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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
引きこもり怪盗と体育祭
227/302

追い詰められる北見方⑤

 そんなこんなで色々な事もあって、いよいよ体育祭のチーム分けが終了した翌日。


 服部は、学校の屋上でとある人物と会っていた。


「ほえ~、ここが高校の屋上かぁ。久しぶりに来たから懐かしいな。あの時は友達と組んで結構やんちゃしたっけ」


「例の件は既に提示しました。後はそちらが了承してくれれば取引完了です」


 感嘆の声を上げる女ーーーライラ=イーデアリスの言葉を無視して、服部は要件を端的に伝える。


「りょうか~い。それじゃあ予定通り『名も無き調査団』は君達のチームに付く。それでいいんだよね?」


「はい。お願いします」


 服部は余裕そうな笑みで答える。これでこちらの勝ちが決まる。


 服部は、北見方の優秀さを知っていた。そして自分達のような凡人が束になっても敵わないと言う事を。


 なのに何故挑んだのか? 簡単だ、この切り札を有していたからである。


「しかしーーー捏造写真から今回の直接参加まで、色々とありがとうございます」


 服部が言うと、ライラは手をヒラヒラ振った。


「気にすることはないよ。アタシは倉根くんに頼まれただけだし」


「倉根?」


「アタシの彼氏。凄く格好いいんだよ」


 ライラが嬉しそうに携帯の待ち受けを見せる。そこには、黒いボサボサの髪をした青年と、元気一杯のライラがツーショットで写っていた。


「これがアタシの倉根くん。どう、格好いいでしょ?」


「はぁ・・・」


 服部は青年とライラを見比べる。青年は写真に写ることが死ぬほど嫌だったのか死んだ魚のような目をしていた。それに比べ、ライラはただでさえ可愛らしい容姿に満面の笑み。これに惚れるなと言う方が無理である。


「最近同棲を始めたんだ。昨日もいっしょに寝たんだよ」


「そうですか・・・」


 服部は言葉を濁しながらライラを見る。どう見ても化粧をしていない、もしくはしていたとしても極僅か。にも関わらず、服部が知る化粧をしたどの女よりも美しい。


 そんな彼女の彼氏がこんなに冴えない男である事に、言葉を濁さずにはいられなかったのだ。


 これ以上余計な事を言うとお互いの関係が悪化しそうなのに、服部は話を戻す。


「そ、それで、そちらからは何人出てきてもらえるのでしょうか」


「う~ん、分かんないな。まぁでも皆に呼び掛けてみて暇だった人を全員募る形かな。あ、最低でもアタシと倉根くんは確実に行くから安心して」


「分かりました。ありがとうございます」


 服部が礼を言うとライラは笑った。


「でも、君もなかなか鬼畜な事するよね。全校生徒を巻き込んでただでさえ戦力を激減させたのに、アタシ達みたいな裏社会の化け物を呼び出して仲間に加えるんだもの。北見方くんにそこまでの価値があるの?」


