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世間を騒がせる天才怪盗は、二次元廃人でした。  作者: 桐原聖
堕天怪盗と天才技師
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出鼻をくじかれた戦争

 ヘルズの予告状が届き、一同が戦闘態勢に入ってから数時間。


 ヘルズは取れる限りの仮眠を、姫香とチャルカはへとへとにならない程度の特訓を、降谷と綾峰は武器のチェックや精神統一、及び情報収集の続きを行い、時間を潰した。


 そして、午後八時。


 ヘルズ達が動き出した。


「よし、行くぞお前ら。時間は限られてるが、下手に攻めるな。今回の戦いは二ノ宮を奪還する事が第一優先だ。その事を頭に入れて、戦いに望んでくれ」


 数時間の仮眠によってほんの少し眠気が取れたヘルズが、全員に言い放つ。いくらヘルズとて、あれだけの疲労は人並みの睡眠を取らないと全快しないのだ。


「はい!」「うん。分かった」「おう、分かってる」「そんな事わかっておるぞえ」


 姫香、チャルカ、降谷、綾峰の四人が威勢よく答える。その時、ヘルズはユルが居ないことに気が付いた。


「あれ? ユルはどこ行った?」


「ユルなら先に指定の場所に向かってるとさ。・・・お、噂をすればユルからだ」


 降谷がユルからの受信メール画面を見せてくる。それを見て綾峰は鼻を鳴らした。


「ハッ、どうせ『助けてください~』とでも書いてあるんじゃろう。あのオバサンはどうにも使い勝手が悪くて困る。もう捨て駒にしていいかと思うぞえ、ヘルズ?」


「まあ、綾峰の言うことは置いておいて・・・気を付けろよ、ニセ教師」


「分かってるさ。最大限の警戒はする」


 ユルにだって暗殺者としてのプライドと言うものがある。もちろん綾峰の言う通り、恥も外聞もなく助けを求めた可能性も無くはないのだが・・・


 とにかく、警戒に越したことはない。降谷は色々な道具を服のあちこちに入れると、ヘルズに片手を上げた。


「じゃあ、オレは行ってくる。お前らも頑張れよ」


「ああ、敵の対処は任せたぜニセ教師」


 ヘルズも片手を上げてそれに答える。そして玄関から出ていった降谷から視線を外すと、一同の顔を見た。


「よし、俺達もやれる事をやるぞ。一刻も早く二ノ宮を取り返してーーーこの三連続で続いた戦いの章を完結させるぞ」


 そして叫ぶ。


「総員、配置に着け! 戦闘開始だ!」










「それで、何の用だ? こんな所に呼び出して」


 充満する埃に辟易しながら、降谷は暗闇の中に佇むユル=メアリーに聞いた。


 現在ここは、降谷達の本来の持ち場所である学校の体育館ーーーーなどではなく、全く別の場所にある廃屋だった。


「速く持ち場所に戻らないと、ヘルズに殴られるぞ。オレもさっき食らったんだが、あれ割と痛いぞ」


 殴られた右頬を擦り、しみじみと呟く。あれは正直とても痛かった。


 しかもヘルズはあの時、人外の力を解放していなかったはずだ。もしもこの命令に逆らえば、今度こそ首の骨がねじ曲がるほどの打撃が飛んでくるだろう。


「もう一度聞こう。何の用だ? ・・・ってか、聞いてるのか、お前?」


 まるで人形のように佇んだまま動かないユルの肩を、降谷は掴

む。ーーー瞬間、驚愕を露わにし、後ろに大きく飛び退いた。





 直後、ユルの形をしていたそれが爆発した。



「・・・・・・」


 爆発はつい一秒前まで降谷が居た空間を焼き払い、さらに足元に大量の針を突き刺していた。恐らくあのままあの場所に立っていれば、針で地面に体を縫い止められ、爆発によって体を粉微塵にされていただろう。まさに間一髪だった。


「何だよ、これ」


「あら、避けられてしまいましたか。残念です」


 突然斜め前から掛けられた声に思わずそちらを向くと、そこには能面のように何の感情も感じさせない表情をしたユルが居た。


「何の真似だ」


 降谷はポケットから出した武器をいくつか手の中に握り込みながら、ユルに聞いた。ユルはそんな降谷に微笑みを浮かべる。とは言えいつものような柔らかい笑みではなくーーー自分よりも格下の相手をいたぶる時のような、嗜虐的な笑みだ。


