顔見知り程度とはいえ、面識はある。そしてこの先も表舞台で沙織が窮地に陥った際、北見方はさりげなくフォローしてくれるだろう。北味方はそういう男だ。多分。


 そんな彼を切ってまで、服部に付く理由がない。沙織の選択肢は間違いではないどころか、正しくすらあった。


「でもいいのか? 今一般生徒は皆北見方を見限ってる。そんな中で一人だけ北見方に付いたら、学校生活にも支障が出るんじゃ―――――」


「その点は心配いらないわ。写真が貼られた当日、姫香ちゃんが頑張って力説をしたの。その演説に胸を打たれたからかは分からないけど、私のクラスの3分の1は北見方先輩のチームに入ってるわよ。私はそれに便乗したの。こうすれば風当たりはそこまで強くないでしょう?」


「ま、まあそうだな・・・」


 少なくとも、沙織一人で北見方に乗るよりはマシだろう。


「という訳で・・・一緒のチーム、頑張りましょうね。弐夜先輩」


 沙織がニコッ、と笑みを浮かべ、弐夜に言う。それが作り笑いだと分かっていても、弐夜は不覚にも可愛いと思ってしまった。


「お、おう・・・」


 そう言うのがやっとだった。

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