「生徒会長はーーー北見方さんは相当の実力者ですから。念には念を入れて、徹底的に潰さないと」


 服部が攻撃的な面を僅かに覗かせると、ライラも同調するようにニコリと笑った。


「そっか。成功するといいね、クーデター」


 そんな意味深な発言を残し、ライラは屋上から出ていくーーーと思いきや、扉からひょっこり顔だけを出した。


「あ、そうだ、一つ言い忘れてたんだけどさ」


「はい、何でしょーーー」


 瞬間、屋上内をとてつもない威圧が支配する。殺気とは違う何か。服部の体が反射的に萎縮する。



「もしアタシの居るところで倉根くんの悪口を言ったら、殺すからね」



 殺す。それは誰でも簡単に言う言葉。この平和に腐った日本では軽々しく口に出来るレベルの戯れ言。


 だが、ライラのその言葉は重みが違った。もし服部が今の発言を笑おうものなら即、命が絶たれるようなそんな感覚。


 服部の反応を見てライラはニコリと笑うと、首を引っ込めた。張り詰めた空気が、少しずつ緩和されていく。


「これが、裏社会の住人・・・」


 服部は知らず知らずのうちに呟いていた。今までにも服部の煽る口調に似たような反応を示した者は大勢いた。しかし、そのどれもが紛い物だと今なら分かる。


「俺はとても心強い人と取引をしたのかもしれないな」


 これなら北見方に勝てる。服部はニヤリと笑った。




 それから数十分後、北見方のチームメンバーと服部のチームメンバーを示す紙が各階に大々的に張り出された。


 一同が一斉に名前を確認しに紙に群がる中、姫香も集団に混じって味方を確認した。


「仲間はヘルズさん達と他数十人。他は全員敵・・・」


 こちらの戦力差は10分の1と言ったところだろうか。どう考えても、常人同士の争いならまず勝てない。


「姫香と沙織は敵かぁ、チェッ」


 姫香が分析を終えて机に戻ると、真理亜がふて腐れたように愚痴る。


「え? 沙織って北見方先輩に付いたの?」


 真理亜と沙織はてっきり同じチームになると思っていたのだが・・・


「あの服部って人なんかムカつくし。それに姫ちゃんがあんなに応援するなんて珍しいしね。真理亜には止められたんだけど、私は私の意思で選ぼうと思ってさ」


 沙織がそう言ってニシシと笑う。それを見て真理亜はいじける。


「フン、いいもん。北見方先輩のチームをコテンパンに倒して、姫香と沙織を倒してやるんだからね!」


 そう宣言してきた。姫香は苦笑いをする。実に微笑ましい戦いだ。出来れば姫香もこれくらいの余裕を持って戦いたかった。


 そんな姫香の横顔を、沙織はジッと見つめていた。



 そんな彼女達が友情の絆を深めていた頃。


 ヘルズこと黒明弐夜は、一人で机に突っ伏して寝ていた。


 今日は二週間に一回の登校日。珍しく登校してきた美男子に、クラスの女子の意識はチーム分けどころではなくなっていた。


「黒明が登校してくるなんて珍しいな。・・・お、アイツ北見方チームじゃん」


「マジかよ。あんな犯罪者に味方するなんて終わってるな。まあ、学校の二大イケメンの顔に泥を塗るまたとない機会になったからいいけどな」


 男子がそう陰口を叩いても、お構い無しに寝ている。やがてクラスの明るい女子が話し掛けようと肩を叩くが、寝ているため気が付かない。


「なんだアイツ。話しかけられても寝てるなんてな」


「いや・・・これ本気で寝てる」


 男子がこれ幸いと弐夜の評価を下げようとするが、話し掛けた明るい女子が驚愕を表しながら告げる。


「こんな騒音の中寝られるなんて、よっぽど疲れてたのかな黒明くん・・・てか、学校に来ないで何やってるんだろ」


「知るかよ。つーか本当に鬱陶しいな黒明の奴。降谷先生も『そいつは関わると面倒だから放っておけ』とか訳分かんない贔屓するしさ、マジでウゼエ。体育祭で赤っ恥掻かせてやる」


 クラスの男子の一人が指をポキポキ鳴らしながら威嚇するように弐夜を見る。しかし必要以上には近づかない。弐夜が武道の有段者であることは、既にクラス内では周知の事実だからだ。


 と言うのも弐夜達の入学した頃に柔道部や空手部と言った武道系の部活の主将達がグレていて、校舎裏に運悪く来てしまった生徒から金を巻き上げるというとんでもない不良行為を行っていたのだが、たまたまネトゲのガチャでいい物が出なかったため異常に機嫌の悪かった弐夜に遭遇し、血祭りにあった。


『最後に見たのは骨の折れる音とそれを見てイラついた表情をしている男だった。次に気が付いた時には全身複雑骨折をした上で病院に緊急搬送されていた。今でも奴に破壊された顎の骨が軋む』という主将の言葉は今も語り継がれており、武道系の部活の後輩たちを震撼させている程だ。


 その噂が流れてからは、弐夜に挑む人間など身の程知らずかイ〇リトくらいな物だ。よってクラスの男子も、弐夜から三メートル近く離れて指を鳴らしている。


 その時、始業のチャイムが鳴った。各々席に着き、ホームルームが始まる。


 その後、ホームルームから三時間目の授業まで、弐夜は起きなかった。


「ふああ・・・」


 四時間目の授業が終了し、弐夜は大きなあくびをした。四時間目の科学では教師が何が何でも授業に参加させようとしつこく粘って来て、結果起きてしまった。イラッと来たので問題の解答と共に新たな公式をでかでかと書き込み、科学の教師が驚いているのを尻目に再び寝た。


「・・・というか生徒一人を起こすために十五分も粘着するなよ。教師失格だな」


 弐夜は勉強面で無双したいなどと微塵も考えていない。確かに怪盗として目立つ願望はあっても、勉強において成功しても自分には何の意味も無いと知っているからである。


「・・・昼飯にするか」


 教科書の入っていない鞄の中からカップラーメンを取り出し、食堂に急ぐ。食堂ではお湯をただでくれるのだ。まあ流石に金を取ったら取ったで問題だが。


 カップラーメンの容器を持ったまま、弐夜は一年生の教室の前を通る。すると、弐夜の進路を阻む生徒が居た。


「弐夜先輩」


 明るい声で弐夜に話しかけて来たのは、誰であろう片道沙織だった。弁当の袋を後ろ手に持ち、上目遣いでこちらを見てくる。裏の顔を知っているためか、演技にしか見えない。


「今日一緒にお昼食べませんか? 私今日作りすぎちゃって」


「あ、ああ、別に構わないが・・・」


 そう言えば数日前『話したい事があるから、時間がある時に話しかけてくれ』と言ったか。だがまさか、学校で接触して来るとは思わなかった。弐夜は演技の上目遣いをする沙織から視線を逸らす。すると、教室の扉からこちらを見て驚愕を露わにしている姫香と目が合った。


『どういう事ですか?』


 姫香が口の形でそう聞いて来るが、弐夜は答えられない。とりあえず姫香には後で理由を説明するとして、弐夜は沙織に視線を戻した。


「それで、どこにするんだ?」


「そうですね。じゃあ今日は晴れてるので、屋上にしましょうか!」


 また屋上か。馬鹿と煙は何とやらと言うが、流石に屋上を多用し過ぎではないだろうか。そう思ったが、他にいい場所が見つからなかったので弐夜は頷く。


「分かった。じゃあ屋上で食おうか」

 

 



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