「そんなに警戒しないでください。・・・まあ、先制攻撃を仕掛けておいて今さら何を、と言った感じですが」


「全くだ。で、本当に何の用だ? オレはさっさと戦争に参加しなければならないんだが」


 降谷が言うと、ユルはクスリと笑った。


「ああ、それなら大丈夫ですよ。もう既に、勝負は付いていますから」


「何?」


 怪訝そうな顔をした降谷に、ユルは言い放つ。


「ワタシと貴方が戦うことで、改造人間の足止めはなくなります。更に敵の組織のトップはヘルズよりも強いため、ヘルズもここで終わり。チャルカと姫香さんは戦いになりませんし、まあ多勢に無勢であのロリババアも死ぬでしょう」


「お前・・・オレ達を裏切ったのか⁉」


「気付くのが遅いですよ幸一。・・・というか、脅しの末繋がった仲間をここまで信用するとか、貴方もヘルズも馬鹿じゃないんですか?」


 確かにそうだ。元々降谷はユルを脅したという過去がある。


「雇い先を壊され、主様を守れなかったと言う屈辱感を味あわされ、おまけに脅された挙げ句情報を取られ・・・散々な目に遭いましたよ。それでよく、仲間面を出来ますよね」


「・・・まあ、確かにな」


「それでワタシから奪った情報を使って、可愛いげの無くなったヘルズを倒すのかと思えば倒すことなくお仲間ごっこーーーふざけてるんですか?」


 ユルの侮蔑した視線が、降谷を射抜く。何も言えず黙りこくった降谷に、ユルは続ける。


「ワタシは一流のメイドとして、誇りを持ってやってきました。故に、ご主人様を守れなかったのは大きな失態。メイドとしても暗殺者としても辱しめられていては、ワタシは生きてはいけません」


「だからオレ達を裏切った・・・って訳か?」


 だが、確かにあり得ない話ではない。降谷が今までユルにして来た事は、ユルの存在理由を奪っていると言っても過言ではないからだ。


 誰だって自分のアイデンティティーを害されれば反撃する。ユルの場合はそこに殺意が募り、最悪の形で反撃しただけなのだろう。


 作戦を裏切り、降谷を殺すと言う形で。


「クソッ!」


 降谷は大きく床を蹴り、ユルから距離を取る。直後、耳元をナイフが掠める。


「無駄ですよ。ここの地形は既に把握済みです。そして一流のメイドは一度覚えた地形は忘れません。変な段差でお茶を溢してはいけませんからね、地形把握はメイドの必須スキルなんですよ」


 ユルが続けざまに二、三本のナイフを投げてくる。そのどれもが当たれば一撃退場であろう攻撃。降谷は真っ暗な暗闇の中、感覚だけでそれらをかわす。


「あら、てっきり目に頼ると思っていました」


「生憎まだ上手く見えなくてね」


 真っ暗な暗闇に目を慣らしている最中なので、降谷の視界はそこそこと言ったレベルだ。これではユルの姿を捉えることは出来ても、高速で飛ぶナイフまでは見切れない。


「少し踊っていただけますか? 幸一。再戦の意味も兼ねて」


「躍りは得意じゃないんでな。鬼ごっこなら受けてやる」


 こうして、ヘルズの目の届かない所で貴重な戦力が二人、消えてしまった。







「やあっ」


「《空の蹴り(スカイ・レッグ)》!」


 チャルカの防御無視の特効と姫香のガードの隙間を縫った蹴りが、敵の体を弾き飛ばす。


「ぐはぁ!」「ぐふっ!」


 ふっ飛んで後頭部をぶつけて気絶した敵を見て、姫香は額に浮かんだ汗を拭った。


「これで、13人目・・・」


 姫香たちの居る廊下には、いくつもの気絶した敵が転がっていた。彼らは皆、ここの守りを行い、姫香とチャルカに倒された者達だ。


「姫香、凄い。上達が速い」


「毎日鍛えてますからね」


 無表情で誉めてくるチャルカに、姫香は油断なく辺りを見回しながら答える。


 ヘルズが『復讐屋』との戦いで不在の際にも、姫香は毎日やると決めたノルマをしっかりやっていた。おかげで戦闘力は少しずつ伸びている。


「まあ、それでもヘルズさんに一撃も当てられないんですから、残念ですけどね・・・」


 倒れた敵からナイフを奪い取り、近くの柱に括りつけながら、姫香は溜め息を吐く。あの敗北はかなりショックだった。しかも二対一であったが故に、その悔しさは増して来る。


 グッ、と手の中のナイフを無意識に握りこむ姫香に、チャルカは唐突に言う。


「主席は強い。クルシアが居た頃よりも、もっと」


「クルシア?」


 聞きなれない響きに、姫香はチャルカの方を向いた。


「クルシアって誰ですか? 私、聞いた事ないんですけど」

 

「クルシアは―――――」


 姫香の質問にチャルカが答えようとしたとき、廊下の向こうから物音が聞こえた。


「ッ⁉」


 敵かもしれないと思い、構える二人。だが物音は一度したきり、もうしなくなった。


「何でしょう、今のは?」


 首を傾げながらも、警戒を解かない姫香。姫香の身体は自然に腰を落とし、いつ敵が攻めてきてもいいように準備している。あまりにも練習しすぎて、身体に染みついてしまったのだろう。


 摺り足で慎重に物音のした方へと動く姫香。だが――――


「分からない。でも、敵の可能性は高い。ならば、先手必勝」


「あ、ちょっとチャルカさん⁉」


 脳筋であるチャルカにそんな事が出来るはずもない。チャルカは木刀を上段に構えると、物音のした方へと突っ込んでいった。これには流石に姫香も予想していなかったため、対処に数秒遅れてしまう。


「待ってください! 敵の罠の可能性が――――」


「罠ごと叩き斬る。大丈夫、私とこの『ただの木刀』があれば行ける」


「駄目だこの人⁉」


 完全に終わったなと思いながらも、ついつい仲間の身を案じて飛び出してしまう姫香。もしもヘルズや降谷なら、「自己責任だろ」とか何とか言って、チャルカを見捨てるだろう。だが、姫香にそんな無慈悲な事は出来ない。


 走りながら、気配を探る。―――大丈夫、近くに敵の気配はない。


「来て。何か扉がある」


「罠の可能性があります。私が来るまで待っていて下さい!」


 叫びながら、姫香はどうにかチャルカに追いつく。チャルカはとある扉の前で立ち止まっていた。もう何年も手入れをしていないからか、表面は錆び付き手すりには埃が積もっていた。 


「見て、これ。何かの部屋みたい」


「そうですね。何でしょうか?」


 姫香はポケットから携帯を取り出し、簡易ライトを点けて扉の上を照らす。しかし、扉の上には何のプレートも掛けられていなかった。


「おかしいですね。普通、こういう類の学校だと、どこかに表示があるはずなんですが」


 姫香が首を捻っていると、ギギギ、といういかにも古びた扉を開ける時の定番のような音がした。見ると、チャルカが扉を力技でこじ開けていた。


「ちょっと、チャルカさん⁉」


「不思議な部屋があれば探してみるべき。何か言い物が見つかるかもしれない」


 言うだけ言うとチャルカは中に飛び込んでしまう。こうなった以上、もう引き返せない。姫香は嘆息し、チャルカに続いて中に入った。


 姫香が入った瞬間、天井の電気が点いた。中の様子が明らかになる。


「凄く広い」

 

「これは・・・体育館?」


 そう、それは体育館だった。


 四隅に設置されたバスケットゴール、段差になった舞台・・・ごく普通の体育館だった。


「でも、もう使わなくなった体育館に、何で電気が―――」


 姫香が思った疑問を口にしようとしたその時、背後の扉が独りでにしまった。同時、スピーカーから声が聞こえて来る。


『ようこそ、我が居城へ。歓迎するよ、哀れな犠牲者たち』


 ―――やっぱり罠だった。


 姫香は大きく息を吸うと、深い溜め息を吐いた。


 

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